CVのせいで二回目の人生に集中できねぇ!   作:柳カエル

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CVのせいで言い訳に集中できねぇ!

 

 

 

 心のメモに追加だ。

 

 生徒会長。名前は聞き逃した。聞く機会も絶たれた。きっと、知らぬ存ぜぬが俺のため。

 金髪碧眼(へきがん)のキラキラ王子様。本当に王子かどうかは知らない。

 文武両道、多分。

 CV花〇夏樹。

 

 

 学園長。名前は不明。

 全く学園長の話を聞いてなかった。でも、話が短かったことに好感が持てる。

 CV池〇秀一。

 

 

 ナンシーは音楽の先生。名字は不明。

 俺の偏見だとクソビッチ。ボンキュッボンで長い金髪を巻いている。目の色は青。

 巨乳。

 CV沢〇みゆき。

 

 

 謎の天才少年。名前は不明。

 地雷が多そうで扱いが面倒そうな教師。殺気が強いので今のところ、一番関わりたくない。頭髪は明るい水色。目の色は赤。目のクマがやばい。

 眼鏡キャラ、ショタ、秀才。

 CV梶〇貴

 

 

 謎の先生。名前は不明。

 ヴォルト先生と親しげ。ライバル関係か? 長い銀髪を下の方で結んでいる。鼻が高い。

 CV子〇武人。

 

 なんだ、この声優遭遇率は。エンカウント狂っとる。

 本当に知恵熱が出てもおかしくないくらい、濃い一日だ。といっても、学園生活はまだ始まったばかり。げっそりするし、ゾッともするが、俺だって声優メモをまとめていただけではなかった。

 

 とりあえず、入学式が終わるまでの(あいだ)、俺は保健室で(おのれ)の奇行について──必死に弁明しておいたのだ。

 

「ハァ? 役者と声が似てるから、我を忘れた? 頭、大丈夫? アンタの村に劇団なんて、来るはずないじゃない」

「うーん……僕たちはずっと、村にいた訳じゃないから……そうとも言いきれないよ?」

 

 さっそく、CV釘〇が論点をズラしにきた。別にクソ田舎に劇団が来てもいいでしょうが。それはともかく、今ならまだ上手く誤魔化せる。

 

「いや、村を出て劇を見に行ったんだよ……なんだ、その目は。俺を疑うのか?」

「当たり前じゃない! 面倒くさがりのアンタがわざわざ、村を抜け出して劇を見に行くなんて……ありえないっ!」

「それは、僕も同感だよ」

 

 くっ、生まれ変わってもインドア派なのが裏目に出たな。いいじゃん。見栄を張って、劇を見に行った設定があってもいいじゃん。それすらも許されないの?

 

「劇を見に行くなら、私も誘いなさいよ! このバカ!!」

「そうだよ、一人で見に行くなんて水臭いよ」

「……それか! 本題はそれか! 分かりづらいって……」

 

 それなら、最初からそう言って欲しかった。でも、この世界……連絡手段がカスなんだよな。手紙とか、アナログにもほどがある。携帯が恋しい。

 魔法はあっても、そういう便利な魔法は金持ちや権力者にだけ行き渡り、庶民の手には届かないらしい。困ったもんだ。

 それに、メルの家は知っていても貴族街(きぞくがい)にあるから遊びに行けないというジレンマもあったが……。ライリーにいたっては、どこに住んでいるのかさっぱり分からず、教えてくれなかった。

 

 随分、誘い甲斐(がい)もない、誘いようもない面倒な連中だ。しかも、構ってちゃんときた。

 

「メルの家はでかいし、ライリーの家は知らないし……仕方がないだろ。お前らの方から誘えよなー。俺、ずっと家にいるし……」

 

 哀愁(あいしゅう)漂う俺の姿を鼻で笑うメル。ライリーは半笑いだ。目は優しいが、口元が引きつっている。

 

「んもう、怪しさ満点だけど……私、とっても優しいから今回は見逃してあげる。感謝することね!」

「……うん、僕も。ケントのことだから、きっと理由があるんだよね。信じてるよ……ケントのこと」

「それ結果的に信じてないよね? 俺の言ってることを『嘘』だと断じてるよね。おーい」

 

 顔を左右にそらすな、二人とも。やっぱり、俺って嘘が下手すぎ? 見逃してくれるということなので、お言葉に甘えて今は、見逃してもらおう。

 

「じゃあ、この話終わりな。不毛すぎる」

「はいはい……まーでも、アンタが役者好きなんて意外よね」

「俺の話、聞いてた?」

「確かにね。それなら、三人で一緒に見に行きたい劇があるんだけど──」

 

 俺の味方はどうやら、この場にはいないらしい。畜生ッッッ!!

 

「ふうん。じゃあ、それ──三人で見に行くしかないわね」

「うんうん。日にちは、いつにしようか? メルの都合のいい日は?」

 

 あれ? 俺には聞かないの? 視線だけで俺の思いが伝わったのか、石──ライリーが俺の方に振り返る。

 

「ケントは毎日、予定が()いてるもんね」

「畜生! 他にもっとマシな言い方はなかったのか!」

「アハハッ、『暇人』でどうかしら?」

 

 もっとひどいです。

 はー、ひどい目には()ったが、保健室には俺たち以外誰もいなかった。入学式で保健室直行する生徒は予定外だったのだろうか。

 逃げ込んだ先に、声優がいなくて良かった──

 

「ん? 先客がいたのか、いや生徒か。ケガをしている訳でもない、風邪でもなさそうだ。君の症状を教えてもらっても?」

 

 ああ、なんだ。ちゃんと保健医がいたのか。タイミングが悪かったな──って、アァ!?

 この声は──下〇紘だ! うっかり聞き逃すところだった。

 鬼〇の刃効果で一般人には(わめ)き散らすしか、能がないと思われているが正直、我〇善逸は一般人の感覚で戦っているため、作中で親近感が湧きやすいキャラクターであり、重要な役回りを担っている。

 ただし、気絶すると強くなるなど、なろう系主人公に近い一面を持つため、一般視聴者は戸惑う。

 更に、善〇希望だった花〇夏樹さんと嘴平(はしびら)伊之助役の松岡〇丞さんをオーディションで押し退()けて善〇役を勝ち取ったのだ。まさに、実力派声優と言えるだろう。

 

「……私の質問に答えられないのか? それとも、答えたくないのか。どちらかな……」

 

 引き続き、下〇紘の声に耳を傾ける──

 

 この低い声のトーンは──ブラック〇ーズサスペクツのレオ・アビントンの声優を担当していたときに似ているな。下〇紘当人もクール兼中二病なイケメン役でオファーされるとは思っていなかったと、コメントを残している。

 ブラ〇スと言えば、謎のウサギ男からマダオの声がして、ビックリしたんだよなぁ。おっと、いけない。脱線した。

 

「……自己紹介が遅れたな。警戒しなくていい、私はこの学園の保健室を担当している者だ。君が倒れたときは丁度、別のところにいてね……悪く思わないでほしい、()()()()()

 

 そうそう、こんな風に胡散(うさん)臭くレオ役を演じていた。目の前にいる下〇紘は、黒髪ロングの丸メガネで──ううん、大分、怪しいな。どうやったら、そんなマッドサイエンティストみたいなファッションに到達するんだ?

 悪い意味で白衣が似合っている。火急(かきゅう)、速やかに脱いだ方がいいと思う。保健医だけど。

 

 でも、これ──下〇紘だから。警戒するだけ無駄だな。

 

「ふふ……どうして、私が君の名前を知っているかって、知りたいかい?」

「いや……別に。誰かに俺のことで呼ばれたから、保健室に来たんですよね? 先生はさっき、なにも知らないフリをしてましたけど……」

 

 そりゃ知ってるでしょ。と思って、言い返したらムッとされた。大人げないな。ん?

 

「あのう、先生……ケントは入学式で疲れてしまっただけのようなので、大丈夫だと思います。僕たちに任せてください」

「それを決めるのは、私だが……?」

「私たちがいるので大丈夫です! 心配は無用です!」

 

 幼なじみ二人が下〇紘先生から、俺を庇っている? なんのために……? それは下〇紘だぞ? 警戒しなくていいって。

 

「はぁ。なんもしないというのに……。ちょっと、新しい薬を試そうとしただけだ。全く、最近の子供は礼儀がなっていないな」

 

 いや、駄目じゃん。幼なじみグッジョブ! こいつ、ガチのマッドサイエンティストかよ。

 職務放棄、すなー! もしかして、この学園でストライキですか? 職務放棄ブーム到来ですか?

 学園長、人望ないし、人選ミスだな。ワンチャン、声で教師を決めてたりしない? 声優学校か。

 

「君たち二人だけでも、入学式に戻ったらどうだ? 今ならまだ、間に合うぞ」

「すみませんが、幼なじみのそばにいたいので……僕をここにいさせてください」

「私も、私も!」

「はぁ……好きにすればいい……」

 

 そう言って、CV下〇紘の保健医は去っていった。

 えっ、どこに? お前、保健医だろ……。本当にお前は保健医か? 廊下に出て、どこいくねん。保健室にいろ。

 まぁ、このままマッド教師が居座っていたら、俺の身が危なかったけど……。

 

「……なんか、変な先生だったね。新しい薬を試すとか、不穏な言葉を言っていたし、本当に保健医かどうか怪しいよ」

「そうよ! これ以上、ケントに変な真似をするようなら燃やすつもりだったんだから! 命拾いしたわね、エセ保健医!」

「あ……ありがとう」

 

 俺の感謝に対して間違いなく、百点満点の笑顔を返してくれた幼なじみたち。

 持つべきものは幼なじみだな。

 頼れる存在にしみじみしながら、和気あいあいと保健室を過ごしていた──

 

 予定だった。

 

「あっ、あの……入学式で……倒れていた……人だよね? 大丈夫だった……? あ、私……カリンと申します。よ、よろしくね……?」

 

 入学式もそろそろ終わるだろうというところで、人がやって来た。保健室の扉を盾にして、隠れている。パステルイエローの頭だけがひょっこり出ているが……CVは隠せない。

 これは、悠〇碧いいいい──!? 鹿〇まどかちゃんのような、消え入りそうなか(ぼそ)い声が気弱な少女から出ている。

 

「私たち……く、クラスメイトだよね……? 気になって、会いに来たんだけど……迷惑、だった……かな?」

「ううん、そんなことはないよ。カリンさん。入学式の途中で倒れたケント、僕の幼なじみを心配して保健室にまで来てくれたんだろう? 迷惑なわけ、ないさ」

「ほっ……よ、良かったぁ……」

 

 俺とライリーは、カリンの様子をほっこりと見守っているが……一方、メルは、カリンのオドオドとした姿に苛立っている。

 

「なによ、アンタ?」

「な、なにって……えっ……? なにか、シュプリームさんの嫌がることをしちゃったかな……? ご、ごめん……」

「──もう! なんで謝るのよ! バカ! なんで、ケントの見舞いにわざわざ来たのか、って聞いてるのよ!」

「……ごめんなさい、ごめんなさい……!」

「うぐぐ……」

 

 どうやら、メルとカリンの相性は最悪らしい。なにか、緩衝材(かんしょうざい)があればなぁ……。

 

「僕は遠慮しておくよ。半分は、(にぶ)いケントのせいでもあるんだからね」

「はぁ……?」

 

 俺が鈍い……だと? むしろ、ビンビンだと思うが。さっきから、声優ばっかりで神経がピリピリしてるよ。

 

「カリン……ちゃんは謝る必要はないし、メルもそんなに怒る必要はないだろう。ちゃんと会話しろ、二人とも」

「……ごめんなさい」

「ほら! コイツが謝るからよ! 私は悪くないわ! カリンが悪いの!」

 

 カリンは蜂蜜色の瞳にうっすらと涙を浮かべている。メルの顔は(いか)りで真っ赤だ。どうしたもんか。女の扱いは得意でもなんでもないぞ。

 むしろ、苦手なくらいだ──ど、童貞(どうてい)ちゃうわ!

 

「えっと……私、本当に……シュプリームさんの嫌がることをしてたら、教えて欲しいな……あっ、分からない私が悪いんだけど……ごめ──」

「謝らないで! その、いきなり怒った私も悪かったわよ。ごめん……なさい。ただ……こんなバカを見に来るなんて、どんなバカなのかと思ったの」

 

 バカバカ言いすぎじゃない? ともかく、和解したようだ。こういうときは、下手に男が口を出さない方がいいよな。

 

「ケントってば……これで気付かないのかい? 本当に鈍いな……」

「俺、まだなんも言ってねーだろ……!」

 

 アイコンタクトしかしてない。やれやれするな。

 

「私のことは、メルでいいわよ。カリン。特別ね」

「えぇ……!? えっと、ありがとう。うん、これから……その……メルさんって呼ぶね。えへへ……」

 

 カリンちゃん、声も(あい)まって可愛いなぁ……。メルと違って──

 

「ちょっと!? ケント、デレデレしないで! 灰にするわよ!」

「幼なじみを灰にするとか、ヤンデレ通り越して病んでんぞ! 正気に戻れ!」

 

 万が一、メルが幼なじみの俺に好意を持っていたとしても、普通──灰にしますか? 燃やしますか? 死をお前にプレゼントですか?

 俺はもっとまともなプレゼントを女の子から貰いたいぞ。俺、おかしなこと言ってないよな? そうだよな。

 

「ケント……ガンバ!」

 

 ガンバ! じゃねぇよ、石〇ァ! どうして、メルの殺意がお前にだけ行かないんだ!? CV石〇だからか? ズルいぞ!

 

「で、入学式……終わったのか?」

「……わ、私に言ってるの? うん、入学式はもう終わったよ。残念だったね……」

「いや、俺は大丈夫……でも、二人は?」

 

 俺に振り回されることに慣れてる二人なら大丈夫だろうと思っているが、気にしすぎなクラスメイトがいる手前──聞いておこう。まあ、大丈夫だろう。

 

「……アンタのせいで最悪よ」

「……僕は、なんとも言えないや……」

 

 アレ!? 想像してたよりも冷めてるなぁ! どうしてかなぁ!? やめて、そんなジト目で見ないで!

 

「そんなことは置いといて、さっきの話に戻ろう。色々あったけど、劇の話だよ」

「劇……? そ、それって……私も混ざっていい話……?」

「うん、もちろん」

 

 くっ、ライリーの野郎……。勝手にカリンちゃんと仲良く話しやがって……羨まけし──燃やさないでください。メル様?

 

「……フン。油断も隙もないんだから!」

 

 こんなに物騒なのに、どうしてライリーもカリンちゃんも微笑ましげにこちらを見ているの? 微笑ましい要素一つもないからね?

 

「……おい、もしかしてカリン……ちゃんも劇に誘うのか?」

「当然じゃない。なんでそんなこと聞くのよ!」

「いや、カリンちゃんの方はどうかな……って」

「……私?」

 

 自然と視線がカリンちゃんの方に集まるのは不可抗力というものだが、注目を浴びている本人は非常にビビって小さくなっている。

 

「……そうね。コイツ人見知りだし、人間嫌いだし、臭いし、ブサイクだし……本当はケントのことが嫌だけど、カリンだから断れないだけなのかも──」

「言いすぎだろーッ!!」

「え!? そんなことないよ! って、あれ? えっと……あ……冗談……? 冗談なの……?」

 

 俺もカリンちゃんも、すっかりメルのオモチャになってしまっている。恐るべし……CV釘〇。その声のせいで、理不尽への(いか)りが鎮まってしまう。

 

「ケント、ざまぁ! アハハッ!」

 

 俺はまだ婚約破棄どころか、婚約もしてないぞ! 仲間追放もしていない! ライリーもなんか言ってやれ! その声で!

 

「えっ……あぁ、僕の話を聞いてくれない人たちなんて、どうでもいいよ……」

 

 こっちはこっちで、()ねてるし! 俺が話を聞いてやるから──

 

 

 

 と思ったら、俺抜きでスケジュール調整を始めやがって、その結果。学校が休みの日──四人全員の都合が合う日に遊びに行くことになった。

 俺? ほぼ毎日ヒマだよ?

 

 劇場も見る『劇』の内容も、劇団選びもライリーに任せてしまったから俺はあんまり……よく分かっていない。でも、なんとかなるだろ。

 

 そう──俺はのんきに構えていた。

 まさか、劇場が事件現場になるとは思わなかったんだ!

 

 次回、『俺、死地に(おもむ)く』()ってくれよ──

 俺の心臓! 俺の鼓膜! オタクの魂、百まで。


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