負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第106話 臣下二人

 滅竜魔闘に出場する者にゆっくりと文化祭を楽しむ時間はない。

 ついに滅竜魔闘男子の部が始まるのだ。

 

「殿下、ついに試合が始まりますな」

「ガーデルか。君は確か出場しないんだったな」

「ええ、私奴にはその資格はありませぬ故」

「資格?」

「直にわかりますぞ」

 

 言葉の意図がわからずに聞き返すスタンフォードだったが、ガーデルは不気味に笑うだけだった。

 ガーデルの笑みに策略めいたものを感じつつも、スタンフォードは不敵な笑みを浮かべて告げる。

 

「僕は滅竜魔闘で優勝する。何があってもだ」

「ほう、楽しみですな」

 

 どんな困難が待ち受けていようとスタンフォードの決意は変わらない。

 その後ろを忠誠心なき従者はただただついていくのみ。

 

「主様、頑張ってくださいね!」

「いや、主様って……」

 

 そこに新たに忠誠心がある従者が加わった。

 

「いいのかい、アロエラ。君はブレイブの応援をしたいんじゃないのか?」

「いえ、何も考えずに抱いていたこの気持ちは閉まっておくことにしました」

 

 アロエラは昔からブレイブのことが好きだった。

 しかし、思考停止の果てに抱いた気持ちを一旦置くことにアロエラは決めたのだった。

 

「だからブレイブには悪いけど、アタシは主様を応援することにします」

「ま、あいつのことは大抵の生徒が応援するし、アロエラに応援されてもバチは当たらないか」

 

 事実、観客席にいる生徒達はブレイブを応援している者が圧倒的に多い。

 それとは対照的にスタンフォードを応援している者は少ない。むしろ無様に負ける様を見て溜飲を下げようと思っている者の方が多いくらいだ。

 それだけ過去、スタンフォードの行いによって腹を立てている者が多いということだ。

 

「アロエラ、僕のことを恨んでいないのかい?」

「ははっ、スタンフォード殿下。さんざんコケにされて〝猪女〟なんて呼ばれてバカにされた彼女があなたを恨んでいないわけが――」

「恨んでいませんよ」

「は?」

 

 嬉々として笑おうとしたガーデルの表情が固まる。

 

「確かにムカつくことはいっぱいありました。でも、主様はそれ以上のものをくれた。アタシが破壊魔法の真価を引き出せたのは主様の言葉があったからなんです」

「だ、だが、過去に受けた苦しみは消えないだろう!」

「主様はご自身の立場も周囲に与える影響も考えずに愚行を繰り返した。主様にバカにされれば実家から 責が飛び、周囲からもバカにされる。アタシもそうだった」

 

 スタンフォードは自分なんて全然大したことはない。だから、それ以下のお前らはもっと大したことはないという間接的な貶しかたをしていた。

 当時のスタンフォードにとって周囲は主人公である自分を引き立てるモブキャラでしかなかった。

 魔法の実験と称し、授業で相手を必要以上にいたぶったことだって一度や二度ではない。

 謙虚に振る舞っているつもりで、その実相手を見下して自分がすごい存在であることを実感する。それが気持ち良かった。

 

 しかし、愚かな行動の中にも確かな助言や僅かばかりの優しさがないわけではなかった。

 

「主様は性格が悪いだけで悪い人じゃなかった。それに気がつけば意外と許せるものよ」

「っは、綺麗ごとを」

 

 憑き物が落ちたようにスッキリとした表情を浮かべるアロエラをガーデルは鼻で笑う。

 

「傍から見たら些細なことだろうと誰にだって許せないことはある。人の地雷を踏み抜いておいて改心しましたが通用するとでも?」

「それは主様がこれからやるべきことよ。彼を許せない人に無理に許せなんて思わない」

「へぇ、それなら見届けさせてもらおうじゃねぇか」

 

 当事者であるスタンフォードを差し置いてアロエラとガーデルは睨み合って口論を続ける。

 

「あのー……僕、もう行っていいかな? そろそろ予選の時間だし……」

 

 そんな二人の口論を、スタンフォードは困ったように見届けるのだった。

 


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