負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第一章 ~踏み台~
第1話 主人公と思いきや


 自分はこの世界の主人公だ。

 新たにこの世に生を受けたときから、スタンフォード・クリエニーラ・レベリオンはそう思って憚らなかった。

 輝くような金色の髪に、宝石のように澄み切った碧色の瞳を持つ端正な容姿。

 王族の血筋特有の魔力に、幼い頃から受けてきた英才教育。

 彼だけが持つ唯一無二の知識。

 その全ては一人の少年の自意識を肥大化させるには十分な代物だった。

 スタンフォードは昔から天才と持て囃されて生きてきた。

 勉学、魔法、体術共に兄であるハルバードよりも物覚えが早く、特に魔法に関しては独自の魔法運用を行っていたことで、周囲はこれで王家も安泰だと、とにかく彼を持ち上げた。

 

 それ故に、スタンフォードは増長した。

 

 当然である。

 生まれてから周囲に賞賛され続ける人生を歩んでいて調子に乗らない方がおかしいのだ。

 しかし、誰一人としてスタンフォードを諫めるものはいなかった。

 スタンフォードは表向きは謙虚な姿勢を貫いていたからだ。

 稀代の天才にして謙虚な姿勢を貫く王子として、周囲はさらにスタンフォードを褒め称えた。

 スタンフォードは自分の成果を称える周囲に、決まっていつも何てことないようにこう言った。

 

 僕なんか全然大したことないよ、と。

 

 スタンフォードは天才であるにも関わらず謙虚に振る舞う自分の姿に酔っていたのだ。

 優秀な魔導士が集う学園に通い出してからもスタンフォードの天下は続いた。

 彼の周囲にはいつだって高名な貴族の子息や令嬢が集う。

 美人で名家出身の婚約者もでき、スタンフォードの人生はバラ色だったと言えるだろう。

 これからも周囲から賞賛を浴び続け、いずれは王国の伝説になる。

 

 そんな未来が訪れることをスタンフォードは欠片も疑っていなかった。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「もう! ライザルク強すぎじゃない!?」

 

 落ち着いた雰囲気の喫茶店に一人の女性の悲鳴が響き渡った。

 キャラクターが麒麟と竜を足して二で割ったような見た目のモンスターの攻撃を食らい体力バーがゼロになる。

 画面が暗転し、〝GAME OVER〟と表示された画面を見て女性はガックリと項垂れた。

 

「メグってアクションゲーム苦手だもんね」

「私はミカほど器用じゃないんだよー……」

 

 メグと呼ばれた女性は不貞腐れたようにゲームをスリープモードに切り替えると、ティーカップにおかわりの紅茶を注いだ。

 

「あはは! あたしだって基本脳死特攻だよ!」

 

 そんなメグとは対照的に、ミカと呼ばれた女性は楽しそうに笑いながら告げた。

 

「ブレイブは覚えゲーだからね。パターンさえ覚えればいけるいける」

「うへぇ、死に覚えってモチベ上がらないんだけど……私はハートの方みたいに、純粋にストーリーを楽しむだけのゲームがしたいよぉ」

 

 メグがプレイしているゲームは〝BESTIA BRAVE〟という恋愛要素のある剣と魔法の世界を舞台にしたロールプレイングゲームだった。

 ベスティアシリーズと呼ばれるこのゲームは、ゲーム制作会社cre8が販売する乙女ゲーム〝BESTIA HEART〟、男性向けの〝BESTIA BRAVE〟の二つのシリーズからなる。

 〝BESTIA HEART〟が発売されたのはかなり前であるため、最近になりゲームハードの移植版〝BESTIA HEART ~金色の英雄~〟が発売された。

 

「移植版に向けてとはいえ、わざわざギャルゲーやるのもなんだかなぁって感じ」

「何を言ってんのメグ! リメイクやるならブレイブの方もやらなきゃ損だよ!」

「いやいや、追加キャラのためにそこまでできるのはミカくらいだって」

 

 移植版に追加される要素には、前作である〝BESTIA BRAVE〟の要素が反映されている。

 そのため、メグは必死になって苦手なアクション要素のあるこのゲームをプレイしていたのであった。

 

「はぁ……ブレイブってハートとゲーム性違うから大変だよ」

「ハートは戦闘なかったもんね」

 

 ベスティアシリーズ第一作であるBESTIA HEARTは戦闘なしのゲームである。

 それ故に、アクション要素を含むゲームが苦手なユーザーは、メグと同様に戦闘パートで苦戦する者が続出していたのだ。

 メグが躓いている箇所は、ゲームでは序盤のボスである雷竜ライザルク戦だった。

 この戦闘は、学園外で魔物との実践演習を行っていた主人公達を雷竜ライザルクが襲い、それを主人公が倒して周囲から注目されるというイベントだ。

 

「ライザルクは攻撃パターンさえ掴めれば難しくないんだけどなぁ」

「だって、雷で痺れたとこに攻撃してくるんだよ? こんなのハメだよ!」

 

 メグは苛立ったように頬を膨らませた。

 苛立ったメグを諫めながらも、ミカはある提案をする。

 

「だったら先生でレベリングと動きの練習したらいいんじゃないかな」

「先生?」

「そ、序盤の方で主人公にやたら絡んでくるスタンフォードってキャラがいるでしょ。スタンフォードとの鍛錬場での戦闘は、鍛錬場って項目で何度でも戦えるんだ」

「スタンフォードってあの嫌な奴か。あれって何度でも戦えたんだ。でも、何で先生?」

 

 主人公に絡んでくるキャラクターであるスタンフォード。

 そのキャラクターが先生と呼ばれていることに、メグは頭上に疑問符を浮かべた。

 

「スタンフォードってやたらと主人公に絡んでくるんだけど、必ずその章でのボスの動きを取り入れた動きをしてくるんだ。だから、ファンの間ではボスの動きの練習をさせてくれる〝スタン先生〟って呼ばれてるんだ」

「戦闘前のイベントや序盤でイノシシにもボコボコにやられてたし、何かかわいそう……」

 

 スタンフォードは所謂、嚙ませ犬や踏み台と呼ばれる立ち位置のキャラクターだった。

 メグが苦戦しているライザルクに限らず、主人公やボスキャラクターに挑んではボロボロに敗北し、敵の強さを引き立てる役目を担っていたのだ。

 

「そういうわけで、どんどんスタン先生を倒しちゃおうぜ!」

「ま、あのキャラ弱かったし、練習台にはちょうどいいかな」

 

 この後、スタンフォードはメグの練習台として何度も戦闘で倒されることになるのであった。


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