俺の心のメモ。
どんな風になっているかというと──
ケント・アルマーニは俺。
異世界転生者、田舎者、凡人、以上。
メルセデス・シュプリームは幼なじみ。
息抜きのため、俺が生まれた村に遊びに来たお嬢様。あだ名はメル。ピンクブロンドのツインテール。かわいい。
魔法の天才、火属性、ツンデレ、暴力的、美少女。
最近、判明したがCV釘宮〇恵。
ライリー・シャトーは幼なじみ、その二。
謎の理由で村に滞在していたが、いつの間にかいなくなった謎の少年。茶髪青目。
魔法剣士、風属性、イケメン、優しい、大人しい、爽やか、謎が多い。
以下同文、CV石田〇。
ジーク・ヴォルトはクラスの担任。
見た目はクールで、中身は大雑把な教師。黒髪赤目で杉〇のくせに、ちょっと恐い。
あんまり分からん。剣とか、使いそう。
以下、CV杉〇智和。
──こんなもんだ。俺にしてはよくまとまったメモだろう。
メルが杉──ヴォルト先生に突っかかったいざこざはあったが、今はすっかり大人しくなっている。入学式が普通に始まりそうだ。普通って、最高だよな!
「あーあ、あそこに立っているのが私じゃないなんて、納得できない……!」
あそこというのは、壇上のことだ。立派な垂れ幕がかかっている。
「無茶……言うなよ」
「ケントの言葉には、一理あるね」
どうやら、入学式の席は名前順ではなく、ある程度自由に座っていいようだった。周囲は同じ学年で、あるいは俺たちのように知り合い同士で固まった。
右にメル、左にライリーで幼なじみに挟まれている。右に……釘〇、左に〇田……。いやいや、余計なことは考えるな!
「おっ、あれが生徒会長か……」
「ふうん、
「お前、何様だよ……」
「二人とも、静かに……!」
どこに待機していたのか、現れた生徒会長が壇上に登る姿に誰もが目を奪われている。
サラサラの金髪に緑色の瞳。まるで王子のようだ。きっと、中身も完璧に違いない、そう考えを巡らせていると──
「皆さん、初めまして。僕は生徒会長の──」
た、炭〇郎!? じゃないっ! 花〇夏樹さんだッ! 鬼〇の刃が大ヒットして一般人の注目を集めただけで、花〇さんは以前から大活躍なさっていた。
その実績と実力があったからこそ、鬼〇の刃にふさわしい声優として選ばれたのだ。その名声は決して、鬼〇の刃効果だけではない。
声優の待遇が良くなるなら、どうぞどうぞ〇滅の刃ブームをじゃんじゃん利用しちゃってください! たった一つの声しか出せないのは、気になるんですけども──
そんな俺の魂の叫びは置いといて、あああアアアア゛ア゛! 声優が分かったせいで、余計なバイアスがかかってしまう! 許してください、生徒会長さん!
前世の記憶が邪魔をするんです! くっ、前世の知識が全く、役に立ってないじゃないか! むしろ、逆効果では!?
両親とか、健康に生きてらっしゃる!? ああ、気になる! 知りたい! CV花〇さんの家族事情を知りたい! 誰か、教えてェェェ! 生徒会長に詳しい人ォォォ!
頼む……俺を……安心させて、くれ……。
「本当に今日は様子がおかしいわね……」
「……なにか悩みごとがあるのかもしれないね……」
あ、やべ。生徒会長の名前、聞き逃した。でも、大丈夫だろ。俺には幼なじみがいるし。幼なじみに聞けばいいんだ。
「……ねぇ、ケント。もし、体調が悪いなら保健室、行こうか? 僕、付き添うよ」
「えっと……大丈夫。なんでもない」
「……そっか、辛くなったら我慢せず、すぐ言うんだよ」
うう……なんて、優しい幼なじみなんだ。メルとは大違い──げっ、メルがこっちを見ている。あの目は危険だ。気をつけないと。燃やされる。
ハァー、声が石〇だからって、疑った俺が馬鹿だった。優しいCV石〇は癒される……最高だァ……。
「……コイツ、キモ……!」
「うーん……僕でも、庇いきれないかな」
落ち込んだ表情から一転、ニヤケ始めた俺に対して二人がドン引きしている。うん。俺でも俺がキモイと思うわ。ごめんね、オタクで。
俺がオタクでも、入学式は続く。そりゃそうだ。学園に関係ないもんな。俺の事情なんて──
「私は学園長の──」
「──ぐっ……! ふぅぅ……!」
シャアやないかい! 学園長、シャアやないかい! 濃すぎぃ! この学園、キャラ濃すぎィ! 池〇秀一と言われたら、ピンと来ないけど、シャアと言われたらくっきりはっきり分かる人だ!
どんな作品でも、シャアみたいな役柄が求められてる人だ! デモンエ〇スマキナにもいた! アムロとセットでいた!
手で口を押さえて、なんとか耐えたけど……。
「……ちょっと、ケント……うそぉ……どうしちゃったのよぅ……!」
「……本当に保健室に行こうか? 自覚がないだけで、熱があるのかもしれないよ」
メルは涙目で、ライリーは本当に俺を心配してくれている。俺、下手したら不登校になるかもしれない。だって、こんな学園──俺は耐えられないよ。
俺の不安をよそに、教師がそれぞれ自己紹介をする番が回ってきた。当然、俺のクラスの担任、ヴォルト先生は無愛想で一言のみ。
他の教師を見習えってんだ──
「どうも〜。音楽担当のナンシーよ。よろしくね」
みゆきちいいいいいいい!! 七色の声を持つ沢〇みゆきさんだ! ニュースを読み上げてくれて、セクシーな峰〇二子やボーイッシュな役もこなす、〇城みゆきさんだ! なんかどこにでもいるから、段々その声を好きになってしまうのは不可抗力だと思う。
声が色っぽいナンシー先生は長い金髪を巻いていて、まつ毛も長い。青い瞳がとてもきれいで、スタイル抜群。胸も……でっけぇ……。
でかいおっぱい最高! おっぱい、おっぱい!
「どこ見てんのよ……! バカケント! スケベ! 変態!」
「……あはは。
その声で
「むう……反省してるなら、いいけど。次はないんだから!」
「さっ、二人とも。ちゃんと前を向いて、先生の話を聞かないといけないよ?」
「はーい……」
俺たち二人が改まって正面を向くと壇上には、小柄な少年が立っていた。天才少年とか、そういうやつか。
途端に周囲もざわめきだす。オタクの俺にはよく見慣れた展開だったが、ほぼ同年代に見える少年が教師とは信じがたいのだろう。
「なにあれ……迷子かしら?」
「……そんなはずはないよ。きっと首席とかじゃないかな?」
横にいる幼なじみも微妙に勘違いしている。こういうときは俺のオタク知識の方が正しいんだ。見てろよ、見てろよ──
「
レンズ越しにキッとこちらの席をにらみつける。どうやら、かなりの地獄耳のようだ。って──
この声、梶〇貴! ショタの声から元気な青年まで──明るくてエネルギッシュなキャラクターを演じていることが多い声優さんだ。
へー、眼鏡キャラでショタかー。髪の色は明るい水色、つり目がちな赤い瞳。どこか
花〇夏樹にシャア、沢〇みゆき、梶〇貴──なんなんだ、この学園は!? 声オタに厳しすぎないか!? このままでは悶え
はぁ……なんか、呼吸困難になってきた。
「ヒュ……ヒュッ……」
「……このままじゃ、ケントが死んじゃう! や、やだぁ!!」
「すみません! ケントが、僕の幼なじみが……体調がすぐれないようなので、途中退席させてください。僕も付き添います」
俺の異変を感じ取ったライリーが素早く、手を挙げて大人たちを呼び寄せる。お前……注目されるのが苦手なはずなのに、そこまでして俺のために……。
「ゲホッ……大げさだよ……俺は、大丈夫……心配かけてごめん」
「ケ、ケントぉ……! しっかりしなさいよ! バカ!」
「謝る必要はないよ。ゆっくり、深呼吸して……落ち着いて、大丈夫、大丈夫。僕たちがついてるから」
俺がオタクという不治の病に苦しんでいる
「おい、なにがあった。説明しろ」
ぶっきらぼうな杉──ヴォルト先生が、駆けつけて来てくれた。不器用なりに、教師として責務を果たそうとしているのだろう。
でも、なにげにヴォルト先生のポージングが首痛めた系男子なことに気付いた。そのポーズはなんですか、先生。気になって仕方がない。
「いや、なんでもないんです」
「なんでもない、ということはないだろう。俺を呼んでおいて──」
「黙りなさい、ケント! ケントの言うことは信用しないで、先生!」
「おっ、おう……?」
釘〇にたじたじな杉〇。なんだ、いつものことか。後は、ツッコミ役がいれば……じゃねーや。
「でも、本当に大丈夫──いだだだだ」
意地を張っていると思われたのか、メルにほっぺたをぎゅいっと掴まれているし、ライリーに足を踏まれている。
「その、なんだ……まずは、三人の名前を教えてもらえるか? まだ、顔と名前が一致してなくてな……悪いが、お前の対応はそれからだ。少し、我慢してくれ」
えぇ……無能。さっき挨拶したやろ。事前にクラス全員分の情報を頭に叩き込んでおけばいいのに。
でも、この世界の写真技術と個人情報の扱いがどれぐらいの物か知らないからな。田舎から出たことないし。というか、俺の体調はどうでもいいから、この場面をどうにか切り抜けたい。
めちゃくちゃ、目立ってしまっている。恥ずかしいな……。
「私の名前は、メルセデス・シュプリームですわ。以後、お見知りおきを」
「僕はライリー・シャトーです。先生……彼を早く……」
「ああ……そうしたいが──お前の名前は?」
「ケント……ケント・アルマーニです……」
意外と素直な幼なじみたちが手短に挨拶を済ませると、ヴォルト先生の視線は当然、俺の方を向く。見ないでくれ、
「おい、ジーク。さっきから手間取っているが、どうしたんだ?」
「ああ、それがな──」
子〇ウウウウウウウウ!! 某吸血鬼だったりと、顔の彫りが深い男性を演じがちなことで有名な〇安さんだ! 体格的に体育教師っぽいな。銀髪のロングで髪を一つに結んでいるが、絶妙に似合っている。
右に釘〇。左に石〇。正面に杉〇と子〇。これってつまり──
俺、終わったな。
「……ッ、先生……! 俺を保健室に連れてってください……!」
「だっ、大丈夫か? 分かった。連れていく。ちゃんと俺の肩に掴まれ。二人もこいつが心配だったら、ついてきてもいい」
大きな音をたてて、俺は椅子から転げ落ちた。一応、クラスの担任であるヴォルト先生にしがみつく。助けて、ヴォルト先生──!
「本当に体調が悪そうだな。ジーク、ここは俺が説明しておくから、貴様は先に体調不良の生徒を連れて保健室に行け」
「ああ、助かる。最初から、そのつもりだったがな」
「ううっ……ケント……私を置いて死ぬなんて、許さないんだからっ……!」
「大丈夫だよ、メル。きっと、ケントは大丈夫だよ」
なんて、カオスで豪華なCV……。
その
「とりあえず、終わったな」
「そうね、終わったわね」
「うん……? 入学式のことだよね? 二人とも?」
時々、ライリーは皮肉じみた言い回しをする。こういうところは天然で腹黒だよな。しかも、怒れない。周りがCV声優だらけで、オタクの俺は色んな意味で学園生活が終わった、ってか? ああん?
「ケント、
「そうよ! 今日のアンタ、なんか変よ!! アンタ、なんか……変な物でも食べたんじゃないの? 腹でも叩けば少しはマシになるかもしれないわね! ふんっ!」
同じ幼なじみでこの差……。まあ、心配してくれてる気持ちはちゃんと伝わってるんですが、言えないよなぁ。
俺のオタク転生事情なんて……。声オタとか、どう説明すればええねん。
──俺たちの学園生活はこれからだ! いや、どうせ声優まみれでしょ。声優学校に変更したら? まぁ、アニメなんてこの世界にはないんですけどね!
ってことは、だ。俺はこの秘密を一生、抱えて生きていく訳だ。
はは……俺の人生、詰んだわ。ドンマイ……☆