Battle Spirits Act of Aggression   作:えむ〜ん

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どうも、お久しぶりです。投稿はスローペースですがしっかりと書いてはいるのがこの男。
本作第1話にしては内容、かなり濃いめだと思います。(自分の体感3、4話でする話を書いてる感覚)なので、しっかりと頭に焼き付けていただけたら僕はとっても喜びます。
感想等、常時受け付けておりますので良かったら頂きたいなぁ〜なんて思ってたりしてますのでよろしくお願いいたします。


episode 1 movement

外見の違いが人間を分けるものでは無い。人間の中の奥……いや、さらにその奥の深い深淵に眠る鎖された力。それを潜在能力とでも呼ぶべきか……それこそが真に人を分かつ絶対条件となる。

無知は時に罪となる。それを知らぬ人は圧倒的な力を目の前で見せつけられてしまった時、強烈な敗北感と絶望を味わう。足掻くことさえ許されない地獄を君は思い知ることになるだろう。

 

 

 

 

 

この島の教育制度というものはかなり変わっているのかもしれない。幼稚園、小学校、中学校ではオールド・センチュリーとネオン・センチュリーには各種族別の専門学校があり、そこに入園、入学することになっている。そして高校、大学への進学となると、種族混合の学校に入学するという制度が定められている。

小中で同じ種族の人間を理解した後、高大で種族間の違いを認め、競い合いながらも協調性を見出していこうというコンセプトの基、これらが成り立っているという話を以前、父から聞いたことがある。

僕と美緒が入学した学校は[D3-BS高等学校]という島の都市区に設立された種族混合の高等学校であり、この島に複数ある高校の中で群を抜いて規模が大きく、また第1志望に選ぶ学生も多いと話題になっている学校である。

美緒の提案で入学式の前に校内の下調べを行ってみたが、それはまるで迷宮かと言わんばかりに広く、事前に渡されていた案内の地図が無ければ確実に僕と美緒は迷子となって彷徨っていただろう。

中の雰囲気は実に近未来的な仕様で、床には駅にも使用されているゴムタイルが張られており、白い塗り壁は汚れ1つ無く、校舎内全体の清潔さを感じさせてくれた。そして各部屋の扉には自動ドアを、足が不自由な人の為のエレベーター等を設けているハイテクっぷりには木造校舎の中学校に通っていた僕からすれば、180°世界がガラリと変わったかのように感じた。

こんな設備の揃った学校が白宮宅から徒歩約15分で行ける所にあったなんて、僕もまだまだ世間知らずの子供であることを実感させられた。

 

「…………これがネオン・センチュリー。これが人類の約半数まで繁殖してきた新人類なのか」

 

初めて肉眼に捉えたネオン・センチュリーの姿を見て僕は一言、周りに聞こえないように小さく呟いた。

彼らの事は入学式の前日に予習知識として調べていた。ネオン・センチュリーは生まれつき頭脳、身体能力、免疫力、体力等がオールド・センチュリーよりも高く、個人差はあるものの訓練や勉学を行えば、それぞれの能力が非常に伸びやすく、その推移は我々オールド・センチュリーをも凌駕する程の成長スピードである。

そして、外見的違いは瞳が透き通るような青色という1点のみでパッと見で見分ける事ができないというのが主な特徴……である。

これらの情報に関しては、まだ外見のことしか確認が出来ていないが、インターネットに記載されていることは今の所真実と言っても良さそうだ。

現在、僕達新入生は指定された教室の席で皆が待機している状態にあり、担任の先生がここに来るまでの時間を各々が好き勝手に過ごしている。周りの生徒達の会話が飛び交うそんな中、僕は僕で青色の瞳を持つ人達の姿勢や仕草、話し方を観察していた。

予備知識はあるものの、殆ど何も知らない僕が彼等を知る為の第1歩として、[観る]という手段を取ってみた。慣れない人種にいきなり声をかけるという手段はお互いにとってやりづらさがあるだろうと判断したからだ。距離を縮めるにはお互いがこの環境に少しずつ慣れていくことが不可欠であり、溝を作ってしまったらそこで関係は終わってしまう。慎重に、慎重に事を運ぶ必要がある。もしくは、偶発的に起きた小さなきっかけをものにすることが出来れば関係を一気に広げることが出来るだろう。

選択は2つ。いや、実質1つしか無いと言った方が正しいか。

 

「中身のステータス……か」

 

決定的な違いが外見では分かりにくい現状、彼らの持つ能力に興味が湧いてくるのは必然だった。彼らが本当にオールド・センチュリーより進化した新人類であるなら、具体的にどの部分がどう進化しているのかが最大の疑問点である。

頭脳?身体能力?それとも今までの人間には無かった新しい未知の能力でも発現しているとでもいうのだろうか?

 

………否

 

そこまで来て、僕は自身の頭を巡る思考を止めた。今、目の前には本物の彼らがいるのだ。ならば直接彼らの活躍を見てそれを理解し、レポートに纏めればいいだけの事。ここはお互いがお互いを理解する為の場所なのだから。

今更こんな仮説を立てたところで意味なんて1つも無かった。

 

「……にしても遅いな。今何時なんだ?」

 

脳内に立てた仮説を消しながら左腕につけた腕時計を見る。現在、時計の針は10時37分を指している。驚いた事にこの教室に入って来てからもう16分も経っても尚、担任の教師が現れないのだ。僕達新入生は黙ってこのまま待っていればいいだけの話なのだが、流石にこのままでは不安というより、心配になってしまう。一体何処で何をしているのだろうか?

ちなみに肝心の入学式は既に終わっており、その内容は非常に空虚でつまらないものであった。

舞台に上がった校長先生と役員の話は無駄に長く、聞くに絶えなかったので座り心地の悪いパイプ椅子に体を預けたまま式が終了するまで睡眠を取らせて貰った。

何故、どの学校の校長もさっさと終わらせればいい挨拶を態々生産性の無い話と一緒に絡ませて、延々にダラダラと口にしているのだろうか?

幸いにも退場時の起立の号令で目が覚めたので、入学初っ端に恥をかくことも無く仮眠が取れたので中々の収穫と言っても良い。

 

「………僕という人間はこんなにも落ち着きの無い奴だったかな」

 

無意識に机をトントンと叩いている自分の口から思わず声が漏れてしまった。

初めての場所に来ると気分が落ち着かないのは何時ものことだが、今回のは今まで以上に緊張が走っている。右手を胸に当てれば、わかる。心臓の鼓動が既に早くなっていたからだ。

教室全体を見渡せば、同種族の人間同士で集まって会話をしているのがほとんどで、異種同士が交流しているところは全く見られない。

こんな小さな教室でも緊張が走ることから人種の違いというものは、こんなにも厄介なものであることを深く実感できる。

 

「何さっきから1人でブツブツしゃべってんだよ」

 

不意に後ろから聞き覚えのある声をかけられ、反射的に両肩が上がってしまった。

 

「………おい、ビックリさせるなよ」

 

そう言って声がした後ろへ振り返える。そこには僕よりも身長の高い男が塔の様に聳え立っていた。

 

「よっ!今のいいリアクションだったぜ?キリュウ」

 

その男は僕の事をキリュウと呼び、満足気な顔をしている。

 

「はぁ………総介、その妙な呼び方やめてくれないか?恥ずかしいからさ」

 

男の名前は蒼騎 総介(アオキ ソウスケ)。僕の数少ない友達の1人……と言うより、僕の唯一の竹馬の友と言った方が正しい。

彼の外見を手短に説明するとすれば、目に少しかかるくらいに伸びた紺色の髪の毛に真っ白に近しい肌の童顔である。これを拝んだ者が居るならば、誰もが2度見し魅了されてしまうだろうと言ったところか。

そんな顔立ちの良い男に僕は本日2回目のあだ名の訂正を行った。

 

「え〜?いいじゃんかよ、小学校の頃からの仲なんだからさ!お前は昔から硬っ苦しいんだよ。

それに霧衣賀のキリと結薙のユウを合わせた俺の最高のネーミングなんだぞ?感謝してよね!」

 

と、どこかデジャブを感じさせざるを得ないセリフを吐く総介。美緒の付けたあだ名と比べて中々にインパクトと意外性のある総介らしいネーミングセンスだ。

しかし、[キリュウ]と呼ばれ続けるのは流石にキツさを感じざるを得ない。美緒から[結]と呼ばれる方が遥かにマシなレベルであること間違いなし。なんなんだ、その明らかに厨二を拗らせたかの様な意味のわからんあだ名は。

 

「お前も美緒と同じか!………………もう、好きにしてくれて構わんよ」

 

心の中で舌を打ちをして、それを渋々了承する。美緒が僕に付けたあだ名を含め、そういう類のは諦めている。どうせ言ってもやめないんだから好きに呼ぶがいいさ。

 

「ほ〜う?お前にしてはヤケに素直な態度じゃないか。中学の時と比べて随分柔らかくなったもんだなぁ〜キリュウ!」

 

僕の返答に喜び、満面の笑顔を見せる総介が僕の肩に腕を回してきた。周りから見れば今にもヘッドロックをかけられそうな構図になっている。

相変わらず、テンションと背丈だけは高い奴。

だが、彼のセリフに1点のみ修正を加えるとするなら僕のこれは素直では無く、ただ単純なヤケクソである。本当は嫌だがその気持ちをグッと抑えて認めてやっているに過ぎないのだ。そこのところを決して外してはいけない。

 

「ふ……ははは!やれやれ、総介の顔を見たら段々と緊張が和らいできたよ。僕とお前と美緒とで同じ高校に入学出来て本当に良かったと思う」

 

「おうよ!俺もネオン・センチュリーの奴らと会うのは初めてだ。こんな風に話してるけど、お前と話す前はめちゃくちゃ緊張してたんだ。3人同じ高校で俺も嬉しいぜ、キリュウ」

 

そんなセリフを吐く総介に僕は驚いた。

意外だったのだ。情に厚く誰とでもすんなりと馴染めてしまう性格の総介から、まさかそんな言葉が出てくるとは思っていなかったから。

 

「でもさキリュウ。お前あの対戦結果でよく入学できたな?学力テストの成績がトップだったからか?

こういうのをお前に言うのもアレだけど、対面の受験生はめちゃくちゃに怒ってたし、周りからは笑い物にされてたけど、あの後は大丈夫だったのか?」

 

肩に乗せた腕をどかしながら総介が問いかけてきたのは、僕がこの高校に入る前に行った入試の事だった。

D3-Bs高校の試験は2項目あり、通常の学力を測るテストとバトルスピリッツの実戦という内容になっていたのだ。

 

「試験の順位は発表されて無いから、僕だって分からないよ。もしかしたらギリギリで運良く入学できたのかもしれないね。

……バトルスピリッツについては、本当に勘弁して欲しかったな。紙の束だけを渡されて、変な舞台に立たされたんだぞ?ルールも知らない僕がやったって意味なんて無いし、時間の無駄なんだから始まって即投了が1番良い選択肢だと考えて行動に移しただけだよ。

それに、あんな奴らなんて気にする必要無いさ。僕にとってバトルスピリッツというものは所詮行う意味さえ無い、ただの紙屑の集まりに過ぎないんだから。むしろ紙の原料が勿体ないくらいだと思うよ」

 

「クハハハハ、全く。バトルスピリッツに対してだけ容赦無く叩きまくるところは相変わらずだな……」

 

呆れ顔で乾いた笑い声をあげる総介。ひたむきに僕の話を聞いては、こうして笑いやツッコミを見せるというのがいつもの僕らのやり取りである。

 

「この先も変わるつもりは無いよ」

 

「無理強いはしねぇよ。何年お前を見てきてると思ってるんだ?」

 

島民の中で唯一、総介だけは僕にバトルスピリッツを勧めて来ることは無かった。むしろ、僕の考えを受け入れ理解してくれた相手だ。

 

「そうだな」

 

 

 

「お、おはようございます〜!!」

 

一瞬の空白の後、僕の方から次の話題を総介に振り出そうとした時だった。教室の自動ドアが開くと同時にビジネススーツに身を包んだ女性が教室に入ってきた。僕を含めた教室に居る全生徒の視線がその女性に集中した。

ハツラツとした声で第一印象はかなり好印象だったが、それと同時に少しだけ声や仕草が震えているように見えた。緊張や不安を隠す為に元気な姿を見せているのか……それは本人にしか分からない事だが、その姿に僕は少しだけ安心した。

人生の先輩、大人である彼女が緊張するように、大人になりかけの僕も高校という新しい環境に緊張しっぱなしだったから。同じ緊張を大人と分かち合える事が少しだけ嬉しかったのだ。

 

「時間だな。また昼休憩の時に話そうぜ、キリュウ」

 

「あ、あぁ……分かった。そうしよう」

 

そう言って僕の席から離れて、自分の指定された席に戻る総介。他の生徒達も次々に座っていき、さっきまで会話で賑わっていた教室は徐々に静寂に包まれていった。

 

「今日からこの1年a組の担任を務めさせていただきます。私は立川 由美(タチカワ ユミ)と言います。よろしくお願いいたします!」

 

教卓に立ち、挨拶を行なう立川先生。焦げ茶色の長い髪の毛はポニーテールという形で結ばれており、若々しく整った顔立ちはこのクラスを導く清楚な教師らしさを感じさせる。極めつけにスラリと細く、真っ直ぐに伸びたその体型は美人教師という枠組みにはとどまらず、有名女優モデルと同等と言っても過言では無いだろう。

そんな彼女が1年a組の教室に集まった40人の生徒達を透き通った青い瞳で見渡している。

 

「あ、私への質問は個人的にでお願いしますね!でも、皆さんの自己紹介は一人一人していただきます!」

 

周りの男子達が期待の目を立川先生に向ける中、それをバッサリと切り、すぐさま本題を切り替えていく。

落ち着きもあり、遅れた時間を取り戻すべくこの場を仕切る姿は流石ネオン・センチュリーの教師といったところである。

教室中に広がった真剣な空気に和らいでいた緊張がまた徐々に走り始めた。

 

「席の順番に紹介を……と思いましたが、今回はあえてこの名簿の[あ]から始まる方から順にしていただきたいと思います!え〜と、では蒼騎 総介君からお願いしますね!」

 

黒色の名簿を開き、そこに載っているであろう生徒の名前を確認した立川先生が高らかに総介を指名した。

 

「マ、マジデスカ。スゥー…………では、僭越ながら私がa組自己紹介のトップバッターをさせていただきます。

 

……俺の名前は蒼騎 総介!これから3年間よろしくぅ!」

 

随分とご丁寧な挨拶から、キャラが変わったかのようにノリノリで且つデカい声をはりあげて自己紹介を開始する正真正銘の馬鹿。まさか、自己紹介のトップバッターを担う人間が寄りにもよってこの男だとは思わなかった。初動のインパクトが強烈だったので1年a組、総生徒数40人内38人の視線が彼を串刺しにするという結果となっている。

 

「あの馬鹿……もう少し声量というものを調節出来ないのか?」

 

教室の最も窓側の列、前から6番目の席で僕は窓の外の世界を眺めながら耳障りな轟音に対して小さくボヤいた。当の本人は高校デビューを華麗に決めようと奮闘している様に見えるが、そのキャラは非常に目を背けたくなるくらいに痛々しく感じてしまう。

だがしかし、彼の行ったこと全てが悪い事という事は無い。ポジティブな思考で物を見るならば、総介の持つ濃いキャラクター性は周りに与えるインパクトが非常に強く、記憶に残りやすい。それは見る人、聞く人を惹きつける魅力を醸し出しているのだ。そういう意図を含めれば、総介の行った自己紹介の方法は、複数ある正解の内の1つとして言えるだろう。多分、恐らく……めいびー。

 

「はぁ……………暇だなぁ」

 

こんなにも手持ち無沙汰な気持ちになったのは久しぶりかもしれない。変わることの無い景色を眺めながら、この先に続く自己紹介を聴き続けるのも段々と飽きてくるし、眠くもなってくる。何とかしてこの気分を紛らわさなければならない。

思い立ったが吉日。皆が総介の自己紹介を聴いている中、徐に机の横の鞄を開け1冊の本を取り出す。これは暇な時間が出来てしまった時の暇潰しにと念の為に持ってきておいた歴史の教科書。この世界の昔の出来事をより細かく深堀した素晴らしい産物である。

予習も兼ねて今ここで読むことを決めた僕はさらに続く総介の自己紹介を小耳にはさみつつ、教科書を開く。

この本は自分にどんなモノを与えてくれるのだろうか、自分をどのように成長させてくれるのだろうか。そんな心が踊るような期待を胸にページ1の大きな見出しに目を通す。

 

 

 

 

 

「……霧衣賀君!霧衣賀 結薙君!聞いてますか?貴方の番ですよ!」

 

「ちょっと……いや、かなり待ってください。今とても面白い所なんで邪魔しないで貰っていいですか?」

 

僕が教科書を読み始めて恐らく20分くらいは経ったと思う。右側からいきなり聞き慣れない女性の声に予習を邪魔された僕は若干の苛立ちを抱えながら、それを無視。引き続き教科書のページを捲り気になる部分に目を通していく。

 

「 自 己 紹 介 を し て く れ ま す か ぁ ぁ ぁ ! ? 今 は 貴 方 の 番 な ん で す よ ! ? 」

 

次の瞬間、右耳に入り込んでいた鬱陶しい声が巨大な爆音波となって炸裂した。頭の中で何度も響くような強烈な音量に反射的に右耳を抑えて、声のした方に顔を向けた。

そこには顔を真っ赤にして鋭い眼差しでこちらを睨みつけている立川先生の姿があった。

 

「あ、あぁ………えっとあ、立川先生〜でしたよね。ははは、そんなに大きな声を出さなくてもいいじゃないですか。隣の教室まで先生の声が響いちゃいますよ?」

 

あまりにも突然とし過ぎた特大な不意打ち。頭の整理がついていない僕は戸惑いながらも笑顔を先生に向けながら、大きすぎるその声にツッコミを入れる。

 

「貴方が私の注意を無視して教科書を読んでいるからです!今は自己紹介の時間なんですよ?」

 

自己紹介の時間、そして僕の番。それで大体の状況は理解出来た。周りを見れば皆からの視線が一気に僕の方に集中している。そんな中で美緒は苦笑いを。総介は僕の方を見て腹を抱えて笑っている。

どうやら入学早々に恥をかいてしまったらしい。しかし、謎に恥ずかしさは無かった。多分それは未だに響いている、先生の爆音波の物理的ショックがとても大きかったからだと思う。

 

「あぁ……そうでした。今はクラスの自己紹介の途中でしたね。僕とした事がつい予習に夢中になっていた様です。本当にすみません。

しかし、教科書という物はとっても良いものだ。僕を成長させてくれる……!」

 

「え、えぇ……それは分かりましたから貴方の自己紹介をしてください」

 

「分かりました」

 

呆れ顔の立川先生に催促され、僕は読んでいた教科書のページに付箋を貼り席を立つ。

皆の視線はそのまま、僕を真っ直ぐに捉えている。貴様は一体どんな人間なのだ?という興味めいた感情が皆の瞳に乗っているように感じ取れた。総介の話し方に少しぎこちなさを感じたのは、このプレッシャーの様な無言の圧が原因なのかもしれない。

 

「僕は、僕の名前は……霧衣賀 結薙といいます。人種は見ればわかる通り、何も無い普通の人間。オールド・センチュリーです。

ネオン・センチュリーの方とは初めての対面なので今も緊張していますが、3年間でお互いの距離を縮めていけたらと思っています。これからよろしくお願いいたします」

 

と最後に頭を深々と下げ、自分の自己紹介を終える。こういうのはシンプルなので丁度良いのだ。こんな所で変な事を口走ると、後々面倒な事に巻き込まれたり、一部の生徒から敵視されるような事態になりかねない。余計な事を言わず、手短に済ませるのに尽きる。

自己紹介の内容に納得し下げていた顔を上げる。が、あろう事か周りの生徒や立川先生は満足していない様子で黙って僕を見つめ続けている。紹介する事が少なすぎたのか?そう思い、目線を総介の方に向けると、僕に気がついたのか彼は首を左右に降った後、顎をクイっと上げるジェスチャーを繰り出してきた。「それだけじゃあ足らん。もっと具体的な事を話せ」とでも言いたげな様子である。

そんなジェスチャーを見て僕は頭を抱えそうな気分に陥った。周りから求められても、僕はとっくにお手上げ状態で総介のように濃厚なキャラであったり、特筆した特技や芸を持ち合わせていないからだ。

……しかし自分の事について、一つだけ思い浮かぶものはあった。初めて出会った人達の前では言いたく無い事なのだが、この状況を打破する方法はこれしか無いだろう。腹を括りこの事を今ここで話すしか。

 

「……あとは、そうですね。最後に1つ僕という人間について知っていただこうかなと思いま

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?あ、貴方は!!私とのバトスピ試験で即投了した人じゃないですか!?」

 

僕の話を途中で遮ったのは若々しくも、甲高い女性の叫び声だった。瞬く間に僕に向かって集中していた視線がその女性に切り替わる。

雪のようにふんわりとした柔らかそうな白髪とクリっとした青い、どんぐり目が特徴的なネオン・センチュリーの女子生徒が僕に向かって人差し指をさしながら席を立っていたのだ。

外見から真面目で清楚に感じた第一印象とは正反対に、初対面の人間に対する彼女の振る舞いは失礼を極めていた。それに加えて僕の話を途中に介入してきたという点においても、より一層僕の神経を逆撫でする。

これをもし美緒が行ってきたのなら、間違い無く今ここで自己紹介を止め、説教の時間を設けていただろう。

 

「…………僕の自己紹介の途中なんですが、何なんですか?貴女は」

 

癪に障る点がいくつか見受けられたとはいえ、目の前に立っている彼女と僕は初対面である。内から溢れそうな怒りを抑え、冷静にそして落ち着いた態度で彼女と向き合う事に集中する。

今回の言い分に関しては特別見逃すことにしたが、僕は総介の様に器の広い人間では無い。仏の顔も三度までという諺があるが、僕の場合は1度までだ。

 

「え……お、覚えていないんですか?貴方の試験相手の予定だった天宮 美雪(アメミヤ ミユキ)です!!!」

 

語尾がかなり強調された自己紹介に僕は少しだけ気圧された。

彼女の名前は天宮 美雪……外見と名前が実にマッチした少女だが、当の本人は現在怒りを顕にした表情で僕のことを鋭く睨みつけている。

確かに僕はあの試合を始まる前に棄権した。それは間違い無い事実ではあるが、対戦相手のことは申し訳ない事に全く覚えていないのだ。

 

「天宮美雪さん……ですか。すみません、僕自身のやった事は全て覚えているんですが、対戦相手の事は全く記憶に無いですね。

僕は覚えていても無駄だと分かった事や知識は全て切り捨てて忘れる人間なので、なんと言うかその……申し訳ないです」

 

ヒートアップ寸前の相手の神経を逆撫でしないよう、慎重に言葉を選び発言を行う。

すると、目の前の彼女は意気消沈したかのように表情を変えた。それでも彼女の両手は強く握り締められており、まるで行き場の無い怒りを必死に抑えているように見て捉える事が出来た。

僕のとった態度が影響してか、攻めようにも攻めにくいという遣る瀬無さがその握り拳に込められているのだろう。

 

「……天宮さん。話はまた後でしっかりやりませんか?今この時、この場で僕達2人だけの話をしていても周りの迷惑になるだけだと思うんです」

 

続けて僕は天宮に冷静になってもらうべく、そしてこの後の自己紹介を控えている生徒達の為に彼女に対して1つ提案を吹っかけてみる。

正直、周りに迷惑をかけているし、ここでその事を話すのは流石に場違いが過ぎるであろう。僕も似たような事を先程やらかしてしまったが、もう二度とやらないと心の中で誓っている。

 

「うぅ………た、確かにそれは貴方の言う通りです。でもこの後絶対に貴方には全部話して貰いますからね!絶対にですよ!いいですね!!」

 

痛い所を突かれたと思われてしまったのか、先程より怒気を強めた天宮は手に持つ釘を強く打ち付けるかのように僕の退路を断った後、頬を膨らませて席に座った。

彼女自身、感情的な発言をしていたが、周りの事を優先的に考えて行動が出来る人間だ。

 

「そんなに言わなくても僕は逃げもしないし、隠れもしないよ。

では、これで僕の自己紹介を終わります。皆さんも僕の事を知れた事ですし、満足したでしょう?」

 

再度、僕はクラスの生徒達に深々と頭を下げ席に座る。結局、言いたく無かった僕の事情は突然に訪れた天宮による、ある種の神介入によってクラスメイト全員に晒されることは無かった。

いや、それにしてもだ。まさか入学早々にクラスメイトの女子1人から敵意を向けられる事になるとは思わなかった。前途多難な高校生活のスタートか……………

否、僕にとって未知の存在であるネオン・センチュリー、その天宮に絡まれたのは非常に嬉しい誤算だった。これで見知らぬ相手に話しかける為のきっかけを作る手間を省けるし、ああいうタイプの人間は積極的に話かけに来てくれるので労力削減にも繋がる。

極めて効率的にネオン・センチュリーについて知ることが出来る手段を得た僕は心の中で歓喜した。ろくでもないバトルスピリッツの話題をマイナスという形で含めたとしてもこれは完全なる大収穫と言って間違いは無い。大きな、非常に大きな第1歩である。

その後、僕に続くクラスメイトの自己紹介はスムーズに進み、最後は立川先生がこの学校の概要を軽めに説明して〆となった。

概要とは言っても重要事項として、広い校内に慣れない内はかなりの頻度で迷子になってしまう可能性が高いらしいので、常に地図を携帯しておく事くらいだった。

 

 

 

 

 

そして時間と場所は移り変わり、学園の食堂へ。広々とした空間に大多数の席と数種類の食べ物を販売している店舗が設置されている施設。大規模フードコートとでも言えば簡単に想像がつくだろう。

現在、時計の針は正午12時22分を指すお昼時の真っ只中。故に僕と総介を含めた全学年の生徒達がここに集まり、各々昼食を取っている。

 

「は?なにこれ美味。おいキリュウ!ここの食堂の飯、結構いけるぞ」

 

僕の右隣の席に座って唸り声を上げながらご飯を食べているのは総介だ。食堂の[絶品!醤油ベースの唐揚げ定食]とやらがそんなに美味なのか、夢中になってがっついている。

 

「総介の反応を見ればわかるよ。どうやら料金を出して食べるくらいの価値はありそうだね」

 

千恵美さんに作って貰った2段弁当を食べながら、総介の表情を伺う。

 

「なるほど、そういう事か。道理でここの飯買うの渋ってた訳だ」

 

「今日は千恵美さんに作って貰った弁当があるから初めからここの料理を食べる気は無かったんだけど、見た目が良かったからちょっと気になっていんだ。

そして丁度、反応が表に出やすい総介が隣にいたからね。料金に見合った味かどうかなんて、最初は分からないからお前の反応を見て今後買うかどうかを考えていたんだよ」

 

「なんだよそれ。自分で買って食えばいいだけの話じゃねーのか?そんな回りくどいことをお前がするのか?」

 

「それでご飯が不味かったら金の無駄になるだろ?それが嫌なんだ」

 

「あ、優先はそっちか。合理的なのはいいけどよ、そういう実験みたいなのは俺だけにしとけよ?

ところで美緒は何処にいるんだ?キリュウは知ってるか?」

 

と、流れるように話題を変えて食堂をキョロキョロと見渡し始めた。そんな事をしても、こんな密集地で1人の女性を見つけられるなんて至難の業と言ってもいい。目の悪い僕では絶対に不可能だ。

 

「売店で何か買ってるんじゃないのか?もう少し待っていれば僕達を見つけてこっちに来ると思うが」

 

何となくで予想を言ってみる。色んな意味で迷いやすい美緒の事なので、今日食べる昼食のメニューでも長考しているんじゃないかと考える。

 

「ふう〜ん……じゃあ次に聞くけどさ、キリュウ、そっちの方の進捗はどうなってんのよ?」

 

………なんて嫌らしい表情なのだろうか。ニヤニヤした顔の総介が左肘で僕をつつき、何の事だか分からない話を振ってきた。

 

「進捗?それは一体なんの事を言ってるんだ?」

 

僕を見る総介の顔が少しムカついたので声に圧をかけながら、その進捗とやらについて質問をしてみる。

だがその返しに期待はしない。こういう場合の総介は大抵くだらない話を吹っかけてくるからだ。

 

「は?キリュウお前ってさぁ……そういうのに関してはめちゃめちゃ鈍感だよな。ならストレートに教えてやんよ。

そりゃあ当然、お前と美緒とのあんま〜い恋愛具合に決まってるじゃねーかよ!」

 

「…………………は、はぁ?」

 

あまりにもストレートすぎる回答に僕の頭の回転が急停止した。

な、なるほど……総介のさっき言った言葉をかなり遠回しに彼なりにまとめた結果、進捗という形に収まったと言うのか。

それにしても総介がいきなりそんな事を聞いてくるのには驚いた。随分と興味津々な様子に見えるが、15歳の男子というのは他人のそういう事情に興味を持つ年頃なのだろうか?同い年で且つ同性の自分が言うのもアレな疑問ではあるが。

 

「お前、あんな可愛い幼馴染と毎日一緒に飯食って一夜、一夜を共に過ごしてるんだろ?何かあったって可笑しくはねぇだろうが、この朴念仁!」

 

次に感じ取ったのは純粋な興味では無く、僕に対する強い嫉妬だった。

確かに美緒の容姿や仕草は見る人を魅了するものがあるというのは総介と同じ意見だし、総介が今の状況に陥っている僕の事を羨ましがるのにも納得が出来る。

しかし、そうであったとしても人の心というものは決して外見だけで掴めるものでは無い。僕は性格的な意味で彼女は好みでは無いからだ。どちらかと言うと……そう、例えるなら歳下で面倒のかかる妹といった感じがして、どうも彼女に対する恋愛感情を抱けないのだ。

 

「そんな事を言われても困るな。総介が思い描いている進捗なんて何1つとして無いし、僕にもそのつもりは無いんだけど?

時折バトルスピリッツをやろうってあちらから執拗に迫ってくるだけだし、僕としては大人の女性としての落ち着きというものを持ってくれたら、色んな意味で僕は楽になれるんだけどな」

 

期待外れと言われて面倒くさいことになるかも知れないが、かといってその場しのぎの嘘を言う訳にもいかなかった。

こういう時は何事も正直に言うのが板というものである。

 

「冷たいヤツ……お前にその気がないっていうのなら、俺が先にアタックして頂いちまうぜ?」

 

と、僕を睨み付けながら、唐揚げにレモンをかける総介。左手に持っているカットレモンが彼の織り成す圧倒的な握力により、まるでギチギチに絞りあげられたボロ雑巾の様な可哀想な有様へと変貌を遂げてしまった。

 

「……さっきも言ったろ?そのつもりは無いって。別にお前と美緒が結ばれたって構わないさ」

 

むしろ、貰ってくれた方が有難い。騒がしくなくて済む。

……なんて今の総介の前では思ってはいても口に出してはいけない禁句だ。こういう類の話で彼の地雷を踏んでしまうような事があれば、たちまちあのレモンのように無惨な姿になってしまうだろう。

 

「おん?痩せ我慢かよお前。絶対に後悔すんなよ?先に告れば良かったー!ってな」

 

レモン汁でベトベトになっている指で僕を指さしながら忠告をしてきた。これ以上躊躇するなら本当に俺が行くぞという脅しも込めて言っているのだろう。

 

「……………お前もな」

 

いい加減にその手を拭いたらどうなのだろうかと思いながら、お返しとばかりに総介に忠告を返す。彼が今試みているのは美緒への告白である。

彼が美緒に思いを馳せている事は中学校の頃から薄々気づいてはいたが、遂にこのタイミングで行動に移す時が来たという事だ。

告白……それは自分が好きだと思っている相手に直接好意を伝えるというもの。上手くいけば今まで以上に深く、そして濃密で濃厚な関係になる事だろうが、それと同時に孕んでいるリスクは極めて高い。最悪の場合、今まで築いてきた関係を全て無に還す結果になりうるかもしれない。返答はYESかNO、確率は半々。

そう彼は今、ある種の生と死を分かつ地平線、青春の真っ只中で可能性の獣になろうとしているのだ。

 

「ハハッ俺が振られるか、結ばれるかなんだ!やってみる価値ありますぜ。キリュウだけに良い思いはさせませんよ」

 

僕の忠告を鼻で笑い、ドヤ顔のサムズアップ見せる。その自信は一体何処から出ているんだとツッコミたくはなったが、それ以上は野暮だと思い自分の心の中にそっと閉じ込めた。ここから先は何人も立ち入ることの出来ない領域であり1人の男の戦いなのだから。

総介は僕に青春をしていて羨ましいという風に話していたが、その青春の中にいるのは僕だけじゃあない。

 

「ふ、こうして見ると総介の方が青春を満喫している様に見えるんだけどな?」

 

そう彼の甘酸っぱい片思いも又、青春の1つである。その内に秘める思いをどうするかはこれからの彼の行動によって変わってくるだろう。

 

「お互い様って事か」

 

「誰にだって青春はあるもんさ。しかし、僕の場合は天宮さんからの一方的な因縁付けでしか無い。青春と呼ぶにはかなり怪しいと言ったところだな」

 

そう言って僕はだし巻き玉子を頬張る。ふんわりとした食感に卵特有の風味と噛めば噛むほど滲み出る出汁の味が口の中いっぱいに広がり、僕の中の食欲を一押し、もう一押しと唆ってくる。

 

「そんな事言うなよキリュウ。入学初日に美少女から絡みを受けるなんて、万に1つの可能性でも有り得ない事なんだぞ〜?

……ってなんか俺のポジョン、ハーレム主人公の友人Aみたいになってないか?」

 

「ハーレム主人公の……友人?」

 

「いや何もねぇ、今のセリフは気にするな。だが今のお前の現状は気にしろよ。

いいか?俺達はな、パンを銜えた遅刻寸前の女の子と街角でぶつかる様なギャルゲーの主人公じゃあ無いんだ。典型的な例えではあるが、これはつまり、有り得る筈のない希少現状に遭遇したお前はある意味で罪深い奴って事なんだよ」

 

これはもう頭の思考回路が2次元の彼方にぶっ飛んでいるとしか言いようがない。

総介の語る[ぎゃるげー]というモノが何なのかは具体的に分からないが、あくまで架空の女性のキャラクターが登場するゲームというぐらいの認識でしかない。

その浅い知識を込みであったとしても、そういうものと現実は混同して考えてはいけないだろうというのが僕の意見である。

それにさっきの彼の発言は聞いていた僕からすれば、他人の気持ちを無視して一方的な自分の嫉妬を叩きつけているようにしか聞こえなかった。

 

「嫌いだな、そういう無神経な表現は。お前だって僕が望んでこうなった訳じゃないんだって分かるだろ?

結果的にネオン・センチュリーと関係を持てたのは嬉しい事に間違いは無いけど、天宮さんのアレに関しては今精神的に参っているところなんだから」

 

「おっと、すまん。流石に今の軽率だったな。悪かったよ。

…………お前のアレってさ、やっぱりバトルスピリッツのことだろ」

 

「その通りだ。本当に疲れるよ」

 

左手で頭を抑え、溜息を着いた。受け入れ難い事にこの島で生まれ、これから先もずっと住む事になる以上、バトルスピリッツはいつまでも僕の人生にまとわりついてくるだろう。

 

「でも最終的に天宮さんとは必ず話をつけなきゃならんのだろ?今あの子と話をしなくてもいいのか?」

 

「ん、まだ昼休憩の時間はあるし昼食を取ってからでも遅くは無いはずだと思うが……」

 

「あ、あの……!!霧衣賀さん、ですよね?」

 

昼食を食べ続ける僕達の前に突然と先程見た白い影が現れた。天宮が両手にお盆を持ち、テーブルを境に僕達の目の前に立っていたのだ。そして、手に持つお盆の上には出来たての何かが入った丼が美味しそうに湯気を出している。彼女の様子を見たところ、これからお昼を食べ始めるみたいだ。

 

「お、噂をすればキリュウの自己紹介の時に言い争ってた天宮さんじゃないか」

 

突然の彼女の登場に驚き、興奮気味に指を鳴らす総介。初対面の相手なのにこんなにも距離の取り方が近いと思うのは何時もの事だ。

 

「え、えぇ……キリュウさん?もしかして人違いでした……?」

 

そして、この男はなんということをやらかしてくれたのでしょう。総介が僕の事をあだ名で呼んでしまったせいで初見の天宮が勘違いを引き起こして混乱している。

こんなくだらないあだ名が彼女に定着される前に直ちに修正を行う必要がある。

 

「待ってくれ天宮さん。間違いなく僕は霧衣賀であっているよ。キリュウというのは僕の隣にいる、この蒼騎総介が勝手に呼んでいるあだ名みたいなものだ。紛らわしいと思うけど気にしないで欲しい。

そして確認だが、あの件について話に来たって事でいいんだよね?」

 

間髪を入れずに僕は口を開き、総介の付けたあだ名の補足説明を手早く入れると同時に今回の要件確認を行う。

 

「え、あ……はい」

 

「オーライ!状況は把握したよ。あの話をするんだろ?こういう真面目な話は俺抜きで2人でするべきだからな。て事で俺は席を外す事にするぜ」

 

突然隣の総介が定食の乗ったお盆を持って立ち上がる。

彼のセリフを聞くに僕と天宮の2人で話をする為に態々席を離れようとしてくれているのだ。

 

「ありがとう。……すまない」

 

僕の投了の件についての言及。こんな事で食事中の総介に気を使わせてしまった事に僕は罪悪感を覚え感謝と謝罪を行う。

 

「2人の食事中にすみません……」

 

「ハハッ!なんだよお前ら、これから大事な事話すんだろ?2人して謝る必要は無いっての。じゃあ俺は美緒を探して一緒に飯食うことにするから、また会おうぜ」

 

とそんなセリフを置いて総介は席を離れ、人混みの中へ消えてしまった。この場に残されたのは僕と天宮の2人だけになってしまった。

 

「……とりあえず座りなよ。これからなんでしょ?お昼」

 

総介が居なくなり、静まり返る空気の中で立ちっぱなしのまま固まっている天宮に席を案内する。そのままで居られると、まともにお昼を食べる事も、話す事も出来ないじゃないか。

 

「あ、はい。向こうが結構混んでたのもあって……では!失礼します」

 

カタンっとお盆と机の接触音が僕と天宮の間で響く。正面に座った彼女は湯気の立つ丼の前で小さな声でいただきますと呟いた後、うどんを啜り始めた。丼の中をよく見ると、大きな油揚げが2枚にかまぼこ、刻みネギが浮かんでいる。彼女が食べているのは狐うどんだ。

 

「食事中だったのにごめんなさい。邪魔でした……よね?」

 

しばらくの静寂の後、うどんを食べる天宮の手が止まった。1対1での男女の会話だからなのか、それとも僕が彼女とは違う人種だからか、さっきの事を反省しての事なのか。理由は分からないが、自己紹介の時とは打って変わって、かなりぎこち無い話の切り出し方に少し驚いた。また怒気の篭った声で問い詰められるかと思い、彼女を警戒していたからだ。

彼女の表情、口調、姿勢から緊張している事がよく分かる。

 

「そんな事は無いさ。さっきの時間に僕と君はこの時間に話をすることを約束したじゃないか。君は約束通り僕に会いに来てくれた。僕がどういう状況であったとしても君が約束を守った事に変わりない。だから謝る必要なんて無いよ」

 

申し訳なさそうな顔で謝る天宮にフォローを入れる。彼女に謝る理由は無いのにも関わらず、あんな事を言ったのは多分、僕と総介が話をしながらご飯を食べている所を見てしまったからだ。彼女も総介と同様に気を使ってくれていたのだろう。

 

「じゃあ、いきなりですけど良いですか?」

 

「どうぞ」

 

「どうして……どうしてあの試験の時、対戦もせず棄権を選んだのですか!?」

 

半ば食い気味に、そして単刀直入にその質問が飛んできた。僕の想像通りその声も教室で出していた時と同じくらい大きくなり、未だに怒りが収まってないように見える。

何故今になってその話を掘り返すのか。結果的に天宮も僕も入学試験に合格しているんだから、これ以上何を気にする必要があるのだ?というのが僕の気持ちである。

しかし自分が行った行動は彼女からして見れば、謎の行動と見られても仕方が無い。受験結果に大きく響く項目を戦う前に捨てた理由を彼女は気になって追求しているのだ。

そして彼女は僕の事を知らない。僕がバトルスピリッツが嫌いで今まで1度も触れた事さえ無いという事も。なら、尚更僕の行動理由が気になってしまうのは必然的である。本人がそこに居て聞ける機会があるとなれば、彼女のとった行動は当然である。

 

「…………わかった。説明する。あの時の事をちゃんと、説明するよ」

 

「お願いします」

 

真剣な天宮の眼差しが真っ直ぐにこちらに向けられる。今まで他人に自分の事情を教えて良かったことなど1度もなかったが、彼女は……ネオン・センチュリーの彼女はこんな僕をどう思うのだろうか。

説明しなければいけないその訳を口から出そうとして、その思考が自分の頭の中を何回も過ぎる。ザワザワと今僕が感じている胸のザワつきは……不安。

 

「僕があの試合を棄権した理由はとても単純なんだ。僕は…………ん、僕はね。

生まれてから今まで、1度もバトルスピリッツを経験したことも触った事も無いからなんだ」

 

そう言ってから先程まで天宮に向けていた視線を真っ白な机に向けた。相手の顔を見るのが……怖かった。

自分の信念を貫く覚悟も人に話す覚悟もあるというのに、こんな事になってしまうのは昔の出来事が色濃く自分の中に刻みつけられているからだ。

この事情を初めて合った見知らぬ誰かに話す時は何時もこうやって相手から視線を逸らしてしまうのだ。もう癖ついてしまっていることも自覚はしている。

 

「………ッ」

 

しばらくの沈黙の後、僕は顔を上げて正面に座る天宮の表情を恐る恐る伺った。

 

「え……そんな!?」

 

案の定というべきか。彼女は疑いの目と困惑した表情で僕の事を見つめていた。

 

 

 

 

 

昔の出来事。自分の中に残る曖昧な記憶の欠片。

でも何故だろうか、嫌な思い出だけは脳裏に焼き付くように、それでいて微かにその1部のシーンだけが浮かんでくるかの様に覚えている。

その目を僕は知っていた。覚えていたから。皆から向けられていた、自分が1番嫌いな人間の瞳だったからだ。

 

 

 

 

 

ーmovementー

 

 

 

 

 




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