負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第105話 運命の第一歩

 

 アロエラはスタンフォードがクラスの出し物を手伝っている間、生徒会の仕事である学園内の見回りを行っていた。

 セタリアは体調不良を訴えて寮で休んでおり、ブレイブは昨日からどこか上の空だ。

 原因は決勝戦で起こったことだろうとアロエラは推測していた。

 アロエラは幼い頃からドラゴニル領に赴く機会があり、ブレイブとは昔から顔見知りだった。

 

 慕っていた兄であるセルドと離れ離れになったアロエラにとっては、()()()()()ブレイブは兄のような存在だった。

 

 しかし、気が付けば自分ばかりが成長しており、ブレイブとは同年代の友人になっていた。

 そのことについて一度だけ妹であるミモザに尋ねたことある。

 

『ミモザちゃん、どうしてブレイブは何年経っても見た目が変わらないの?』

『あはは、お兄ちゃんはちょっと特殊なの』

 

 曖昧な笑みで言葉を濁すミモザを見て、アロエラはそれ以上ブレイブのことについて追及するのをやめた。

 

 ブレイブは何があってもブレイブだ。それでいい。

 

 それは思考停止に他ならなかった。

 自分以外は何かを知っているという今この状況になり、アロエラはそれが間違っていたと思うようになった。

 

 考えることを止めて楽な方に流れる。

 アロエラの魔法が真価を発揮できずに、暴発ばかりしており、それを良しとしていたことも同じである。

 

 変わらなければならない。

 

 滅竜魔闘を通してアロエラの考え方には変化が生じていた。

 それは奇しくも本来原作ではあり得ない流れだった。

 

 原作では、メインヒロインであるセタリアのシナリオをフィーチャーしていることもあり、アロエラ、ミモザ、コメリナのルートはボリュームが少なくなりがちだった。

 アロエラがユーザーからお色気シーンくらいしか印象に残っていないのは、典型的な幼馴染ヒロインでありながら、セタリアのシナリオで明かされる秘密が明かされずにストーリーが終わってしまうからである。

 ある意味、セタリアルートを最後にプレイすれば全ての点と点が繋がっての伏線回収となるが、セタリア以外のヒロインの前座感は否めない。

 アロエラもその例に漏れずに、魔法が使えるようになったこと以外は特に精神的な成長があるわけでもなかった。

 

 しかし、彼女はまさに今変わろうとしている。

 

「スタンフォード殿下、見回りの交代の時間です」

「ああ、ありがとうアロエラ。すぐ行くよ」

「その前にお時間いただけますか?」

「構わないよ」

 

 アロエラの踏み出した一歩は、この世界にとっては大きな一歩であった。

 コメリナ、ステイシー、両名に続き、誰も気づくことができない大きな一歩を踏み出したアロエラはスタンフォードを連れ出すと、誰もいない生徒会準備室で静かに頭を下げた。

 

「スタンフォード殿下、今までの非礼を詫びます」

「えっ、ちょ、いきなりどうしたんだい?」

 

 その謝罪はスタンフォードにとっては身に覚えのないものだったため、頭を下げられた本人は困惑していた。

 

「アタシは今までこの国の第二王子であるスタンフォード殿下に対して度々失礼な態度を取っていました。その非礼を詫びたいのです」

「いや、昔の僕の行動を考えたらそれも仕方がないさ。それに君は内心でどう思おうとそれは自由。表に出さなければ問題はないだろう」

「いえ、十分表に出ておりました」

 

 アロエラは口調こそ敬語であったが、スタンフォードに対する嫌悪感を隠すことはなく慇懃無礼な態度をとっていた。

 スタンフォードは周囲の生徒からそのような態度を取られることなど日常茶飯事だったため、気にも止めてはいなかっただけである。

 

「アタシはケジメを付けたいのです」

 

 スタンフォード本人が気にしていないからといって、アロエラはこのことをなあなあで済ますつもりはなかった。

 

「ケジメか。それを言ったら謝らなきゃいけないのは僕の方だ」

「いえ、身分の差を考えれば殿下が謝ることは何もありません。あなたの言葉は嫌味っぽいだけで、悪意はなかったのですから」

「余計に悪いと思うんだけど」

 

 今になって敬意を払った態度を取ってくるアロエラの言葉が、さりげなくスタンフォードの心に刺さる。

 

「とにかく、君の態度に関しての謝罪は確かに受け取ったよ。僕の方こそ今まですまなかった」

「謝罪は必要ないと言いましたのに……まあ、いいです。ここからが本題ですから」

 

 アロエラは咳払いをすると、片膝をついて告げた。

 

「アタシをあなたの臣下にしてください」

「……どういう心境の変化だい?」

 

 スタンフォードからしてみれば先日まで自分を毛嫌いしていた苦手な相手が、急に臣下にしてほしいと頼み込んできたのだ。アロエラの行動に困惑するのも無理はない。

 

「アタシは何も考えないバカのままでいたくない。そんな自分から変わるにはあなた様の臣下になり、学ぶことが一番だと思った次第です」

「君は……そうか、わかった」

 

 スタンフォードも真剣なアロエラの姿を見て姿勢を正す。

 

「アロエラ・ボーア。君の力を貸してほしい」

「はっ! このアロエラ、誠心誠意スタンフォード殿下のために尽くさせていただきます」

 

 この瞬間、スタンフォードに二人目の臣下が出来た。

 

 奇しくも一人目とは違い、心から彼に敬意を払った臣下の誕生であった。

 


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