負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第115話 スタンフォードVSルーファス その1

 

 試合が始まって早々、スタンフォードは魔剣ルナ・ファイに魔力を全力で流し込む。

 

「〝武雷せ──〟」

「遅い」

 

 その瞬間、スタンフォードには一陣の風が吹いたように感じた。

 スタンフォードがルナ・ファイに魔力を流し終わったときには、既にスタンフォードの外套が真っ二つに切り裂かれていた。

 

「あれだけ啖呵を切っておいて、その程度か?」

 

 ゆっくりと真っ二つになった王家の紋章が刻まれた外套が地面へと落ちていく。

 その行為は王族への侮辱とも取られかねない。

 案の定、観客席はざわめいており、ルーファスの父であるスティールに至っては顔面蒼白になっていた。

 

「悪かったな、あまりにも隙だらけだったもんで斬っちまった」

「いいえ、ちょうど良かったですよ」

 

 実力差を見せつけられたというのに、スタンフォードは余裕の笑みを浮かべて返す。

 

「王族が着用しなきゃいけないこの外套は防具としても優秀だったので、ズルしてる気分になるんですよ。だから、切り裂いてもらったおかげで心置きなく戦えます」

「そうかい、そいつは良かった!」

 

 ルーファスはスタンフォードの言葉に口元を吊り上げると、狂犬のような笑みを浮かべて斬りかかる。

 

「〝迅雷怒涛(じんらいどとう)!!!〟」

「どうせ、後ろだろ!」

 

 スタンフォードが雷を纏って速度を上げ、自分の太刀筋から逃れたことを感じたルーファスは、余裕そうな表情で後ろからの攻撃に備える。

 

「っ……重ぇな」

 

 しかし、受け止めた攻撃の重さにルーファスは目を見開いた。

 

「ただのスピードアップと思わないことですね!」

 

 スタンフォードが発動した魔法は速度を上げる魔法ではない。

 雷を纏いスピードを上げ、さらには肉体の電気信号を操作して身体能力を爆発的に向上させる魔法の二重掛けだった。

 スタンフォードは先ほどのルーファスの一撃により、常時身体能力を限界まで引き上げなければまともに戦うことも出来ないのだと痛感した。

 肉体への負荷も大きい故に局所的に使う魔法だったが、泣き言など言ってはいられない。

 

「〝武雷尖刃(ぶらいせんじん)!!!〟」

「〝砕牙一閃(ブリッツファング)!!!〟」

 

 激しい剣戟音が鳴り響く。

 速さと威力を持ち合わせた刃は幾度となくぶつかり合い、辺りには火花が飛び散る。

 

「ぐっ……!」

「オラオラどうしたァ!」

 

 スタンフォードはルーファスの連撃に何とか食らいつく。

 無理矢理重ね掛けした強化魔法でもそれが現時点でのスタンフォードの限界だったのだ。

 金属魔法を扱うルーファスは電気をよく通す弱点がある。

 生物は強い電流を流されれば肉体が硬直する。弱点ならば猶更のはず。

 だというのに、ルーファスは剣を通して流れてくる電撃をものともせずに動き続けていた。

 

「そうか!」

 

 ルーファスが電撃をものともせずに動き続けている絡繰りを見抜いたスタンフォードは自身の肉体が切り刻まれるのを顧みずに特攻して腕を狙って斬撃を放った。

 

「チッ!」

 

 スタンフォードは片腕を深い切り裂かれながらも、ルーファスの剣を両手からはじき落とした。

 すると、途端に怒涛の斬撃が止んだ。

 

 スタンフォードは、コメリナのおかげで習得した雷属性の回復魔法で即座に傷を修復しながら告げる。

 

「やっぱり、剣に刻まれた術式使って補助していたんですね」

「よくわかったな」

「前に一度自動で動く所は見ていましたから」

 

 ルーファスの双剣は術式が刻み込まれた特殊な魔剣だ。

 剣術を学習し、使い手と共に成長していく魔剣は、ルーファスの魔力と技術を食らってもはや素人が握ってもルーファスと同等の剣術が使えるようになる代物と化していた。

 

 以前、練習用の剣を即席で改造したときとはわけが違う。

 使い手に疲労が蓄積しようがダメージを与えようが技のキレが衰えることはない。

 肉体の負荷が大きいドーピングで何とか食らいついているスタンフォードにとって、その事実は絶望的なものだった。

 

「やるじゃねぇかスタ坊。んじゃ、こんなのはどうだ?」

 

 そんな中、体が痺れたままのルーファスは魔法を発動する。

 ルーファスの頭上に銀色の波紋が広がり、無数の剣が現れたのだ。

 

『おおっと! 突如、ルーファス選手の頭上に無数の剣が出現しました!』

『私も見るのは初めてだ。騎士団長でもあれほどの剣を生み出すことは不可能だろう。まさかここまでとは……』

 

「何あの魔法!?」

「ルーファス様の金属魔法のはずですが、私もあんなのは初めて見ました」

「規格外ですぞ……」

「へぇ、彼も私達の時代でもやっていけそうな強さだね」

 

 ラクリアを除く全員がルーファスの魔法を見て戦慄していた。

 ルーファスは剣士というイメージが強すぎて、魔導士としての実力はそこまで知れ渡っていなかった。

 それは魔導士としての技量を披露する前に相手を倒してしまうからである。

 

 故にルーファスの魔法は剣士としての攻撃を強化するために使われているのだと周囲は思い込んでいた。

 事実、ここまでルーファスは魔導士らしく金属魔法単体で戦ったことはなかったのだ。

 周囲の反応を余所にルーファスは口元を吊り上げてスタンフォードを見据える。

 

「俺様も魔導士だ。体が痺れていようが魔法は使えるんだぜ?」

 

 ルーファスの金属魔法は自分の周囲にある金属を操ることができる。

 しかし、それは副次的な効果に過ぎない。

 

「効率はちと悪いが、こういうこともできるんだぜ!」

 

 本来、金属魔法は魔力の限り金属を生み出すことができる魔法なのだ。

 金属魔法によって生み出された無数の剣は、そのすべてがスタンフォードへと切っ先が向いている。

 

「〝剣刃豪雨(レーゲンクリンゲ)!!!〟」

 

 鋼鉄の剣がスタンフォードへと降り注ぐ。

 

「〝電磁反射(でんじはんしゃ)!!!〟」

 

 咄嗟にスタンフォードは降り注ぐ剣を電磁力で操り、ルーファスへと跳ね返す。

 

「おいおい、忘れたのかスタ坊──この場の金属は俺の支配下にある」

 

 ルーファスへと跳ね返った剣が再びスタンフォードへと向かう。

 再び電磁力で操ろうとしたスタンフォードだったが、今度は剣が動くことはなくそのままスタンフォードの身体を貫いた。

 

「跳ね返せな──がはっ!?」

「そりゃそうだ。さっきはただ射出しただけ。今度のはお前さんを貫くように操ったからな」

 

 躱しきれない降り注ぐ剣が次々にスタンフォードに突き刺さっていく。

 その光景はあまりにも残虐で、盛り上がっていた観客達は絶句する。

 今までスタンフォードに恨みを持っていた人間ですら、その光景に同情を覚えたほどだ。

 

「まだやるかい? 実力の差はわかっただろ」

 

 どこか失望を含んだルーファスの言葉。

 それに対してスタンフォードは魔法で返答した。

 

「〝雷神砲(トールガン)!!!〟」

「なっ!?」

 

 スタンフォードは引き抜いた剣をレールガンの要領で発射した。

 気を抜いていたルーファスはもろにその攻撃を浴びることになる。

 

「……当然まだやりますよ。なんなら弾丸をくれてお礼を言いたい気分です」

 

 身体から剣を引き抜くとスタンフォードは強気に笑う。

 

「〝高速修復(ラピッドリペア)〟」

 

 スタンフォードは魔法で剣が刺さっていた傷口を塞いでいくと高らかに咆える。

 

「さあ、第二ラウンドといきましょう!」

「はははっ、そうこなくっちゃなァ!」

 

 お互いに口から血を流しながらも、その表情はこれまで見たことがないほどに笑顔だった。

 


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