「じゃあ、また明日」
「ああ、また明日」
部活仲間と別れて、日が短くなってきて薄暗くなり出した道を歩いている。田舎に住んでいるから街灯も少なくすぐに暗くなるため足早で家に向かう。
今日も剣道で全身くたくたのため早く家に帰って、風呂に入って眠りたい。そんなことを考えながら歩いていたら家が見えてきた。
「ただいま。」
「武臣?お帰り、疲れたでしょ。先にお風呂入ってしまいなさい。」
「うん、今日も基礎練習でくたくただよ。それに後片付けもしないといけないしさ。まぁ一年だから仕方ないんだけどさ。」
小学校の頃は特にスポーツをやっていなかったので、中学に上がってから入りたい部活もないため友人に誘われて剣道を始めたが、とにかくきつい。それに中学から始めたのでずっと基礎練習ばかりだ。なかなか試合に出ても勝てないが、顧問の先生からは大分姿勢は良くなってきたといれている。このまま続けて大会で相手に勝てるようになるのが当面の目標だ。
「ただいま」
父さんも帰ってきたようだ。白髪の大分混じってきた頭をかきながら、ケーキの箱を掲げている。
「今日はお前の誕生日だろ?ご飯のあとに食べよう。」
「あっ…ありがとう。今日誕生日だってこと忘れてたよ。」
誕生日なんてあまり意識していなかったので全然気づかなかった。だからおかずもちょっと豪華だったんだな。
「「「いただきます」」」
テーブルに並んで座っている父さんと母さんを見る。二人とも同級生の両親から見るとかなり年を取っている。父さんも母さんも結婚してから中々子どもが生まれなくて苦労したときいている。だから、お前が生まれてきてくれて嬉しかったんだと言われたときは少し照れ臭かった。
「ごちそうさまでした。」
ご飯も食べ終わり、特にしたいこともなかったので部屋に戻って布団に入る。誕生日プレゼントとして図書券をもらったので、今度の休日には何を買うか考えていたら寝てしまっていた。
急に眩しい光に顔を照らされたため、思わず跳ね起きると回りは森だった。状況が理解できず、回りを見渡すとすぐそこに獣がいた。後ろを向いているため正確には分からないが大きさは動物園で見た熊ぐらいの大きさがあり、おもわず悲鳴を漏らしてしまった。慌てて口を押さえたがこちらには気づいてないなようなので、ゆっくりと後ずさる。何かに夢中になっているようなので、好機だと思い駆け出そうとして獣から目を離そうとした瞬間、獣の体の隙間から人の手が助けを求めるように動いた。
今まで、自分に興味を示さなかったのは人を襲っていたからだと気づいたが助けようにも自分より遥かに大きい巨体を持つ相手に立ち向かえるとは思えなかった。人を襲っていると思うと恐怖で腰が抜けてしまい、座り込んでしまった。何かをしなければいけないと必死に考えていると、急に頭のなかにあの獣を倒す手段が浮かんできた。
手を前に出して、相手を吹き飛ばすイメージを浮かべ力を込めたら、自分の中から何かを消費する感覚がした後に目の前の獣の足から上の胴体が一瞬で消えた。残された足はゆっくりと倒れ地面に赤い染みを作っていく。
「大丈夫ですかっ!」
急いで駆け寄ると、女性が呆然とした顔で僕を見ていた。女性の体はどこにも汚れはなく特に怪我をしているようには見えなくてほっとした。
「あの、さっきのはあなたが?」
「えっと、多分そうです。でも、自分でも訳が分からなくて気づいたら使えてたと言う感じで、なんなのかも正直分からないです。」
女性は、僕の顔をじっと見ている。家族以外の女の人とこんなに面と向かって話したことはなく、思わず目をそらしてしまった。
「ありがとう。私も気がついたらここにいて正直訳が分からないんだ。ここがどこか知ってる?」
「いえ、僕も分からないです。僕もベッドで寝てたらここで目を覚ましたって感じです。」
「うーん、君は女の子だし誘拐された……にしては回りに誰もいないし私をさらう理由が分からないな。」
女の子?何を言っているんだ?自分が男だと伝えようとした瞬間、自分の服が違うことに気づいた。パジャマを着ていたはずなのにローブをいつのまにか身に付けていた。さらに胸の部分が少し膨らんでいる。思わず手を伸ばすとふにゅんと僅かに手が沈んだ。
「えっ!?何っ!この体!」
「どうしたの?…ていうか風邪かな?何か声がうまくでないな」
この後、二人ともパニックになって落ち着いて話し合ったのは10分ほど後だった。
「とりあえず話を纏めると、君も私も性別が変わっているということでいい?」
「はい、正直色々起きすぎて訳が分からないですが、どうしますか?」
「とりあえず、食料とかも持っていないしこの森から抜けて人里に降りることを目指そう。」
「そうですね。さっきみたいな獣が襲ってきたら怖いですし、すぐに降りましょう。」
「……君はあの獣のことを知ってる?」
「良く分からないです。後ろ姿だけですけど大きさからして熊ですよね?正面から見てどうでした?」
「……分からない。見たことのない動物だった。とりあえず、尾根に沿って歩きながら話そうか」
「はいっ!」
闇雲に歩いて遭難したら良くないということで、一旦開けた場所に出るまで上ることになった。
「へー、一緒の町に住んでるんですね。」
「ああ、君も同じ町だと思わなかったよ。おっと、自己紹介をしてなかったね。私の名前は武臣。蓮見武臣だ。」
思わず耳を疑った。なぜなら僕と同姓同名だったからだ。