負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第101話 聖剣ベスティア・ブレイブ

 王立魔法学園の歴史の中でも前代未聞の出来事が起きた。

 魔法の才能に乏しい生徒が決勝戦まで残ったこと。

 突然、世界に二人しかいないはずの光魔法が試合中に覚醒したこと。

 

 そして、王立魔法学園史上初、滅竜魔闘同時優勝者が生まれたこと。

 

 ステイシーとセタリアは同時に吹き飛んで場外に叩き付けられた。

 そのタイミングがまったく同じだったことと、両者の闘いは優劣の付けがたいものだったこともあり、歴史上初の同時優勝者が生まれたのだ。

 

 平凡な魔導士であるステイシーの活躍に観客達は大いに沸いた。

 もう一人の主役であるセタリアは家名を背負い見事な成績を収めたとされ、高い評価を受けた。

 

 そんな輝かしい栄光を収めたセタリアは現在、治癒班のマーガレットの治療を受けていた。

 

「外傷はほとんど自己回復で治ってるみたいだから、後遺症とかはないと思うけど、魔力が空っぽになってるんだから、あまり動いちゃダメだよ?」

「ありがとうございます……」

 

 優勝したというのに、セタリアは浮かない表情を浮かべていた。

 彼女からしてみれば、今回の優勝は自分の実力で掴み取ったものではない。

 むしろ自分が不甲斐なさ故に、前世の魂が覚醒してこの結果をもたらしたのだと思っていた。

 マーガレットがセタリアにどう声をかけたものかと思案していると、控え室の扉がノックされた。

 

「どうぞ」

「失礼します」

「リア、優勝おめでとう!」

「殿下、ブレイブ……」

 

 控え室に入ってきたのは、スタンフォードとブレイブだった。

 

「浮かない顔だね、リア」

 

 スタンフォードの全てを見透かしたような雰囲気に、セタリアは力なく笑った。

 

「もしかして殿下はご存じだったのですか?」

「まあね。ただ情報源は僕じゃない」

 

 スタンフォードはそう前置きすると続ける。

 

「リア、そしてラクーナ先輩。二人のどちらかに世界樹の巫女の魂が宿っている。僕はとある人からそう聞かされていたんだ」

「私とセタリアさんに?」

「ええ、こうしてリアの中に眠る魂が覚醒するまでは確定ではありませんでしたけど」

 

 スタンフォードはポンデローザから聞かされていた原作の設定について思い出す。

 

 BESTIA HEARTでは、マーガレットが世界樹の巫女ラクリアの転生体であり、BESTIA BRAVEではセタリアがラクリアの転生体だったのだ。

 それ故、この二人が同時に存在するということは、後付けで追加されたBESTIA HEARTのスタンフォードルート以外にはあり得ないはずだった。その場合、自動的にマーガレットがラクリアの転生体となる。

 

「リア、ラクリア様はどうしてるんだ?」

「力を使い過ぎたようで、今は眠っています」

「学園祭ではしゃぎすぎだろ初代様……」

 

 覚醒した途端にはしゃいで全力で戦う世界樹の巫女。

 どうにもイメージと違うラクリアの行動にスタンフォードはため息をついた。

 

「なあ、スタンフォード。俺、全然話についていけてないんだけど」

「要するに、セタリアの前世は世界樹の巫女だったってことだよ」

「なるほどなぁ……えぇぇぇぇぇ!?」

「驚くのが遅いよ」

 

 ようやく理解できたブレイブが時間差で驚くのを見て、スタンフォードは肩を竦める。

 

「それに君だって今回の件は他人事じゃないんだ」

「どういうことだ?」

「本当は自分で思い出した方が良かったんだろうけど、ラクリア様の魂が覚醒した以上話さないわけにはいかない。君の正体は――世界樹の巫女の側近であり、この国を守る聖剣〝ベスティア・ブレイブ〟なんだ」

 

 聖剣ベスティア・ブレイブ。それはレベリオン創世記にも出てくるレベリオン王国に伝わる伝説の神器とも言われている聖剣の名前だ。

 

「待って待って! 頭が追い付かないんだけど、ブレイブ君が聖剣ってどういうこと?」

「そうですよ殿下。神器ならば以前私やアロエラ、セルド様が持ち帰ったではありませんか」

 

 以前、アロエラが破壊した歴史あるアカズキー遺跡から持ち帰られた神器、それは聖剣ベスティア・ブレイブと聖盾ベスティア・ハートだった。

 武具だと思われていた矢先、実は身近な人間でしたと言われても信じる方が難しいだろう。

 

「あれはダミーだよ。力を失ったブレイブは長い間ドラゴニル家が代々守ってきたんだ。そして、ついに目覚めた。不完全な覚醒だっただろうから、記憶は全くなかったみたいだけどね」

「俺が聖剣……そうか、だからヒュドラは俺のことを〝クソ聖剣〟って呼んでたのか」

 

 スタンフォードのメイドであり、ミドガルズオルムの手の者だったリオネスことヒュドラはブレイブのことをクソ聖剣と呼んでいた。

 そして、主であるミドガルズオルムがブレイブの覚醒を望んでいることも告げていた。

 

「ブレイブのことは国家機密としてドラゴニル家が守り通してくれた。意識が戻ったブレイブは力を使ってしまったから、より安全かつ力の使い方を学べる王立魔法学園に入学することになったってわけさ」

「そう、だったのか……」

 

 ブレイブも自分のこととはいえ、まだ理解が及ばず混乱していた。

 

「創世記では歴史を都合のいいように捻じ曲げて後世に伝えている。ブレイブのことだって、機密事項だからただの武器というような表現をしたんだろうさ」

 

 初代国王ニールが蛮族の首領だったように、歴史上都合の悪い真実は後世に伝わっていない。

 ブレイブはその中でも、言ってみれば国の秘密兵器のような存在だ。

 国に仇名す敵を斬るために生まれた人型の武器。そんな存在がいると、歴史には残せなかった。

 

「リア」

 

 告げるべきことは告げたと、控室を後にしようとしたスタンフォードだったが、思い出したかのように立ち止まってセタリアの方へと向き直る。

 

「たとえ前世がラクリア様だろうと君は君だ。今回は運命に振り回されて混乱しているだろうけど、それだけは忘れないでくれ」

 

 どんなに前世の人格の影響を受けようとも、今を生きているのは自分自身だ。

 スタンフォードは前世の意識をそのままに成長した。

 それでもスタンフォードははっきりと言える。

 

 自分は才上進ではなくスタンフォード・クリエニーラ・レベリオンだと。

 

「殿下、ありがとうございます」

 

 まだ笑顔には陰りがあったが、そう簡単に割り切れるものではない。

 スタンフォードは明日に迫った運命の戦いに身を投じるために、今度こそ控室を後にするのであった。

 


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