88   作:柴猫侍

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Ⅲ.『ここからもよく見える』

 晦冥が辺りを包み込む。

 並盛町の中心から外れた森の中からは、空に無数の星々が浮かんでいる様子がよく見える。

 

 眠りに忌避を覚えてからというもの、気を紛らわせるために覚えるようになった星座を数える。

 健やかな寝息があちこちから聞こえるが、どうにも今日は眠れそうにない。

 

 ここ一か月は激動の連続だった。

 しかしながら、展開自体は今までにないほど好調だ。

 

 10年バズーカでボンゴレリングと共に過去からやって来た綱吉さん達、ボンゴレファミリー。彼らと一緒にメローネ基地へと潜入し、第一の関門であった6弔花を誰一人欠けず下せた事実は大きかった。

 しかも、綱吉さんと入江正一と出会った過去をきっかけに誕生した秘密兵器“ボンゴレ(ボックス)”は、ユニを狙う真6弔花の修羅開匣相手に互角以上の活躍を見せていた。

 

 

───やれる。

 

 

───やっと。

 

 

───未来を。

 

 

───運命が。

 

 

───変わる。

 

 

 希望が見え、否応なしに心が浮足立つ。

 その所為で眠気が覚めてしまい、ユニが予知する決戦前夜というにも拘わらず、目は冴えたままだった。

 

 ならばと独りで始めた天体観測───しかし、それはすぐに終わりを迎える。

 

「眠れませんか?」

 

 満点の星空に、虹が架かった。

 

「……ユニ」

「ふふっ、実は私もなんです」

「体に響くよ」

「分かってはいます」

 

 でも、と彼女は困ったような笑顔を浮かべる。

 

「……少しだけ付き合ってあげるよ」

「ありがとう」

 

 ユニはそう言って隣に腰掛けた。

 俺も仰向けから上体を起こし、座る彼女と視線の高さを合わせる。

 

 目と目が合った。

 それからしばらく沈黙が続く。

 

 なんと言いだそうか。

 こちらが勝手に気まずくなっていれば、それを見たユニがコロコロと喉を転がす。

 

「すみません、我慢できなくなって」

「そんなに面白い顔してた?」

「いえ、そういう意味じゃ……」

 

 しばし、鈴の音に似た笑い声は深夜の森林に溶け込んでいた。

 

「ふぅ……ようやく収まりました」

「それなら良かった」

「でも、なんだか不思議な気分です」

「?」

「こうして貴方の傍に居ると……ずっと……ずっと昔から一緒に居たような気がするんです」

 

 ひゅう、と涼しい風が鳴いた。

 同時に思わず口から零れ落ちた声も、深い森の奥へと吸い込まれて消える。

 

「ごめんなさい。おかしな話だとは自分でも思います。沢田さん達と同じ……貴方とは今日会ったばかりなのに」

「……きっと予知さ。昔に見た記憶が混同してるんじゃないのか?」

「そんなはずでは……」

 

 そうだ、()()()()()()()()

 鉄の帽子の男が言っていた“呪い”によれば、この世界のユニが俺を知っているなんてありえないんだから。

 俺の死に戻りを見越した上での予知と言われた方が、まだ信憑性が高い。

 

「もうそろそろ休もう。ユニの予知じゃあ、明日が最後の戦いになるんだろ?」

「っ! ───……はい、それは確かです」

「なら夜更かしは禁物だな。明日は早いよ。さ、眠ろう」

 

 まだ何か言いたげな様子だ。

 態度があからさま過ぎたかもしれない。こう見えてもユニは人の心を読む力に長けている。俺が何かを隠したがっていることくらい、彼女には筒抜けだろう。

 けれども、そうした意思を汲み取ってくれたのか、彼女はそれ以上言及してこなかった。

 

 その心遣いだけでスッと心が軽くなる。

 俺が抱えている問題……“呪い”は、他人に打ち明けるには重過ぎる。

 死んで、死んで、何度も死んで。気が狂いそうになるくらい輪廻を繰り返して辿り着いた先が、正一さんの言う白蘭に支配されていない唯一の世界線だなんて。

 

 これが正真正銘最後のチャンス。

 この機を逃せば、再び勝ち目の少ない時間軸へと死に戻り、延々と白蘭に屠られる目に遭うだろう───が、俺のことはどうだっていい。

 

 横たわるユニを見つめる。

 ジッリョネロのボスであり、呪われし赤ん坊ことアルコバレーノのボスであるにも関わらず、その寝顔からは未だにあどけなさが抜けない。

 これだけの若さであるというのに、背負った使命の重さと白蘭に狙われている恐怖、その二つからくる重圧は想像を絶するだろう。

 

「……今度こそ、守るから……」

 

 頬を撫でようと手を伸ばしたところで、ピタリと手を止めた。

 幾ばくかの逡巡。

 その間、革手袋で隠した痣と傷だらけの手を思い出し……手を引いた。彼女に触れる権利を俺は持っていない。ファミリーでもなければ守護者でもない。この時間軸の彼女は、あくまで自分の知っているユニとはまったく違う人生を歩んだ別人なのだから。

 

───あの頃みたいに気安く手を取れる間柄じゃないんだ。

 

 自嘲染みた笑みを浮かべ、黒蛋白石(ブラックオパール)のような輝きを放つリングをじっと見つめる。少し傾けるだけで色彩を変える宝玉は美しくもあるが、行く先の不透明さを表すようで不安を煽られるようだ。

 けれども、こいつとも随分長い付き合いになった。

 元の世界のユニから託された唯一の形見ともいえる品だが、今では身体の一部同然に馴染んでいる。

 

 むしろ外している方が落ち着かないが、

 

「……未練がましいったら……」

 

 リングの位置が今になって気になった。

 ()()()()()。気づくや、自身の青臭さに顔が燃えるように熱くなる。

 

 いい機会だ。そう思ってリングを別の指に移そうと手をかけた瞬間、ふわりと手が重なった。

 

「外してしまうんですか?」

「え……?」

「とても大事そうにしているように見えたので」

 

 眠りに就いたかに思えたユニが制止してきた。

 とはいうものの、一日中追いかけ回された疲労は誤魔化せないようだ。辛うじて開かれている目も、瞼がとろんと半分覆い被さっている。

 きっと夢見心地なのだろう。このまま静かに黙っていれば、そう経たない内に再び眠りに落ちてくれるはずだ……───。

 

「誰か……好きな方が居たんですか?」

 

 そう思っていた俺を殴りつける衝撃。

 直後、全身は凍り付いたように身動きが取れなくなった。別に特殊な力が働いている訳ではない。

 ただ、彼女の言葉を受け取った体が、俺の意思に反してピクリとも動かなくなっただけだ。

 

「……どうして、そう思う?」

「リングを見ている時、貴方がそういう目をしていらっしゃったので……贈り物、ですか?」

「……」

「っ、ごめんなさい。どうしても気になってしまって……嫌な事を思い出させてしまったのなら───」

「……謝らなくていいよ」

「常磐さん……」

「ただ、少し長くなるから……」

「構いません」

 

 聞かせてください、と控えめな声が響く。

 彼女の瞳には、どんな顔の俺が映っているのだろう? 暗がりに居る所為で見ようにも見えないが、たとえ見たところでどうこうという話でもない。

 でも、()()()()()()()()()()()()()()()───その一点だけは気になりながら、ぽつりぽつりと語った。

 

「好きな人が居たんだ」

 

「ずっと……もう、ずっと会えていないけど」

 

「好きだった女の子がくれた物でさ」

 

「親も居なくて、孤児院に引き取られてた俺ともよく遊んでくれて」

 

「これからもずっと一緒に居ようなんて約束もしたりして」

 

「けど、遠い場所に行っちゃったんだ」

 

「会いたくても会いに行けないくらい遠い場所に」

 

「……これは、大切な思い出なんだ」

 

「もう、碌な中身も憶えちゃいないけど」

 

「二人で過ごした時間があったんだって」

 

「そう、ちゃんと思い出させてくれる宝物なんだ」

 

 要領を得ない話になってしまった自覚はある。

 それでもユニは最後まで寝ずに聞いてくれたようだ。すると未だに握られている手に強い圧迫感を覚えた。強く握られる程に伝わってくる震え。心なしか涙声のユニは、スンッ、と鼻を啜る音を微かに鳴らしながら口を開いた。

 

「そう……、ですか」

「眠る前なのに辛気臭い話しちゃったな」

「いいえ、そんな」

「……それにしても酷いだろ? 自分で大切だって言ってるのに、当の思い出の中身はこれっぽっちも思い出せないんだから」

「……違います」

「え?」

 

 横たわっていたユニが身を起こす。

 すれば、夜風に揺られる木々の隙間より差し込む月光が、彼女の姿を淡く照らし上げた。

 

 綺麗だ。

 何度も死に戻っても、出会う機会はまちまちだった。

 だからこそ、その太陽のような温もりを強く覚えるほどに、虹のような儚さを深く焼き付けられてしまう。

 

 会いたかった。

 でも。

 会いたくなかった。

 

「───……ぁ……」

 

 彼女の瞳に映る姿。

 俺の、くしゃりと歪んだ笑顔。

 

 それは間違いなく、()()()()()()()と悟っている姿だったから。

 

「とても……寂しそう」

「ぇ……」

「貴方の傍にはたくさんの人が居る……なのに、貴方自身は“自分は一人だ”と思い込んでいる。───……違いますか?」

 

 ああ、そうだ。

 ()()()()()()()()()

 

「大丈夫、怖がらないで」

 

 痣だらけの手を覆い隠す両手。

 こちらを見つめてくる瞳は雲一つない大空みたいに澄んでいて、心の裡に隠した秘密なんてものは、すぐに見透かされてしまう。

 

 いつだってそうだ。

 今までもそうだった。

 

 だから、

 

「貴方は決して一人なんかじゃない」

「……でもッ、いつかみんなから忘れられたら……っ」

「忘れなんてしません」

 

 彼女は最初から───本当に最初から分かっていたのかもしれない。

 

 俺が辿った過酷な旅路も。

 繰り返される生死の呪いも。

 

───全部分かって、このリングを託したんだ。

 

 苦悩と覚悟を湛えた目を前に、俺は思い出した。

 それは二度と思い出すまいと記憶から消した、()()の死に際。

 

「思い出は消えたりなんかしません。貴方の大切な思い出も、きっといつか思い出せるようになると……思い出せるように私が願っています」

「……やっぱりそういうところ……そっくりだ」

「え……?」

「ねえ、ユニ。ひとつだけ……我儘を聞いてほしいんだ」

「? なんでしょう」

 

 目を白黒とさせるユニを前に、俺はリングを見せつけるように掲げた。

 瞬間、リングは俺を駆け巡る波動と覚悟に呼応し、透き通った橙色の炎を揺らめかせる。何回も死に戻る旅、澱んでは澄んでを繰り返した死ぬ気の炎も、今は迷いない想いをそのままに燃え上がっていた。

 

「明日……何があっても、俺は君を守る」

「常磐さん……それは、どういう意味で───」

「……なんでもない」

 

 言ってから恥ずかしくなった。

 無理やり『おやすみ』と切り上げれば、そのまま不貞寝みたいにそっぽを向いて倒れ込んだ。

 すれば、堪らず噴き出すようなユニの息遣いが聞こえてくる。

 こっちの気持ちを察してか否か、ほんのりと上気した頬を湛えた彼女は、そっと顔を耳元へ寄せて囁く。

 

「……おやすみなさい」

 

 って。

 それでまた、俺は眠れなくなる。

 けれど、いったん夢の中に落ちてしまえば……それこそ今までが嘘だったように安らかな時間を過ごせていた。

 

 

 

 そして───最後の夜明けを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 真6弔花との決戦は熾烈を極めていた。

 7³ポリシーの要たるユニを手に入れる為にも白蘭は本気だ。故に襲撃をかけてきた真6弔花も鬼気迫った様子の攻勢に出ていた。

 幾度となく苦渋を味わわされた強敵には違いない。が、伊達に命を賭してきた訳じゃない。

 

「ぶーっ! さっさと死んじゃいなさいよ!」

「これ以上……死んで堪るかあああっ!」

 

 修羅開匣したブルーベル相手に、晴トカゲ(ルチェルトラ・デル・セレーノ)を開匣して迎え撃つ。純度の高い雨の炎───延いては“鎮静”の効力は、こちらに抵抗する暇も与えずに殺してくる恐ろしい力だ。

 

 だからこそ晴属性の“活性”が活きる。

 綱吉さん達と合流する前にミルフィオーレの兵器工場から奪った『晴トカゲ』は、放出する晴の炎を浴びた対象の自然治癒なんて生温い超速再生を可能とする匣兵器の一つだ。

 予備の炎を蓄積するバッテリー(ボックス)に晴の種火をチャージし、“調和”の特性を有する大空の炎を掛け合わせて開匣しているお陰で、匣ムーブメント低下を克服した。

 襟に巻いて晴の炎を直接浴び続けることで、たとえブルーベルの攻撃を喰らったとしても一撃で殺されるリスクは免れるだろう。

 

 尤も細胞を強制的に超活性させる点から、使い過ぎれば細胞の死期を早める───が、最後の戦いに臨んでいる今となってはそよ風みたいな問題だ。

 

「お前達には誰も殺させない!」

「っ……何よ、こいつ……!?」

「俺が殺されたら……お前達は後戻りできなくなる!」

「───わっけ分かんない!」

 

 激突する雨と大空の炎。波濤のように押し寄せる蒼炎に、リングから放たれる橙色の炎が盾となって受け止めているが、急速に“鎮静”の効果で収縮する。

 純度、炎力、炎圧……どれを挙げても俺が真6弔花に勝る点はない。

 ミルフィオーレから奪取した虎の子の匣兵器も、俺の炎じゃ性能を引き出すどころか、開匣すらままならなかった。辛うじて開けられた晴トカゲの再生能力で命を削った戦いも、いずれ限界は訪れるだろう。

 

 

 けど、それは俺一人だけだったらの話。

 

 

「ドカスが」

「にゅにゅ!?」

 

 劣勢を強いられていた俺に援護射撃が飛んできた。

 射線上に存在していた地面や木々を風化させながら進む弾丸は憤怒の炎。危うく巻き添えを喰らいそうになったけれども、並行世界でも()()()の強さを知っているから、心の底から頼もしいと思えてしまう。

 遠目から見ても眉尻を下げる桔梗の様子からも、敵側からも強大な戦力と見られていることは間違いない。

 

「ヴァリアーのボス……XANXUS。部下も引き連れて数も多いとは中々厄介な」

「バーロー。雑魚がぞろぞろ集まったところで、俺達にゃ万に一つも敵いやしねえよ」

 

 共に修羅開匣し、恐竜の力をその身に宿した桔梗とザクロが集う敵対勢力に睨みを利かせる。

 

 そう、ここには白蘭に立ち向かう大勢の人間が集っている。

 綱吉さんや守護者のみんなは勿論、ヴァリアーやキャッバローネボスのディーノさん、それに復讐者の牢獄から抜け出してきた骸さんとその一味と、錚々たる顔ぶれが揃っていた。

 裏社会でも指折りの実力者達だ。これで期待するなと言う方が無理な話であって、自然と生唾を飲み込んでいた。

 

 数ではこちらが有利だ。

 デイジーは恭弥さんに、トリカブトも綱吉さんが倒した。したがって残存する真6弔花は4人の筈だ───が、

 

 

(───“雷”は、誰なんだ?)

 

 

 嫌な予感が背筋を伝う。

 未だ目にしていない最後の守護者。並行世界で何度も見た顔が、今回に限って一度も現れていない守護者の存在に、胸中の不安が収集つかない程に膨れ上がる。

 

 その時だった。

 

 爆ぜる雷光と共に、()は現れた。

 

「ッ……白、蘭……?!」

 

 容貌は奴そのもの。

 けれど、その異様な空気を伴って参上した謎の存在が、白蘭であって白蘭でない者であると周囲に知らしめていた。

 誰もが混乱している。真6弔花だって同じだ。

 だが、この中で一番動揺していたのは───間違いなく俺だった。

 

()()()()……あんな奴、俺は知らない!」

「……GHOST(ゴースト)……あれが並行世界(パラレルワールド)の」

「ッ!?」

 

 桔梗が零した言葉に耳を疑った。そして悟った。きっとあれは白蘭の力の産物……この最終局面に投入されるだけの価値がある駒だって。

 そうこうしている間にも隼人さん達が嵐豹(パンテーラ・テンペスタ)と雨イルカの匣コンビネーションによる大技を、GHOST目掛けて繰り出した。

 

「ぐあ!!」

「当たったのか!?」

「わからねえっ」

「ぬっ、様子がおかしい!!」

 

 炎の余波で全員がたじろぐ中、GHOSTは爆炎をすり抜けて出てきた。

 対する嵐豹はというと、

 

「瓜ィイ!!」

 

 炎を吸収された所為か、嵐猫(ガット・テンペスタ)へと戻ってしまっていた。

 

(? なんで今、吸収されたって分かった?)

 

 みんなが驚愕する中、俺だけが妙な既視感に胸騒ぎを覚えていた。

 嚙み合わない歯車が軋む音を立てるような不快な音が頭に響く。また、最後の最後に残されたパズルのピースが判別つかない───喉元まで出かかっている答えが出てこない歯痒さと焦燥に、散り散りになった記憶の断片が掻き集められていく。

 

 これは……これは、遠い過去の記憶だ。

 忘却の彼方へ忘れ去られていた───いや、忘れようとしていた忌わしいトラウマだった。それこそ最初の絶望だったかもしれない。

 

「炎を吸収……───まさかっ!?」

 

 GHOSTの炎が靡く。

 これは予兆だ。大量虐殺が始まる合図。

 

 ジッリョネロもボンゴレも、奴のその力に殺し尽くされた!

 

「みんな、逃げろおおおおおっ!!!!」

 

 叫ぶ俺に全員の注目が集まったのが分かる。

 直後、靡く炎が無数の光弾となって拡散された。事前に注意を促され身構えていたお陰か、()()()()の人間は光弾の射線から逃げていく。

 

「っ、なんで逃げない!? ……クソ!!」

「え?」

「おい、常磐!?」

 

 了平さんが俺を呼び止める声が聞こえてくるが、走り出した脚は止まらない。

 逃げない……いいや、まさか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ブルーベルへ、襟に巻いていた晴トカゲを突撃させる。俺の生命線とも言える晴トカゲだけれど、こいつの“活性”じゃないとクラゲ・バリア(バリエーラ・メドゥーサ)の中に居るブルーベルを助けられない!

 

 目論見通り、俺に虚を突かれたブルーベルは晴トカゲに弾き飛ばされ、光弾の餌食にならずに済んだ。

 しかし次の瞬間、彼女の身代わりになった晴トカゲが光弾を喰らい───一欠片の炎も残らず吸い尽くされた。

 

 一瞬にして死ぬ気の炎を吸い尽くされた干乾びた姿に、不意打ちを喰らった怒りに燃えていたブルーベルも愕然と目を見開く。

 一方で、隼人さんやヴァリアーからは『敵だぞ!』と非難轟々だ。それも当然か。俺も何やってんだって自分をぶん殴りたい気分だ。

 

「ああ、ったく!」

「あ、あんたっ……なんで、ブルーベルのこと……」

「体が勝手に動いたんだよ!」

 

 あの時と一緒だ。

 

 屈託ない笑顔で兄へと駆け出す少女が、視界の端から猛スピードで迫ってくる車に目もくれずに轢かれかけた時と重なった。

 あの時だって、体が自然と助けに向かっていたんだ。

 開き直るつもりは毛頭ない……けど、自分を守ってくれる守護者を殺そうとする奴の思い通りになんてさせるか。

 

「それより修羅開匣を解け!」

「は? なんで敵に指図されなきゃなんないわけ!?」

「いいから早くしろ!! あいつ───白蘭に死ぬ気の炎を吸い尽くされて()られるぞ!!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 恐れていたことは現実へ。

 GHOST───いや、並行世界の白蘭は無差別の虐殺を開始した。周囲の生命から死ぬ気の炎を吸収する成れの果てと化した悪魔は、味方であろうと構わず狙いを定める。

 駄目だ、打つ手がない。

 実体があるのならまだしも、リングも匣兵器も通用しないなんて冗談もいいところだ。

 

───けど、

 

「引き下がれるかあああっ!!!」

「常磐殿!?」

「ユニの下には……死んでも行かせないっ!!」

 

 片っ端から匣兵器を開ける。

 いつまでも手をこまねいていれば、いずれGHOSTはユニの下まで辿り着いてしまう。そうすれば現時点で有効打も判明していない相手に、ユニの護衛を務めている綱吉さんや非戦闘員のみんなも危険に晒される。

 それだけは避けなきゃいけない───その一心で奮い立ち、雲ムカデ(スコロペンドラ・ディ・ヌーヴォラ)を開匣した時だった。

 

 一瞬、GHOSTの体が()()()

 いかなる攻撃でも歩みを止めることのなかった悪魔が、ほんの一瞬だけ蹈鞴を踏んだのだ。

 

 何故?

 雲の炎が利いた? いや、違う。それなら恭弥さんの匣兵器でとっくに倒されているはずなのだから。

 骸さんもD(デイモン)・スペードの魔レンズで活路を見出そうとしてくれている。

 

 なら、俺も俺の観点で突破口を切り開かなければ。

 

「───そうか、吸収だ!! 死ぬ気の炎を吸収する攻撃なら!!」

 

 匣兵器の性能は熟知している自負がある。

 雲ハリネズミになくて雲ムカデにある特性と言えば、炎の吸収。人間や匣兵器問わず死ぬ気の炎を吸収し、自身のエネルギーへと変換する能力は後者ならではの能力だ。

 

「だが、オレのザムザは使い物にならんぞ!」

「弱点が分かったところで都合よくそんな匣兵器など……!」

 

 既にザクロに雲ムカデを破壊されたラルさんやヴァリアーのレヴィ・ア・タンが苦心に顔を歪めていた。

 

「あれ以上の吸収攻撃っつったら、10代目の零地点突破改ぐらいしか!」

 

 隼人さんの言う通り、GHOSTの吸収攻撃に拮抗し得る人はただ一人。

 

 

 

「させない!!」

 

 

 

 ボンゴレⅩ世、沢田綱吉。

 こちらの守備隊の危機を聞きつけたあの人は、燃え上がる火柱同然の炎を揺らめかせ、GHOSTへ特攻を仕掛ける。

 両手を組み合わせて正方形を作る───あの構えは死ぬ気の零地点突破改だ。誰が伝えた訳でもなくブラッド・オブ・ボンゴレの超直感で突破口を見出した彼は、激烈な光を撒き散らせてGHOSTと衝突する。

 

「はああ!!」

「ぼあ゛あ゛あ゛!!」

 

 激突は一分と持たなかった。

 零地点突破改に吸い込まれ、悍ましい断末魔を上げながらGHOSTが消え去ると共に雷のマーレリングが地に落ちる。脅威が去って安堵するの束の間、妙な違和感を覚えた面々が声を上げた。

 

 GHOSTの炎はどこへ行った? と。

 

 そうだ、奴はこの場に居る全員の炎を吸い尽くした。ならば炎はGHOST諸共零地点突破改で吸収した綱吉さんの炎へ還元されるはずだ。

 不可解な現象に誰もが首を傾げる。

 だけど、何度も死を経験したからか……嫌な直感が俺の中で声を上げていた。

 

 GHOSTの炎は何処とも消え、今も尚所在は不明。

 しかし、GHOSTは並行世界の白蘭だ。

 並行世界で守護者であった人物を除いてまで雷の守護者に選んだからには、それだけGHOSTの存在が白蘭に利をもたらすからだ。

 

 最悪を想定しろ。

 絶望を想像しろ。

 それが答えだ。

 それを奴は突き付けてくる。

 

 GHOSTの炎は───。

 

 

 

「僕の体の中にあるのさ♪」

 

 

 

 轟音と共に土煙が上がる。

 満を持して現れた白蘭に立ち向かった綱吉さんが、指で弾かれて地面に叩きつけられた景色だ。余りの速さに目で追えなかった。

 

「綱吉さん!!」

「くるな!!」

 

 駆け寄ろうとする俺を綱吉さんが手で制する。

 

「こいつは……オレが相手する!!」

 

 綱吉さんの気持ちも分かる。

 炎をほとんど吸われた状態じゃ、天地がひっくり返ってもGHOSTの炎を手に入れた白蘭に勝てっこない。

 今は唯一万全な綱吉さんを信じて任せるしかないのか───そう爪を噛んでいられたのも短い間だった。

 

「まずい!! ユニの炎の結界がツナと白蘭の結界に合流するぞ!!」

「止めるんだ!! ユニを白蘭に近づけてはならない!!」

 

 7³の大空同士が共鳴し発生した引力が、避難させていたユニを引き寄せてしまった。

 ここまで来たら死に戻りで手に入れた知識なんてあってないようなものだ。最終局面、立て続けに発生する不可思議な現象に後手に回るばかり。

 

「ユニっ!! ユニィー!!」

 

 どれだけ声を上げようと。

 どれだけ残る(ちから)を振り絞ろうと。

 

 この手は、ちっとも届かない。

 

 刻一刻と時限は迫る。

 ユニの命の炎が尽きる、その瞬間が。

 

「こんな……こんなものじゃないだろ……!!」

「常磐殿!? もう貴方は無茶です!! これ以上は命に……!?」

「お前の覚悟は……()()()はッ、こんなもんかあああああッ!!」

 

 バジルさんが制すが、俺は止めない。

 ありったけの炎を宿し、結界を殴りつける。何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も───今まで何度も死のうが生き返ったように諦めずにぶちかます。

 

 結界の中では、尽きぬ覚悟と縦の時間軸が引き起こす奇跡で原型(オリジナル)へと復活したボンゴレリングを手にした綱吉さんが、白蘭と互角以上の戦いを繰り広げている。

 一方で7³の引力に引き込まれたユニは、アルコバレーノを蘇らせようと命の炎を燃やしていた。

 

 時が経つにつれ、炎の勢いはますます増していく。

 それこそ炎圧自体が綱吉さんと白蘭の戦闘の余波を防ぐ盾となる程に。ユニが消えるのも、最早時間の問題だった。

 

「やめろ!! やめてくれ、ユニ!!」

「……常磐さん」

「君が死ぬ必要なんてないんだ!! 早まっちゃダメだ!!」

「いいえ、これは必要なことなんです」

 

 燃え盛る炎の奥で、覚悟を湛えた瞳が揺れる。

 また、彼女の姿が遠のく。あとちょっと手が伸ばせれば届くのに、俺と彼女の距離はどうしようもできない程に遠い。

 だから醜態を晒しても喚き散らすしかない。

 それで止められるなら安いものだと。

 

 けれど、俺の姿を映す瞳が歪んだ瞬間、ハッと息を飲んだ。

 

 

 

───泣いている。

 

 

 

「……ユニッ……」

「……ごめんなさい。これが私にできる唯一の賭け……」

「違うッ……、そんな訳ないだろ」

「そして、避けることのできない運命(さだめ)

「ユニが死んだら意味ないだろ、馬鹿野郎!!」

 

 とうとう恥も外聞をなくして怒鳴りつける俺に、ユニの呆気に取られる。

 

 ───いい機会だ。

 何十、何百、何千、何万と死んだ積年の……ありったけの思いをぶちまけてやる!

 

「並行世界でもそうだ!! 人の気も知らないで他人の犠牲になって!! その度にどれだけ悲しんだと思ってるんだ!! そりゃそこのユニには知ったこっちゃない話だろうけど……悲しいのはみんな一緒なんだぞ!! 君が居なきゃ生きてる意味がないって思う人間だって居るんだ!! それが俺だった!! だから何度も死んで……何度も殺されて……ようやくこの時代に辿り着いた!!」

 

 何度も結界を殴りつけて血塗れになった拳を、今一度殴りつける。

 からっけつだった炎は、ほんの少し強く燃え上がった。

 

「……平和な世界になっても、意味がないんだ……」

「常磐、さん……」

「君が居なきゃ……だから、死んじゃダメだっ……」

「───ありがとうございます」

 

 ほんの僅かに弱まっていた命の炎の勢いが復活する。

 

「ユニ、なんで……っ!?」

「……貴方の世界で暮らしていた私は幸せだったと思います。だって、こんなにも想われていたんですから……羨ましいです、とても」

 

 覚悟を決めたようにユニの炎が輝きを増す。

 

「なればこそ……貴方の世界にも平和を取り戻さなくちゃ」

「っ───!!」

 

 違う、違うんだ。そうじゃない。

 俺の意図とは裏腹に覚悟を決めてしまったユニは、死の恐怖を押し殺してまで命の炎を燃やす。

 

 火勢が増すにつれ、ユニの姿がおぼろげになる。

 澄んだ炎の内側で、大空に浮かぶ虹は今に消えようとしていた。

 

 ああ、まただ。

 また彼女が遠くへ消えてしまう。

 

「よし! いまです!!」

 

 終わりが近づく中、一際眩い光が空を泳いでいた。

 あれは雨イルカ(デルフィーノ・ディ・ピオッジャ)───それも匣コンビネーションシステムで七属性全ての炎を結集させ、現時点で出せる最高火力を有する状態だ。

 持ち主のバジルさんと共に特攻する雨イルカ。

 七色の炎はそのまま大空の結界に衝突し、爆音が轟いた。すれば鉄壁を誇っていた結界にも僅かながら亀裂入る。

 

 駄目だ、あれじゃ一時的な傷にしかならない───。

 

「こんだけありゃあ充分だぜ」

 

 しかし、みんながやっとの思いで開いた侵入口に人影が飛び込んだ。

 

「γさん……!?」

 

 満身創痍の姿で飛び込んだγさんは、そのままユニに歩み寄って抱きしめる。

 

「───あんたを一人にはさせない」

 

 その言葉の意味を理解するのに、そう時間は要しなかった。

 

「まさか!!」

「アニキ!!」

 

 太猿さんと野猿も叫んでいる。

 俺と違い、こっちの世界でユニやγさんと過ごしていたからこそ、二人の関係をよく知っていたはずだ。

 

 抱きしめ合う二人。

 何やら耳打ちしているようだが、当然俺には聞こえない。けれど、愛おしそうに抱擁する光景は今にでも消えそうだと思えた。

 

 だから手を伸ばす。

 奥へ、奥へと───今度こそ届かせる為に。

 

 

───ダメだ。

───死ぬな。

 

 

───ユニも。

───γさんも

 

 

───何度も死んだんだ。

───何度も殺されたんだ。

 

 

───もうこれ以上、死なせて堪るか。

───もうこれ以上、殺させて堪るか。

 

 

───世界に死なせるもんか。

───白蘭に殺させるもんか。

 

 

───そんな運命、俺は認めない。

───そんな呪い、俺は許さない。

 

 

───死んでもいいなんて。

───死んでも守るなんて。

 

 

───違うんだろう?

───だろ? ユニ。

 

 

「そうだ、“死んでも”守るんじゃない……」

 

 

 

 やっと、気がつけた。

 

 

 

「“死ぬ気”で、守るんだッ!!!!!」

 

 

 

 炎が天を衝かんばかりに燃え上がる。

 刹那、リングから砕けるような音が鳴り響く。限界を超えた波動にリングが耐え切れなくなっているのかもしれない。

 

 奇遇だな、俺もなんだ。

 けど、もうちょっとだけ付き合ってくれ。

 大分永い付き合いだけれど、死ぬ気にならなきゃいけない大一番がこの時なんだ。

 

 

───そんな風にリングに呼びかけた、その瞬間だった。

 

 

「なっ……、見てください!! 常磐殿のリングから……!?」

「あれは───水!?」

「ゔお゛ぉい、止まらねえぞぉ!!」

 

 リングの亀裂からとめどなく溢れだす激流が俺を包み込む。

 けれど、異変は俺だけじゃない。俺以外にも数名、この不可解な現象に見舞われている守護者が居た。

 

 

───『にゅ~!! やぁ~っと見つけたァ~!!』

 

 

───『廻りし者よ……』

 

 

───『バーロー、世話焼かせやがって』

 

 

───『死んじゃうにはまだ早いもんね』

 

 

───『ハハン、義理や人道を謳うつもりはありませんが……これで貸し借りはなしですよ』

 

 

───『ったく、ケツの青いガキがかっこつけやがって……いいぜ、やってみせろよ』

 

 

「にゅっ!?」

「これは一体……!」

 

 マーレリングから溢れ出すヴィジョンが語り掛けてくる。

 ブルーベル、トリカブト、ザクロ、デイジー、桔梗。

 

 そして、

 

 

 

『俺達の分まで、お前が───姫様を守るんだ』

 

 

 

 地面に落ちた雷のマーレリングから投影されるγさんが、俺の肩に手を置いた。

 瞬間、激しい衝撃と共に力が溢れ出し、リングの外装が綻び始める。

 

 ああ、この感触……懐かしいな。

 久しぶりに触れたあの人の炎は、炎が尽きかけた俺を叱咤激励するような荒々しさで目を覚まさせる。自然と背筋が伸びる気分だ。

 

 それだけじゃない。ブルーベルの炎も、トリカブトの炎も、ザクロの炎も、デイジーの炎も、桔梗の炎も───あらゆる世界を渡り歩いて出会った守護者のみんなの炎が、俺に流れ込んでくる。

 

 

 

「───ぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

 

 砕け散るリングと結界。

 

 

 

 その時、俺は───大空へ羽搏ける翼を垣間見た。

 

 

 

 

 

 

「一体……何が起こったんだい?」

 

 轟音と共に流れ込んできた砂埃が、命の炎を燃やしていたユニとγの姿を覆い隠している。その所為で結果を目撃することが叶わなかった。これではユニが無事かどうかも定かではない。

 度々余計な茶々を入れられる白蘭の顔は、あからさまに苛立ちに歪む。

 

「まったく……プレイヤーじゃない乱入者にはご退場願うよ、γクン!!」

「っ……やめろ、白蘭!!」

 

 白蘭は怒りのままに、捥ぎ取られた翼の根本からドス黒い血が形を成す龍を奔らせた。

 ほんの一瞬、されど一瞬の虚を突かれた綱吉は、焦燥を顔に滲ませながら白蘭の執念の塊を追う。

 炎を纏わせた手刀で次々に首を切り落とす。が、一体だけ仕留めきれずに取り逃がす。

 

「っ───しまった!」

 

 今のγに白蘭の攻撃を防ぐ余力はない。

 状況が把握できない以上、ユニの命の炎による防御を頼りにできず、焦燥が汗となって流れ落ちる。

 

「避けろ、γ!!」

「ムダムダ♪ 間に合わないよ」

「やめろおおおっ!!」

 

 綱吉の慟哭を置き去りに───血みどろの龍が、守護者が居た場所へと突き刺さる。

 次の瞬間、土煙の合間を縫うように血飛沫が舞う。息を飲み、悲嘆に揺れる声が結界の外で響く。

 

───殺った。

 

 邪魔な守護者を屠れたと白蘭は悦に浸った笑みを浮かべた。

 

「アッハハ♪ お姫様を守る騎士(ナイト)を演じようったって、キミには道化師(ピエロ)がお似合いさ。ゲームオーバーだね」

「───それはお前の話だ、白蘭」

「え?」

 

 予想だにしていなかった声に、白蘭が素っ頓狂な声を漏らす。

 すると、妙な空気の流れと共にやけに通った外の音が聞こえてきた。

 

「見ろ!! 結界が割れているぞ!?」

 

 一番大きい了平の声が、破られた結界の穴に視線を集める。

 ありえない。白蘭が一番に思った感想はそれだった。あれは7³の大空同士が共鳴して生まれる結界。強大な複合属性の炎でも一瞬しか傷をつけられない代物に、ああも巨大な穴を穿つ存在など考えられない。

 

 

(それこそ、7³の───)

 

 

 刹那、雷光が爆ぜた。

 目が眩むような鮮烈な輝きは、その場に居た全員をたじろがせる。

 

「γクンの炎……じゃあないねっ」

「───やっと……」

「なに?」

「やっとこれで……守れる」

 

 一際大きな雷光が、今度は空気を裂いて進む衝撃により土煙を晴らす。

 そこに佇んでいたのは、一体の巨大な盾と一人の人間。γを食い殺すはずだった龍は、そそり立つ三本の角に受け止められているではいか。

 生半可な匣兵器では受け止めることすらままならない攻撃だったはずだ。

 それをいとも容易く防いでみせたのは、雷属性の“硬化”で最硬級の盾と槍を両立した恐竜(ダイナソー)型匣兵器。

 

「───雷トリケラトプス(テリチェラトーポ・フールミネ)

 

 常磐刹那、その人の匣兵器であった。

 予期せぬ援軍。そして何よりも自身等が消えていない事実に驚いていたγは、結界を突き破り乱入してきた刹那へ問いかける。

 

「っ……お前さん、そりゃあ一体……」

「下がってください、γさん。ここからは俺がやります」

「! ……ああ、分かった」

 

 困惑していたγだが、彼の左手に輝く物を見た途端、打って変わって素直に踵を返す。

 当然、()()()()()()()()()()()()も一緒にだ。健やかな寝息を立てているところを見るに、命の別状はないらしい。

 皆が胸を撫で下ろす中、ただ一人───白蘭だけは視線だけで人を射殺すと言わんばかりに、立ちはだかる少年を睨みつけていた。

 

 わなわなと震える拳は焠ぐ怒りをありありと表し、炎を迸らせる。

 

「ねぇ……邪魔だからそこ退いてくれないかな?」

「退かない。これ以上、ユニを追わせもしない」

「あっそ。それなら君を殺すだけだから構わないんだけど……最期に一つ質問いいかな?」

 

 白蘭の視線は少年の左手に輝くリングへ注がれていた。

 真珠のように白い宝玉。湛えた翼は、横に広がる時間軸を表すように悠々と広げられている。

 放つ炎は橙色───極限まで澄んだ純度の高い大空の炎は、波動と共に流れ込む覚悟に比例するかのように燃え上がった。

 

 そのリングを、白蘭は知っている。

 いや、現に()()()()()。並行世界で手に入れたとか、そういう次元の話ではないのだ。

 

 

「な のか?」

 

 

 見せつけるように掲げたリングと少年のリングは───瓜二つであった。

 

 

 

───()()()()()()()()()

 

 

 

 その至宝を、人はそう呼んだ。

 

「決まってるだろ」

 

 殺気をものともしない刹那が、空色の瞳で白蘭を睨み返す。

 真の姿を露わにしたリングは、白蘭に勝るとも劣らない炎を揺らめかせるように、ようやく目覚めた覚悟の輝きを海の悪魔に見せつける。

 

 そして、とうとう完全なる覚醒を迎えた。

 

「そいつは俺が───ユニにリングを託された守護者だからだッ!!!!!」

「ぐぅう!!?」

 

 解放される超絶とした炎に煽られる白蘭。

 余りの炎圧に慄く間もなく、覚悟を固めた拳を握る刹那は、倒すべき悪魔の目の前に佇んでいた。

 

「……覚悟しろ、白蘭」

 

 ボゥ、と炎が爆ぜる。

 

 

 

 

 

「俺は死ぬ気で……お前を倒す!!!!!」

 

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