負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第110話 硬雷魔剣

 

 ついに予選も最終ブロック。スタンフォードの出場する試合が始まる。

 舞台上に上がると、スタンフォードは張り詰めた空気を感じて辺りを見渡す。

 周囲にいる生徒達はスタンフォードが視線を向けた途端にそっぽを向いてしまう。

 試合前の空気にしても殺気立ち過ぎている。

 嫌な予感がしたスタンフォードは、出来るだけ速攻で勝負をつけることにした。

 

『試合開始!』

 

「〝広域放電!!!〟」

 

 スタンフォードは試合開始の合図と同時に自分の周囲へ放電する。

 試合開始の瞬間に放たれた広範囲攻撃に、普通ならば誰も対応できずに倒れていくはずだった。

 

「なっ……」

 

 しかし、スタンフォードの周囲を取り囲むように幾重にも重なった土魔法の壁が出来上がっていた。

 

「次だ。火炎魔法を壁の中へ!」

 

「「「了解!」」」

 

 完全にスタンフォードの攻撃は読まれていた。

 休む暇もなく、火球が壁の中に放たれていく。

 

「くそっ、チーミングか! 〝鉄砂球(くろがねさきゅう)!!!〟」

 

 何が起きているか瞬時に理解したスタンフォードは防御をしながらも舌打ちする。

 初撃の放電を防いだ複数人による土壁。

 その隙を狙ったような火球の雨。

 どう考えても狙い撃ちされている。

 出来るだけ本戦に向けて魔力を節約したかったスタンフォードだったが、即座に力を温存するという考えを捨てる。

 

「スタンフォードを休ませるな! 〝旋風砲(ウィンドブラスト)!!!〟」

「砂鉄は風で吹き飛ばせ!」

「こいつら、僕の魔法の弱点を……!」

 

 スタンフォードの魔法の弱点を正確に把握している者は少ない。

 ましてや、スタンフォードの攻撃や防御の癖まで正確に把握している者など、本当に極僅かなのだ。

 

「……なるほど、大した忠臣っぷりだね」

 

 スタンフォードは攻撃をやり過ごしながら、この予選の仕込みをしたであろう臣下の顔を思い浮かべて笑う。

 

「僕だけレイドバトルの狩られる側なのは納得いかないけど、上等じゃないか」

 

 スタンフォードに向かってくる生徒達は皆、憎悪に満ちた表情を浮かべながら連携して魔法を放ってくる。舞台上の全員がそんな調子だ。

 

「スタンフォードをぶっ飛ばせ!」

 

「「「おお!」」」

 

 共通の敵は結束力を高める。

 スタンフォードに恨みを持つ者達は事前に打ち合わせでもしているかのような連携を見せて怒涛の攻撃をしかけていく。

 そんな異様な試合風景を観客席から眺めていたアロエラは苛立ったように叫ぶ。

 

「ちょっと、何あれ! 全員で一人を狙うなんて卑怯じゃない!」

「いえ、バトルロワイアル形式の予選ではそれも一つの作戦として見られます。かなり私怨が混じっている気はしますが……」

「へぇ、スタンフォード君ってすごいね。動きに無駄が全然ないや」

 

 滅竜魔闘の予選は大勢の生徒が参加しているため、バトルロワイアル形式を取っており、その場で誰かと組むことも作戦として認められる。

 ただ勝ち上がれるのは一人のため、裏切りを警戒してその作戦を実行する者はあまりいなかった。

 ましてや、全員で徒党を組んで一人を狙い撃ちにするなど、前代未聞の出来事である。

 

「いやぁ、スタンフォード殿下は苦戦しておりますな」

「ガーデル、あんたまさか……!」

 

 三人の元に満面の笑みを浮かべて現れたガーデル。

 そんな彼にアロエラは殴りかからんばかりの勢いで詰め寄る。

 

「私奴は何もしておりませぬ。これもまたスタンフォード殿下の行動が招いた結果ですぞ」

 

 それを手で制すると、ガーデルは饒舌に語る。

 

「予選最終ブロックの出場者全員がスタンフォード殿下に恨みを持っている。別に意図的に組まなくともそうなる時点で問題があるのはスタンフォード殿下でしょう。私奴は彼らの後押しをしたまで。ほら、ここでしっかりとやり返せば気持ちもスッキリして過去も清算できるでしょう?」

「主様がこの滅竜魔闘にかける思いを知ってて言ってんの!?」

「ええ、もちろんですとも」

 

 ガーデルはアロエラの言葉に心底楽しそうな笑みを浮かべる。

 

「過去の罪悪感で実力を発揮できないのならその程度というだけの話。今更いい子ちゃんぶっても仕方ないというのに」

「あんた何様よ!」

 

 アロエラはガーデルがスタンフォードを殺しかけ、その後謝罪を受けた上で臣下として迎えられた事情をスタンフォードから聞かされていた。

 そのため、主を平気で傷つけるような真似をしていることが許せなかったのだ。

 

「スタンフォード殿下が為すべきことはただ一つ。自分に恨みを持っていようと、容赦なく叩き潰すことですぞ」

「昔の再現でもさせて主様は変わってないとでも証明するつもり? 陰湿ね」

 

 吐き捨てるように言うと、アロエラはガーデルを睨みつけて告げる。

 

「周りが何と言おうと、主様は変わったわ!」

「ええ、そうですとも。ですから、彼らも変わるべきかと」

「へ?」

 

 ガーデルの予想だにしない言葉にアロエラは虚を突かれた表情を浮かべる。

 

「ま、私奴としてはスタンフォード殿下がボコボコにされるのも一興ですがね」

 

 ガーデルはそう呟くと、真剣な表情を浮かべて舞台で狙い撃ちされているスタンフォードへと視線を向けた。

 

「さ、あんたはどう動く?」

 

 その目には何かを期待するような色が浮かんでいたのだった。

 舞台上でスタンフォードを集中狙いした攻撃は苛烈さを増していく。

 

「いい加減、潰れろスタンフォード!」

「悪いけど、そうはいかないんだ」

 

 さすがのスタンフォードも攻撃を裁き切れずに、確実にダメージを蓄積させていく。

 しかし、攻撃魔法を使っている生徒達にも疲れの色が浮かび始めた。

 

「全員、僕に恨みがあるって雰囲気だけど、誰が相手だろうと僕は負けるわけにはいかない」

 

 攻撃が緩んだタイミングでスタンフォードは舞台上の生徒達へと語りかける。

 

「僕が今更やり直したいなんて言っても君達が認めてくれないのは百も承知だ」

 

 スタンフォードの言葉に反応した生徒達は攻撃の手を止める。

 スタンフォードがどんな風に許しを請うか興味があったのだ。

 過去の行いを悔いているのならば、自分達に謝罪があって然るべき。それが当然であり、許しを請えば徒党を組むのをやめてやってもいい。そんな風に思っていたのだ。

 

「だから行動で示させてもらうことにした」

 

 スタンフォードは剣を抜くと構えを取る。

 

「今から僕は君達を倒して本戦に上がる。手加減なんて一切しない」

 

 スタンフォードの瞳には一切の曇りもなかった。

 

「本気で行くぞ……かかってこい!」

 

 多勢に無勢のこの状況でスタンフォードは言い放った。

 それは傍から見れば自分達を格下と見下しているようにも取れるが、対峙している者ならばわかる。

 スタンフォードは自分達と真剣に向き合った上で勝つと言ってのけたのだ、と。

 

『やれるもんならやってみやがれぇぇぇ!』

 

 全員が一斉に攻撃魔法を唱える。

 

「〝硬雷魔剣(カラドボルグ)!!!〟」

 

 それに対してスタンフォードは地面に剣を突きさすと魔力を送り込む。

 魔剣ルナ・ファイによって増幅された魔力は雷の刃となって地面から無数に突き出た。

 放電など生温く感じる威力の範囲攻撃に為す術もなく、全員が身体を切り裂かれて倒れていく。

 

「謝罪なら後でいくらでもさせてもらう。僕は無自覚のままそれだけのことをしてきたんだ」

 

 攻撃魔法すら雷の刃で防御していたスタンフォードは剣を鞘に納めると小さく呟く。

 

『勝者、スタンフォード・クリエニーラ・レベリオン!』

 

 圧倒的な強さを見せつけたスタンフォードは静かに舞台を去る。

 

「今、僕は負けるわけにはいかないんだ」

 

 ブレイブのときとは対照的に、スタンフォードが勝利しても歓声は上がらない。

 そんな中、試合結果を見たガーデルは楽しそうに拍手をしていた。

 

「いやぁ、最高の試合でしたな!」

「……こっちは胸糞悪いっての」

「何がですかな? 私奴はもう最高の気分ですぞ! スタンフォード殿下は過去の行いの因果応報の果てにボコボコにされ、己の実力も顧みずに挑んだ愚か者共も一蹴された。実に愉快ではありませぬか! スタンフォード殿下は勝ちたいのならば謝罪などしている余裕はなく、愚か者共を倒すしかないですからな!」

 

 周囲にいた生徒達はガーデルのやり取りを見て露骨に顔を顰める。

 

「少なくとも、スタンフォード殿下に恨みがあった人間ならば私奴と同様に内心ほくそ笑んでいるに決まっているではありませぬか! でしょう、皆様!?」

 

 ガーデルは大袈裟な仕草で周囲に問いかけるが全員が目を伏せて無言を貫いた。

 

「はっはっは! まったく、声を上げない同類だらけで寂しい限りですな! では、私奴があなた方の分までスタンフォード殿下を笑って差し上げましょう!」

 

 ガーデルの態度は少なからず自分の内心を代弁している部分もあった。

 それ故に不快なガーデルの姿を見て、いつまでも過去のスタンフォードの行いに異議を申し立てるでもなく、ただ恨んでいる自分は〝アレ〟と同類なのだと言われている気がしたのだ。

 

「あー……なるほど、そういうことですか」

 

 ガーデルの意図を察したステイシーは呆れたように呟いた。

 

「どこまで捻くれているんですかあなたは……」

 

 ガーデルは自分にヘイトを集めさせ、また変わろうとしているのにガーデルのような臣下を持ったという同情でスタンフォードに対する悪感情を和らげようとしていたのだ。

 忠誠心など欠片もないガーデルなりに、臣下としてやるべきことはやろうとしてはいたのだった。


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