負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん! 作:サニキ リオ
ルーファス・ウル・リュコス。
剣士としても魔導士としても抜きん出た実力を持つ男であり、学園で彼に敵う者はいない。
それは第一王子であるハルバードでも例外ではなかった。
彼の学園での自由奔放な態度が許されているのも偏に実力で黙らせているからに他ならない。
そんなルーファスが滅竜魔闘に参戦したとなれば、優勝は決まったようなものである。
残された可能性としては奇跡的にブレイブが勝つかもしれないという僅かな可能性だ。
『さあ、続きまして滅竜魔闘男子の部準決勝の対戦カードはぁぁぁ……』
つまり、観客達にとってこの試合はルーファスの勝ちが確定した試合と言っても過言ではなかった。
『学園最強の男ルーファス・ウル・リュコスVSかつて天才と呼ばれた王子スタンフォード・クリエニーラ・レベリオン!』
実況席は精一杯盛り上げようとするが、観客達の反応はいまいち悪い。
「ってく、せっかく最高の試合が始まるってのにギャラリーが湧いてねぇな」
「仕方ありませんよ。ルーファス様はそれだけ強さが周りに知れ渡っているんですから」
いまいち盛り上がらない観客達の様子にルーファスは不満げだった。
「チッ、俺様が盛り上げるとするか……」
ルーファスは舌打ちすると、観客席に届くように大声で叫んだ。
「試合を始める前に少し時間をくれ!」
「ルーファス様?」
「古来より戦士達の殺し合いを観戦するのは貴族の娯楽だ! 滅竜魔闘もそれにならい、魔導士達が誇りを懸け、あるいは命を懸けて戦う場として始まった。だが、どうだ。滅竜魔闘は形骸化し、今やただの学生の競技と化した!」
ルーファスは両手を広げ、訴えかけるように続ける。
「その程度の戦いでお前らは満足できるのか!?」
ルーファスの問いかけに観客達は困惑したようにざわつき始める。
そんな観客達にお構いなしに、ルーファスはスタンフォードへと告げる。
「スタンフォード・クリエニーラ・レベリオン! 俺様と賭けをしようじゃねぇか!」
「賭け、ですか?」
「ああ、そうだ! お互い何か失うものがあった方が必死になれておもしれーだろ?」
ルーファスの言葉に、スタンフォードは肩を竦める。
「バカバカしいですね。僕にとってこの試合は勝たなきゃ意味がないものなんですよ」
元よりスタンフォードにとって滅竜魔闘は優勝以外はどこで負けようが敗北なのだ。
ルーファスは観客席を盛り上げるためにやっているのだろうが、わざわざそれに乗る理由もなかった。
「俺様に勝つことが前提だと?」
「ええ、そうです」
スタンフォードは当たり前のことのように言ってのけた。
ルーファス参戦を知ったときは一時的に絶望的な気分を味わったが、それも束の間のこと。
誰が相手だろうとやることは変わらないのだ。それに一喜一憂などしていられなかったのだ。
『おおっと、スタンフォード選手! あのルーファス選手に対して勝利宣言だぁ!』
『虚勢を張っているようには見えないな。どうやら、殿下は本当に勝つ腹積もりらしい』
「えー……スタンフォード殿下がルーファス様に勝てるわけないじゃない」
「あっはっは、自信家なのか昔から変わらないね」
「くくっ、大言壮語も甚だしい」
観客席からはスタンフォードに対する嘲笑の声がそこかしこから零れ落ちる。
「受ける理由がない、か。なら、俺様が負けたときはスタ坊の臣下になってやるよ!」
ルーファスの言葉に、ざわついていた観客席が一気に静まる。
「どうだ、これなら十分賭けを受ける旨味はあると思うが?」
ルーファスの目は本気だった。それを見たスタンフォードはこの賭けを受ける決意をする。
「わかりました。でしたら、僕が負けた場合は王位継承権を放棄します」
元よりスタンフォードにとって王位継承権などないも同然のもの。
しかし、周囲からすればそれは決して軽いものではなかった。
「ルーファス貴様! 何を戯けたことを言っている!」
二人のやり取りに意を唱えたのはルーファスの父であり、レベリオン王国騎士団長であるスティール・ウル・リュコスだった。
今までは息子の行いにも目を瞑ってきたがさすがに王国の今後に関わってくるような重要な案件を見逃すわけにはいかなかった。
「スタンフォード殿下もどうかご再考願います! 王国の今後に関わることですぞ!」
「だからだよ!」
ルーファスは父親のことなど眼中にない。
改めてスタンフォードに向き直ると、ルーファスは静かに告げる。
「なあ、スタ坊。お前は王国の今後なんてもんより、もっと大きなものを背負ってんじゃねぇのか」
そこで言葉を区切ると、ルーファスはニヤリと挑発的な笑みを浮かべてみせた。
「だったらよ……俺如き、倒してみせなきゃなぁ?」
「上等ですよ!」
スタンフォードはルーファスを超えるべき壁と認識した。
ブレイブは今や創世記の頃の理不尽なまでの強さを取り戻し始めた。
それはまるで世界が彼をどうやっても勝たせるように修正していくかのようだった。
ならば、理不尽の一つや二つ超えられなければ運命をひっくり返すなんて真似、できるはずもないのだ。
「ならば、その試合。私が立会人となろう」
『国王陛下!?』
そこで今まで事の成り行きを静観していた国王オクスフォードが声を上げた。
「スティールよ。古来より決闘とはそういうものだ。たとえそれが滅竜魔闘の場であろうとそれは変わらん。むしろ、国の重鎮が揃っているこの場こそ誇りを懸けた決闘に相応しいとは思わぬか?」
「しかしですね……」
「問題ない。どのような結果になろうとも王国を揺るがすことにはならぬ」
国王としての威厳を放っているが実はこの男、自分の息子の成長を感じ取り、ノリノリだったのである。
「さあ、両者とも最高の試合を見せてみよ!」
『おおっと! 国王陛下が賭けを承認なさった! これはすごいことになりましたよ!』
『国王陛下がここまでいうのだ。きっと何か意図があるのだろう』
そんなものはない。
そこにあるのはただの親バカな父親の姿だけである。
「国王陛下の許しも出た。俺は本気で剣を向ける……死ぬんじゃねぇぞ?」
「っは、そっちこそ!」
『試合開始!』
こうしてスタンフォードとルーファスの戦いの火ぶたが切られた。