旧時代において大規模な戦争が人間界に起きた。それは数多の国を荒廃させ、滅びへと繋がった戦争だったが、残った生き残りの民達は数少ない資源を元に戦争の余波が及ばなかった大陸へと渡ったのだった。
それも大昔の事で、今ではそのことについて詳しく知る人間はほとんどいない。
『大陸』と簡潔に呼称しているが、名前も何も資料が残されていないためにこう呼ばれるだけである。
(大陸中心部・名も無き孤島にて)
様々な花咲く花園の中央、白い円卓を四人の女が囲む。
異形の姿の女「ふむ……やっと来たようだな」
乳白色の双角を持つ女が重々しく口を開く。
一言が空気を揺るがすような重さを感じさせる。
金髪の少女「……はぁ。まぁ、そろそろ来る頃合いだと思ってたし。むしろやっと来たかーって感じじゃない?」
金髪の少女は自身の前に並べられている沢山の菓子を頬張りながらため息をつく。
鎧の騎士「コレデ…ケイカク、ハ……ウゴきだス。…ココからハ、ホンカクテキニ……タタカう…コトに……なるナ?」
鎧の騎士はたどたどしくガサついた声で確かめるように言葉を放つ。
やせ細った女「嫌ねぇ……、これまでは仲良く?やってきたってのにさ……殺し合わないといけないなんて……ねぇ?面倒だわ……ふぁああ…」
やせ細った女の欠伸が響く。
他の3人が真剣な空気を壊されギロリと睨みつけるも、やせ細った女は意に返さず眠り始める。
異形の姿の女「……我々の目的のためだ、仕方なきことよ。その為にも……『種』を手に入れる。天界への帰還の為に。」
ここは名も無き孤島、美しき花が咲き乱れる土地。
そして……四柱の女神が集う『女神の円卓』と呼ばれる会議が行われる場である。
(視点は変わりとある街道)
シグナ「それにしてもおじさんの唐突な帰りだったのに見事な指揮だったね」
街道からマクナール草原に続く道を馬で駆けるアルド達。まだ陽は高いものの少しずつ雲が空を覆い始めているのか少し肌寒く感じる。
ここの街道は魔獣の縄張りを避けるため沿岸部近辺に作られていることもあり、海風が少し冷たい。
アルド「まぁな、これでも副団長だからな。有事の時にこれくらい出来ねぇと皆を危険に晒しちまう。」
(少し時を戻し……)
アルド「いいか皆!これからアクアヴァルナの女神討伐作戦を開始する!道中で協力者を拾い、西のレジスタンスと合流後、直ちに短期決戦に持ち込んで討つ!皆には念の為、退路の確保と敵増援の引き付け及び牽制を行って欲しい!」
引き締めた表情の団員達を見回す。
アルドは団員達の結束を今一度確認し、ミランダを一瞥する。
ミランダ「今まで隠れ耐え忍んできたが、今日ここから!私たちの反撃は始まる!だが忘れるな!私達の目的は女神の討伐であって、そこのに住む人々を死に追いやることではない!女神が居なくなったあとは混乱に陥ることだろうが、人間は手を取り合い立ち上がれる事を我々が示してやるのだ!」
サエカ「……」
シグナ「サエカちゃん、不安かい?」
シグナがサエカの顔を覗き込む。
サエカはそっと目を閉じ、持っている弓をギュッと握りしめる。
サエカ「不安……と言えばそうですが」
サエカ「女神と戦うというのが…その、変な感じがして……」
シグナ「そっかぁ……確かに人間とは全然違う存在だもんね、勝てるかどうかはさておき生きて帰れればいいと俺は思うけどねー」
内心、人間を滅ぼすなら手早く滅ぼす力ぐらいあるだろうに、と言う言葉は飲み込んでおく。
(回想終了・現在)
サクナ「でもアル君たまに突っ走るからねー、それが無ければ立派なのにー」
アルド「…仕方ねぇだろ。そんなことより、俺たち以外の勢力で大隊規模が出てくるほどの相手ってどんな奴らだ?そんなに数が多ければが自ずと女神に目をつけられてるはずだろ。」
シグナ「俺達も知らないけどさ、敵が同じなら味方してくれるんじゃない?」
各国を治める女神達、そしてその国の女神を打倒するため暗躍するレジスタンス、この二者のみの勢力図に別の第三者。そんなの存在するのだろうか?
アルドはレジスタンスに身を置いてかなり長く、副団長になってからは女神達の動向についてもよく耳にするようになったほどだ。
敵が余程の相手と見て数を並べてきたのならそれなりの奴がいるのではないか?
そんな考えを頭の片隅でしていたら人の叫びが少しずつ聞こえてきた。
アルド「お前ら、そろそろだ!覚悟はいいな?」
四人は馬を近くの林に繋ぎ置いて、茂みに隠れながら進んでいく。
サエカ「見てアル君、この兵士の鎧…銃創みたいなのが出来てる。」
アルド「銃だと…?鋼鉄の鎧をこんなデカい穴開けるほどの弾があるのか?」
シグナ「神秘の武器ならあるんじゃない?実物見たことないからわかんないけど」
サエカ「あの……もしかして、あれじゃないでしょうか?」
三人が兵士の鎧に注目している中、サエカが茂みの外へ指を指す。
指が示す方には一人の修道女が二丁のマスケット銃で華麗に騎士隊を全滅させていた。
修道女「……青き光に集いし強者たちよ、暖かな御手の導きに引かれ、その魂に安らかな眠りあれ…」
修道女が築いた死屍累々の光景に四人は呆気に取られながらも、彼女を照らす陽光と真剣に祈りを捧げる様子からある種の神秘的な絵にすら見える。
アルド「なぁ、アンタ…何者だ?」
茂みから一人先に出ていったアルドが修道女に尋ねる。
修道女「…生き残り?いや……見た目が違う、民兵?」
警戒しているのか二丁のマスケット銃をアルドに向けながら少し距離をとる。
アルド「俺の名はアルド・ノワール、女神を倒すレジスタンスの副団長をしている。アンタのその力、ただの神秘の武器じゃないな?」
修道女「レジスタンス……、なるほどそういう事ですか。失礼しました、私の名はセラと申します。」
アルドの名乗りに少し警戒を解いたのか銃を下ろして、丁寧な自己紹介で返す。
セラ「奇遇ではありますが……私も女神を討つ為に旅をしております。もしや私に会いに?」
アルド「目的の為のもののついでってやつだ。利害が一致しているなら協力しないか?普通の人間が束になったって勝てやしないんだ、勝ち目が見えるなら幾らでも人の手は欲しいんでな。」
セラ「そうですか……後ろの方々ら何やら警戒しているようですが」
アルドは後ろを見ると怪訝な表情のシグナとサクナがサエカとともに出てくる。
アルド「何を警戒してるんだ二人とも、女神を相手にするつもりのやつならこれくらいはしてもらわないとだろ。」
シグナ「いやぁーおかしいでしょ、大隊規模相手に神秘の武器だけで圧倒するって普通じゃないでしょ。」
セラは少し溜息をつきながら口を開く。
セラ「そうですか、互いに目的は同じではありますが、疑心が晴れぬのなら私一人で乗り込むまでです。」
アルド「怪しく感じるのも分からないわけじゃないけどな?でも俺達にはあとがないんだ。考えてくれよ、アースティアの戦争が集結する前にアクアヴァルナの女神を討たなきゃ行けない。」
シグナ「まぁね、得体がしれないなんて、そっちも同じか。」
アルド「そういうわけだ、色々こっちにも事情があったりはするが、アンタの素性についてはまた後でゆっくり聞かせてもらう。それでいいか?」
セラ「ええ、構いません。共に女神を討つ為に力を合わせましょう。」
アルドはセラと握手し、協力者として迎え入れる。
確かにシグナの言う通り、この惨劇を作り出しながらも無傷どころか返り血の一つも浴びていないセラは明らかに普通ではない。
そんな不安を抱えながらも今は一人でも力が欲しいと思い、アクアヴァルナへ目指していく。
(アクアヴァルナ国内・神殿最下層)
司祭「女神様……祭りの準備は万端でございます。民もみな、女神様の御力を目の当たりにするのを心待ちにしております。」
司祭「ただ……その、草原地帯に配置した大隊からの連絡が途絶えまして…いかが致しましょう?」
鎧の騎士「カマわナい……、南のセンソウが…オワルまえに、くるとオモッテイタ。」
鎧の騎士「我が国…、イヤ…このクビ、トリニくるナラソレナリノ…かくごダロウ。」
鎧の騎士…否、アクアヴァルナの女神は玉座から立ち、大剣を掲げる。
神殿内に轟音が響き、神殿の至る溝や天井に水が走っていく。
鎧の騎士「ひサシぶり…の戦い。タノシマセテ…モラうぞ?」