これからもよろしくお願いします。
次回ぐらいから原作に入れそうです。
俺の、九頭竜八一の師匠は清竜鋼介九段だ。
だけど、もう一人俺には師匠がいる。
いや正確には俺が勝手に師匠呼びしている人がいる。それも心の中限定で。
「この場面で八一がやったみたいにこうとるでしょ?するとここに歩が突っ込めるようになってそれを自陣の銀でカバーしようとすると、交換した飛車を打ち込まれるスペースを作られるようになるよね?この変化があるから八一指した手じゃ悪くなるんだ。」
それが最年少準タイトル保持者、『滝ヶ原 前』だ。
「こういう時は、先に歩を突き捨てて、相手の負の後ろに歩を置いて攻めの拠点を作るんだ。」
俺が滝ヶ原を密かに師匠と呼ぶのはこれが原因だ。
俺と滝ヶ原が指し合った後はいつもこうなる。
滝ヶ原から俺への一方的な感想戦。
俺からは滝ヶ原に言う事はほとんどない。
だから俺が質問ばっかりで、俺の悪手の指摘ばかりで。
それはもう、感想『戦』なんかじゃなくて、それこそーー師匠が弟子にそうするようなーー指導と呼ぶべきで。
いや、嫌だっていうんじゃない。
むしろありがたい。
滝ヶ原の言う通りにすれば確かに強くなる感触はある。
清竜師匠から褒められる事も多くなったと思う。
だけど…。
俺は今小学4年生で、滝ヶ原も今小学4年生で。
俺たちは同い年で、そして俺はその横に立ちたいのに。
お前と『将棋』で戦いたい。
だけど、滝ヶ原に近づけば近づくほど、強くなればなるほど、アイツが前よりどれくらい遠くにいるのがわかって。
俺よりずっと早指しで、
俺よりずっと深い読みで、
俺よりずっと確かな大局観で、
俺よりずっと広い研究範囲で。
俺よりずっと
ーー俺よりずっと強い。
俺はお前の『ライバル』になりたい。
もしかすると師匠、清竜師匠よりも強いかもしれないお前の『ライバル』に。
名人の将棋を食い破った準タイトルホルダーのお前を。
滝ヶ原が、アイツが今いるのはきっと誰よりも孤独な場所だ。
名人すら届かなかった、息も凍るような1人ぼっちな領域。
あいつが『迫真将棋部』なんて自分の棋譜をわざわざ動画にしてあげて解説するのは…研究がものを言う将棋の世界でわざわざ弱点を晒すような真似をするのは。敵に塩を送り続けるのは。他を強くしようとするのは。
あいつが誰よりも『敵』を、『ライバル』を、『勝負相手』を欲しているからじゃないか。
だから、俺がそうなりたい。
だけど今のままじぁ。足元にも及ばない。
滝ヶ原に教えもらったことはすごく為になることばかりだ。
だけどーーお前におしられた将棋じゃお前に並び立てない。越えられない。
俺が今一番勝ちたいのは、
『恩返し』をしたいのは、
『桜花』滝ヶ原 前なのだから。
そのためなら、どこまでも貪欲にさしてやる。
俺がお前の『ライバル』になってやる。
殻を破った幼竜が初めに見たのは、どこまで手を伸ばしても届かなそうな、高い高い青い空だった。