ルフィの育ての姉   作:津々里 述

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感想で地の文と会話文の間を一行開けた方がいいとのアドバイスをもらったので、今まで投稿した分含めて変えてみました。


ROMANCE DAWN PLUS SISTER 後編②

「シャンクスさんッ……!」

 

 シャンクスさんは一瞬私の方へ目をやると、目を見開いた。わずかに目が据わるが、それを悟らせないように彼はルフィへいつもの調子で話しかけた。

 

「ルフィ!お前のパンチは銃みたいに強いんじゃなかったのか?」

「………………!!……!!うるせェ!!」

 

 それに対してルフィも、いつもの調子で強がった。そこに山賊が口を挟む。

 

「海賊ゥ……まだ居たのかこの村に。ずっと村の拭き掃除でもしてたのか?何しに来たか知らんが、ケガせんうちに逃げ出しな。それ以上近づくと撃ち殺すぜ、腰抜け」

 

 山賊の言葉に冷や汗の一つも見せず、シャンクスさんは堂々と歩いてこちらへ近づいてくる。山賊の一人が銃を突きつけて脅し、周りの山賊たちはそれに油断丸出しでヘラヘラと笑った。

 

「銃を抜いたからには、命を懸けろよ」

「あァ!?何言ってやがる」

 

 シャンクスさんが、銃口を指差した。

 

「そいつは脅しの道具じゃねェって言ったんだ……」

 

  ────ドン!!

  一発の銃声が響いた。先程まで銃を突きつけていた山賊は、ルウさんに側頭部を撃ち抜かれていた。倒れた山賊の身体に、海賊以外の者たちはどよめいた。仲間を殺された山賊たちは、口々に赤髪海賊団を非難しだす。

 

「や……やりやがったなてめェ!」

「なんて事……なんて卑怯な奴らだ!!!」

 

 人質取るのと、敵が油断していたところへの先制攻撃。どっちが卑怯なんだろうか。山賊たちの文句に、赤髪海賊団の面々は淡々と言い返す。

 

「卑怯?」

「甘ェこと言ってんじゃねェ、聖者でも相手にしてるつもりか」

「お前らの目の前にいるのは 海賊だぜ」

 

 山賊たちの怯えが肌を通して伝わってくる。私を羽交い締めにしている腕がワナワナと震え、込められた力が僅かに緩んだ。

 

「……うるせェ!!大体おれ達はてめェらに用はねェぞ!」

 

 シャンクスさんはいつになく静かに、しかし確かな気迫をもって語り出した。

 

「いいか山賊……おれは酒や食い物を頭からぶっかけられようが、唾を吐きかけられようが、大抵のことは笑って見過ごしてやる。…………だがな!!」

 

 雰囲気が、一変する。

 

 

「どんな理由があろうと!!おれは友達を傷つける奴は許さない!!!!」

 

「シャンクス……」

「ッ……!」

 

 ルフィが思わずといった様子で呟き、私は声も出なかった。

 そこに、無粋な笑い声が響く。

 

「はっはっはっはっ!許さねェだと!?海にプカプカ浮いてヘラヘラやってる海賊が、山賊様にたてつくとは笑わせる!!!ブッ殺しちまえ野郎ども!!!!」

「「うおおおおっ!!」」

 

 雄叫びと共に、私は突き飛ばされる。腰が抜けて立てない。這って端へ避けると、シャンクスさんが山賊たちの前に立ちはだかったのが見えた。

 

「おい船長」

「大丈夫だ、周りにゃ被害は出さねェ……」

 

そう言った彼が剣を抜いて……瞬殺。まばたきの間に、山賊たちは地面に伏していた。

強い。感嘆の声が、村人たちからぱらぱらと上がった。

 

 

 部下は全員倒され、頭だけがその場に残った。旗色の悪さに余裕は失せて、必死に弁明しだす。

 

「……や!!待てよ……仕掛けて来たのはこのガキどもだぜ」

「どの道賞金首だろう」

 

 有無を言わさぬ即答に山賊の頭の顔は青ざめて、たちまち息が浅く早くなっていく。

 

「…………ちっ!」

 

 イタチの最後っ屁とばかりに、奴は煙玉を地面に叩きつけた。煙幕で周囲は覆われて、一寸先も見えなくなる。

 

「来いガキ!!」

「うわっ!!くそ!!はなせ、はなせェ!!!!」

 

 煙の奥から聞こえたのは、ルフィの抵抗する声。

 

「ルフィ!!!」

 

 咄嗟にそっちへ手を伸ばす。だが私の指先は空を切り、煙が晴れた後に山賊とルフィの姿はなかった。

 

「そ、そんな、ルフィ……ッ!!!」

「し!し!しまった!!油断してた!!ルフィが!!どうしようみんな!!」

 

 シャンクスさんの焦る声が、遠くに聞こえる。

 

(ルフィを、ルフィの居場所を探さなきゃ。どうやって?……そうだ。煙の中でも、ルフィの声はハッキリ聞こえた。なら、それを探さなきゃ。いや、声だけじゃ足りない。呼吸の音も気配も全部感じ取らなきゃ。私ならできる!やれる!!だって私はお姉ちゃんだから……ルフィの気配だってわかるはず!!!)

 

 半ばパニックに陥りつつも、全神経をルフィを探すことに集中させる。どんな僅かな手がかりでも、なんだっていい!!

 

(お姉ちゃんの私がやらなきゃ、誰がやれるんだ!!!)

 

 次の瞬間、私は今まで感じたことのない奇妙な感覚に襲われた。

 

(……なに、これ)

 

 その場から一歩も動いてないのに、遠くの場所が“解る”。視覚や聴覚が遠くに飛ばされたみたいなのに、周りのことも全部解る。気配が形になって、手に取るように理解できた。

 この場から遠く離れた場所、海の方にぽつんと二つの気配がある。片方は、大きい男。片方は、小さな男の子。

 

「ルフィだ」

 

 小さな男の子の気配がルフィだと、私には直感で分かった。

 

「どうした、サーラ」

「ごめんなさい、いきなり何を言うんだと思うかもしれませんが……ルフィと山賊は、海にいます」

「!……どうして分かったか、聞かせちゃくれねェか」

 

 周囲に困惑の空気が広がる。しかし、赤髪海賊団の面々は真剣な顔で私の声に耳を傾けていた。シャンクスさんが、言葉の続きを促してくれた。

 

「私も突然の事で、よくわからなくて……でも、周りと遠くの気配が形になって解るようになって……それで、ルフィと山賊の気配が海にありました」

 

 支離滅裂な私の言葉を最後まで聞くと、シャンクスさんは突然わしゃわしゃと私の頭を掻き回した。

 

「うわっ!?えッ……ちょっと!?」

「よくやったなサーラ、それだけ分かりゃ充分だ。絶対助けてくるから、待ってろ!」

 

 褒めるだけ褒めて、彼は海へ駆け出していく。私もついて行こうとしたが、それより先に医者へ連れていかれることとなった。

 

 

 帰ってきたシャンクスさんは、腕に抱えたルフィの代わりに左腕を無くしてきた。

 

「じゃ゛ん゛ぐずざん゛!!!」

 

 処置を終えて、村の医者と船医さんに強制的に休ませられたシャンクスさんにとりすがると、笑いながら頭をポンポン叩いてきた。

 

「ほら泣くな泣くな、お前ら姉弟揃って泣き虫だなぁ」

 

 ルフィは泣き疲れて眠っており、家で横にさせている。そりゃ泣くよ、ピンチから助けてくれた人が自分のせいで片腕無くしたら!!

 

「逆に!なんで!!あなたが泣かないんです!!!絶対痛いじゃないですか!!」

「海に出ると決めた時から、このくらい覚悟してたさ……それより、ルフィが無事で本当に良かった。もし何かあったら、お前に顔向けができないところだった」

 

 この人は本当にずるい。重い代償だったにも関わらず、心からそう言ってみせるんだから。シャンクスさんに、多くの人がついていく理由が分かってしまった。

 

「あなたって人は!もぉ〜〜〜〜ッ!!……弟と私を助けてくれて、本当にありがとうございました!!!」

「気にするなって、いいから休みな。お前の顔と腹、まだ痛むだろう?」

 

そう言ってチョイチョイと自身の頬をつついてみせたあと、シャンクスさんの表情は真剣なものに変わった。

 

「怖かったし痛かったよな。悪い、もっと早く帰れなくて」

「シャンクスさんが謝るようなことじゃないですって!!それに、クソジッ……ガープさんの修行でも怪我なんて日常茶飯事だし」

「修行と戦闘じゃあワケが違う、お前も感じたことだろう」

 

山賊と戦った時の記憶がフラッシュバックする。自分に向けられる鋭い刃と殺意。一方的に振るわれる暴力。怖くなかったといえば、嘘になる。

 

「それでも弟の為に立ち向かっていったんだ……サーラ、お前はいい姉ちゃんだよ」

「……この人たらしっ!私の気が済むまでお礼してやる!!私たちを救ってくれた恩は重いんですから!!!」

 

 私の言葉に「なんだそりゃ」とシャンクスさんは笑った。

 

 それから数日後、私とルフィは一緒に港へ赤髪海賊団を見送りにきた。そこで、衝撃の事実を知った。

 

「この船出でもうこの町へは帰ってこないって本当!?」

 

 ルフィの問いに、シャンクスさんはあっさりと肯定する。

 

「ああ。随分長い拠点だった、ついにお別れだな。悲しいだろ」

「……寂しくなりますね」

 

 まだまだお礼し足りないくらいなのに、もうさよならなのか。

 

「うん、まあ悲しいけどね。もう連れてけなんて言わねえよ!自分でなることにしたんだ、海賊は」

「どうせ連れてってやんねーよー」

 

 そう言ったルフィに、シャンクスさんはベーっと舌を出してみせた。こんな時まで、相変わらずだ。

 

「お前なんかが海賊になれるか!!!」

「なる!!!」

 

 

 いつか酒場で聞いた言葉に、ルフィは力強く応えてみせた。

 

「おれはいつかこの一味にも負けない仲間を集めて!世界一の財宝みつけて!海賊王になってやる!!!!」

 

 港に、高らかな宣言が響き渡る。

 

「ほう……!おれ達を越えるのか」

 

 そう言ったシャンクスさんは、どこか嬉しさを滲ませていた。

 

「じゃあ……この帽子を お前に預ける」

 

 すると、シャンクスさんは今まで被っていた麦わら帽子をルフィに被せた。

 

「おれの大切な帽子だ」

「……………………!!」

 

 静かにしゃくりあげる声と、鼻をすする音が帽子の下から微かに聞こえる。シャンクスさんは海賊船の方を向くと、こちらを振り返った。

 

「いつかきっと返しに来い。立派な海賊になってな」

 

 彼の背中が遠ざかっていく。

 

「錨を上げろォ!!!!帆をはれ!!!出発だ!!!」

 

 その船影が水平線へ消えていくまで、ルフィと共に見送った。

 

「……海賊王、なってみせなよ。ルフィ」

「う゛ん゛ッ!」

 

 この子の10年後が、待ち遠しい。

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