子供のころは良かった。
声変わり前はみんな、似たり寄ったりで変に意識することもなかったからな。
コンクリートが木造に変わり、豆腐の
だから、転生者でも
異世界に転生したところでたいしたことはないと自分に言い聞かせる。
しかし、これはどういうことだ。キャパシティが足りない。
「ちょっとー! 私のこと、忘れていないでしょうねっ!」
く、くくくくくくく──くぎゅう!? 久しぶりに再会した幼なじみが釘〇理恵だと!? ピンクブロンドでツインテールの幼なじみから発される声が〇宮!? なぜ!?
確かに、ヒロインのような容姿だと常々、思っていたが。
「なに、ぼーっとしてんのよ? もしかして……私に惚れちゃった?」
田舎の凡人でも通える学園の教室を背景に、腕組みで見下ろす幼なじみ。ちなみに、見下ろしているのはこちらの方だ。
「なにか話しなさいよー! あ! 私よりちょっと、身長が高いからって、調子に乗らないでよね!」
20cmぐらいの差はちょっとだろうか? 唐突なCV発表に俺は驚きを隠せない。昔は性格がツンデレなだけで、声までツンデレに成長するとは思わなかった。
ついでに、俺の名前はケント・アルマーニで現代日本から転生した者だ。男、男と二回目の人生も引き続き男だ。
前世は隠し切れないオタク。声オタで、声優の声を聞けばビビっと分かってしまう。とはいえ、声優の子供時代を知らない俺に、声の才能を見抜けというのは酷な話。
声オタの俺が、大御所声優と同じ声の人物に関わってしまうとは──
幼なじみのことを変な目で見ちゃうじゃないか! 具体的にはこれから一生、変なバイアスが頭の中にまとわりつくぞ!
もし、他にも似たようなケース、人物がいたらどうするべきか……。
「……もしかして、私が誰なのか本気で分からないの!? 嘘でしょ!? ねぇ、ケント! いい加減にしなさいよ! さもないと……」
「ごめん。ちょっと考えごとをしてたんだ。だから、燃やすのはやめてくれる? メル……? 許してくれ、頼む!」
「んふふふ……しょうがないから、許してあげるわ! 私は器が大きいのよ。久しぶりに会ったけど、ケントってば、相変わらずね」
彼女の本名はメルセデス・シュプリーム。メルとは、彼女のあだ名だ。メルが言う『相変わらず』というのは、俺の考え込む癖のことを指しているらしい。
前世からずっと、考えながら喋ることが苦手で、俺が黙っている時は考えごとだというのが、幼なじみたちの間にある共通認識だ。
なんだかんだ懐の深い幼なじみたちにコミュ障の俺は助けられている……みたい?
俺が火だるまになる末路は避けられたようだ……。
──燃やすと言ったが、それはメルの能力に関することだ。単純にメルは魔法の力が強く、才能に溢れている。多種多様な魔法の中でもメルは、火の魔法が得意で手当たり次第、燃やし尽くす危険人物。
俺は男友達というより、
分かりやすいツンデレだったから、オタク知識が役立ったのかもしれない。
幼なじみといえば、もう一人──
「うわあ、久しぶりだね。懐かしいな」
爽やかな男の子が、がががががが──
「やぁ、メル。ケント。これから、同じ学園の仲間として一緒に頑張っていこうね」
「ふふん。仲間じゃなくて、ライバルよ。分かったかしら?」
いいいいいいいい、い、石〇ァ! 彰ァ!? う、裏切りませんよね!? ただの爽やかキャラですよね! そうですよね!?
髪、
いやいやいや、原作とはなんも関係ないんだ。きっとそう。そうであって欲しい。
「……コイツ、さっきからおかしいのよ」
「ははは、ケントらしいね。別にいつものことだから、大丈夫だよ」
「それもそうよね! 心配して損したわ!」
ライリー・シャトー。お前もか。
お前も、成長したら大御所声優になるのか。そうかそうかそういう奴なんだな。
って、成長したら石〇彰になってたまるかぁ!!
努力の末にあの声が生まれたはずなのにっ! あの演技力がっ!
声優は好きだが、決して会いたい訳ではない。声優本人が好きな訳ではなく、声優の仕事ぶりが好きなのだ。
お仕事頑張ってください。そう、心の声をそっと添えるだけ。
そんな俺のオタ活は置いといて、ライリーのポテンシャル──ステータスは魔法剣士といった感じだ。風の魔法が得意で、剣術の腕も磨いている。
そんな男がカッコよくないはずがない。子供のときは、俺が主人公でメルはヒロインだと信じていたが案外、ライリーが主人公でメルとくっつくかもしれないな。
「あ! なんか今、カチンと来たかも! コイツ、燃やしていいかしら? いいわよね、ライリー?」
「いや、駄目だよ。というか、幼なじみが幼なじみに燃やされてる姿なんて見たくないよ。あぁ……ケント、早く考えごとから戻って来て……」
おっと、いけない。ライリーの言う通り、考えごとはほどほどにしておかないとな。
クラスで顔合わせをしたら、入学式だ。ここで名前と顔を覚えておけば、後は楽なんだ。
さて、教師はどんな人だろうな──
「──騒がしい。静かにしろ、ひよっこ共。俺がこのクラスの担任だ」
す、す、杉〇ァ!? どう見てもクール系の教師なんですけど! なのに、銀〇が
幅広く演じてらっしゃるから、意外と思うのはおかしいけれども──
「俺の名前はジーク。ジーク・ヴォルトだ。俺は一度しか説明しないから、よく聞けよ。……俺に迷惑はかけるな。分かったか?」
きょ、教師が職務を放棄してらっしゃる! おい、〇田ァ! 仕事しろォ! ツッコミ役、呼んで来てェ!
「なによ、あの教師! 燃やしてやろうかしら?」
「まぁまぁ……落ち着いて、ケントは大人しくしてるじゃないか……」
「アホ
「……ううん……」
あ、ライリーにもアホ面だと思われてる。いやー、ついつい考えごとに没頭してしまった。でも、これ──仕方がないよね?
あー、これからこの学園生活……どうなるのかなぁ。