僕は元悪の首魁(彼女)の外付け良心(ピリオド)   作:茶蕎麦

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 変な感じに筆が乗ってしまいました!

 自己流が強く、一応全体に世界観にあった意味は通らしているのですが、びっくりしちゃったら、すみません!


第二話 世界

 陰りに塗れた黒の中。灯りのみが頼りの夜の下に、黒。

 美しさなんてただ一枚の塗布。当たり前のように最悪が擬態している女性は、僕に嘘みたいなことを言った。

 

「良心、って……」

 

 そう、僕を外付けの良心として採用する。そんな宣言を目の前のスーツ姿の女性、ヒト型の尖るほどの隆起はしたのだ。

 理解が出来ない。ともすれば恋してもいいはずの綺麗な()()。つまるところこれは、その中身にはやはり人心がないという暴露だったから。

 

 驚く僕に、すました顔で――陶磁の頬に色はなく、すらりと指の先の透明が側を撫でた。凹まず揺らがず、ただそれはそこにある――善子さんは続ける。

 

「いや、これまで加速器を外付けしていたのだが、外れてしまってな。何も無ければないで座りが悪い。しかし、アレ程のものはそうないだろう。ならば代替としての制御器が欲しくなったのだ」

 

 その言葉を理解するのは難しい。いや、こんなとんでもない尺度のヒトに加速器、なんてついていた過去がそら恐ろしくて、想像したくもないという方が正しいか。

 けれども、今は急ぐのをやめて彼女は僕を外付けの、代替。言った通りに制御器にしようとしているというのは分かる。

 ゆっくりする。何を。それはきっと悪を、なのだろう。しかしそのために僕は果たして足りるのだろうか。

 

 思わず、きっと阿呆のような面をして僕は問うのだった。

 

「だから、僕?」

「ああ。宗二はとてもいい人なのだろう?」

 

 善子さんはにんまりと、歪みを心根と沿わせて弧を描く。

 いい人。彼女が発しているそれが普通の人が使っているような意味ではないことは、僕にだって分かる。

 案の定、善子さんは自己中心的にも――或いは重力こそ闇なのかもしれない――言った。

 

「そう、どうせ()()()いい人なのだから、私のために―――いや、世界のためになってみるのはどうだ?」

 

 彼女は、世界を引き合いに出す。

 見目なんて、僕と比べても年重ね足りなさそうな少女と言っていい矮躯が、全てを毀損しかねないと夢見せる。

 

 そして、そんな悪夢は直に善子さんという歪みを見てしまった僕には想像に容易かった。

 黒、黒。光はすべて呑まれ、つまり彼女に対して希望なんて、ない。

 

「世界……善子さん、つまりキミは……」

「ふん。その瞳が第一レイヤしか見通せない伊達、なんていうこともなくて安心したよ」

 

 少女は薄皮一枚に、愛を語るのが人間らしさなのにな、と哀れむ素振り。しかし、本心はそんな裏返しの優しさからすら程遠く、深い黒。

 死より深い地獄の底に、滑った心がただただ、ざわめいている。

 だからこそ、波のように善子さんがうそぶいた次には、辺りに本当の音色が響くのだった。

 

「分かっているだろう? これを逃したら――――私は止まらずに、世界を滅ぼすぞ?」

 

 分からない。世界の滅びなんて、想像もつくことではない。

 けれども、このヒトがどこまでもヒトを害する存在であるということは理解できてしまう。

 悲しくも、哀しくも、彼女は僕とは違う。距離も速さも、深さだって。

 つまり、善子さんは普通ではない。そして、行き過ぎている。

 

 なら。

 もし僕が引きずられて擦り潰れたとしても。

 

 ブレーキでもなって、このキレイなヒトを、普通に幸せにしてあげるというのは、ロマンじゃないだろうか。

 そんな悪心が人知れず、僕の心に灯る。

 

「なら、なるよ。良心にでもなんにでも、なる」

 

 世界は綺麗だ。だから決して滅んで欲しくなんて、ない。

 けれども、そんな建前的な本心よりも、横っ面から生えてくるような邪心でもって。

 僕は。

 

キミ(最悪)だって、愛したいから」

 

 そう、言うのだった。

 

 そこで、はじめて驚いた様子を見せた――相変わらず、中の膨大は小動もしていないが――善子さんは高く笑う。

 そしてまるで、悪い女の子のようにして、僕をまっすぐに認めてから、先より離れていた距離をまた一歩で縮め。

 

「ふははは! いいだろう、なら――――」

 

 ゼロを。曖昧に変えて。

 

「接続だ」

 

 

 んちゅ、と僕らは繋がった。

 

 

 

 

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■■

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」

 

 

「ふふ」

 

「■■あ」

 

 怒涛なんて、表面だった。愛なんて、代替で無価値だからこそ拾われる。

 言語すら、ひどく歪んだいくじなし。

 

 嫌いだ。全てが、無意味だ。ただ、痛い。

 

 そんな中に彼女は居た。居てしまった。

 

 刺激に反応を覚えるのが、生命である。果たして、揺りかごが騒々しければ、生きることに向いていない。

 

 もし愛すら、痛みでしかないとしたら。

 それは、地獄だ。

 

 そして、この世はその通りであり。

 

「ごめん」

 

 駄目だ。ごめんなさいで済むことではない。

 泣いて、許されないし、死んでも価値になりえなかった。僕は、彼女の人生に交われない。

 

「はは」

 

 しかし、無線接続――彼女は僕の舌先に黒を残した――と洒落込んだのか、善子さんは先が嘘みたいに離れて、胸を張る。

 

「謝るな。私は正しい」

 

 そう。深い絶望の中、何の過ちか彼女は強く、曲がらなかった。

 それもそうだろう、彼女はマイナス。まるきり違う世界の存在だったのだから。

 

 彼女は、上水善子という新世界。故にこそ、当然に世界に染まり得ず、ただ不愉快を覚えていたのだ。

 

「過っているのはな、全てなんだ」

 

 ぱきり、と善子さんの足元で石が擦れ合い、砕けた。

 そのことばかりを感じてにんまりと、少女は告げる。

 

「だから私は、悪たるのだよ」

 

 この世はキライ。でもその秩序の崩壊、範囲外の痛みこそがこのヒトの唯一の慰めになるのであれば。

 

 彼女が悪に拘泥してしまうのも、どうしようもないことと言えた。

 

 上水善子が手のひらを僕に見せる。その掌に暗がりを割って黒く現れたのは、円形。それは、全てに匹敵していて、彼女の全て。

 僕はそう、理解した。瞬きの間に、黒は少女の形の中に消えた。

 

「だというのに、キミは私を停められるのか?」

 

 なるほど、善子さんはどうしようもない。

 もう、終わってもいるし、始まる気なんて更々ない。変化なんてしようもない完全無欠で、正反対。標榜するに足る悪。

 

「ははっ」

「む?」

 

 だが、だからこそ。僕は笑ってしまうのだ。

 案の定、僕の気持ちなんて欠片も理解できないのか――きっと、心の底では理解りきっているのだろうけれど――首を傾げる善子さん。

 そこに、またヒトらしきユーモラスを覚えた僕は、言い張る。

 

「停めてみせる。だって」

 

 足りない。無理だ。止めよう、辛い。そんな言葉たちなんて、くそったれ。

 魅入られた。ああ、そうなのだろう。

 僕はとっくに魅入られていたのだ。普通というこの世界のありとあらゆる全てに。

 

 このヒトと比べれば、世界はあまりに明るい。けれども、それらをまるきり否定して映しもしない黒だって嫌いは出来ないのだ。

 なにせ。 

 

「違うから好きっていう当たり前の言葉を、僕は嘘にしたくない」

 

 そのために僕は生まれて来たのだから。

 

 僕は愛を語り。

 

「―――なるほど、これは()()拾い物だったな。面白い」

 

 彼女は、藍を騙り。

 

「宗二、キミのおかげ少し、落ち着いたよ。ありがとう」

 

 やがて青に似通い、優しく微笑んだのだった。

 

 

「――――」

 

 

 淡く、淡く。光のもとに、上水善子という女性は、どこまでも美しかった。

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