負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第102話 変わらないものと変わっていたもの

 

 決勝戦でボロボロになったステイシーの治療はコメリナが行っていた。

 スタンフォードから得た知識を元に治癒魔法を強化したコメリナの治癒魔法はもはや光魔法に劣らないほどの回復力を持っていた。

 

「すごい、もう完治してしまいました……」

「えっへん」

 

 重症だったはずの傷は瞬く間に治っていき、ステイシーは改めてコメリナの治癒魔導士としての腕を実感した。

 

「でも、ごめん。前髪は治らなかった」

「いいんですよ。元々戦闘じゃ邪魔くさかったんですし」

 

 セタリアの光の刃に切り飛ばされた前髪は治らず、ステイシーは素顔を晒したまま苦笑した。

 元々身嗜みに関して無頓着だったステイシーは、長い前髪で顔が隠れていた。

 友人も特にいなかったステイシーとしても、人の目を見なくて済むとそのままにしていたが、これからはしっかりと前を向いて生きていこうと決め、前髪はこのままでいいと思っていた。

 どこか吹っ切れた様子のステイシーを見ると、コメリナは珍しく笑顔を浮かべて告げる。

 

「お前、負けなかった。さすが、ライバル」

「負けなかった、ですか」

 

 ステイシーはコメリナの言葉にどこか複雑そうな表情を浮かべる。

 

「確かに私は負けませんでしたけど、勝てなかったんですよね」

 

 セタリアとの同時優勝。それはつまり、どちらにも優劣が付かなかったという結果に他ならない。

 果たして自分はスタンフォードが求めていた結果を出せているのだろうか。

 優勝したというのに、それだけがステイシーの中で気が掛かりだった。

 

 そんなとき、ステイシー達のいる控室の扉がノックされる。

 

「どうぞ」

「入りますわよ」

「ポンデローザ様?」

 

 控室に入ってきたのはポンデローザだった。

 ポンデローザの表情は硬く、それを見た二人も自然と表情が引き締まっていた。

 

「ステイシー、優勝おめでとうございますわ」

「あ、ありがとうございます」

 

 ルドエ領でポンデローザの素の姿を知っているとはいえ、相手は侯爵令嬢。

 緊張したままステイシーは頭を下げる。

 

「正直、あなたが優勝するとは思ってもいませんでした」

「ポン様、失礼」

「ちょ、コメリナ様! 呼び方呼び方!」

「別に構わないわ」

 

 敬称こそついているが、失礼な呼び方になっているコメリナにステイシーが慌てるが、ポンデローザはどうでも良さそうに笑った。

 

「決められた結果。それはセタリアの優勝だった。でも、あなたというイレギュラーがいたことで結果が変わる──そう思いたかったのに」

 

 ポンデローザは唇を噛むと、震える声で続ける。

 

「セタリアの優勝は変わらなかった。きっと結果が決まっていなければステイシーだけが優勝していたもの」

 

 今までの歴史上あり得ない滅竜魔闘での同時優勝。

 それは、セタリアの優勝が揺るがなかったからこそ起きた世界の修正力による捻じれだとポンデローザは断定した。

 

「あなたは快挙を果たした。それはすごいと思う。だけど、運命を覆すことはできない」

 

 ポンデローザはステイシーの結果には感動もしたし、彼女の実力を高く評価していた。

 しかし、だからこそ、そこまでの結果を残したステイシーですらも運命を変えることはできなかったと落胆していたのだ。

 

「ポン様、勝手に失望するな!」

 

 そんなポンデローザに対して、コメリナは制服の胸倉を掴み上げて声を荒げた。

 

「ステイシーはずっとずっと努力してきた! それを勝手に期待して勝手に失望して、何もかも諦めるなんて失礼にもほどがある! 人の人生を何だと思ってるの!」

「そうね。でも、そういうものなの。あたしにはわかるのよ」

「わかってない!」

 

 コメリナは普段の口下手が嘘のように矢継ぎ早に続ける。

 

「あなたは誰も人として見ていない! 運命だとか決められた結果だとか、そんなものに負けたりはしない!」

「結果を知らなければそうなるわよね」

 

 コメリナの言葉はポンデローザに届くことはない。

 どこまでも自分達を見ていないポンデローザを見て、コメリナは力なく掴んでいた手を離した。

 それから落ち着いた声音で告げた。

 

「殿下、信じてないの?」

「っ! ……スタンだろうと運命には逆らえないわ。結果は決まっているもの」

「見くびるな。殿下、勝つ」

 

 コメリナの言葉を聞いて、スタンフォードの覚悟に満ちた表情が頭を過ぎる。

 

『だから、今度は僕が君を救う番だ』

 

 今のコメリナもステイシーも、スタンフォードと同じ表情をしている。

 

 それは紛れもなく、スタンフォードが周囲に影響を与えた確かな証だった。

 


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