Battle Spirits Act of Aggression   作:えむ〜ん

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何がとは言わないけど、本当にお待たせ致しました。第6話にしてタイトル詐欺回避です。


episode 6 battle-form

作り出された器は人が人として生きる為の英智であり、災厄から守護者としての祈りとされていた。

人は人と共に自らの持つ技術を進化させていく。今の健やかな営みを過ごすことが出来るのは、先人が積み重ねてきた技術革新の結晶といえるだろう。

しかし、これが人類の持つ到達点と誇るのなら私はちっぽけなものとして嗤おう。そして、それを皆が傲慢とするのならば、即ち愚行へと繋がろう。

人類は私に至ることは出来ない。手に入れる事は出来ないのだ。

これは私が私で在り続けられるが故の特権、君達の持てる知恵さえも超越した永劫に生きるものなのだから。

 

 

 

 

 

〖バトル・フォーム〗それは、対人戦型競技であるバトルスピリッツの試合に用いられる専用の衣服と特殊装甲材によって構成された鎧の2つを合わせた所謂、パワードスーツの名称である。

そして、そこに欠かせない、もう1つの要素が〖スカイ・フライヤー・ユニット〗と呼ばれるサーフボード状の機械。

これは、バトルスピリッツにおいて必要な対戦用のプレイボードと空中での移動、滞空のシステムを兼任している精密機器を同様の特殊装甲に詰め込んだ飛翔体であり、そのシステムはバトルフォームに埋め込まれたメインシステムと連携されている。

それらの総称を島の人達は〖バトル・システム〗と呼んでおり、それら全ては〖コア〗というエネルギー物質の恩恵を受けて成り立っている。

 

 

 

時は、遠い遥か昔の時代にまで遡る。いつの日かは明確では無い。ある日を境に、この世界に突如として現れた赤色と青色の2種類に分かれる鉱物質。それが前述にも関わるコアであり、万能的エネルギーを利用したシステムによる現代技術の進化へと発展した。

その技術の1つである量子変換システムの本格的な採用。これにより、小さな媒体の空き領域に対して膨大な情報量を誇るバトル・フォームのデータを量子変換し保存することが可能となった。

なるほど、それを使用者本人の音声で認識されるシステム等で任意のタイミングで呼び出す事で、天宮が僕の目の前でやって見せたようなバトルフォームへの装着が出来る。らしい……

 

 

 

 

 

 

「ふっ……長々とした説明にはなっちまったが、バトルフォームの概要はこんなものかな」

 

僕の左隣の座席に腰をかけた親友、蒼騎 総介が一通りの説明を終えてから深く一息をつく。そして、なにやら複雑な気持ちを抱えているのか唇を軽く噛みながら眉を顰めた。

両手を後頭部に乗せ、右足を左膝に乗せて深々と寛ぐ姿勢を見せてくれる。相も変わらず大変お見苦しい座り方で注意したくなるくらいになってしまうが、これは昔から此奴が意図してやっている、お行儀の悪い駄々っ子の真似事だ。

本人曰く、ずっとお利口さんのままで居られると思うな!である。少し遅めの反抗期とでも言いたいらしい。

……そうしようとして、成りきれていないくせに。

 

「大体の事は理解は出来たよ。しかし、本題よりも前置きの説明の方が長かった気がするんだが?」

 

必要だったのかい?と後に付け加えて、視線をバトルステージの上空に映し出されたデジタルインフォメーションから左横に、それでいて彼の顔を覗いて見てやれば、困ったように眉を八の字にして浅く笑う。

 

「まぁまぁ、そうお堅いことを言うなよキリュウ。

いいか?こーゆうロマンがあるもんってのはな、歴史の背景とか世界観とかがあるって相場が決まってるものだろう?要は、RPGゲームと同じって訳さ」

 

この男は一体何を言っているんだ。

茶化したような調子で羅列された彼の言葉の内容が余りにキテレツだったもので、反射的に頭が理解を拒んでいた。呆気に取られてしまい、自分の中で構築されていた会話の流れが霧散してしまった。

僕の質問の意図を色々と履き違えてはいないだろうかと、腕を組んで得意げに首をうんうんと上下に振る総介を前に一筋の不安が過ぎる。

世界観や歴史背景と、彼が語るあーるぴーじーげーむとやらに何の関係があるというのだ。前者に至っては、それを洞察する力は皆が培ってきた筈だが。

 

「教科書なら既に履修済みだ」

 

「違う。そうじゃない」

 

ズッコケる素振りで勢い良く項垂れる総介に此方は困惑するしかないだろう。残念ながら、彼の解釈とは多いに外れた答えだったらしい。生憎、僕は彼と会話のドッジボールをおっ始めたいわけではない。

此方は真面目に質問をしたつもりだったのに、こんな下らない茶番劇に拗れてしまう原因の大抵は、この男が真剣な表情で話す一風変わった例え話のせいだ。

 

「それとこれとは別の話にならないのか?」

 

「とは、言えないくらい密接な関係なんだよ。この世界と島の技術、そしてバトルスピリッツとの繋がりというものはな」

 

最初からそう言ってくれれば良かったのだ。

バトルスピリッツと世界の関係性……総介が伝えたかったそれは確か世界神話か、その歴史が記載された書物があると聞いた事はあった。

しかし、未だにその類の話を自分の意思で手に取ったことは無かった。

 

「世界とバトルスピリッツ……か」

 

ゆっくりと吹き抜けるように、それを呟いていた。

彼の言った言葉や書物に載せられたものが、本当にこの世界の真実であるというのなら、バトルスピリッツは今の人間達には扱える範疇を超えたロストテクノロジーになってしまう。

自分にとって、歴史が刻まれた本というものは欠片の集合体であると考えている。これまで、この星が幾億年と重ねてきたであろう時間の中。埋もれてしまった記憶から掘り起こされた、ごく僅かな小さな印。しかし無情な事に、それだけでは本物の真実に辿り着くことは叶わないのだろう。そして、そのことはそれらを記述した人間が1番よく知っていることだろう。

だからこそなのだ。そのような小さなカードゲームが太古から存在し、この世界の歴史に多大な影響を及ぼしている事が俄に信じ難かった。

 

「興味があれば、そっちの話も出来るぞ。さっきのよりも、もっと入れ込むことになるが……必要か?キリュウ」

 

「蛇足だよ」

 

そんなことは、今はいい。目を瞑って短い言葉で誘いを躱す。

 

「そうか……ん、色々と仕方は無いな」

 

それを聞いた総介が、さっぱりとした言い草で目の前のステージ方へと顔を向け直す。

僕の前で語りたくなる気持ちも、分からないことは無い。まだやり切れていないような面持ちで不完全燃焼な所を渋々首を縦に振ってくれたようなものだ。

 

「要するに、天宮さんがやった事ってのは別領域にデータとして保存されたパワードスーツを実体へと呼び出して、そのまま自分の身に纏ったってことでいいんだろう?」

 

バトルフォームが持つファンタジー染た異様なカラクリ。どのようにして、あのような変身を天宮 美雪はやってのけたのか。彼女の後ろ姿を見届けた後、バトルステージの観戦席に着いて戦いが始まるのを待っている間、ありのままに自分の口から漏れ出てしまったそれが、この会話の始まりであった。

謎や疑問を心の中に残したままの自分には納得がいかない。だが興味、はたまた探究心の赴くままに両横に座る2人の話に乗っかってしまったのは、少々のミスだったかもしれない……と、それに気が付いたのは、総介がバトルフォームについて、その歴史から長ったるく語り始めたところからだった。

 

「今のところはそれで十分だな。細かい事はこれから少しずつ分かってくるさ」

 

冗談では無いと、頭を抱えそうになった。バトルスピリッツを中心に回るこの島で、それに関わる技術や知識に間接的に触れる機会はあったかもしれない。だが、直接的に関わるつもりは更々無いと心の中でそんな生き方を定めている筈なのに少しでも興味や疑問を示せば、どうしてこうも情熱的な話に繋がりそうになるんだ。どうして……こんな自分に対して、そんな期待を見せてしまうんだ。

 

「俺のこと、いつでも頼ってくれよな」

 

自分自身のどうしようもない性質が仇となり、こんな長話になってしまったのは僕の彼らに対する認識が甘かったから。

白い歯を此方に見せる総介……自身の胃から、くぐもったかのような苦痛が声を発していた。

 

「やっぱり結君は、どんな事でも飲み込みが早いよね〜!」

 

総介の言葉に続いて、弾けるような賞賛の声が広がった。右隣に座る胃痛の原因その2、幼馴染の白宮 美緒が両手を叩いて満面の笑みを咲かせている。

いつもの教室内なら彼女が振る舞う賑やかさが周囲の視線を集め、その度に僕が要らぬ焦りを走らせることになるのだが、今ここの観客席には自分達以外の人間は座っていない。試合中の入出も自由となっているが、入学早々のぽっと出の1年生同士の対戦には無関心なのか、ほぼ貸切のような状態であった。

 

「今からバトスピ始めても2、3ターンくらいで私たちに追いつけちゃうかも!」

 

なので、美緒のコレに対して周りに気を使う必要は無い。しかし、日常生活の一部において意味不明な用語を混じえて他人と会話をするのは到底推奨されるものではないという点に関しては、駄目出しをしておいても良かったのかもしれない。

そんな心の声とは別に、彼女のアップテンポな声は容赦無く両耳に響き渡る。その内容はずっと聞き慣れてきたものであり、彼女自信も随分と言い慣れたものだろう。そして、それ等の殆どはバトルスピリッツに関連するものであると嫌々ながらに理解出来てしまうのは、これが常に見る美緒であるからだ。

 

「今更だな。そんな柄じゃないのに」

 

相手が美緒だから、なぁなぁにして言葉を返してしまうのも総介の時と同じで、やはり甘さ故なんだろう。

彼女の底無しの明るさに曝されたのか、思わず自分の声色に微かな明るみが含まれていたのにハッとして気が付く。バトルスピリッツ以外に何か別の例え物があったっていいんじゃないかと思う事も度々あるが、あえて言いはしないさ。

 

「なんでよ!結君って色んなこと出来るし、色んなこと知ってるじゃん!結君がバトスピ始めたら、どんなプレイヤーになるんだろうなぁ〜」

 

目を瞑り、うっとりと右手を頬に当てて想像を膨らませている美緒の綺麗な横顔が見える。思えば、ずっと一緒だった。だからこそ彼女のそういう所が、ある意味で恵まれてしまっている自分の身にとって日常を生きていられるんだと、実感させてくれるんだな。

 

「僕は、僕にとって必要なものを選び、得ているだけだよ。もしも僕に色んなことが出来てしまう力があったとしても、バトルスピリッツに関しては2人の方が圧倒的だろう?色んな意味で差がありすぎる」

 

それはそれとして、出力のやり方が余りに極端なのが玉に瑕と言える。

美緒に対して少々残念な気持ちと、変わらない安心感を抱えたまま、いつものように自然と溜息が漏れてしまうのは仕方の無いことなのか。

 

「いやぁ〜それ程でも……あるかもねぇ〜!?こちとらバリバリやらせてもらってるんで!」

 

こちらの肘掛に両手を乗せ、身を乗り出してきた美緒の瞳はいつも以上に、僕のそれよりも輝いて見えるものだ。

だが、やはり彼女のそういう所に関しては、負の感情を募らせてしまう方が多いというのは否めない。こういう話に僕が絡むとなると便乗して、いつか自分がバトルスピリッツを始めるなんてことを夢見て、そんな妄想話に花を咲かせてくる。

当の本人は簡単には越えさせませんよとばかりに胸を張って堂々としているが、耳先がほんのりと赤く色付いている。照れ隠しのつもりで、いつもよりはしゃいでいるのだろうが、僕からして見れば彼女の心情は筒抜けの様子だった。

 

「これに関しては負けられないね!」

 

ここで重要なのは、自分は決して彼女のことを褒めたつもりでこんなことを言った訳では無いのだ。

断り文句だったのに、結果として自分の発言で彼女をこんなふうに増長させてしまっているのが何とも不服である。

 

「美緒は元気な方が丁度いいんだが……ん、しかし、どうしたものか」

 

結局、その熱量に押し潰されて負けてしまうのが彼女の隣にいる僕のオチだ。ニシシと笑う美緒の笑顔を前に思う。

彼女のらしさというものは、周りの人間に例外無く元気を与えてくれるんだ。皆が元気になれば、彼女は嬉しくて笑顔になる。そんな単純な繰り返しが1つの大切な輪を生み出していた。

その中に総介も僕も居た。孤独に彷徨っていた自分の両手を握ってくれた2人の子供の、小さな手の温もりは今でも自分が生きようと思えたきっかけだった。いつまでも忘れない、ずっと大切にしたいと……そう思うよ。

 

「済まない。今日だけは、そのくらいで勘弁してくれないか?」

 

でもね。今の僕は、人の温かさに素直に応えることが出来ない人間になっていたんだな。自分の立ち位置が何処にあるのか、ここにいる自分は何者なのか。それが解った時、僕は何処にも居なくなった。

積み重ねていたはずの時間が、まるで何も無かったかのように。昔のように純心な気持ちで手を取れる、そんな資格なんて初めから僕には無かったかのように距離感がおかしくなってしまった。自分は美緒を……いや他人に対して、こんなふうにしか見れなくなったんだ。

 

「……ごめん、結くん」

 

キラキラと輝きに溢れていた美緒の顔に影が入り、俯き口篭ってしまう。謝らなければいけないのは、すっかりと変貌してしまった自分の方だというのに。

分かっている筈なんだ。いつまでも明るい話をしていられるような場でも、そんな気持ちでも無かった。受け入れようとしてくれた人間の前で、それを自分の胸の中で都合の良い言い訳にしているんだと。

 

「ねぇ……結くんは、いつまで続けるつもりなの?」

 

少しの間を開けた、その次にされた問い掛けに自分の中の時間がふいに止まってしまう。途切れ途切れに紡がれた言葉、気まずそうに向けられた彼女の瞳が僕の全身を凍てつかせようとしていた。僕の身に何かがあった時、そのことを知った時に見せる不安を抱いた表情。両手は胸の辺りで強く握られている。

情けない……彼女の顔に泥を塗っているのに、いつだって、こんなことを美緒にさせている自分自身に嫌気がさす。

美緒にとって辛いことだって。こんなにも近くで自分が虐げられ差別される様を1番多く見てしまった。それでも、自分だけの力と想いでは他者の未来を導くことなんて出来ないことを知っているから。歯痒さなのかもしれない。これを選び、どっちに転んでも地獄だと知っているのに、1人歩き続ける僕に対して言葉をぶつけることしか出来ない。

 

「そうだな……」

 

いつまで続けるのだろうかと、そこに対する答えは至って単純なものだった。自分の考えた事が正しいと証明することが出来る時まで……と、純粋でいようとして、心の中でそうしてはいた。

実現、達成。それこそが夢を持って叶えようとする人間の終着点だと思っていた。

 

「いざ目の前で言われると本当は、どうなんだろうな」

 

たとえ、この手から崩れ落ちる定めだとしても、抱いたものの中に様々な黒い感情が入り交じっていたとしても、間違いの無いはずの志だ。そんな自分自身を僕は肝心な時に曝け出せなくなっていた。

僕には……いや、人には世界が設定した限界がある。自分1人の力と知恵では、どうしようも出来ないことがある。その無力さを1人で背負わないといけない。人は夢を抱いたとしても、それを好きに叶えられる程、世界は優しくて甘美ではない。

 

「……僕は」

 

受け入れなければならない不条理ばかり。その中で考える事を辞められた日なんて、殆ど無かったと思う。数は日に日に増えていく一方で、無力な事に方法は満足に見つからないままで。

 

「僕は、どこで終わっていいのかな」

 

自分は、またどこかで自分自身に対して区切りを付けなければ、いけなくなってしまったみたいだ。

都合の良いことを総取りだなんて誰もが夢見ることだろう。大人になるということは、そんな淡い夢からはいつかは目覚めなくてはならない。

目を覚まして、鏡と向き合うんだ。何かを得る為には何かを切り捨てなくてはいけないんだ。

自分にとって、大切に想っている人達にとっての最善とは何を指すのか。自分が持ち合わせている大切な何かの、どれを捨てるべきなのか。答えを探し続ける旅の途中、美緒に対して聞き返すようなことを口走ってしまったのは、今日のこれが初めてだった。

 

「えっ…………どうして?結君は自分の夢が叶うまで、じゃないの?」

 

そう、いつも言っていたこととは全く違う答えを聞いた美緒が戸惑いながら聞き返してきた。

誰もが子供の頃は、壮大で魅力的な夢を持つと知りはするけれど、いつだってそれは大袈裟すぎて現実と酷く乖離したものなんだ。

 

「昔のままの自分で居られなくなったんだよ」

 

思い描くものを達成する為には自身に対して、この世界に対して、今まで以上に視野を広げなくてはいけない。

遅かったな。未来を内に抱いてから、その事実に気が付くのに、自分は7年も時間をかけてしまった。だというのに、未だに僕は青い人間のままでいる。

 

「そっか……いつも通りの、普通の結君なら、そう言うと思ってたんだけど?」

 

悲しいことなのかな。不貞腐れながら風船の様に頬を膨らましている美緒に、そう思えてしまうのは自分が思い描いていた未来と美緒が見ている自分が交わらないところにあるからだ。

変わってしまうもの、良くも悪くも……いや、きっと自分は後者の方が正しいのだろう。捨てきれないものを背負って、敵を抱え込んで、状況に追われて、そうして年月が過ぎ去って。

自分が望んでしたことなのに、それが逆に自分で自分を縛り付けることになってしまったのかもしれない。

 

「なに、そう神妙にしなくたっていいじゃないか。深く捉えなくちゃいけない話でもないんだから。

僕はもう高校生なんだ。そんな事が言える歳じゃなくなった。ただ、それだけのことさ」

 

だから、あの時に美緒が見ていた僕の姿と今、美緒が見ている僕は全くの別人に見えてしまうんだよ。

 

「本当に、それだけなの?」

 

あの美緒には珍しい、疑心暗鬼な眼差しが自分の中に映り込んでいる。今の話を経れば、そうなるのも自然か。

 

「それだと嫌な人になってしまう。美緒に嘘なんて、言ったつもりは無いよ」

 

不出来な作り笑いだな……あぁ、他人が付けた眼鏡で見れば僕の全ては狂っている様に見えるだろう。普通の自分なんて此処の何処にもいない。

美緒が言ったそれは、13になる前の自分が確かに捨てたはずだった子供っぽさに溢れた綺麗な普通だった。

 

「皆、純粋なんだよな」

 

「その純粋さを持つ少女が、今お前を救おうとしているんだぜ?」

 

そうだな。お前も、お前も、お前も。みんな心が純粋すぎるんだ。

衝動的に、たった1つの芽生えた感情で体が動いてしまう。未来を決め、広げようとする。そして、初めて見た自分自身が抱くものとは、何もかもが違う誰かの情景に感化されてしまって。

いや、昔の純情を追って中途半端に縋っている男がこんな事を口に言えたものじゃないのは……

 

「分かってる」

 

そんなことは、とっくに。初めて彼女の手に触れた時に、実感してしまったんだから。

 

「気負いすぎ。あの子以上にお前が緊張してどうするんだよ」

 

「なんで笑う?」

 

僕の気持ちを薄々と察したのか、総介が呆れたようにして微笑む。

 

「天宮さんはやりやがったからさ。だって、この戦いは俺から言わせて見ても勝ち戦の様なものなんだぜ?」

 

がしかし、その次に発せられた、ゆったりとした声には似合わない奇っ怪な言葉を並べて、穏やかだった笑みは不敵なものに変わる。

場違いにも程がある呑気な姿勢で、何かを隠したような言い方には、美緒も不思議そうな表情で注目している。

生憎、天宮の"やりやがった"が分かるのは総介しかいないらしい。

 

「説明してくれ」

 

「キリュウなら絶対にそう言ってくれると思った。至ってシンプルで且つ有益な情報だよ」

 

こんな時に構ってな奴だとは思う。どうしても僕に興味を示して欲しい時は、いつもそうやって遠回しなセリフを寄越してくる。

漏れる溜め息、不本意ながら僕はそれに乗らざるを得ない。

嬉しそうに、その反応を待ってましたと言わんばかりに左手人差し指が勢いよく立つ。総介は何かしらの確信めいたものを天宮に対して感じている。こんな状況の中で彼女が抱き続けている妙な自信。おそらくはその根幹に直結している筈だ。

 

「天宮さんはな、あちら側の騎士候補生だ」

 

騎士候補生……さっきの授業の中で聞いた言葉と脳内で思い起こされる教科書の内容。それだけで説得力はあるだろう。彼女も去り際に、そんなことを言っていたような気がする。

 

「あ、あめみーが騎士候補生!?蒼ちゃん、どうして分かるの?」

 

ガタンっと、今まで大人しそうにしていた美緒が目を見開いて驚き、その勢いのまま席を立って総介に詰め寄る。

 

「み、美緒は気付いていなかったのか?目立つようなバトルフォームのデザインに、エンブレムも付けていればな……あれじゃあ、まるで広告塔だよ」

 

ふわりと、ブラウンと紺が触れ合った。柔らかな吐息を素肌で感じてしまえるであろう距離。いきなりの接近だったもので頬を林檎の様に染めて少したじろいでしまうも、その後は彼女との目線を外すことなく自身満々に、それでいて落ち着いた口調で総介は答えた。

騎士候補生は各中等部の成績最優秀賞を受賞した人間に与えられる名誉である。と、そう耳にすれば、誰もが簡単になれるような者では無い存在。そんな人間がふと隣に居たことが発覚すれば、美緒があんな風になってしまう気持ちも分からないことは無いか。

 

「そうゆうところだ、総介」

 

「俺にかかれば一目で分かってしまうもんさ。オタクの観察眼を侮るんじゃあないぜ」

 

それにしても目を見張るのは、総介のこういった知識や着眼点である。ウインクをしながら自称するように、何かしらに特化した部分なら彼の右に出る同年代は存在しない。

僕にとっては、その特有の所作や、偏りに偏り過ぎた知識が悪目立ちする印象の方が深い。正直何を言っているのか全く分からない時もあるが、それでも……いつだってそれは彼の心がポジティブでいられるものであるということは解るつもりだ。

 

「そうだな」

 

しかし、この事でそんなセリフを自分から堂々と言える程、総介の横顔は随分と安らいでいるらしい。

 

「ネオン・センチュリーで騎士候補生って、とんでもない人が現れたってことだよね!」

 

「今でもネオン・センチュリーの中で騎士はいるがな。でも、俺達と同年代なら確かに彼女はとんでもない逸材だ」

 

それはあまりに有り触れていて、あまりに運命的なものだった。過去に囚われた人間同士の出会い。そんな親近感からの繋がりも、あの時は意識していたのかもしれない。悪く言えば傷の舐め合いだ。

彼にとって拭いたくても、そうは出来ない根深いものが、過去から今へと絡みついているというのに、あんな風に前向きでいられるのは既に自分なりの線引きを終えてしまったのだろうか。

ここに居ない僕。なら、そこに居るお前は今どこに居ようとしているんだ。

 

「凄いんだな、騎士と呼ばれる人は」

 

「騎士って島と十二神皇が認めたカードバトラーなんだよ?憧れだけで慣れるようなものじゃないんだよ!」

 

「要は島を護る役目を担った人達だからな。バトルスピリッツの知識と技量を極めたトップランカーじゃないと十二神皇の力を最大限に引き出すことは出来ないし、それが出来なければ島の平和を守れない。

力量は言わずもがな、それを扱う清廉さを持ってこそ、島から騎士と呼ばれる人間になれるんだ。その候補だと認められたのが天宮さんってこと」

 

物凄い勢いで手をブンブンと振りながら、熱烈に語る美緒を、総介の知識が補う。天宮の妙な自信と余裕の根幹は自分が持つ確かな実績から繋がっていた。生半可な努力では到達さえ願えない高み。誰もが憧れを抱き、鍛錬を重ねた先に立つ人間の完成型。その近くに彼女は自分と同じ年齢で立っている。

あとは分かるだろう?と言いたげに総介がこちらに首を傾げる。

 

「天宮さんはエースってわけだ」

 

天宮の力量と日向の力量には圧倒的な差が存在していることの証明。

島の象徴である騎士。その卵に相応しい実力者であるということを島から直々にお墨付きを貰っている……か。

 

「証明してくれるさ。理屈だけじゃ説明さえ付けようも無い。純粋さ故に持つ、本当の強さってやつをな」

 

 

 

ーー超電磁レール、安定作動を確認。進路クリアー、射出システムオンライン完了。

両者、スカイ・フライヤー・ユニットへの搭乗をお願いします。

 

 

 

電子音の鐘が鳴り、管制室から女性職員のアナウンスがステージ全体に響き渡る。

総介と美緒に続いて自らの視界を右側、ステージの後ろに設営されている選手入出口へと向ければ、床が左右に割れるように開く。それぞれの選手を乗せたリフトが上昇し、それはステージ上部のライトに照らされる。

 

 

 

ーー生徒No.K-08天宮 美雪、発進どうぞ!

 

 

 

「はい!天宮 美雪、いきます!」

 

続くアナウンスの声と共に、白と青のバトルフォームを身に着ける天宮が軽やかな足取りで白銀のスカイ・フライヤー・ユニットに飛び乗る。機体の後部両サイドのウイングが展開し、内部で循環するエネルギーの穏やかで鈴の音の様な駆動音がスラスターから弾け、一筋の輝きを放ちながら勢い良く目の前のステージへと飛び立つ。

しなやかな身体を捻り、自分と機体の重心バランスを保ちながら巧みにそれを操る彼女の白銀の髪が、そのバトルアーマーのウェアが、ステージの乾いた風に靡く。

 

「あの子は、とても良い眼をしているな。この島の未来を守る騎士としてはお誂え向きだよ」

 

迂闊な言葉だろう。本当なら前向きな事、素晴らしい事のはずなのに、自分にはそう思えなかった。

彼女が居る場所は、本来なら力を持った大人こそが居るべき場所のはずだろう。大人の責務をあんな年齢から背負っているんだぞ。

自分の未来が、こんなちっぽけな島を守る為に使い捨ての兵士として命を使う事を大人達から決定付けられているんだ。本人も、抱く正義感もが、気が付かない様に、その内に……大人達が作り出したシステムの中で、そうさせられている。

人は、まともなままでは居られないから矛盾を抱えて今の安定を守る為に誰かを人柱にしなければならない。騎士というものは、その為に作り出された都合のいい平和の象徴。

守る為には、戦わなくてはならない。その者に癒えることのない傷が刻まれたとしても、他の誰かが願える自由の為に、自分が欲しかったものを縛り付けなければならない。この世界を普通のままでやっていく為には誰かが、誰かの為にやらなくちゃいけない。

そんな命の使い方を国家や民衆が英雄であると崇めようとするのなら、それは旧人類がやってきた戦いと同じ考え方だ。

 

「蒼騎さん!白宮さん!霧衣賀さぁーん!!」

 

不意に自分の名前を呼ばれて、反射的に顔が上がる。バトルステージ上空をゆっくりと舞う天宮が観客席に座る僕達に右手を大きく振ってアピールをしている。

美緒が、総介が彼女に手を振り声援を返している。きっと、これが彼女の騎士候補生としてのデビュー戦。なのにアレでは舞い上がり過ぎに見えてしまう。

目に見えた未来が待っているというのに、彼女の揺れる髪の間からは、迷いの無い碧い色が灯っていて……

 

「えへへっ!」

 

お互いの視線が触れ合った瞬間、天宮が僕に向けて柔らかく微笑んだ。

顔に出さず、平常を取り繕っていた自分の心がまた酷く掻き乱されているのがよく分かってしまう。

……若いな。僕じゃなくて、肝心な彼女があんな調子でいるものだから、余計に此方が危なっかしさを抱いてしまうんじゃないのか。

 

 

 

 

 

あの瞳を僕は知っていた。

それは自分で出来ると思い上がって、自信過剰なままで、自分が持てる力量の限界さえも見誤った昔人の影。

 

 

 

 

 

 

「……そうだね」

 

誰にも聞こえないように、1人そっと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれは、あの頃の僕だものな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーBattle Spirits Act of Aggressionー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バトルスピリッツにおける定位置に滞空するお互いのスカイ・フライヤー・ユニット。向かい合う天宮と日向、その間に冷やりとした空気が流れ込む。

これを嵐の前の静けさというものなのか、そんな雑念が脳裏をチラつく中、今まさに始まろうとする戦いを前に固唾を飲んで2人に注目する。

自分の胸に手を当てずとも分かってしまうのだ。自分の心臓は、きっと彼女のそれよりも鼓動を鳴らせていた。

 

「ふぅん……あんたが噂の騎士候補生とやらだったとはな」

 

暫くの静寂を破ったのは、天宮のバトルアーマーを下から上へと、じっくり観察する日向からだった。

彼が身に付けるバトルフォームは天宮とは違い、黒い下地のユニフォームの上に灰色の機械的なプロテクターが胸から腰にかけて、両肩、両腕部、両膝に装着されている。

彼女が装着する騎士候補生の為のバトルアーマーと比べて見劣りしてしまうくらいシンプルなデザインで構成されているが、総介曰くあれこそが一般的に支給されるスタンダードなバトルフォームだそう。

当然ながら、バトルスピリッツのノウハウを履修していない僕がそれを所持出来るわけもなく。

 

「それがどうしたと言うんですか?まさか、私が騎士候補生だと知って途端に怖気付いたなんて言いませんよね?」

 

せせら笑う日向を無愛想に、語気を強くして突き放す天宮の眼差しは、研ぎ澄まされたナイフのように鋭い。首筋に向けらた刃先は、彼女と初めて出会った時の教室の景色を思い返させられる。

 

「心外だな。俺だってバトルとなりゃあ真剣だぜ?しかも、相手は騎士に近い人間。アンタを前に屁っ放り腰じゃあ、そいつは戦士として偽物だろ。

精々、その名に恥じない歯応えのあるバトルをしてくれよ」

 

「そんな事に付き合うつもりはありません。私は完膚なきまでに貴方を叩きのめします」

 

今の彼女は溶けることの無い氷塊。心さえ凍てついて見えるかもしれない。

ふつふつと煮える怒りを抑え、あくまで勝負の場であることを心得た上で冷静に構えている。そして、最後の言葉を切った。

 

「……だから、これ以上の言葉は不要ですッ!」

 

 

 

ーゲートオープン!界放!

 

 

天宮と日向、両者が同時に言い放つと共に両者のバトルフォームから光を発し、ドーム型の光の膜をステージ内に展開される。

内部は夜景のスノードームみたく碧色の結晶が粉雪のように舞っている。システムにコアを利用しているのか、その物質の特性が色として影響しているようだ。

 

「あれが〖バトルフィールド〗だ。バトルスピリッツを行う為に囲まれた2人だけの戦場。

お互いの生み出した衝撃が外部に行き届かなくする為のものでもあるんだぜ」

 

基本的な四季が揃う、温暖な環境である島の中では見ることは出来ないだろう。上空を漂う鮮やかなオーロラが周りの碧と混じりあって、殺風景なステージに彩りと神秘的な異様感を与えている。

これが、この島のバトルフィールド……バトルスピリッツを行うための場所。最新設備とは聞いていたが、これ程のものまで作れてしまえるとはな。総介と美緒の何気ない会話からそんな言葉を耳に挟むことはあったが、実際にこの目で拝んだのは今日が初めてだ。

 

「実際に見て感じるというのはあるかもしれないが、それでも中々にピンと来ないものなんだな。バトルフィールドの中にいる2人は危険じゃないのか?」

 

「死ぬようなことは無いさ。装着されたバトルアーマーがダメージをコントロールしてくれるから、心配はいらないぜ」

 

「曖昧だ。それだけで安心した、なんて思えるわけが無い。まるで命の保証はされているが受けたダメージを完璧に0にする事は出来ない。もしかしたら怪我をするかもしれない……それらを誤魔化した言い方だよ」

 

「……俺達のおじいちゃんが産まれる大昔から、バトスピはそうなっていると伝えられている。そういうものなんだよ」

 

「昔からか」

 

大昔から人が人と分かり合う為に、この島に広がり、受け継いだものがバトルスピリッツ。

だというのに、相互理解の前に人はこれらによって傷付かなければならないとは、随分と皮肉なことになっているじゃないか。

僕達は物事の特性を理解して、その1つを多様なものに変化させる応用力を持っている。そうやって、器用であろうとして努力と時間が積み重なり今日までの発展を遂げてきた。

しかし、その果ては競技、政治、武装組織への導入。今を生きる島の人間達は、その繰り返しを肝心なバトルスピリッツで行ってしまった。

 

「そう、醜いんだな」

 

勘弁してくれと、そう溜息混じりで彼の右手がそっと肩に置かれる。バトルスピリッツの持つ力を過大評価し、発展という目先にある利益を求め囚われた人間は、昔人が掲げた大切だったものを徐々に忘れてしまうのだろう。

忘れない為に、自分達の意思でそうやって継承を繰り返してきた筈なのに。そんな連中が街のそこいらで平気な顔をして居られるから、やはり好きになれないんだ。

……そうだ、僕は最初からその気になっていたお前達とは違う。そんな僕をお前達は強制して、拒めば遠ざけて、攻撃して差別していたんだろう?

 

「止せよ。お前の気持ちもわかるけど、今は気持ち切り替えようぜ。これから始まるんだから余所見は厳禁だ」

 

ふん……なんとも厳しい声色だな。でも、それがお前の思いやりでもある。

分かっているよ総介。これは所詮、僕の世間に対する評価でしかない。バトルスピリッツに対して、こんな調子でしか物を見れないから今の現実を責めて目を背けそうになっているんだ。

こうしてしまった自分が最も彼女の試合を信じて見守らなければいけないというのに。

 

「あぁ」

 

配布された端末に予めインストールされているバトルスピリッツの基本マニュアルを起動し、改めてバトルフィールドと向き合う。状況は既に動きを見せていた。

 

「さぁ!初手の確認といこうぜ!」

 

対戦前の準備として、活き活きとした声とともに日向は。黙々と天宮は各々のプレイボードに置かれたカードの束の上から4枚のカードを1枚ずつ引いて、手に取る。

 

「悪くはないな。そっちはどうなんだ?」

 

このカードゲームは、上から引いたカードの内容を試合が始まる前に確認が出来るらしく、それらを眺める日向の口元が少し緩んでいる。

顔から見て分かりやす過ぎるのも嫌なものだ。どうやら、彼にとって都合の良いカードが手の内にあるらしい。

 

「言うわけないじゃないですか」

 

対して、天宮の反応は不変を貫いていた。眉一つ動かすこと無く、カードの内容を目で追って、即座に倒すべき相手を捉える。

穏やかな印象とは程遠い、酷く沈着に見える立ち振る舞い。彼女が見せる新たな一面に僕は目線を釘付けにされていた。

 

 

■天宮 美雪

ライフ:5

デッキ:36

手札:4

リザーブ:3+Sコア

トラッシュカード:0

トラッシュコア:0

 

■日向 龍也

ライフ:5

デッキ:36

手札:4

リザーブ:3+Sコア

トラッシュカード:0

トラッシュコア:0

 

 

お互いの〖ライフ〗ゾーンと〖リザーブ〗ゾーンに赤い色の宝石と青い色の宝石が自動的にセットされる。

客席のディスプレイには、今の2人の状況が表示されている。初期の〖ライフ〗は5つで〖手札〗は4枚。故に2人はデッキからカードを4枚引き、それを手札としたのだ。そして、使えるコアの数は赤い色の〖ソウルコア〗(後述はSコアとする)と呼ばれるものと、青い色の通常コアが3個。合計4つのコアで使って戦いが始まる。

バトルスピリッツにおいて、必要なものは〖デッキ〗と〖コア〗である。〖デッキ〗とは、カードの集まりを指しており、その枚数は基本的に40枚以上とされている。上限は無く、100枚で構築する事も可能だが、推奨枚数は40枚もしくは41枚。選び抜かれたカードを用いるのが、セオリーらしい。

そして、〖コア〗は基本的に上記カードを使用するにあたって必要なコストの支払いや、スピリットカードと呼ばれるカードの維持、レベルアップに必要である。

カードとコア。この2つの要素が無ければ、バトルスピリッツは成り立たない……

 

「熱心だな。好きだぜ、キリュウのそういうところ」

 

まだ使い慣れていない手元の端末を横にフリックし、画面に表示されたバトルスピリッツの基本マニュアルに記述された文章を眺めながら、目の前の状況とを行き来して照らし合わせる。辛うじて把握まで漕ぎ着けることは出来たが……

嫌な事に一部始終を横目で見らていたのか、総介が興味津々に僕の端末を覗き込んできた。グッと彼の頭頂部が僕の長髪を押しのけ、肩に乗せられた顎の重みをじんわりと感じる。ふわりと鼻を擽るのは、いつも彼が使っているシャンプーの香りだ。

美緒に攻められた際には貧弱な姿を見せていたのに、自分がやる時は無意識で大胆で一切の遠慮も、恥じらいも周りの注目さえも気にしない。

 

「こんな所で何も知らないままで居るのが嫌なだけさ」

 

これは僕と総介と美緒にとっての有り触れた世界……だから、こんな些細な事に今更言及なんて水臭いことをする必要は無い。テキストに目を通しながら淡々と答える。

 

「あぁ、キリュウはそういう律儀な男だな」

 

虫の良い話は嫌いだ。自分にとっても、相手にとっても。

彼女が自分の為に戦おうとしているのに、此処でのうのうと座って何も知らず眺めているだけでは居られない。動機は罪悪感、自己満足の為かもしれない。他人からそう思われても、実際にそうであったとしても、あの場で頑張ろうしている彼女の前で怠惰な自分で在りたくはなかった。

 

「先攻と後攻を決めましょう」

 

再び横にフリック。次ページの内容では、どちらが先にカードをプレイするかの順番、所謂お互いの〖先攻〗と〖後攻〗を決めるという手順を踏んでいくことになる。

天宮がプレイボードの左横に固定、接続されたコントロールディスプレイを徐ろに操作しようと手にかけようとした時、それを遮るように日向が笑った。

 

「その必要は無いぜ。アンタが好きなように選べよ」

 

「……随分と余裕があるみたいですね。私に選ばせて、本当に良いんですか?」

 

本来のルールであれば、先攻と後攻の決定権は公平な手段を用いて得られる。しかし日向はそれらの過程を放棄して対戦相手である天宮に権利を譲渡した。

なぜ、自らを不利にするような状況を作ろうとしているのか。不可解な発言に両隣は驚きで見開いており、天宮は眉間に皺を寄せ、彼を鋭くねめつける。

 

「アンタは巻き込まれた立場だからな。せめてもの良心だ。それくらいの選択肢は譲ってやる。新人類さんの実力、お手並み拝見ってやつだよ」

 

ネオン・センチュリーの天宮が騎士候補生と知っても尚、日向の醜くニヤついた顔と他者を見下す態度は変わらない。彼もまた、自身が取り巻く環境の中では実力者として力を振るっていたのかもしれない。天宮と同じ様に自分の持っている力に絶対的な自信があると見えるからだ。

小賢しいことに、彼は初めて戦うネオン・センチュリーの力量を測る為にわざと選択肢を渡したということになる。

 

「……っ!なら先攻を貰います。私の事を舐めているつもりでしょうが、選択を委ねてしまったことを後悔すればいい!

スタートステップ、私のターンです!」

 

怒りを顕にしながら天を指して宣言する。天宮の声に反応して灰色のプレイボードの縁に蒼光が灯った。

〖スタートステップ〗は自分の番の始まりを示すステップだ。

 

「ドローステップ。デッキからカードを1枚ドロー」

 

 

■天宮 美雪

デッキ:36→35

手札:4→5

 

 

「そして、メインステップ。私は手札から通常コアを使って、3コストで白のネクサスカード、No.24トリプルヘビーをソウルコアを置いてLv2で配置します!」

 

 

■天宮 美雪

手札:5→4

リザーブ:3+Sコア→0

トラッシュコア:0→3

 

《配置》

【No.24トリプルヘビー】

属性:白

カテゴリー:ネクサス

系統:無し

コスト:3

軽減シンボル:白白

LV:2

コア数:Sコア

状態:回復

シンボル:白

 

 

〖ドローステップ〗はデッキの上から1枚だけカードを引き、自分の手札とするステップ。そして、増えた手札のカードを〖メインステップ〗で自由に使うことが出来る。

天宮が手札から1枚のカードを選び、プレイボードに出す。彼女のリザーブゾーンの青い色のコアが〖トラッシュ〗ゾーンに送られ、そのカードの上にソウルコアが置かれる。

ただ、そうしただけなのに天宮が滞空する周りのステージが突然大きく揺れ始め、同時に凄まじい土砂の轟音と重機の工事音が交互に鳴り響く。

 

「なんだあれは……!何が起きている!?」

 

それらは徐々に複雑なレース用のコースを形成し、最後に黄色と黒のキープアウトの張り紙が取り除かれる事でトリプルヘビーと名付けられたサーキット会場が完成される。

レースの開催を表しているのか、天宮のフィールド上空にはトリプルベビーから放たれた白い色の花火が賑やかに咲き誇っている。

 

「どうやら天宮さんのデッキは白色で構築されている様だ。初手はネクサスカード、良いスタートだな」

 

僕は一体、何を見てしまったのか。目の前で起きた怪奇現象なのだが、横の2人はまるで見慣れたような表情で納得した様子で頷いている。しかも総介に至っては何やら聞き馴染みのない固有名詞を吐きながら右手を顎に当てて、天宮の状況を分析している。

誰もが落ち着き、静まり返っている中で自分だけがポカンと口を開けて愕然としてしまった。あまりの展開に手が止まり、肝心なタブレットのページも解説が追い付けていない。

 

「……ネク、サス」

 

「建物のカードのことを言うんだよ!フィールドに配置することで効果を発揮するカードなんだ!」

 

「極めて簡単に言えば、美緒が言った通りになるな。

また、ネクサスカードはスピリットカードと違ってアタックとブロックをすることが出来ない」

 

そこに存在するだけで周りに影響を与え、意志を持たず生命として動くことは出来ない。まさに建物の特徴を捉えたデザインということか。

非常にシンプルな説明をしてくれたが、今の自分には丁度いいくらいだ。あのサーキットを含めた、建造物を象ったカードの総称を〖ネクサスカード〗というのか。

 

「まさかな。美緒のざっくりとした物言いが、こんなに助かったと思ったのは今が初めてだよ」

 

「分からない事があれば何でも言ってよね!

ふふふ!このセリフ、1回でもいいから結君に言って見たかったんだよね〜」

 

「お、その気持ち俺も分かるぜ。だってさ俺達からキリュウに何かを教えられた機会なんて、そんなに無かったからな」

 

2人揃って情けないセリフをよくも僕の前で堂々と言ってくれる。バトルスピリッツに夢中で他に必要なことを怠ってしまうから、普段の成績で悲惨を見てしまうんだろうに。

赤点回避の為に2人が泣き付いてきた回数を僕はハッキリと覚えているんだぞ。

 

「にしたって、あの建物が戦うことの出来ないカードだというのなら、それをわざわざ最初に置く事に何かしらの訳があるみたいじゃないか。

例えば、次の天宮さんの番に効果が発揮する的な、そんな感じか」

 

「は……?嘘でしょ。初見でそれに気付くのは、流石に鋭すぎない!?」

 

「驚いたな。こうして見るのは初めてなんだろう?」

 

「大袈裟じゃないか。これを見るのは初めてだし知識だって無い。だけど、この場で彼女が無意味な事をするとは思えないから僕なりの考えを当てずっぽうで言ってみたまでだよ。

物事における、その行動の後には何かしらの意味をもたらしてくれるはずだ。それはバトルスピリッツも例外じゃないだろ?」

 

「これだから天才は……ッ!でも、今はあえて言わないことにしてやるね。

いきなりネタバレなんて、味気ねぇことはしないさ」

 

あえて意地汚い言い方をした総介に思わず眉が動いてしまうが、それよりもバトルスピリッツ現役の2人から目を丸くして、それなりの評価を受けることになるとは思わなかった。2人とも、あんな顔をしているが面を食らったのは僕の方だ。

今は目の前の光景を見て感じたことを連ねることしか出来ない。そんな素人目線に加え、納得できる要素など何一つ無い子供地味た感想を適当に吐いただけなんだな。

 

「続けて、手札にあるバースト効果を持つこのカードをバーストでセットします!」

 

もう一手。天宮が何やら妙なアクションをとった。手札のカード1枚を裏向きにして、その内容が見えない様にプレイボードの左奥に伏せる。

フィールドには黒い下地のカードが滞空する彼女の隣に浮かび上がる。その縁に白い茨模様が絡みつき、中央にはBSの文字が刻まれた。

 

 

■天宮 美雪

手札:4→3

バーストカード:無し→有り

 

 

「裏向きのカード……?何のカードか分からないじゃないか」

 

「それこそが正しい状態だからな。〖バースト〗と呼称され〖バースト効果〗ってのを持ったカードを1ターンに1回、1枚だけを手札から裏向きで伏せる事ができるんだ」

 

「じゃあ、あれはいつ使える?」

 

「伏せたカードには発動条件があるから、それを満たした時に任意で発動できるんだよ。

しかも、発動条件はカードによって様々だから相手からすれば何を伏せたのかなんて検討もつきませーん!」

 

「いきなり複雑な仕組みを持ち出してくるものなんだな」

 

「ほう……なら、これをどう思う?キリュウ」

 

「使い手の、より効果的な発動タイミングも繊細だし、いつ発動されるか分からない代物を向こうも持っていると考えた方が良い。

お互いに伏せられたそれが何かを読み、探りあいながら選択をしないといけない……か」

 

バーストカード……こちらが決まれば圧倒的優位に立てる要素と言えるだろう。逆にその読みを1歩でも外すことになれば、頭の中で構築していたゲームプランは崩壊し有利不利の天秤は一気に傾く。

そんな強烈なプレッシャーのある一手を試合開始の1番目に日向に対して仕掛けるなんて、天宮は僕が思っていた以上のネオン・センチュリーなのかもしれない。

 

「だからさぁ〜なんで解るのぉ?」

 

「普通に考えてみただけだ。何も特別なことはないさ」

 

右からだる絡みしてくる美緒の両手を弾きながら言葉を返す。

自分は不必要なものは全て切り捨ててきた。極端な話、バトルスピリッツに対する知識は欠如している。それでも彼女が今ではなく、先の先を見据えた戦い方をしていると感じることは出来た。

騎士候補生と言われるに相応しい戦い方をしていると、見て感じることができるのだ。

 

「これでメインステップは終了。エンドステップ、ターンエンドです」

 

……しかし、僕の考えがやはり浅瀬のものだと思い知らされたのは、次の彼の番の出来事だった。

 

 

■天宮 美雪

ライフ:5

デッキ:35

手札:3

リザーブ:0

トラッシュカード:0

トラッシュコア:3

 

■フィールド

【No.24トリプルヘビー】

属性:白

カテゴリー:ネクサス

系統:無し

コスト:3

軽減シンボル:白白

Lv:2

コア数:Sコア

状態:回復

シンボル:白

 

■バーストカード

:有り

 

■手元

:無し

 

 

「白のネクサスにバーストカード。まずは安牌な地盤固めってところか。

俺のターン!スタートステップ!」

 

天宮のスカイ・フライヤー・ユニットに点っていた光が、次は日向の方へと移る。彼の番が巡ってきたということだ。

 

「コアステップ、ドローステップ、メインステップ!」

 

 

■日向 龍也

デッキ:36→35

手札:4→5

リザーブ:3+Sコア→4+Sコア

 

 

「俺は手札から紫の〖スピリットカード〗、クリスタニードルを通常コアを置きLv1で召喚!コイツのコストは0コストだ!」

 

プレイボードに手札から1枚のカードとリザーブからコア1つがその上に置かれる。

日向側のフィールドに紫のクリスタルが出現。そこにヒビが入り、砕けると同時に黒紫色の小さな竜が生れ出る。

 

「来たか、龍也のスピリットカード。あいつのバトルは、いつもクリスタ・ニードルから始まるんだ」

 

あれこそがバトルスピリッツの本命。総介が言っていたアタックにもブロックとやらにも使える、バトルスピリッツの中心と言えるスピリットカード……

 

 

■日向 龍也

手札:5→4

リザーブ:4+Sコア→3+Sコア

トラッシュコア:0

 

《召喚》

【クリスタニードル】

属性:紫

カテゴリー:スピリット

系統:妖蛇・死竜

コスト:0

軽減シンボル:無し

Lv:1

コア数:1

BP:1000

状態:回復

シンボル:紫

 

 

相対する天宮を威嚇するクリスタニードルの甲高い声がバトルフィールドの壁を貫通して、身体の全身を走る。

敵と認知した者に対して行われる生物的本能。宙をうねる動物的筋肉の動き、その肉々しさを纏う紫の鱗はバトルフィールドの照明に照らされ鎧の様な艶と光沢を浮かべている。

 

「本物なのか……」

 

出来のいい剥製や3Dホログラム、いいや。そんなものじゃあ比べ物にならないリアリティ。あんな小さな紙から突如として生まれ出たというのに、その全てがリアルな生き物のそれと同じであることに思わず信じられないと、声が溢れ出てしまった。

 

「正真正銘の生命だよ。あのレース場も、これから出てくるだろう他のカード達も例外じゃない。バトルフィールドの中では、バトルスピリッツのカードは全て完全に実体化される。

バトルスピリッツの全ての源は、コアが作り出すエネルギー。それを糧にして彼らはこの戦場でのみ、本当の姿を取り戻すことが出来るんだ」

 

カードはその者の器、そこへ魂となるコアを入れることで彼らは生きる事ができる。バトルフィールドは、その者達が本来の姿で存在することが許された唯一の鳥籠のようだ。

同じ島の中だというのに知っていたはずの世界から、いきなり別の世界に飛ばされたような錯覚を見せられている気分だ。こんなファンタジーを前にすれば、総介や美緒のような人間なら興奮を隠しきれないかもしれないが自分の感情は彼らの逆だった。

 

「あれが本物だと言うなら、人間が持てる想像を絶する存在の実在になってしまうじゃないか……!」

 

「この世界に現れたコアと俺達が持っているバトルスピリッツのカードは確実に繋がりを持っているということの証拠だ。その文献も既に出ている。

人類の頭じゃあ行き届かない歴史がバトルスピリッツにはある。そうでなければ、世界はこれに注目なんてしない。ただの子供向けホビーで終わっていただろうさ」

 

ただ絶句。あんな者の存在を人間の支配する世界で認めろと?今までただの紙切れだと、竜だなんて空想上の生き物だと思っていたというのに。

 

「……そうだよな。今まで、必死に自分を貫いてきたんだ。いきなりこんなモノを見ちまえば、そうなってしまうのも無理はねぇよ」

 

頭が拒否反応を起こしているのに、いきなり叩きつけられた目の前の恐ろしい光景に、僕は震え上がった。

 

「……紫のスピリット。貴方、紫デッキの使いですか」

 

「そう言うアンタは防御が売りの白デッキだろ。そのつもりなら、こっちは攻めるべし!

続けて、蛇僧侶ハリムをソウルコアを置いてLv1で召喚する!コイツのコストは3だが、クリスタニードルが持つ紫シンボル1つによって1軽減、2コストを通常コアで支払う!」

 

日向のフィールドのクリスタニードルが持つ紫色のシンボルが光り輝く。次の瞬間、竜の隣に現れた新しい紫色のクリスタルから顔と下半身が蛇、人間の上半身に白衣を着用した異形の長蛇が槍を携え、黒煙から這い寄る。

 

「なんだ、今度は紫の蛇が出てきた。しかも蛇のカードのコストが減った。いや、支払うコアの数が減っている……?」

 

「〖コスト軽減〗だね。バトルスピリッツのカードには〖属性〗って呼ばれる〖色〗と〖シンボル〗っていうカードの右下に描かれた綺麗な宝石があって、それぞれ赤、紫、緑、白、黄、青の6色あるの。

そして、フィールドにシンボルを持ったカードがあれば、そのシンボルの色と同じ色の〖軽減シンボル〗を持つカードのコストを、フィールドのシンボルの数分減らして使うことが出来るんだよ」

 

「今のシチュエーションを説明すれば、ハリムのカードに表示されている左上のコストは3。その右横にあるのが軽減シンボルを表しているんだ。色はクリスタニードルと同じ紫。

だから、コストを1つ軽減して2コストであのカードを召喚できるって仕組みだ」

 

「なら全てのカードコストを軽減シンボルとやらで0コストってことに出来るんじゃないのか?」

 

「そうは問屋が卸さないんだよね。軽減シンボルには上限があって、その数と色はカードによって異なるの。

さて、ここでハリムの軽減シンボルを見ると、その数は1つだけだから〜?」

 

「どれだけフィールドにシンボルを並べたとしても、あのカードは1コスト分しか軽減が出来ず、最低でも2コスト分のコアを払わないと場に出せない」

 

「そうそう!そういうことだよ、結君!」

 

「なるほど……よく出来たシステムってことだ」

 

 

■日向 龍也

手札:4→3

リザーブ:3 Sコア→1

トラッシュコア:0→2

 

《召喚》

【蛇僧侶ハリム】

属性:紫

カテゴリー:スピリット

系統:妖蛇

コスト:3

軽減シンボル:紫

Lv:1

コア数:Sコア

BP:1000

状態:回復

シンボル:紫

 

 

「ハリムの召喚時効果を発揮。俺はデッキからカードを1枚ドローする」

 

 

■日向 龍也

デッキ:35→34

手札:3→4

 

 

「……さて、そっちのバーストはどうなんだ?」

 

「ん、バーストの発動はありません。ターンを続けてください」

 

「てことは召喚時効果発揮後でも無ければ、手札増加後という訳でも無さそうだな。

なら次は紫のネクサスカード、No.32アイランドルートだ!このカードのコスト3をクリスタニードル並びに、ハリムの紫シンボルによって2軽減、1コストを通常コアで支払い、Lv1で配置する」

 

続けて日向は、天宮と同じネクサスカードを配置した。

全体のステージから半分、日向側のフィールドが黄昏色に染まり、彼の後ろには巨大な根で支配された島が激しい飛沫をあげ絶海から浮上する。根は島の上に建てられた小さな祠を護るように、また来るものを拒むかのように妖しくうねり伸びていく。

 

 

■日向 龍也

手札:4→3

リザーブ:1→0

トラッシュコア:2→3

 

《配置》

【No.32アイランドルート】

属性:紫

カテゴリー:ネクサス

系統:無し

コスト:3

軽減シンボル:紫紫

Lv:1

コア数:0

状態:回復

シンボル:紫

 

 

「No.32アイランドルートの配置時効果!自分はデッキからカードを1枚ドローする。よって、カードドロー!」

 

 

■日向 龍也

デッキ:34→33

手札:3→4

 

 

宙を泳ぐ竜に蛇の僧侶。天宮よりも充実したフィールドを自慢げに見せつける日向の紫色のカード達は生命的な生々しさや、闇を司る禍々しさの目立つものが多く印象を受ける。

……自分は少なくとも、あれらを好きにはなれない。なんだか、僕にとって嫌な予感がする。

 

「なるほど、2体のスピリットとネクサスの配置。フィールドには紫のシンボルが3つに加え、それぞれの効果による2ドローにより手札の消費は帳消し。

後攻1ターン目からはコアステップがありますから、召喚されたカードのコストと軽減シンボルの数を見るに、横に展開したいから必要なコア数を増やす為に私を煽るような真似をして選択を委ねましたね?」

 

「さぁな。仮にアンタが後攻で俺が先攻だったとしても、やる事はほとんど同じだぜ?

ほんでもって、こいつで仕上がりだからよ!手札からバーストをセット!」

 

日向のフィールドに天宮と同じような裏向きのカード、バーストカードが出現する。お互いに1ターン目からのバーストセット。

後攻から追加される〖コアステップ〗によって、〖ボイド〗と呼ばれる場所からコアがリザーブに1つ増えたことに加え、軽減シンボルを利用することで、あんな風に動くことが出来るなんて。

 

「バースト……後攻1ターン目に4アクション」

 

明らかに天宮のターンよりも長いメインステップだ。

彼女のフィールドには白いサーキットと、伏せられたバーストカードのみ。なんとも言えないが、手札を見つめる表情に少しばかり緊張が走っている。

 

 

■日向 龍也

手札:4→3

バースト:無し→有り

 

 

「よし、これで場面は整ったな。それじゃあメインステップは終了して、大人しくターンエンド……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とでも言うと思ったかァ!?

アタックステップに移行して、蛇僧侶ハリムでアタックだッ!」

 

ターン終了と思わせた束の間、猛烈な勢いで日向がプレイボードのハリムのカードを横に向け攻撃を宣言。攻撃の指示を受けた蛇のスピリットは狂気的な笑い声を響かせながら自身よりも長い槍を前へ構え、下半身をくねられて前進する。その姿は狂信者の暴走。

僧侶という戦闘には控えめなイメージから逸脱した意外な白兵戦を前に、彼女のフィールドには壁となるスピリットカードは無い。

 

 

《アタック》

【蛇僧侶ハリム】

状態:回復→疲労

 

 

「フッハハハハァ!後攻がコアステップだけだと思うなよ?アタックステップもあるのさ!」

 

なんて理不尽なルールなんだ……!後攻の1ターン目から〖コアステップ〗による、使用コアの増加に加えて、相手に攻撃が出来る〖アタックステップ〗が追加されるのか。

あの白いネクサスが防御に使えないなら、天宮には自身を守るものが無いじゃないか!いや、あの伏せられたカードはここで発動されるのか?もし、あの伏せられたカードをこのタイミングで使うことが出来るのなら、彼の攻撃を防げるかもしれない。

あの蛇はもう、目と鼻の先。どうなんだ?そのカードはいつ発動されるんだ……?

 

「バースト発動はありません。並びに防御側のフラッシュのカードもありませんよ!」

 

「攻撃側か、俺のフラッシュも無いぜ」

 

アタックステップでは、〖回復状態〗のスピリットを〖疲労状態〗にすることで相手プレイヤーに攻撃する事が出来る。

そして、防御側から攻撃側の順番に〖フラッシュタイミング〗の確認が行われる。フラッシュタイミングでは〖フラッシュ〗と記載されたカードの効果を使用でき、お互いにフラッシュタイミングの宣言が無しとなるまで確認が繰り返される。

……しかし、天宮の手札に彼の攻撃を躱すことの出来るカードがあったとしても、そのコストを支払う為のコアは、さっきのネクサスの配置に使っており残っていない。加えて頼みの綱であろう伏せられたバーストカードは虚しくも、ぴくりと音さえも立てなかった。

 

「ってことなんで、大人しくライフで受けるんだなぁ!」

 

スピリットによるブロックの宣言が出来なければ、アタックしたスピリットが持つシンボルの数分、防御側のライフが減る処理に移る。

伏せられたカードの真横を素通りして、好機とばかりに邪悪に満ちた笑みを浮かべた僧侶は鋭利な凶器を無防備な少女へと突き立てた。

 

「くぅ……ッ!」

 

天宮の険しい横顔、両腕を前にして構える。彼女を守る為にバトルアーマーから一瞬で展開された光の盾が無慈悲な斬撃によって砕け散り、抑えきれなかった衝撃は天宮の身体をダイレクトに襲う。

 

「ハリムの紫シンボルの数は1つ、だからまずは1発だ。フフ……どうだ痛いか?お前も俺に盾突いた報いを受けることだ」

 

 

■天宮 美雪

ライフ:5→4

リザーブ:0→1

 

 

「天宮さん大丈夫なのか!?」

 

衝動的に席から前へ乗り出して大声を上げていた。こうなってしまうことも分かっていただろうに、それでもと彼女が行く姿を見届けたというのに……

 

「落ち着いて結君!実体化したスピリットの攻撃を受けても、ダメージコントロールとライフバリアー機能があるから大丈夫だよ!」

 

美緒が僕の右腕と肩を掴んで声を荒らげる。

 

「そんな事は分かっている!でもね、実際にこんなものを見せられれば、僕みたいにもなってしまうだろ……!」

 

これが皆にとって、彼女にとって杞憂であることは知っている。死ぬ事は無い。大怪我を負うことも無いかもしれない。外部から手厚いまでの保証を施されていたとしても、やはり人が目の前で無防備なまま傷付く姿にはキツイものがある。あんなものを見て耐えられるはずが無い。

この事実を自分が招いたものなら、そうだろう。

 

「霧衣賀さん、私は大丈夫ですよ……!」

 

バトルスピリッツは自分の持つライフが0になれば敗北となる。

戦いの勝敗を左右するライフを1つ失っても尚、心配させないと僕の前では微笑みを絶やさない。

 

「それでも痛いはずだ。僕は、君の声を聞いているんだ」

 

そんな顔をしていても、隠すことはできていない。痛みを無理やりにでも押し殺した彼女の微かな声が僕の胸を締め付ける。

 

「やっぱり、貴方は優しい人ですね」

 

「……それを自分で認めることは出来ない」

 

「私はそう思っています。だって、こんなに心配してくれたのは、貴方が初めてだったんですから。

バトルスピリッツはライフが減る事が日常茶飯事で、私も皆もこの痛みには慣れてしまいました。少しだけビックリしたけど、それ以上に私の事を思ってくれて嬉しかった……!貴方の期待を背負ってるんです、負けられませんよ!」

 

……ん、そんな。そうか、板挟みだな。こんなに醜い自分が居るのに、そんな中で自分を肯定するような言葉を言われてしまえば、こんな所でどんな顔をしていいか分からなくなってしまう。呆れて乾いた笑いが出てしまいそうだ。

何処までも青く、折れることの無い真っ直ぐな心が、あの子の本質。逆に、だからこそ君はそこまでの居場所を掴み取れる。

 

「改めて見ると、嫉妬もできないな」

 

ネオン・センチュリーの天宮 美雪か。

参ったなぁ……なにもかも、今回ばかりは本当に。こんな自分を嫌になってしまうよ。

 

「自分を責めることは無いんですよ、霧衣賀さん。この後の事は、私に任せてください」

 

「僕に出来ない事を君は出来る……そう言ったね」

 

「そして私に出来ない事を貴方は出来る。ですよ」

 

「あぁ……ここは、君に任せる。君の強さを僕は信じている」

 

「はいっ!!」

 

先程の苦痛を含んだ声とは違う。張りのある年頃の女の子らしい声だ。にこやかに白い歯を見せ、目の前の戦いに向き直る。その姿はなんと頼もしいことか。

 

「友情ごっこは終わりか?ライフ1つで騒がしい……待ってやったんだから、さっさとライフ減少時のバーストでも宣言したらどうだ」

 

「ライフ減少時の発動もありません。さぁ、貴方のターンを続けてください」

 

天宮が静かに答える。ライフが1つ減ってもフィールドに伏せられたカードは沈黙を保ったまま。

彼女の瞳は対岸の表情を観察しながら次のアクションを待ち構えた。

 

「お前……一体何のつもりだ?」

 

動揺。戦いの手を止め、一瞬大きく見開いた日向が天宮を睨み付ける。

 

「ふふふ、やっぱりですね。だから貴方は、このタイミングでアタックをしなければならなかったんです」

 

それを受けて天宮の口角が妖しく上がる。

 

「……はぁ?」

 

「日向さんの気持ちは手に取るよう分かりますよ。私の伏せたバーストがどんな条件で発動するのか気になっているんですよね?

私と同じように、場面の整備という当初の目的に加え、バーストを早期に吐かせる為に後攻1ターン目のアクションをあえて増やし、リスクのあるアタックをしてまで発動のタイミングを伺った。

そこまで貴方が大胆に動けるのは、このタイミングで開かせば後攻になった貴方が優位に動けるリカバリー方法が手札にあるから。このターンで貴方が誘発させようとしたバーストの内容は次の4つです。1つ、召喚時発揮後。2つ、手札増加後。3つ、相手のスピリットのアタック後。4つ、ライフ減少後……そうでしょう?」

 

舐めるような声色で図星をつかれたのか、バツが悪そうにする顰めっ面の無言は彼女の言葉を静かに肯定していた。

 

「でも残念したね。私はそうするべきだと思ったから、こうしたまで。貴方が思うようにバトルが進むわけないじゃないですか。

それに私のバトルスタイルを貴方にどうこう言われる筋合いはありません」

 

「チッ……ならばッ!」

 

舌打ち、苛立ちを露呈させられた日向が次の一手を講じようとプレイボードのクリスタニードルに触れ、宣言をする手前で天宮が更に畳み掛けた。

 

「次の予定ではクリスタニードルでアタックですよね?私の使うデッキが白属性だと知ってから早期決着の為に低コストのスピリットでビートダウンも予定の内に入れ始めた。でも、そんな事をしても無駄ですよ。

No.24トリプルヘビーのLV1、2の相手のアタックステップでの効果。コスト4以下の相手のスピリット、アルティメットのアタックでは私のライフは合計で1つしか減らされません」

 

「……つまり、これ以上のアタックは通らないってことかよ」

 

「私からのささやかなお返しとでも言いましょうか。しかし、後悔先に立たずですね。私に選択肢を与える事が後でどうなってしまうのか、理解しましたか?」

 

「フン、ご忠告どうも。それはそれは白らしい立派な効果をお持ちのようだが、逆にそんくらい厄介な方が嬲り甲斐があって面白いってもんさ。

これでアタックステップは終了、エンドステップで俺のターンは終了だ」

 

 

■日向 龍也

ライフ:5

デッキ:33

手札:3

リザーブ:0

トラッシュカード:0

トラッシュコア:3

 

■フィールド

【クリスタニードル】

属性:紫

カテゴリー:スピリット

系統:妖蛇・死竜

コスト:3

軽減シンボル:無し

Lv:1

コア数:1

BP:1000

状態:回復

シンボル:紫

 

【蛇僧侶ハリム】

属性:紫

カテゴリー:スピリット

系統:妖蛇

コスト:3

軽減シンボル:紫

Lv:1

コア数:Sコア

BP:1000

状態:疲労

シンボル:紫

 

【No.32アイランドルート】

属性:紫

カテゴリー:ネクサス

系統:無し

コスト:3

軽減シンボル:紫紫

Lv:1

コア数:0

状態:回復

シンボル:紫

 

■バーストカード

:有り

 

■手元

:無し

 

 

「なんだ?今のは……なんだか、とても不思議なやり取りだったと思わないか?」

 

「蒼ちゃん、どういうこと?」

 

2人のやり取りに違和感を感じていたのか、首を傾ける総介に美緒が聞く。

 

「龍也のアクションはフィールドの展開と天宮さんが伏せたバーストの炙り出しが目的だった。そして、最後はアイツも言ってなかったが、小型スピリットによるビートプランも隠していた。

後攻の1ターン目にしては完璧な動きを見せたが、その全てが天宮さんに見透かされていたように見えるんだよ」

 

「でもさ、それってトリプルヘビーの効果が偶然噛み合ったとかじゃないの?」

 

「俺も最初はそう思ったんだが……違うね。天宮さんのあれは、そういう言い回しなんだよ。

そう、美緒の言葉を借りて少し言い換えるなら、噛み合うように彼女が前もって差し向けたと言ったところかな。

しかも、あれだけの動きをして揺さぶりを掛けたのにバーストの発動は一切見せること無し。それが結果的に龍也からの視点では、どういった発動条件のものなのかが全く分からなくなった」

 

「……だが総介。天宮さんのライフは1つ奪われている。認めたくはないが、1歩リードされたんじゃないのか?」

 

「いいや、この時点で彼女が圧倒的にヤバくなった訳じゃない。ライフの減少によって、減ったライフのコアはリザーブに移動する」

 

「使えるコアの数が1つ増えるってことか」

 

「そうだ。ライフの減少さえも駆け引きの1つになるのがバトルスピリッツだ。

でもな、逆に序盤から極端にライフが減らされるのもよろしくは無い。後半戦に向けて長期戦を考えるなら、ライフレースをしていられる余裕が無くなるからな」

 

「……っ!?じゃあ、あめみーはヒュウ君の狙いを把握して、その行動価値を無意味にさせた上で、あえてライフを減らすことで次の番で使うコアを増やそうとした。

減らされるライフの数さえ自分のカードで調整していたってことなの?」

 

「そこなんだよね。それが天宮さんの本当の狙いなら益々妙ってことになるだろ。あの子は、一体どの地点からバトルの流れを読んでいた?」

 

そんな馬鹿げたことがあるというのか?彼女が先攻から始めれば、日向が何のデッキを使うのかなんて、そのカードが公開されるまで把握することは出来ないはず。だから、さっきのターンに出来たことは次の自分の動きを強く出来るような展開だろう。

あのネクサスカードはそういうものだと思っていた。なのに、それは相手の攻撃の一手さえも抑制してしまう力を併用したカードだった。

自分の動きだけじゃない、相手の動きを見越してピンポイントで選択を行った彼女のカードセンスは、まるで未来予知みたいだ。

 

「預言者のつもりでいるのか」

 

「ネオン・センチュリーはとんでもない力を持った人達だと知ってはいたが、まさかな。

あの子は手札のカードを見た瞬間から、この展開を予知していたとかじゃあ……ないよな?」

 

確かにネオン・センチュリーは僕達のようなオールド・センチュリーよりも総合的に能力が高い。それも今までのオールド・センチュリーには到達できない、全くもって未知の部分も含めてだ。

有り得るかもしれないという考えが自分の中で、ごく普通に至ってしまうのが逆に怖いものだ。一体何をどうすれば、相手の太刀筋の詳細を洞察できるのだ。

 

「私のターン!スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ!」

 

 

■天宮 美雪

デッキ:35→34

手札:3→4

リザーブ:1→5

トラックコア:3→0

 

 

さて、巡り帰ってきた天宮のターン。気がかりなのは日向伏せたあのカード。彼女も、あれを警戒しながら慎重にカードを選ばなくてはいけない。

 

「私は手札からコスト5のカード、丁の恐竜機ディノニク・ウォーカーを召喚します!」

 

メインステップ開始の宣言からインターバル無しで彼女が手札から提示したのは、コスト5の白のスピリットカードだった。今のリザーブの数は6なのに、あんなコストのカードを……いや、違う。シンプルに見るのではない。ということは、さっきのターンに出たネクサスの出番になる流れか。

 

「ここで、No.24トリプルヘビーLv2の自分のメインステップの効果!このカードにソウルコアが乗っている間、自分の白のスピリット、ブレイヴを召喚する時、このネクサスに白のシンボルを3つにします!」

 

トリプルベビーの上空に白のシンボルが1つ浮かび上がる。続けて、先程みたく花火が打ち上がり、その模様は白のシンボルを模した煌めきを放つ。

ソウルコアがこのネクサスに置かれている間、花火は白い輝きを放ち続ける。

 

 

【No.24トリプルヘビー】

シンボル:白→白白白

 

 

「お前の予想は的中だな。キリュウ」

 

「やはり、あれはコスト軽減の為……次のターンの為に事前に配置したんだ」

 

「その通りです!よって5コスト白3軽減2コストで召喚!」

 

天宮が1番初めに召喚したスピリットカードは機械仕掛けの二足歩行の恐竜。深紅の装甲に両眼のカメラアイに青く鋭い光が灯り、起動する。

両腕部に当たる箇所には攻撃用のアサルトライフルが装備されている。白属性は機械をメインテーマとしたカードで構成されているらしく、紫の様な生々しさは一切感じられない。

系統は読んで字のごとく、機械の獣を表した機獣と表記されている。

 

 

■天宮 美雪

手札:4→3

リザーブ:5→3

トラッシュコア:0→2

 

《召喚》

【丁の恐竜機ディノニク・ウォーカー】

属性:白

カテゴリー:スピリット

系統:十冠・機獣

コスト:5

軽減シンボル:白白白

Lv:1

コア数:1

BP:5000

状態:回復

シンボル:白

 

 

敵対する相手のスピリットカードが召喚されたことで、回復状態のクリスタ・ニードルが威勢よく咆哮を行うも、ディノニク・ウォーカーはそれに対して付き合いよく反応をすることは無い。機械で出来た恐竜にそのようなものは無く、内部にプログラムされた動きを行うまでであろう。

 

「ディノニク・ウォーカーの召喚時効果を使います!私のデッキからカードを5枚オープン!」

 

ディノニク・ウォーカーの効果が発揮され、

天宮のデッキの1番上から5枚のカードが捲られ、それらの情報が1枚ずつ開示されていく。

 

 

《デッキからオープン》

◾︎【No.24トリプルヘビー】

◾︎【幻魔神】

◾︎【癸械獣スレッド・ブリッツェン】

◾︎【恐竜辛機ターボレックス】

◾︎【辛機走兵キングチーター】

 

 

「その中のブレイヴカードと、系統:神皇を持つスピリットカード1枚ずつを手札に加えます。

対象は、ブレイヴカードの幻魔神のみを手札に加え、残ったカードは破棄しますね」

 

 

《デッキからオープン》

◾︎【No.24トリプルヘビー】→破棄

◾︎【幻魔神】→手札へ

◾︎【癸械獣スレッド・ブリッツェン】→破棄

◾︎【恐竜辛機ターボレックス】→破棄

◾︎【辛機走兵キングチーター】→破棄

 

 

■天宮 美雪

デッキ:34→29

手札:3→4

トラッシュカード:0→4

 

 

オープンされたカードは全て白色のカードだった。総介が言っていた通り、彼女のデッキは全て白色で構成されている。その中の幻魔神というカードを手札に加えると同時に、残ったカードがトラッシュゾーンに移動していく。

 

「ドローではなく、オープンして手札に加える。あぁいうのもあるんだな」

 

「白にはデッキからドローする効果を持ったカードは少ないが、オープンして特定のものを手札に加える効果……所謂、サーチを持ったカードは幾つかあるんだぜ。

今回は良いカードに巡り会えたものの、あのデッキの本丸はまだらしいな」

 

本丸……2人が言っていた十二神皇というやつか。

 

「オープンすれば相手側から自分がどんな札を入れているのかが分かってしまう。そんなリスクを差し引いても、その本丸とやらは強力なのか」

 

「他のカードとは比べ物にならない強さだよ。その1枚で逆転なんてお易い御用ってくらい。

十二神皇を中心に運用する為のデッキなんだから、ドローやサーチが多く採用されるのは必然ってことだね」

 

いつになく真面目な声と表情で美緒が言うものなんだから、大袈裟な表現じゃなくて本当のことだろう。1度バトルフィールドに出てしまえば、一方的な戦いが始まってしまう。もしかしたら、その時点で勝利が確定してしまうんじゃないのか?

それ程の期待があれば、あぁやってデッキの中のカードを何としても引き当てたい気持ちも分かるものだ。

 

「では、私も貴方のバーストを確認しましょうか。召喚時発揮後と手札増加後……どちらでしょう?」

 

先程の彼と同じように天宮も探りを入れる。バーストという重苦しいプレッシャーを背負ってはいるものの、彼女の表情から緊張という文字は見えない。発動をされることを前提に考えてリカバリー手段が手札にあるからこそ、ノータイムであのカードを選択できる。

張り詰めた空気の中、一息を置いた日向がうっすらと笑みを浮かべた。

 

「ならお望み通りバーストを発動させてもらおうか!相手の効果による手札増加後により、マジックカード【千枚手裏剣】を発動!」

 

彼のフィールドに伏せられたカードが緑の光を放ちながら開かれる。

次の瞬間、数え切れない程の刃が緑風を切り裂き、ディノニク・ウォーカーに突き刺さる。

 

 

《バースト発動 》

【千枚手裏剣】

属性:緑

カテゴリー:マジック

系統:無し

コスト:4

軽減シンボル:緑緑

〈発動条件〉

相手の効果によって相手の手札が増えた後

 

 

「このカードのバースト効果により、相手のスピリット2体を疲労させ、ボイドからコア2個を自分のリザーブに置く。

疲労させる対象は、勿論ディノニク・ウォーカーだ。お前しか、的が居ないからな」

 

勢いよく刺さった手裏剣はディノニク・ウォーカーの深紅の装甲を貫き、内部の配線や駆動系の関節を断ち切って機能不全を引き起こす。

バチバチと脚部から激しいスパークが飛び、膝から崩れ落ちたディノニク・ウォーカーはこのターン攻撃をすることも防御することも出来なくなってしまった。

 

 

【丁の恐竜機ディノニク・ウォーカー】

状態:回復→疲労

 

 

「続くフラッシュ効果は使わない。発動されたバーストカードは、そのままトラッシュへ置くぜ」

 

その宣言と共に役目を終えた緑のカードは光を失い、紙切れのように崩壊する。

 

 

■日向 龍也

リザーブ:0→2

トラッシュカード:0→1

バースト:有り→無し

 

 

「バーストは緑属性のマジックカード、ですか」

 

疲労したディノニク・ウォーカーを気にも止めない天宮は、またなるほど……と1つ呟く。

 

「あぁ、紫は使えるコアが少ないんでな。アンタが候補生だと知ったんで、急遽コイツを伏せてやろうと思い付いたんだ。騎士専用デッキには例のアレが入っているんだろ?それを引きたいが為のカードはそこに何枚入ってる?

想像には難くない。このカードを使うにはうってつけの相手だって訳だ。バーストってのは、こうやって使うもんだぜ」

 

天宮よりも先に、そして鮮やかに決まってしまったバーストの発動。白属性のデッキにはドローによる手札を増やす手段は少ないと知ったが、騎士専用のデッキにはサーチ効果を持つカードが豊富に仕込まれている。

日向も彼女のデッキ特性を理解していたのか、あえて伏せたのは本来の白属性を相手にするには相性の悪い、相手による手札増加後に発動するバーストカード。しかも同じ紫属性ではなく、色の異なる緑属性のものをだ。

 

「他の色のカードを混ぜることが出来るのか?」

 

色を混ぜれば、本来の色とは違う軽減シンボルに扱いずらさを感じるはずだが……

 

「バトルスピリッツのデッキ構築に、属性の縛りは無い。バースト発動によるバースト効果の発揮にはコストがかからないから、単色のデッキに他色のバーストカードを数枚差し込むことだって簡単だ」

 

「紫属性のカード達は相手のコアを移動させ、スピリットを除去するコントロールが強みだけど、逆に使えるコアの数が少ないの。

だから緑属性のバースト効果でコアを増やして、デッキの質を高めているんだよ」

 

あれだけコアが増えれば、よりコストの高いカードだって召喚することも出来るようになる。コストの高いスピリットカードには、相応の強力な効果が内蔵されているに違いない。

各属性に付きまとう欠点をバーストカードでカバー。バーストとは相手の動きを妨害する印象が強い要素に見えたが、絡ませ方によっては次の自分の動きに繋げる使い方もある……条件付きの実質コスト0で使えるシステムだからこそ、デッキの動きに幅を利かせて採用できる色を自由に選択できるのか。

 

「しかし、寄りにもよって【千枚手裏剣】かよ。シチュエーション次第では相手の攻撃を未然に防ぐ事が出来る汎用札……抜け目ねぇな」

 

天宮とは違う、遠慮の無いバーストの使い方。改めてフィールド全体を観察すれば、天宮の置かれている状況が如何に望ましく無いのかがよく分かる。

恐れることなく動きを見せた彼女が、どこまで先を見ているのかは分からない。ここで彼女の思うリカバリーを構築しなければ次の日向のターンの防御は、より困難を極めることになってしまう。

 

「コントロールに特化した紫デッキ。バーストは恐らく、緑を含め複数色入っていると見えました。

このタイミングなら……まぁ、良いでしょう。私は手札から己械人アイベリクセンを4コスト白2軽減の2コストで、通常コアとソウルコアを支払って召喚します!」

 

バーストの発動を受けても表情は何一つ変わらない、続けてスピリットカードを提示。

白のシンボルが煌めき、氷雪が吹雪く雪路をものともせずに滑走する人型の機体が天宮の下へ颯爽と見参する。

白を基調としたボディに、アイベックスを彷彿とさせる白金の角が胸部から両肩、後方へと伸びる。

 

 

■天宮 美雪

手札:4→3

リザーブ:2→0

トラッシュコア:2→3 Sコア

 

《召喚》

【己械人アイベリクセン】

属性:白

カテゴリー:スピリット

系統:十冠・機人

コスト:4

軽減シンボル白白

Lv:1

コア数:1

BP:3000

状態:回復

シンボル:白

 

【No.24 トリプルヘビー】

Lv:2→1

コア数:Sコア→0

 

 

「アイベリクセンの召喚時効果を発揮!相手のスピリット1体を手札に戻す」

 

天宮の声がアイベリクセンへと届く。両眼に赤い光が灯り、命令を実行せんとするアイベリクセンは右手指先に装備された5門の砲を構え、1つへと収束された光を放つ。

 

「バウンスの対象は、クリスタニードルよ!アイベリクセン、フォイアァーッ!!」

 

高出力のビーム砲によるエネルギーの波にクリスタ・ニードルは為す術無く呑まれ、小さな身体はそのままフィールドの外へと弾き飛ばされ、カードは日向の手札へと返る。

 

 

■日向 龍也

手札:3→4

リザーブ:2→3

 

【クリスタニードル】

状態:回復→手札

 

 

「そして、召喚コストにソウルコアを使用した時、ボイドからコア1個を自分のスピリットに置く。アイベリクセンにコアを起いて、Lv2にアップします!」

 

 

【己械人アイベリクセン】

Lv:1→2

コア数:1→2

BP:3000→5000

 

 

「クリスタニードルをバウンスするとは、余程ネクサス破壊が嫌みたいだな」

 

「紫デッキにはネクサスを対象に取るカードは貴重ですからね。ブロッカーの居ないあの状況で貴方が最初にアタックさせるなら、ハリムを選択するのが当然のことでしょう。

指図め、私がスピリットを召喚してアタックを仕掛けてきたところにクリスタニードルをぶつけてライフを守りつつ、自身の破壊時効果でトリプルヘビーを破壊したかったと、いったところでしょうか」

 

「……またかよ、勘の良い奴」

 

「私としてもハリムをバウンスするメリットはありませんからね。

さて、アイベリクセンに続きまして手札から4コスト白2軽減2コストでネクサスカード、城壁都市ウォールシープスを配置します。

コストは疲労状態のディノニク・ウォーカーとアイベリクセンから、それぞれ確保」

 

ディノニク・ウォーカーのコアが全て取り除かれ、疲労状態の機体は完全に機能を停止。ボルトの強度は劣化し、装甲は錆びて剥がれ落ち、内部配線が垂れる。先程まで起動していたそれは原型を留められない鉄くずへと崩れていく。

 

「アイベリクセンはレベル1にダウン、ディノニク・ウォーカーは消滅します」

 

コアはスピリットの命。スピリットの上からコアが無くなればスピリットは消滅し、本体のカードはトラッシュへ送られる。そして、これを糧に新たな白のネクサスがプレイボードへ置かれる。

バラされたパーツは光となって収束し、トリプルヘビーを中心に広がり、未知の素材でできた構造物を次々に形成していく。幾多もの高層ビル、住宅地、ステーションから伸びるリニア路線。統一された外装色や独特な外観が、この世の物では無い未知の文明のものであることを際立たせている。

天宮のフィールドが都市で満たされた。そして、全てを取り囲むように彼女が舞うバトルステージの縁から白い紋様が描かれた鋼鉄の黒い城壁がビルの高さをゆうに超えて迫り上がる。

何者も寄せ付けぬ絶壁は、相対する者の心を折ってしまうだろう、まさに要塞拠点。

 

 

■天宮 美雪

手札:3→2

トラッシュコア:3 Sコア→5 Sコア

トラッシュカード:4→5

 

《配置》

【城壁都市ウォールシープス】

カテゴリー:ネクサス

属性:白

系統:無し

コスト:4

軽減シンボル:白白

Lv:1

コア数:0

状態:回復

シンボル:白

 

【己械人アイベリクセン】

Lv:2→1

コア数:2→1

BP:5000→3000

 

【丁の恐竜機ディノニク・ウォーカー】

コア数:1→0

状態:疲労→消滅

 

 

「メインステップからアタックステップに入りますが、攻撃は行いません。アタックステップを終了します。

ですが、ここで城壁都市ウォールシープスのレベル1・2の効果を発揮。自分のアタックステップ終了後、自分のフィールドに系統:神皇、十冠を持つ自分のスピリットがいる時、ドローステップを行います。

私のフィールドには系統:十冠を持つアイベリクセンがいます。なので、ドローステップに移行してデッキからカードをドロー」

 

 

■天宮 美雪

デッキ:29→28

手札:2→3

 

 

「エンドステップ。私のターンはこれで終了です」

 

 

■天宮 美雪

ライフ:4

デッキ:28

手札:3

リザーブ:0

トラッシュカード:5

トラッシュコア:5 Sコア

 

■フィールド

【己械人アイベリクセン】

属性:白

カテゴリー:スピリット

系統:十冠・機人

コスト:4

軽減シンボル:白白

Lv:1

コア数:1

BP:3000

状態:回復

シンボル:白

 

【No.24トリプルヘビー】

属性:白

カテゴリー:ネクサス

系統:無し

コスト:3

軽減シンボル:白白

Lv:1

コア数:0

状態:回復

シンボル:白

 

【城壁都市ウォールシープス】

属性:白

カテゴリー:ネクサス

系統:無し

コスト:4

軽減シンボル:白白

Lv:1

コア数:0

状態:回復

シンボル:白

 

■バーストカード

:有り

 

■手元

:無し

 

 

堅実的なやり方だと見て取れる。さっきの天宮のセリフから察するに、紫属性を相手にネクサスを配置するのは場のシンボルを作り、次の自分の番まで残そうとするにあたり有効な手段であるらしい。手札とコアも増やした。十分だろう。

しかし、彼女のリザーブを見れば、またしてもコアを使い切っている。次の日向ターンでの防御には心許ないのが、彼女にとって辛く見えているとは思うが……

 

「おいおいおいッ!せっかく俺のブロッカーを排除したんなら積極的にかかって来やがれ!次の俺のターンを恐れてそんなチンケなスピリットを残したってのか?

そのバーストもただのお飾りかぁ!?」

 

天宮のそんな戦い方が気に食わないと荒ぶる日向。対面に伏せられたバーストカードを指差し激昂するが、その早口には焦りが滲み出ている。

 

「言ったはずです。これが私のバトルスタイルだと」

 

相手のターンにも関わらず、バーストの発動でコアを増やした日向は圧倒的なアドバンテージを稼いだ。一方の天宮は使用できるコアをギリギリまで使っての展開とドロー。

認めたくは無いが、ゲームスピードの現状の差は明らかである。

 

「貴方の思い通りにはさせない……それが戦いのセオリーでしょうに」

 

にも関わらず、汗が1つ、2つと頬を伝う。彼が見ているのはバトルフィールドの先に立つ天宮の戦士としての技術。

相手のバーストを発動させてしまっても動じることの無い佇まいに、全てが的確すぎて観客の僕達さえも震えてしまう先読みの能力。彼にとって見れば、自分の何処までを見透かされいるのかさえも分からない。より早く決着をつけねばならないと、危険な信号を受信してしまったのだ。

 

「さぁ、今は貴方のターンですよ?」

 

情報に揺さぶられ、徐々に募っていく焦燥はミスを誘発させる危険な状態。そんな心理的不安定な状況を突くのも天宮の戦い方の1つなのかもしれない。

どうぞと差し出された滑らかな手から指先に促され日向のプレイボードが点灯する。

 

「……分かっている!俺のターン。スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ」

 

 

■日向 龍也

デッキ:34→33

手札:4→5

リザーブ:3→7

 

【蛇僧侶ハリム】

状態:疲労→回復

 

 

「そうやって余裕ぶっこいて居られるのも今の内だ。皮肉にもアンタのバトルスタイルでは、まだお目当てのモノは引けていないらしいしな。それはな、俺にとっての好都合ってやつなんだよ!

まずはアイベリクセンの効果で手札に戻されたクリスタニードルをLv1で再召喚!」

 

再び、紫の小竜がうねる。スピリットが手札に戻されれば次のターンにまた召喚をされる。召喚をされれば、そのカードに内蔵されてある召喚時効果が再び発揮されることになる。

クリスタニードルの隣にいるハリムがそれに該当し、もし彼女がハリムを手札に返していたならば、再び召喚され日向の手札が1枚増えていただろう。

 

 

■日向 龍也

手札:5→4

リザーブ:7→6

 

《召喚》

【クリスタニードル】

属性:紫

カテゴリー:スピリット

系統:妖蛇・死竜

コスト:0

軽減シンボル:無し

Lv:1

コア数:1

BP:1000

状態:回復

シンボル:紫

 

 

「続けて手札から、紫煙獅子を召喚する!このカードのコストは6だが、召喚を行うとき自分のデッキを3枚まで破棄できる。

そして破棄したカード3枚につき、紫煙獅子のコストを-1する。よって俺はデッキからカードを3枚破棄し、コストを-3する!」

 

 

■日向 龍也

デッキ:33→30

トラッシュカード:1→4

 

《デッキから破棄》

◾︎【ダークネス・ワイバーン】

◾︎【悪龍魔神】

◾︎【混沌の魔術師アマルディ】

 

【紫煙獅子】

コスト:6→3

 

 

「これで紫煙獅子のコストは3だ。紫の軽減シンボル3で0コスト、Lvは1で召喚するぜ」

 

日向のデッキの上から3枚のカードが弾け、トラッシュに置かれる。捧げられた3枚のカードの魂は雲煙となり日向のフィールドからもくもくと立ち上がり、覆う。

濃い紫の中に揺らりと2つの眼が火の玉の様に彷徨い、前足から顔、背中から後ろ足、そして尻尾へとその姿をゆっくりと見せていく。宙を歩む獅子の誇り高い鬣は紫炎を燃やし、消費された魂は燃料となる。

 

 

■日向 龍也

手札:4→3

リザーブ:6→5

 

《召喚》

【紫煙獅子】

属性:紫

カテゴリー:スピリット

系統:家臣・霊獣

コスト:6

軽減シンボル:紫紫紫

Lv:1

コア数:1

BP:5000

状態:回復

シンボル:紫

 

 

「紫煙獅子のおかげで良いカードがトラッシュに落ちてくれたな。

キーカードの召喚は、俺が先だ!6コスト、紫3軽減の3コストで……!

 

ー水晶龍アメジスト・ドラゴン ー

 

をLv2で召喚する!!

Lvコストの不足分はハリムのソウルコアをアメジストへ置くことで確保!」

 

日向がカードを高々と掲げれば、彼のフィールドに紫に染まった水晶の塊が紫電を撒き散らしながら地を砕き迫り上がる。ゆっくりとフィールドを侵食してゆくアメジストは中心地から逃げようとする僧侶を巻き込み結晶化させ、辺り一帯を満たした。

深淵、中央に眠る龍が雄叫びを上げ大水晶を中から吹き飛ばして目覚める。身体を纏う鱗、両手両足の爪、そして2対の翼。その全てが名前の如く濁りの無い濃紫に輝いている。

 

 

■日向 龍也

手札:3→2

リザーブ:5→0

トラッシュカード:4→5

 

 

《召喚》

【水晶龍アメジスト・ドラゴン】

属性:紫

カテゴリー:スピリット

系統:死竜

コスト:6

軽減シンボル:紫紫紫

Lv:2

コア数:2 Sコア

BP:8000

状態:回復

シンボル:紫

 

【蛇僧侶ハリム】

コア数:Sコア→0

状態:回復→消滅

 

 

「アメジストの召喚時効果を発動!自分の手札、又はトラッシュにある系統:異魔神を持つブレイヴカード1枚をコストを支払わずに召喚することが出来る」

 

彼が滞空するバトルフィールドの後方に禍々しい魔法陣が複雑に描かれ、アメジスト・ドラゴンがそれに向かって、水晶状の鎖を深々と突き刺す。

 

「……っ!そういうことですか」

 

「さっき俺のデッキから破棄されたカードの中に、その対象があることを見逃した、なんて寝惚けたことは言わせねぇぜ?

俺のトラッシュにある異魔神ブレイヴ、悪龍魔神はコスト5のブレイヴカード。だがしかし、それをアメジストに直接左合体するようにノーコスト召喚する!」

 

魔法陣は異次元の扉を開き、鎖に吊るされた漆黒を纏った新しき黒龍がアメジスト・ドラゴンによって地獄の底から巻き上げられていく。

扉から現れた龍はアメジスト・ドラゴンの後方へと回り、左手に蓄えた力を背中へと流し込んだ。禍々しい赤黒い闇はアメジスト・ドラゴンを包み、輝きを増し荒ぶる。

異魔神とスピリットの互いに交わる2つのエネルギーの循環。アメジスト・ドラゴンとの接続により悪龍魔神の左半身に紫の刻印が深々と刻み込まれた。

新たに登場したカードカテゴリー〖ブレイヴ〗日向のプレイボードには悪龍魔神の左側にアメジスト・ドラゴンが重なっている。

 

 

■日向 龍也

トラッシュカード:5→4

 

《召喚》

【悪龍魔神】

属性:紫

カテゴリー:ブレイヴ

系統:異魔神・死竜

コスト:5

軽減シンボル:紫紫紫

Lv:1

コア数:0

BP:4000

BP+値:4000

状態:回復

シンボル:紫

 

【水晶龍アメジスト・ドラゴン】

コスト:6→11

BP:8000→12000

シンボル:紫→紫紫

合体:悪龍魔神[左]

 

 

「アメジストの効果はそれだけじゃない!この効果でブレイヴが召喚された時、俺はデッキからカードを2枚ドローする!」

 

 

■日向 龍也

デッキ:30→28

手札:2→4

トラッシュカード:3→4

 

 

「……バーストはありません」

 

「懲りねぇ奴だな。ここまで発動させなかった事を身をもって後悔させてやる!悪龍魔神よ、次は紫煙獅子に右合体せよ!!」

 

悪龍魔神の右側に紫煙獅子のカードが重なる。アメジスト・ドラゴンと同じように、次は右手から溢れるエネルギーを紫煙獅子へと流し込む。

バトルフィールドの乾風に煽られ、妖しく揺れていた鬣の炎は、その神秘的な美しさから攻撃性に満ち満ち、激しく刺々しい飛び火を周囲に撒き散らす。

紫煙獅子もまた紫属性のスピリット。お互いの接続で悪龍魔神の右半身に紫の刻印が刻まれる。

 

 

【紫煙獅子】

コスト:6→11

BP:5000→9000

シンボル:紫→紫紫

合体:悪龍魔神[右]

 

 

「合体スピリットが左右に2体。やはり、異魔神ブレイヴの使い!」

 

「ふ、俺のアメジストと出会ったのがアンタの運の尽きだ。開始早々で悪いが、コイツが出たからには……この勝負いただくぜ」

 

左右に繋がった2体の紫属性のスピリットと中央に位置する紫属性の異魔神ブレイヴ。

新たなる力に悦ぶ3体の化け物が一斉に猛々しい咆哮を、放つ。

 

 

 

 

 

ーbattle-formー

 

 

 

 

 




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[episode 7 Ⅷ]

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