天使と一緒に女の子でカタログを作りたいっ!! 作:胡椒こしょこしょ
それは突然の閃きだった。
夜遅くに勉強がしたくないあまり、横になっていた時に窓の外から爆音が鳴り響く。
そして、その後に窓ガラスをぶち破るほどの暴風が吹きすさんで部屋の中が滅茶苦茶になる。
慌てて、外に出て庭へと出向く。
そこはまるで某有名漫画のように庭にクレーターが出来て酷い有様になっていた。
しかし、俺にはそんな庭の状況など全くどうでもいいことだった。
それはクレーターの真ん中で倒れ込んでいる一人の人影に目を釘付けにされていたからだ。
辺りを舞い散る白い羽。
腰まで伸びている銀色の髪は、月の光に照らされて艶やかに輝いている。
色素が抜けたかのような白い肌、それは土埃で汚れていながらもその繊細さを見るだけでも理解することが出来る。
そして、ぴっちりと肌に張り付くような素材の白い服は彼女のなだらかな身体のライン。
幼げな相貌と身体、しかしそれは頭の上でふわふわと浮いている環と白い片翼が俗世から離れたような神秘的な雰囲気を醸し出していた。
周囲の風景がまるでちゃちく見えるほどに、その美しさは劇的。
俺は初めて、何かに見惚れるという経験をした。
彼女はゆっくりと瞳を開く。
目が合った。
瞳からは穢れをまるで知らないような純粋な透明感を感じた。
「...あれ、男の子....?なんで、こんなクレーターに立って...いるんですか...?」
「...貴女が、作ったんですよこれ。本当は、ここ...僕ん家の庭なんですけど....。」
考えていた彼女の印象とはかけ離れたどこかポンコツ臭がする言葉。
それが初めてアイツと交わした会話。
今や、居候と化している愛の天使『ラブリエル』との邂逅の瞬間だった。
◇
昼休みを告げるチャイムが鳴り、皆が弁当を口に運んで食べ続ける。
緩やかに時間が流れゆくお昼時。
しかし対照的に俺は誰も居ない屋上への階段で買ってきた焼きそばパンを急いで口に運び続ける。
「喉、詰まらせますよ。もっとゆっくり食べましょうよ。」
傍らで童女と形容できるほどの体躯の片翼の天使が呆れた表情をしている。
そんな視線を他所に、なんとか飲み込んで胃の腑へと落とすととある場所へと歩き出す。
そして歩きながら彼女に視線を向けた。
彼女は俺を呆れた表情で見つめていた。
「昼休みなのに、あんな所で食事して今度はどこに向かうつもりなんですか....忙しいですね、貴方。」
「当たり前じゃん、昼休みは常に俺にとっての夢の第一歩みたいなもんだし。今日も頼むわ!」
「はぁ...今日もやるんですか?正直結果なんか見えてると思うんですけど....。」
俺が元気よく頼んでいるというのに、なんだコイツは。
溜息を吐きながら返事をするラブリエル。
結果が見えてる?
は、愛の天使ともあろうものが一体何を言っているのか....?
「まったく、これだから天使って奴は....人間っていうのは星の数ほど女が存在してるんだよ。つまりは確率論的に考えれば一人は必ず自分の事を好きになってくれる兆しがある女の子が居るって言うことになるんだよ!だったら、行動しないと損ってもんだろ?なんだよお前、俺の夢忘れたのか?泣くぞ?俺の泣き顔見るか?」
彼女に詰め寄ると、あからさまに嫌そうな顔で手を前に突き出す。
まるでこれ以上は近寄るなと言わんばかりの仕草である。
「いらないいらない....、あんな馬鹿な夢忘れるわけないじゃないですか。そんでもってそのせいでたびたび私が力を使う羽目になってるんだし....こんな下らない事で力を使うなんて...昔の知り合いに見られたら...あぁぅ.....。」
なんか可愛い声を出す彼女。
正直、俺が見てきた顔の中で一番綺麗な顔をしているので見ているだけで眼福であるのだが、それとこれとは話が別だ。
コイツ....俺の夢を下らない事と言いやがった...!
「なっ!?俺の夢を下らないだと.....っ!?ふざけるなよっ!俺の夢はワールドワイドだぞ!!世界規模の崇高にして全ての男が一度は夢見るロマンだ!!男のロマンを馬鹿にするな!!」
「それじゃ、もう一度ボクに言ってみてくださいよその夢。」
なんだよコイツ...やっぱり忘れてたんじゃね?
まったく...だとしたらしょうがねぇな。
再度聞かせてやるよ、俺の崇高なる夢。
誰しもが求める理想郷の影を.....。
「しゃぁねぇなぁ。耳の穴をかっぽじってよく聞けよ?俺の夢.....『女の子でカタログを作ること』だ!!電話するだけでいつでもヤレるワンナイトラバーを集めて電話帳並みの本を作ることだな。」
いつでもイチャイチャできる女の子。
そりゃ倫理的には一人に絞って一途に思わなければいけないだろう。
俺だって、浮ついた奴は男として最低だと思う。
でも、それでも....!
誰しもが、そんなハーレムを夢見るもんだろ!?
自分の理想の中、夢にまで綺麗ごとを持ち込むなよっ!?
「マジできっっしょい!これほどまでに気持ちの悪い夢をここまで自慢げに語れる人間は多分この世の中でもあなただけですよ。」
「ありがとう、俺おじいちゃんになんでもいいから一番取ったら大したもんだって言われてたんだよね。」
「もう良いです....ボクもうツッコミません.....。」
疲れたようにぐったりと項垂れるラブリエル。
まったく、これぐらいで疲れていたら先が思いやられるぞ。
お前の力を使わせてもらうんだからな。
歩いていると、目的の場所に辿り着いた。
それは図書室。
俺は、今日図書委員のあの子に会いに来たのだ。
「あの....何を期待しているか分かりませんけど、多分ダメだと思いますよ....。傷つく前にやめた方が良いと思うんですけど....。」
「何を言うんだ。人間っていうのは自分にない物を持っている人に惹かれるんだ。ああいう大人しい子には元気の良い男が好かれるんだよ。それに、前々から手伝いとかで布石打ってたからな。」
出来る男っていうのは事前に準備をしている物である。
さっ、ここはサラッと良い男感出して、あの子の胸をトゥンクトゥンクさせていく的なぁ!?
そんな感じのスタンスで夢に向かって一歩踏み出して行くゥ!!!
「あっ、あっ...あ~....んあ~....。...ん...お待たせ....。」
「必死にカッコいい声出そうとしている所悪いけど、まったく変わってないよ。なんなら声低くしようとしてガサガサなってるし。」
「お、俺はそのままでもイケボだから.....。」
うん!ボイストレーニングとか要らないよな!
俺声優じゃないし!!
そもそも意識してイケボ出そうとしている時点できしょいしな!!
真の漢は素がイケボだから!!
図書室の両開きの扉を開ける。
出入口付近には掲示板が置いてあり、なんかトリビアとかが掛かれたポスターみたいなのが張り付けてある。
そして図書室では沢山の本棚と共に、机で本を読んだり勉強をしたりと思い思いの時間を過ごしていた。
周りを見回して彼女を探す。
すると、すぐに彼女を見つけることが出来た。
射干玉のように黒く輝く長髪。
どこか地味な印象を受けるが確かに顔立ちは整っており、大人しそうな雰囲気から押しに弱そうな危うさを見出す。
硬く引き絞られた薄桜色の唇、眼鏡から醸し出される知性。
そして何よりもそんなおしとやかな雰囲気と乖離した胸。
制服の上でも分かるぞアレ....白いワンピース着せたら乳カーテン出来るタイプやぞアレ。
「やぁ、三綴さん。大変そうだね。」
俺はそんな彼女に笑顔で声を掛けた。.
彼女は本棚の蔵書を見ながら、手元のボードのようなものに文字を書いていた手を止める。
そして、こちらを見るとゆっくりと頭を下げる。
「こんにちわ...六条君....。」
相変わらず物静かな人だ...胸は全然物静かじゃないけどねっ!
事実、前とか図書室ですれ違った男子生徒は彼女の胸をチラ見していた。
そりゃ誰だってそーする。
俺もちゃんと考えていなかったら目が引き寄せられていただろう。
そんな時はラブリエルの顔を見て誤魔化すのだが。
俺はそんな胸だけ派手な彼女に人好きのする笑みで言葉を掛ける。
「蔵書点検?昼休みにまで大変だなぁ...そうだ。俺も手伝おうか?ほら、以前蔵書をここにまで運んできたこともあるんだし。」
俺は手伝いを申し出る。
勿論下心バリバリである。
つーか、そもそも男が女手伝う時とかって下心ない時ある?
綺麗事で自分を誤魔化しているのかもしれないけど、無意識とはいえオスの本能に逆らえる人間なんて居やしないぞ。
それなら俺は自分に正直で在りたい。
すると、彼女はゆっくりと首を横に振るう。
「そんな...図書委員でもない人に....悪いですよ....。」
ぼそぼそと言葉を紡ぐ。
正直自分でもせっかちだっていう自覚はあるから、こういう話し方はあまり好きな部類ではない。
でも、それも彼女くらいの可愛さと身体の良さが組み合わさっていれば許容範囲だ。
ほら、よく言うだろ?可愛いは正義だって。
これが男だったらハキハキ喋れって言ってるくらいだわ。
「何言ってんの!困ったときは助け合い...でしょ?」
彼女にそう笑いかけながらも、俺はラブリエルに視線を向ける。
それは、俺達二人の間で決めた合図。
彼女の力を使う為のシグナルだった。
「...はぁ~、はいはい。やりますよ。」
ダルそうに言葉を履くラブリエル。
彼女の声と姿は俺以外には認知できていないらしい。
俺しか認知出来ない理由は、彼女によると色々考えられるらしいが俺は難しいことは分からないので気にしないことにしてる。
分からない事をいつまでも考えた所で時間の無駄だからな。
それに、この綺麗な顔を俺だけが見れるっていうのもなんというか優越感を感じるしな。
鍛えている人が上司に怒られているときに、いざとなれば俺は勝てると思って精神を安定させるのと同じだ。
「...私の目は貴方の瞳。その愛を汝が尺度で測り給え。」
そう言うと彼女の目が光る。
すると同時に、俺の視界にパラメーターのようなものが表示される。
ラブリエルの力である好感度測定『ラブメーター』である。
なんか最初はキューピッドの弓矢みたいな能力持ってるのかなって思ってたら、実際はそんなことないらしい。
少しがっかりだが、逆に言えばワンチャンありそうな女の子が居ればこれで測れば一発で分かるという物。
それは出来そうな女の子を探して奔走する俺にとってはとても有難い力だった。
『名前:三綴清美
年齢:17歳
好感度:—2
評価:なんか馴れ馴れしいですし、ぐいぐい絡んで来て前から苦手です....。』
マイナッ....!?
は?
え...あんだけ手伝ったりしてたのにこの評価っすか?
馴れ馴れしいってなんだよ、こちとら仲良くなろうとして話しかけてるんだろ?
たびたび俺が黙ったら空気ヤバかった時とかあるだろお前全く喋らんのやし、コミュニケーション舐めてんのか?
前から苦手ってお前....あんだけ人が手伝ったりしてたのに、良い人だなっとか思わなかったんかい!
人としてお前ヤバイだろ、サイコパスかよおめぇはよぉ!?
打ちひしがれたような思いだった。
なんだこのマンコ....どうかしてるだろ....。
俺が本来はお前の仕事である怠い蔵書点検や運び込みをしていた時間はなんだったんだ....。
悲しくなるわ....。
「そういうことなら....おねが....」
「いや!確かに君の言う通りこれは図書委員の仕事だねっ!!それを無関係の俺がやったとなったらあまりよろしくないだろう!」
この野郎....まだ俺を利用としてきてやがる。
やっと気づいたぞ...コイツ、最初は悪いですよぅとか言いながら相手がいいよいいよとか言ったらこれ幸いと仕事めっちゃ押し付けてくるタイプの人間だな!
俺がいっちゃん嫌いなタイプだわ!
この....!俺の純情を弄びやがって....俺はお前の都合の良い男にはならないぞ!!
「えっ..えっ?あ、いや..出来れば手伝っていただけると、やっぱりたすか....」
「いや~、マジで心苦しい!心苦しいなぁ~!でも仕事だもんなぁ~!!つーわけで、君は一人で頑張ってくれたまえ!!今度ここに来て、なんか別の頼みがあったらまたの機会に手伝うよ!それじゃ!!」
俺は彼女の話を話半分で聞いて、そのまま彼女に背を向ける。
勿論そんな機会は金輪際ない。
こんなところ二度と来るかよ馬鹿マンコ、時間返せ。
心中で悪態を吐きながら、図書室の扉を開いて外に出た。
「...手伝わなくて良かったんですか?」
後ろでラブリエルが俺に尋ねる。
何を馬鹿な事を....。
「自分に靡かないマンコの手伝いした所で何になるわけ?そんな毒にも薬にもならない時間、ごめんだね。」
それこそこの力があるから、見込みがない相手を即切り出来るのだ。
それなのにいつまでもあそこで奴の手伝いをしていては意味がないだろう。
というか、ラブリエルの力がなければあのまま苦手だなぁと思われながらも良いように使われていたということだろうか?
ゾッとするわ.....。
自分が未然に良いように使われるのを防いだことでホッとしていると後ろでラブリエルが溜息を吐くのが聞こえた。
「そう言うところじゃないですか?モテない所って。というか、童貞の癖に女の人マンコって呼ぶの辞めなさい。滑稽ですよ?」
硬い表情で俺に対してそう説教してくるラブリエル。
やれやれ....天使様はすぐこうやって説教に走るんだから...。
この分だといつかはっきり言っておくとか言ってきそうだな。
主か....?
「童貞でも女の人マンコ呼ばわりしても良いだろうが、代わりにちんさん呼び受け入れるから。つーか、お前にマンコがあったら今頃俺の童貞はなかったから。これはお前の過失だから。謝って?ねぇ謝って!!」
彼女に指を突き付けて、謝罪を要求する。
ラブリエルは今まで見た者の中で一番美しいし、可愛らしい。
それは確かな事実であると俺には断言できる。
そりゃ最初の出会った当初はキョドり散らかしたものだ。
しかし、ラブリエルは俺の夢の対象外であったのだ。
それはなぜか?
ラブリエルには....女性器が付いていない。
性器や穴という器官が付いていない。
愛を司る天使が故に、無性。
しかし、身体の作りや見た目などのそれ以外の要素は女に近いらしい。
しかしとはいえ確かに子供らしい肢体は髪が長くなければある意味中性的にも見えるかもしれない。
俺にとってみれば、童貞であるが故に穴にこだわってしまうのだ。
卒業できる女の人でなければ、女ではあらず。
そういうことで彼女は俺の夢である女の子でカタログ作りたいっていう夢に当てはまらないのだ。
とても残念だ...見た目だけならドンピシャなのに....。
「はい?なんでボク今謝れって言われてるんです?そもそも私に性器があったところであなたに身体を許したりしていませんよ。思いあがらないでください。」
なんだとぉ.....。
彼女はきつく言いつけるように俺に指を突き付けた。
この天使....言いやがったなぁ!
「はぁ!?なんだとこの野郎!こんなに必死な男の子見て可哀想と思わないのか!!?こちとらお前来た時に我が家にオナホが舞い降りたと思ってわくわくしたのに、無性とか...くっそがっかりしたわ!!それにお前なんだそれは!!女の子として見るには起伏に乏しい身体の癖に男というには髪とか良い匂いがするし、ケツはデカいけど穴はないし、ガキみたいな体躯してる癖にメスガキとは言えない性格してやがるし、いちいち全部外して来てんだよお前!こちとら頭がおかしくなりそうじゃ!!」
「余計なお世話なんですけど。というか、既に頭はおかしいと思いますよ?」
呆れた顔で溜息を吐く彼女。
クソ...誰も彼も俺に厳しい....。
もっと優しくしてよ....、こちとらガラスのメンタルやぞ!!
割れたら自分に突き刺さるんだぞ!!
「うぅぅ....なんで何回やっても何回やっても誰も好感度高くないんだよぅ....なんだよこれ、俺を好きな人とかこの世に居ないのかよ!誰も俺を愛さないのかよぉ!!」
世界の不条理に嘆く。
まるで世界に一人で放り出されたような気分だ。
すると、流石に哀れに思ったのかラブリエルは同情的な視線を俺に向けて背中を撫でてくる。
「はいはい、落ち着きましょうか。誰も愛さないなんてことはありませんよ。愛という物は世界に溢れているのです。現状、貴方が女性に好かれるようなメンタリティをしていなくても、いつか変われば見てくれる人が居るかもしれませんよ?というか少なくともボクは貴方のこと嫌いじゃないですし。毎日色んな人からの好感度チラチラする暇があったら自分磨きしましょう?ね?」
うへぇ....愛の天使が隣で愛について説法を始めたぁ.....。
でも今、嫌いじゃないって言ったよな。
つまりはこれも愛の裏返し....ツンデレってこと?
俺は彼女を目を向ける。
「つまり...お前、俺の事が好きって...こと?じゃあなんか天使パワーとかでマンコ作って出直してきて....。」
「調子に乗らないでください間抜け。前にそんなことは不可能だって言ったこともう忘れたんですか?虫以下の脳味噌なんですね。」
「なんだよぅ....嘘でも好きって言ってくれたって良いじゃないか!!」
どうせ俺の夢の対象ではないんだからそのぐらいの世辞くらいは言ってくれたって良いじゃないか!!
居候の癖に生意気だぞ!!
追い出したって良いんだぞ!!
見ているだけでも目の保養になるから追い出さないけどねぇ!!!
「いちいち貴方の機嫌を取るために嘘を吐くはずがないでしょう?本当に面倒な男ですね....。下らないこと言ってないで、早く教室に戻りますよ。もうすぐ時間なんですから。」
「分かってるよ....はぁ.....。」
確かに腕時計を見れば、もうすぐ授業が始まる時間だ。
授業に遅れるとか普通にかっこ悪いしな。
肩を竦めながら、ラブリエルに言われるがまま自分の教室へと戻っていった。
マジでさっきの時間の無駄だったわ...はぁ.....。
後悔しながらも教室へと足を進めていった。
◇
放課後。
授業が終わって、皆が友達と遊びに言ったりクラブ活動したりしている時間。
そんな時間でも俺は家に直帰していた。
「...こういう時間で何か課外活動に参加すれば女の人とも接点が生まれて望みが生まれてくるんじゃないですか?」
「....確かに!それあるな!!それじゃ今度はかわいい子が多い部活動をリサーチしてみるとするか!」
「普通、第一に思いつきません?それ。...はぁ、これは夢の実現とやらも先が思いやられますね....。」
後ろで相変わらず呆れた様子でやれやれと言った態度を取るラブリエル。
夢は諦めなければいつか叶う。
俺はそう信じてる....。
俺は茜射す道をただ二人で歩いていた。
いつも通りの帰り道。
どこか夕日が郷愁を感じさせる。
昔、母さんが生きていた頃はここを一緒に手を繋いで歩いていたっけ?
爺さんが居た頃はこんな夕焼けが見える時間になるまで川で何かを二人で取っていた気がする。
年老いると体力もないはずなのに、こんな時間までガキの遊びに付き合ってくれていた爺さんには感謝だ。
風が頬を撫でる。
「...改めて考えると不思議な街ですね。この街は。」
「緑央街って言うぐらいで、文明と自然の調和を目指してるらしいぜ。...まぁ物は言いようで俺の家がある郊外はただまだ開発が行き届いてないだけで、学校らへんの都市部はここが見る影もない様子だけどな。...でもそんな都市部と山間部がすぐ近くに隣接しているっていうのも面白い街ではあるのもかもしれない。」
母が死んで、父も仕事で職場に泊まり込みの中々家に帰れない身の上だった。
だからこそこうして山間部の祖父の家で暮らして数年。
祖父が死んでからは最早一人暮らし。
今でもたまに父が顔を出すくらいだ。
昔の家よりもこの山間部の方が自分の領域であると確かに言えた。
「...こういう話になるとまともに話が通じるんですよね貴方。ボク、これからずっと土地の話でも振れば良いですか?」
「いくらなんでもそれは飽きる。話すことなくなるから気まずくなるだけだよ。第一、住んでる街の話よりも俺の夢についての話の方が遥かに建設的な話だろ!!」
「どこがです....?」
心底理解できないといった顔で首を傾げる。
分かんねぇかなぁ....。
ここら辺の土地の話をする時は頭に爺さんとの思い出や母さんとの思い出が過る。
言うならば過去への感傷が多分に含まれる。
しかし、俺の夢の話は欲望の話とはいえ未来を見据えた話である。
過去に囚われるくらいなら、未来を見ている方が高尚に決まっている。
だからこそ、俺の夢の話は建設的な話なのだ。
「まぁ、これに関しては別に分かってもらわなくてもいいや。」
「何考えてるんだか.....っ、止まって。」
自分の内面のことだから、彼女をはぐらかす。
すると彼女は呆れた表情を見せた。
しかし、その直後に俺の手を掴む。
「なんだよ....手を繋ぎたくなっちゃったか?なんやお前、違う言うときながら俺のこと好きじゃ~ん、照れんなってこのこの~....どうした?」
手を掴まれたので照れ隠しと少しのからかいを込めて茶化す。
しかし、その彼女の瞳には険しい光が宿っていた。
まるで張り詰めた糸のように周囲を警戒していた。
「迂回しましょう。」
「それってもしかして...また結界が張られてんの?」
彼女の変わりようを見ても、俺は別段戸惑うこともない。
なんせ彼女と一緒に暮らすようになって頻繁に目にした様子だったからだ。
俺の言葉を聞くと、ゆっくりと彼女は頷いた。
「えぇ、あそこの曲がり角の奥を行けば入ってしまいます。しかも今回はかなり広範囲です。幸い自宅にまでは及んでいない。それなら外周を迂回していけば無用な面倒事を避けることは可能なはずです。」
「なるほどな。....最近多くないか?」
「....本当ですね。一体どうしたというんでしょう?魔物が活発なのか...天使たちによる悪魔討伐が盛んに計画されたのか....。なんにせよ地に堕ちたボクには分からない話です。」
結界。
それは前々からちょくちょくこの街で歩いているときに遭遇している事象。
どうにもそれは大抵ラブリエルのような天使と悪魔と呼ばれる物が衝突する際に展開される領域らしい。
外からそこで何か起きているかも分からず、また被害も外へは広がらないらしい。
正直、悪魔が居るというのも最初は驚いたがそら目の前に天使も居るんだったら居るよなと自分で勝手に納得していた。
だって目の前に既存の常識じゃ片付けられない存在が庭消し飛ばすとかいう尋常でない方法で出現したことがあるんだぜ?
今更常識に縛られてちゃ滑稽でしかないだろう。
「分からない話だったら、いつまでも話を続けてもしょうがないな!それじゃ帰っちまうか!!」
「えぇ、それが吉です。回避できる争いは回避するべきですよ。」
見解が一致したな。
こういう所は意見が合うので、相性としても俺は悪くないと思う。
事実、一緒に過ごしていても気まずくないしな。
「それでは、右へと急ぎましょう。さらに広がるかもしれませんから....。」
「おぉっ....おっけ。分かった。」
彼女が手を引いて、俺の前へと歩き出す。
結界があるという方向とは真逆の方向へと歩いていく。
でも、迂回しようとしたら結構時間かかるんだよなぁ。
あーあ、あそこを通ることが出来たら楽だったのになぁ....。
そんな未練を込めて、一瞬結界の方をちらっと見た。
『...たすけ...けて.....。』
か細い女性の助けを呼ぶ声。
それが何故か俺の耳の中で響いた。
....今の声...絶対に声の主可愛いだろ。
「ちょっと待って!今女の子の声聞こえなかった.....?」
「は?何を言っているのですか?」
俺の言葉を聞いて、表情を険しくするラブリエル。
まさか...俺が言おうとしていることが分かったのか....?
「会いに行きたいとか言い出しませんよね?もしそうならこれから一月は貴方のことキ〇ガイと呼びますよ。」
「い、いや....声的に、明らかに夢のカタログに絶対に必要な一級美人の声だったんだよ...。声だけで可愛いって分かるんだよ!?実際に会ったら卒倒ものだろ!?」
「だからぁ!その可愛い子とやらが悪魔と戦っているから結界が出来てるんですよバカ。そんなところに突っ込んでいって何をするって言うんですか?」
彼女の言葉は確かに至極真っ当だ。
ごもっともと言っても良い。
...しかし、一つの点で間違っていると言える。
俺がそこに突っ込んでいって何をするか?
そんなのは決まっている。
あの声は助けを求めていた...つまり。
「助けを求める声...そして声の主は可愛い。つまり!ここで俺が颯爽と出て来て助けたりしたら最初から好感度マックス!美人で可愛い天使?がカタログに登録、楽々セクロスってわけ!!」
「今痛感しました。貴方はチ〇コでしか物を考えることが出来ない猿だったというわけですね。そうでしたそうでした!!このっ....こっちに来なさい....このっバカ!!」
「い、痛い痛い痛い!!あの、止めてくれるのは構わないんだけど人の腕はそっちには曲がらな...ア”ッ”!!」
彼女は俺が言葉では止まらないと踏んだのか腕を締め上げる。
なんとかやめさせようと言葉を掛けようとした、その瞬間腕が悲鳴を上げた。
あっ....これは、関節がもう一つある人類の新たな身体の形...?
痛みからか現実感を失っている間も彼女は気づいていないのか容赦なく俺を運んで行った。
どんどんと結界のある路地が遠のいていく。
そんな...俺の夢が....。
可愛い声した可愛いであろう女の子が....。
くそっ....行っちゃいけないのは分かってるけど、凄い残念だ。
あぁ...また、俺の夢が遠のいていく....。
今日は、失敗ばかりだったなぁ....。
そう思いながら、痛みにやられて意識を手放した。
あれから、どうやらラブリエルが運んだらしく俺は家のベッドで目を覚ました。
時刻は21時。
それなりに遅い時間である。
今は米が炊けるのを待ちながら、リビングに座っていた。
窓からは未だに復興途中の庭が目に入る。
「肩が外れただけだったから付ければよかったけど、人間の身体って弱いんだからな!そこんところしっかり配慮してくれよ!!」
「そもそも馬鹿な事を言い出さなければそんなことにはなってないのでボクは悪くないです。反省するのはそちらの方でしょ。反省しなさい。」
彼女は俺から目を逸らして、そう臆面もなく言い放つ。
愛の天使ならもっと心配するとかそういう愛を見せてくれよ...。
それなりの付き合いはあるだろ?
まだ少し痛む左腕に顔を顰めながらも、テレビの電源を付ける。
映るのは地方局のニュース番組。
その画面は見覚えがある場所だ。
....というかこの街じゃん。
つーか、俺達が歩いていた帰り道じゃん。
『こんな閑静な住宅街で住民の生活を脅かす事件が発生しました。突如として複数の家屋が倒壊し、犯人は未だに分かっていない模様です。現場の状況はこのように....。』
アナウンサーがアップで映っている。
そして真剣な顔で説明すると、カメラが別の方向に向けられた。
「..うえぇ...何これ、こんなの映して良いと思ってんの?」
カメラに映るのは路地。
その路地沿いの家が複数倒壊しているといった旨だった。
確かにまるで豆腐を綺麗に刃物で切ったかのようで突如壊れたとしては不自然な壊れ方をしている。
しかし、そんなことがかすんでしまう程にその路地は地獄絵図だった。
地面にぶちまけられた血。
白い翼が背中に生えた女性たちが電柱に突き刺さっていたり、電線で首を括られてぶら下げられてしている。
地上波で明らかに映してはいけないようなグロテスクな有様だ。
それなのに、キャスターはまったく顔色を変えていない。
「どうなってんだこの人、こんな状況で何食わぬ顔で取材しているし。」
「そりゃ貴方には天使の死体が見えるけど、普通の人には見えませんからね。キャスターにも視聴者の人達も普通になんの変哲もない路地の取材映像にしか見えてないですよ。」
「あ~、そういえば天使って普通見えないもんだったな。」
そういえばそうだった。
しかし、テレビ越しでも見える物なのか....。
というより、これはもしかして....。
「ラブリエル、ここってもしかして...結界の所?」
「えぇ。様子を見るに悪魔が天使狩りの為に張った結界みたいですね。そうみたいですね。ねっ?入らなくてよかったでしょ?謝りなさい、イカレたこと言ってごめんなさいって。」
「イカレたこと言ってごめんなさい。」
俺は言われるがまま素直に謝る。
いや、これはマジで彼女の言う通りだわ。
マジで肩外してでも止めてくれて感謝って感じ。
こんなの関わったら絶対碌なことにならないでしょ。
天使狩りって字面の時点で怖いもん。
「...しかし、妙ですね。普通完全に、結界を張っていたら家屋に被害が出ることはないはず....まさか。」
「なんだよ、まさかって。」
俺が聞き返すと、一瞬逡巡する仕草を見せる。
まるで言うべきか迷っているといった様子で。
そして、意を決して口を開いた。
「...わざと中途半端な結界にしたのかもしれません。敢えて周囲に被害が出るようにと。まるで積み木を作るかのようにバラバラにした家を積んでいる辺り、楽しんでやっている愉快犯ですね。」
彼女はテレビの画面を睨みつける。
...それは、確かに気分の良い物ではなかった。
ここは俺が生まれ育った街だ。
彼女が睨む理由とは違うだろうが、そんな自分の街がこんな風に好き勝手やられているのはとても嫌だった。
しかし、そんなことを知る由もないキャスターは周辺住民の困惑の声や原因が分かっていないことを語りながら路地を歩く。
そして一つの家の前で足を止める。
その家の倒壊についての異常な点を話しているとひょこひょことカメラに写り込む一人の少女が目に入った。
返り血で汚れた白衣の下に紫の競泳水着を着てキャスケット被った少女。
その髪は紫紺に輝き、一本の尻尾のように三つ編みが降ろされている。
まるで人形のように端正ではあるものの、人間らしい感情が伺えない顔の中で唯一異質に輝く紅い瞳。
そして競泳水着からは煽情的にも彼女の体の豊満な体のラインが出ていた。
美乳タイプ...深いな.....。
それはテレビ越しであるにも関わらず彼女に目が引き付けられる程に美しく、そして地獄絵図の中キャスターが話しているにも関わらず、ひょこひょことカメラに写り込もうとしているのは純粋におかしかった。
「なに....この子。」
キャスターやカメラの様子的に、彼女が見えていない。
つまりは生き残りの天使ということ...?
そんな疑問符を浮かべていると、隣のラブリエルが口を開く。
「尻尾が写り込んでる...コイツ、悪魔です。」
「そうなのか....あっ、本当だ。」
彼女の動きに合わせて、黒い尻尾のようなものがひょこひょこと動いている。
彼女が悪魔....つまりは、それは彼女が結界を張って天使を虐殺した張本人ってこと?
『理解。これがカメラという物。今の時代では情報を伝えるだけでなく娯楽にもなっている。...私は映らないけど。いえーい、ドグサレ白翼共見てるー?勝利、お前たち弱すぎ。』
ダブルピースしながらカメラにアピールする。
しかし、表情は相変わらず変わらない為にシュールなことこの上ない。
なんか...ちょっとかわいいと思ってしまったな。
「てかドグサレ白翼って....。」
「...テレビで天使に挑発した所でほとんどの天使はこんなもの見ていません。間抜けなことこの上ないですねこの虫は。」
「口悪っ!」
いや、そりゃラブリエルが天使の時点で悪魔は不倶戴天の敵であろうから口が悪くなるのも当然か。
すると、画面の彼女はダブルピースうんうんと頷きながら顎に手を当てる。
「今のところ全て計算通りです。ここを狩場に選んだもの計算の内、そして天使の死骸を使って助けを呼ばせれば奴らは寄ってくるということも計算通り、そして人間の家屋を破壊すると楽しいということと今の地上波デビューに至っても何もかもが私の計算通りです。」
この子、めっちゃ計算通りって言ってんな。
データキャラなのだろうか?
しかしここまで計算通りって言っているとなんか言葉の重みがないな。
それにしたって....。
「天使の死骸に助けを呼ばせるって.....。」
「貴方の聞いた声ですよ。それ以外は考えられません。ね?ボクの言う通り結界に入らなくてつくづく良かったと思いません?」
「は?つまり、あの時間居た声聞いただけで可愛いって分かるような逸材は死んじまっていたってこと!?そんなことありかよ...こちとらカタログ作り捗るぞ~って思って、お前に止められる程にはしゃいじまったって言うのに....そんなの詐欺じゃん!!」
「そんな言葉じゃなくて、ボクにありがとうですよねっ!?」
頭にチョップされた。
いやでも、自分が死体の声に発情してたって知ったらそりゃショックを受けるよ。
そこらへんは許してくださいよ~ねっ?
画面の少女は一通りしたり顔でうんうんと頷いた後、不意にカメラにまた向き直る。
そして、腕を上げる。
「熟考。まだやることがあるのでここをうろつかれると気が散る...。結論、バーン。」
そう言うと、彼女は上げた手を銃のようにして撃つような仕草をカメラに行う。
それと共に画面が乱れて、そして『しばらくお待ちください』のテロップが入り、スタジオが映し出された。
どうやらキャスターとも連絡が取れなくなっているらしい。
これは...つまり.....。
「あの悪魔....やりやがりましたね.....。」
ラブリエルが画面を見たこともないような表情で睨みつける。
その表情が彼らがどうなったかについて物語っていた。
それにしたって.....。
「やってることクソなのに、見た目アイドル級のナイスバディって要素詰め込みすぎだろ。あっちの方がカタログに載せたいわ。胸が熱くなったね、不快感と見惚れた気持ちでさ。」
「....、貴方がそう思うなら別に構いませんよ。貴方の中の話ですし、なによりボクツッコむのも疲れました。」
「え、えっと...悪いことしたんだから我が家で据え置きオナホやってもらって凌辱の限りを尽くして、それで手打ちっていうのは....ダメ?」
「......。」
彼女はまるでチベットスナギツネのような目で俺を見つめていた。
...俺、少しズレたこと言っちゃったかな...。
流石にそんな反応されるとそう思わずにはいられなかった。
気まずさを感じながら見つめ合う。
すると、彼女が先に溜息を吐いた。
「まぁ、貴方がそう言う人であるということは分かっていたことですね。...とにかくボクの言うことは守ってくださいよ。今後は帰り道はボクの言う通り歩くこと。そして結界には絶対に入らないし、触れもしません。」
「いや、まぁそりゃ俺も関わりたくはないから分かってるよ。」
「安心しました。それじゃ、お風呂入りますからね。ご飯が必要ないボクにとっての一番の娯楽時間なんですから、邪魔しないでくださいね?」
朗らかな笑みを一瞬見せると、そのままリビングを出ていく。
アイツ、無性だけど並みの女どもなんかより可愛いし綺麗なんだよなぁ。
...残り湯飲むか?..いや、腹壊しそうだからやめとくか。
そんな俺の煩悩塗れの思考を断ち切るように炊飯器がご飯が炊けたことをアラームで告げる。
炊き込みご飯の素を持ってきて、入れよう。
今日は山菜ご飯だ。
...まぁアイツが言っていた通り、アイツ飯なんか食う必要ないから結局一人で食う羽目になるんだけど。
それでも同じ部屋に誰か人が居るっていうのは結構違うもんだな。
そう思いながらも、素を炊きあがったご飯へと放流していくのだった。
◇
...きて...起き...さい....。
しきりに誰かの声が聞こえる。
うるさいなぁ.....まだ目覚まし時計がなってないでしょうが....。
しかしついには身体も揺らされ始める。
...あと、10分だけ...せめてそんくらいは.....。
「早く、起きなさい!!」
「ガフッッ!!」
腹部に衝撃が走り、思わずくの字に曲げて口から空気を吐く。
コイツ、腹でも殴ったか....?
寝ている人間になんてことを.....こんなことは許してはいけない....。
そう断定して、目を開く。
そこには.....。
「いいからさっさと起きなさい!!立ち上がって!!ほら、早く!!!」
ラブリエルが俺のお腹の上に馬乗りになっていた。
乗られたら起きようにも起きられないというツッコミもしたいが、それ以上に重要な事がそこにはあった。
コイツは、俺に生活リズムを合わせる為か態々そんな必要ないのに薄着のパジャマ姿になっていたりする。
つまり、目の保養になるってこと。
隙間から..乳首とか、見えないか.....無理か。
まぁなんだ....なんか、そのっ...良い眺めだった。
「許すよ、苦しかったけど...それ以上に良い物が見れた。」
「何を馬鹿な事を起き抜けに口走っているか知らないけど、起きて外を見なさい!」
ラブリエルは頭をはたくと、腹の上から退く。
彼女が見に行けというので、軋む身体を伸びで均しながら窓の外を見た。
やれやれ...窓の外を見たっていつもと変わらないでしょ....。
そう思った見た外は真っ赤な雨が降っており、几帳面にも山の方の木々に丁寧に一本ずつ天使が突き刺さっていた。
「...え?なんすかこれ。」
「夜、ボクたちが寝ている間に結界が拡張したんですよ。緑央の郊外全域にまで広がっている。それに、この分ではテレビで見た時と違って性質が変わっている。あの季節感もTPOも弁える脳のない畜生も本気になったということですね。」
えぇ...本気って、なに?
なんか違いが外の景色でしか分からないが、それでも一つ言えることは一目見てヤバイってこと。
戸惑う俺を他所に、ラブリエルは真剣な表情で俺を見つめている。
「今取れる手段は二つだけです。一つはこの家に籠る。メリットは食事や寝る場所があって、動かないから奴に出くわすことはない。デメリットは...結界の特性上、奴は天使を検知するとやってくる可能性があるということ。二つ目はこの郊外を急いで出るということです。メリットは結界の外にさへ出てしまえば関わり合いになることはないでしょう。デメリットは移動している途中に出くわす可能性があるという物です。...どうしますか?」
彼女は俺に選択させようとしてくれている。
状況が理解できていない俺に合わせてくれようとしているのか。
それに、彼女も羽が片方しかなかったりなど関わりたくない理由があるのだろう。
そして、ここは俺の家だ。
爺ちゃんとの思い出がある、俺の家。
ならば、答えは決まっていた。
「,,,悪魔が来たら、多分お前が壊した庭先みたいにこの家がなる可能性が高いだろ?」
「...大丈夫とは口が裂けても言えません。」
そうか....なら、やっぱりこの方針で行こう。
「それなら、今すぐこの家を出て郊外の外に出る。学校らへんの都市部に行けたら大丈夫ってことだろ?この家自体ぶっ壊されたらたまったものじゃないからな。」
「そうですね。それじゃ、準備をしてください。ボクはリビングに貴方の通帳とハンコを持ってきます。貴方は服だけでも着替えていてください。」
「分かった。」
どこか焦っているような様子を見せて、状況が切羽詰まっていることが分かる。
俺は壁に掛けてある学ランに袖を通す。
こういう時、決まった格好でそれも着慣れているが故にスムーズに着ることが出来る制服の有難みを思い知る。
俺自身、自分のコーディネートに自信があるわけでもおしゃれというわけでもないので、私服が良いなどと一度も思ったことはないのだが。
一応鞄は持っておく。
「持ってきました...ちょうどいい、それに入れておきましょう。」
どうやら階段を上がってきたらしく、通帳とハンコをこちらに差し出す。
俺も鞄を開くと、それを中に入れておく。
よしっ、これでお金の面では安心だ。
「それじゃ、行くか....あの子に会ったらどうしよう。テレビって実際よりも劣化して見えるらしいからな....。」
「そんな寝言言う暇あったら会わないように祈っておきなさい。さっさと行きますよ。」
それもそうだな。
いくらカタログに追加したいくらい可愛いとはいえあんなのとは出来れば会いたくないものだ。
俺は彼女の言葉に頷いて答えると自分の部屋を出る。
そして一回に降りると、傘を手に取って玄関を開けた。
降りつける紅い雨。
それはまるで血のようで見ているだけでなんかひやっとして気分が悪い。
傘を開いて、学ランが汚れないようにしてから俺達は家を発ったのだ。