失落の羽   作:発酵中のヨハン

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【旧時代・遺物】
旧時代とは人間の大いに栄えた文明時代を指す言葉である。
旧時代では様々な文明・文化が発展、進化していった。だが、権力者の争いか政治の破綻による革命か、現在においては謎になっているが旧時代に世界を巻き込む大戦争が勃発した。
僅かな生き残りは海を越え、穏やかな大地へ避難した。
その大地では厳しい環境ながらも、旧時代に残された技術や道具を細々を受け継ぎながら新しい時代へと変化し、やがて旧時代の資料や歴史も語られなくなっていき『遺物』と呼ばれるようになった。
今では旧時代の技術を応用した道具の生産方法などが確立し軍事や農産などに役立てられているが、生み出すための材料が希少なため量産には程遠い。



第三話「-歓迎-そして落とされる火蓋」

海風と潮の香りが流れていく。

アルディクス大森林を抜けて、最南端の海岸沿いに並び立つ大きな丸太の柵。

弧を描くように半径500rに仕切られた場所、ここレジスタンス拠点。

サエカとシグナは微かな人々の喧騒の中、広場で出迎えを受けていた。

 

アルド「団長、新しい人手を連れてきたぞ。今回は戦えるヤツだ。」

 

広場の中心で数人の大人と話をしていたであろう女が振り返る。

長く流れるように細い一つにまとめられた銀色の髪、大きくややつり上がった浅葱色の瞳、右目を隠す黒の眼帯が特徴的な長身の女は二人を見るやいなや笑顔で握手を求めてくる。

 

ミランダ「お前達が新しく入ってきた団員だな?私は、南のレジスタンスの団長をやっている『ミランダ・リーデル』だ。よろしく頼む。」

 

シグナ「どうも〜」

サエカ「よろしく…お願いします」

 

ミランダ「それで……二人はどうして我々を探していたんだ?」

 

ミランダは手を離すと真剣な面持ちで二人に質問を投げかける。

魔獣が蔓延るこの時代、わざわざ噂程度の存在を尋ねてくることに少し警戒なりの思いがあるのだろう。

 

シグナ「まぁ、このご時世によくあるやつだよ。魔獣に村を襲われて出ていかなきゃならないってこととかさ」

サエカ「私も昔のことはよく覚えてないんですけど……シグナさんとは村を出て以来長いので」

 

サエカの少し悲しげな様子から、状況を察してかミランダは渋い表情を見せる。

 

ミランダ「いや…すまない、考えれば分かる事だったな。」

 

シグナ「いや大丈夫だよ、それに旅を始めてからは中立地帯にある村を転々としてお世話になって過ごしてたからね、腕っ節も野営とかも自信あるよ」

 

やんわりと話題を変えるシグナが一歩、二歩とミランダに近づき指で顎を軽く持ち上げる。

 

シグナ「例えば……団長の身の回りの手伝いとか……色々ね?」

 

サエカ「ちょっと、シグナさん……そういうのは控えて下さいといつも言ってるでしょう……」

 

ミランダ「はははは!!こんな死に損ないを狙うならもっと先の長い女を探した方がいいぞー?」

 

見た目ではそう年が離れているようには見えないが、まるで自分のことを老兵とでも言うような大袈裟な返答をする。

それに対してシグナは手をヒラヒラ振りながらあっけらかんに笑う。

 

シグナ「えー、本気なんだけどなー」

 

アルド「団長、この二人ここまで自力で来れたんだ、言葉通り即戦力になるはずだ。本格的に例の作戦を実行する時じゃないか?」

 

ミランダ「ああ、そうだな。よし、二人ともついてこい。」

 

軽いコミュニケーションを終えて、本題へと移るために場所を変える。

中央広場から小屋が幾つか並ぶ居住区を抜けたところに他の小屋より大きい丸太小屋があった。

中へ通されると漆で塗装されな美しく輝く大きい机に、三人は座れるであろう柔らかくも軽く反発するような長椅子が二つ。

壁の方には大陸内に存在する女神達の国についての情報が纏められた紙が幾つも貼り付けられている。

それらは旧時代に存在した物、いわゆる『遺物』と呼ばれた貴重品であった。

 

ミランダ「さ、座ってくれ。今、地図を持ってこよう。」

 

二人が、ゆっくり腰をかえるとアルドが正面の長椅子に座る。

 

アルド「どうだ?珍しいだろ遺物。団長はかなり好きみたいでな、集めるのが趣味なんだ。」

 

サエカ「……わぁ、柔らかい。」

シグナ「旧時代の文明、滅んだの勿体ないねホントに。」

 

初めての感触に少し興奮気味の二人を傍目に戻ってきたミランダが地図を机に広げる。

地図には丸いドーナツ型の大陸が描かれており、ミランダが下の方の緑色で記された場所を指差す。

 

ミランダ「いいか、ここがアルディクス大森林でこの下の海岸に面した所がこのレジスタンス拠点だ。」

 

続いて、西側の多くの川が集中する国を指差す。

 

ミランダ「これが今回向かう場所、水の国『アクアヴァルナ』だ。ここの国を治める女神を倒すことが我々の第一の目的となっている。」

 

そして、作戦内容について詳しく話を始めようとするミランダの表情が重苦しい様相になる。

 

ミランダ「今回の目的は、アクアヴァルナ国内に潜伏している西のレジスタンスとの合流なんだが……」

 

ミランダ「一年近く連絡が途絶えているんだ。だが、我々も連絡を取りたいところなんだが、動きを見せればアースティアの軍勢に目をつけられかねない。」

 

当然の事ながら、 女神のまとめる軍隊に戦うには戦力不足なレジスタンスだ。

女神の目に止まれば容易に制圧されかねないことは明白である。

だが、レジスタンスとして動く彼女達が大森林で魔獣を倒して生計を立てていけるのはひとえに大森林が自然の迷宮として女神の監視が届かないからである。

さらに、現在はアースティアが東の国の女神と戦争を起こしているらしく、監視の目が緩くなっている今が好機だと踏んで、今回の作戦を実行するに至る、とアルドが付け足すように話した。

 

ミランダ「実は、先遣隊を向かわせてアクアヴァルナの動きの偵察と潜入ルートの確保を頼んである。そろそろ帰ってきてもおかしくないんだが……」

 

と、ミランダが入口の扉の方に目を向けるとドンドンと強くノックする音が部屋に響き、野太いながらも落ち着きのある声が通る。

 

???「団長、ただいま戻ったよ」

 

扉を開けて入ってきた男は、熊のような図体で目元以外を隠す紺色のバンダナを巻き、自身と同じくらいの大きさのあるバックパックを背負い行商人風といった格好をしている。

 

ミランダ「ローゼン、遅いじゃないか!今、作戦の話をしてたところなんだ。」

 

隣でアルドも遅いぞとローゼンとやらの胸を軽く叩く。

 

アルド「二人とも、この人はローゼンさんだ。レジスタンスの中でも古株で主に斥候や偵察をしてくれている。巨体だけど動きはいいし仕事も上手くやる凄腕なんだぜ?」

 

まるで自分の事ながらに嬉しそうに紹介するアルドの隣でローゼンが背を屈ませ、頭を下げる。

 

ローゼン「始めまして、私はローゼン・クリフ。ミランダ団長のお使い事をやらされてる使いっぱしりさ。よろしくね」

 

大きい手でしっかりを二人と握手をかわす。

ゆったりと笑顔で話すその様子から穏やかな性格である事が感じられた。

 

ローゼン「そうだ、団長。攻めるなら今しかないかもしれないよ。」

 

ぽつりと呟いたその言葉にミランダが過剰な反応を示した。

 

ミランダ「ま……まさか、あれは本当なのか?」

 

ローゼンが静かに頷くとミランダは静かに深呼吸し、アルド達に目を向ける。

額に汗が流れ、どう見ても焦っていることが分かる。

 

ミランダ「アルド、例の噂……覚えてるか?どうやらアクアヴァルナの騎士隊が大隊規模でマクナール草原に陣を展開しているという話……」

 

アルド「嘘だろ……?俺たち以外の勢力がいるって言うのか?」

 

シグナ「なんか置いてけぼりだね?サエカちゃん。」

サエカ「大人しく聞いていましょう…ちゃんと話してくれるはずですから…。」

 

どうやら異常事態のような雰囲気で、ミランダが急いで小屋を出ていく。

なんの事かわからない二人はただただその光景を見ているしか無かったが、アルドが強く地図を握り締めて言った。

 

アルド「二人とも悪いが作戦は変更だ。事情が変わった、潜入作戦からの女神討伐作戦へ切り替える。」

 

まだレジスタンスとの合流から半刻程度の二人に対しての強烈な言葉にいきなり?とシグナは少し顔が引きつった。

 

アルド「俺たち以外に女神を討とうとしてるヤツがいる、そいつを引き入れて女神の首を獲る。アースティアの戦争が終わる前に決着を付けるんだ。」

 

広場を集合場所に指定するとアルドも足早に小屋を出ていき、二人はレジスタンスの一員として初仕事が今まで以上に地獄な命がけになる事を予感しながら支度を進めていった。

 

 

 

 

(アクアヴァルナ外・南方地域マクナール草原)

 

火薬と血の匂いが清涼な風を汚し流れていく。

青々と風に揺蕩う草花は土や血に濡れ、自然の美しさ煌めく光景は 戦火揺らめく大地へと変貌している。

その中、空を仰ぐ者は紫の瞳を輝かせ、一歩一歩確かに水の国へと足を進めていく。

その周りに数々の屍を築きながら。

 

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