ルフィの育ての姉   作:津々里 述

9 / 15
コルボ山編、はーじまーるよー!


コルボ山へ!

 シャンクスさんを見送ってから数ヶ月後、私は酒場でグラスを磨きつつ萎れていた。何故かって?

 

「ルフィが足りない……ルフィ不足です……」

 

 ここんとこしばらく、ルフィに会えていないからです……!!!原因はもはやおなじみ某拳骨海兵。海賊を目指すようになったルフィを叩き直すという名目で、平和なフーシャ村から山奥にいるガープさんの旧知の山賊のところへ預けるのだとか。

 いや、あんた数ヶ月前のこと知っといてそれやるか?山賊に対する印象が死ぬほど悪くなってる状態で、いくら知人とはいえ山賊のところに住ませるとか何を考えてらっしゃる?そう思った私はガープさんから全力でルフィを取り返そうとしたが、あっさり返り討ちにされた。ちくしょう……。

 

「重症だな……」

「サーラちゃん、ルフィのことすっごく溺愛してるものね」

 

 そんな私を見て、おじいちゃんとマキノさんが口々に言う。今、酒場には私とその二人しかいないため、盛大に本音をぶちまけていく。

 

「ルフィを連れて行くんだったら私も行こうとしたのに、ガープさんが“お前はルフィを甘やかすからダメだ”って……くっ!否定できない!!」

「否定せんかそこは」

 

お姉ちゃんとしてのアイデンティティに関わるため、そこは譲れない。

 

「だって私、お姉ちゃんだから……!あんな可愛くてたまらない弟を甘えさせないなんて、絶対無理……そもそも!兄とか姉は下の弟妹を守り庇護する立場だよね、一般的に見ても。だから弟であるルフィを私が守るのは至極当然のことであり不可抗力!」

「そうやって言い訳するところが、不可抗力じゃないことを示しとる」

 

 早口で自己弁護したら、おじいちゃんにザクッと痛いところを刺された。やめてください、めっちゃ効くんで。

 ぐうの音も出ず、スーッと斜め上に視線を逸らしたらマキノさんが苦笑した。

 

「まぁまぁ……サーラちゃんにとっても、弟離れする良い機会なんじゃないかしら」

「おとうとばなれ……?」

 

  マキノさんの発言に、私は思わず背後に宇宙空間がコラージュされそうなレベルのアホ面になった。なにそのことば、わたしよくわかんない。

 

「昔から四六時中べったりだったからのう……いい歳して離れられなくなる前に、若いうちからルフィがいないことに慣れておくべきじゃ」

「るふぃがいないことになれる……?」

「……この様子を見ていると、もう手遅れな気がしてきたわい」

 

 おじいちゃんが呆れて額を手で押さえるのをよそに、このあとしばらく私の魂は抜けていた。

 

 

「ルフィ……」

 その日眠りにつく前、隣にあるルフィのベッドを見つめながらポツリと呟いた。ベッドにも、ルフィとの思い出が詰まってる。

 ベッドを分けたばかりのとき、一人のベッドが寂しくなって私のベッドに潜り込んできたり。ルフィがおねしょしてシーツに世界地図を作ったのを隠そうとしたけど、結局私にバレて半泣きで謝ってきたり。ルフィがベッドで跳ねて遊んでたら、足を踏み外してたんこぶをつくったなんてこともあったなぁ。

 ……思い出してたら、さらにルフィが恋しくなってきた。

 

「弟離れか……」

 

 いつかルフィも、私の元を離れたいなんて思う時が来るのだろうか。あの天真爛漫なルフィに反抗期や思春期が来て、悪態をつかれたら私は再起不能になるかもしれない。

 ……ちょっと想像してみよう。

 

『うるせー!しつけーんだよクソ姉貴!!』

 

 想像しただけで辛い。本気で今のルフィに会って癒されたい。でもガープさんからダメだって……。

 

「待てよ?別にガープさんに従うこと無くない?」

 

 なんであのジジイの言葉を素直に聞いてるんだ、私は。地獄みたいな修行のせいで、無意識に上下関係叩き込まれてた?それか根っこにある日本人気質のせいで長いものに巻かれてたのかもしれない。

 どうしてそうなったかは置いておこう。さっそく明日からコルボ山へ行く準備を整えて、ルフィを探すことを決意した。そうと決まれば早く寝よう。これから忙しくなるんだし。

 

 

 おじいちゃんにコルボ山へ行くことを報告したり(叱られた)、マキノさん含めた各アルバイト先にしばらく来られなくなることを告げたり(近々そうなるだろうと思われてた)と、準備は済ませた。最低限の日用品と着替え、それにマキノさんからアドバイスで頂いた手土産のお酒を持って、私はコルボ山へ出発した。

 山道をしばらく歩き続けると、開けた場所に出た。そこには、剣の装飾が載った木造の大きな建物がある。おそらく、ここがルフィの預けられた山賊のアジトだろう。

 “山賊”の単語で脳裏に浮かんだクソ野郎のイメージを振り払い、ひとつ深呼吸してからドアをノックした。

 

(たしかガープさんが預ける山賊の人の名前言ってたよな、えっと……)

「すみませーん!ダダンさんのお宅で間違いないでしょうか!?」

「ねえちゃ──ん!!!!!」

「ゴッハァ!!!?」

 

 ずっと聞きたかった最愛の声と共に背中へ衝撃が走り、そのままドアごと中に突っ込む羽目になった。

 

「い……いきなりこんな形で押しかけて申し訳ありません……いや本気で。お近づきの印に、どうぞ……割れてなくてよかった……」

「お、おう……」

 

 ちょうど近くにいた、ダダンさんと思われる大柄な女性へ震えた手で差し出したお酒は、とても怪訝な顔をしながらも受け取ってもらえた。それから私に弾丸のごとく突進してきて、今は背中へコアラのようにしがみつく弟を叱る。危ないでしょうが。

 

「ルフィ、いきなり人に飛び付いちゃダメだよ……こんなふうに大変なことになるから」

「おう!わかった!そんで姉ちゃんなんでここにいるんだ?」

「ん〜、これはわかってないお返事。あとで説明するから、先に背中から離れて……」

「やだ!」

 

 余計しがみつく力が強まったため、やむなくルフィごと身体を起こしてその場に正座する。ダダンさんに挨拶と自己紹介くらいはきちんとせねば。

 

「はじめまして、ルフィの育ての姉のサン・サーラと申します!」

「“姉ちゃん”呼びから察してたけどよォ〜……!!」

 

 そう言うと、ダダンさんは「また厄介ごとか……」と言わんばかりに頭を抱えた。なんかすみません。

 

「ん、育ての“姉”ェ?……育ての母じゃなく?」

「はい、姉です。お姉ちゃんです。ここ大事なので」

「そ、そうか……」

 

 私のアイデンティティに関わるので間違いの無いように強調して伝えると、ダダンさんは汗をかきつつ納得してくれた。暑いのかな?ここって森の中だから、湿気で蒸し暑くなりそうだし。きっとそうなんだろう。……圧なんてかけてないよ?

 

「単刀直入にお伝えしますね、今日から私をここに置いてください!!」

「またか!!!」

「姉ちゃんもここに住むのか!?」

 

 そう叫んでダダンさんはひっくり返ってしまった。ルフィは嬉しそうにしてるけど、まだ許可を貰えてないから喜ぶのは後にしようか。

 

「ご迷惑なのは重々承知しています、そこを何卒!!料理、洗濯、掃除、ルフィの子守は得意ですので、ぜひお任せください!!!」

「いや、あいつらと違ってまともそうだな……」

 

 ムクリとダダンさんは起き上がってくれた。よかった、憤死したかと。

 

「しかし……先に言っておくがウチは男所帯だからニオイもキツいし、下品な奴らばかりだぞ。お前みたいに上品なお嬢さんが続けられるかねェ?」

「ルフィを見守れるのであれば構いません!ガープさんから修行受けて自衛もできますので、ご心配なく!」

 

 訝しげな問いに即答すると、少し考え込んでから「馬車馬のように働いてもらうよ」とダダンさんは言った。つまり……!

 

「ありがとうございます!精一杯働かせていただきます!!」

「姉ちゃんこっち来てくれよ!紹介したい奴がいるんだ!!」

 

 マイペースに私の手を引いて外へ行こうとするルフィに、ダダンさんの雷が落ちる。

 

「待ちなルフィ!まずはドアの修理だ!!!」

 

 ですよねー。

 

 

 地道にトンテンカンと金槌を鳴らして修理をしていると、「おーい!」とルフィが大声で呼びかけてきた。作業の手を止めず「なーあーにー?」と返事をすると、いくつかの足音が近づいてくる。顔を上げると、ルフィより少し年上に見える黒髪そばかすの男の子と金髪シルクハットの男の子が、ルフィに引っ張られてきた。

 

「ルフィのお友達?」

「おう!姉ちゃんに二人のこと紹介したかったから連れてきた!こっちはエース!こっちはサボっていうんだ!どっちもつえーんだぞ!」

 

 なるほど。睨んでくる黒髪そばかすの子がエースくんで、興味深そうにしてる金髪シルクハットの子がサボくん。ルフィがここまで嬉しそうに友達を紹介してくれるのは初めてだから、ちょっとそわそわする。

 

「はじめまして、私はルフィのお姉ちゃんのサン・サーラっていうんだ。今日からダダンさんにお世話になるの。よろしくね、エースくんにサボくん!」

 

 手を差し出すと、サボくんは「ルフィの姉ちゃんか、よろしく!」と眩しい笑顔で握り返してくれた。一方でエースくんには、しかめっ面のままプイッとそっぽを向かれてしまった。

 

「おれは知らない奴と仲良くする気はねェよ」

「おれの姉ちゃんだぞエース!」

「うるせぇ」

 

 エースくんは踵を返して、森の方へ走っていってしまった。

 残された二人に、恐る恐る尋ねてみる。

 

「ねえルフィ、サボくん……エースくんって人見知りするタイプ?いきなり距離詰めすぎたかな?」

「おれも最初はあんな感じに言われた!」

「いい奴だけど、警戒心が強いんだよな〜」

「そっか〜……馴れ馴れしかったかぁ。困ったなぁ、仲良くしたかったんだけど……」

 

 あからさまに拒絶されるのは、さすがにちょっとヘコんだ。気まずくて頬をポリポリ掻いてると、サボくんが質問してきた。

 

「なんで仲良くしたかったんだ?初対面なのに」

「だってさ、ルフィが今までで一番嬉しそうに紹介してくれたんだもん。きっと素敵な子だろうと思ってさ……まぁ今すぐじゃなくたって、これからちょっとずつ仲良くなれればいっか」

「ふーん……なら気長に付き合ってくれよ?ルフィは3か月かかった」

「なるほどね。なら、粘り強く頑張るとしますか」

 

 人懐っこいルフィで3か月かかったのなら、私はもっと多くの時間を費やさないといけないだろうな。さて、前途多難だけど張り切っていこう。えいえいおー!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。