負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第116話 スタンフォードVSルーファス その2

 

 スタンフォードとルーファスの戦いは激しさを増していく。

 二人の動きはあまりにも速く、実力の足りない生徒達からはもはや舞台上で火花が飛び散っていることしか認識できないほどだ。

 

「スタン……」

 

 ポンデローザは客席から痛ましげな表情を浮かべて戦いの成り行きを見守っていた。

 善戦しているように見えて、スタンフォードの肉体は既にボロボロだ。

 過剰な肉体強化によるフィードバックに加え、高速再生しても間に合わないほどの手傷。

 外側こそ魔法で治しているものの、肉体の内側はもう立っていることが不思議なほどである。

 

「あんなにボロボロになってまで、私のために……」

 

 その瞳には大粒の涙が浮かんでいた。

 ポンデローザは知っている。

 スタンフォードは元々平和な日本で暮らしており、死闘などとは無縁な人間だった。

 そのうえ、嫌なことからはすぐ逃げて自分の殻に引き籠もる性格だったのだ。

 それが今、彼は諦めることを良しとせずに運命に立ち向かい続けている。

 

「どうして、そこまで頑張れるの」

 

 諦めてしまったポンデローザにとって、自分を救うためにスタンフォードがそこまで頑張れる理由がわからなかった。

 ポンデローザは自分が死にたくないが故にスタンフォードに協力を持ちかけただけ。

 少なくとも恩義を感じてもらうほどのことはした覚えがなかった。

 

 しかし、それはスタンフォードにとって人生の転機とも言える出来事だったのだ。

 

 舞台上で絶えず剣を振り続けるスタンフォードは苦痛に耐えてルーファスに立ち向かい続ける。

 

「絶対に、勝つんだ」

 

 ポンデローザが立ち上がるきっかけを作ってくれた。

 ステイシーが共に歩んでくれた。

 コメリナが信じてくれた。

 

 霞む視界の中、スタンフォードは勝利に向かって突き進む。

 

「ボロボロだな、スタ坊」

「はぁ、はぁ……ぐっ……!」

「まあ、無理もねぇか。俺様はスタ坊と戦うことに全てを注ぐつもりでここに来た。対するお前さんは優勝することを視野に入れて戦った。この差はでけぇからな」

 

 ルーファスは心底残念そうにそう告げた。

 優勝を見据えて戦う場合は体力、魔力の配分を考えなければならない。

 実際、スタンフォードも予選の時点では魔力を節約しようとしていたくらいだ。

 それに対してルーファスは、優勝などには興味がなく、スタンフォードと全力で戦うことを望んでここにいる。

 ルーファスにとってはこの戦いこそがゴールだったのだ。

 

「ははっ、あははっ……!」

 

 ルーファスの言葉を聞いたスタンフォードは血を吐きながらも笑った。

 

「何がおかしい」

「勘違いしてませんか」

「何?」

 

 ルーファスは怪訝な表情を浮かべてスタンフォードを注視する。

 魔力量に余裕はなく、肉体もボロボロ。

 そんな状態だというのに、スタンフォードから放たれる威圧感はむしろ増しているように感じた。

 

「僕は常に全力です。運命をひっくり返そうってときに出し惜しみなんてしてられませんから」

 

 スタンフォードは歯を食いしばると、息を吸い込んで絶叫する。

 

「そんな鈍で斬られたって痛くも痒くもないんだよ! いつまで楽しんでるつもりだ! 全力で来い、ルーファス・ウル・リュコス! 僕はその上を行く!」

 

 スタンフォードの叫びは客席全体へと轟いた。

 傍から見てもスタンフォードの言葉はただの減らず口にしか聞こえないはずだ。

 しかし、ルーファスはその言葉を本気のものだとして捉えた。

 

「……よく吠えた」

 

 スタンフォードの言葉が口先だけでないことは、直接対峙していたルーファスが一番よく理解していた。

 だからこそ、敬意を持って全力で叩き潰すことにしたのだ。

 

「お望み通り全力で行かせてもらおうじゃねぇか! 全魔力解放!」

 

 ルーファスを中心に魔力の奔流が巻き起こり、舞台全体を激しく揺らし始める。

 次々と空中に銀色の波紋が浮かび、スタンフォードを球状に取り囲んでいく。

 そして、ルーファスは双剣を鞘に収めて構えを取った。

 

『何ということでしょう! ルーファス選手、再び無数の剣を召喚したぁ! しかもあの構えは!』

『餓狼噛砕、あの技は一度も防がれたことのない必殺の一撃だ』

 

「ちょ、さすがにあれはまずくない?」

「スタンフォード殿下死んじゃうって!」

「おい、審判止めろよ!」

「ルーファス様、本気出しすぎだろ!」

「スタンフォード殿下もよく頑張ったって! 降伏した方がいいですって!」

 

 観客席はルーファスの一撃から漂う死の気配に大騒ぎだった。

 ここまで来るとスタンフォードを心配する声が飛び交い、ルーファスの父であるスティールは泡を吐いて気絶していた。

 

「破ってみろよ、スタンフォードォォォォォォォ!」

 

 ルーファスは腰の鞘に魔力を流し込み、柄を強く握って叫んだ。

 

「群剣射出……〝餓狼噛砕(バイゼンヴォルフ)!!!〟」

 

 容赦なくスタンフォードを取り囲んでいた剣は射出され、以前食らって死にかけたルーファス必殺の一撃がスタンフォードを遅う。

 襲いかかる絶望の攻撃。

 それを見たスタンフォードは口元を吊り上げると、地面に魔剣ルナ・ファイを突き刺した。

 

「〝硬雷魔剣(カラドボルグ)!!!〟」

 

 硬雷魔剣は予選でも見せたスタンフォードの必殺技だ。

 

 しかし、スタンフォードはこれを必殺技として使わなかった。

 

 地面から増幅された雷魔法が刃となって突き出てくる。

 それらはスタンフォードの正面をまるで盾のように固め、三百六十度から襲いかかる全ての剣を貫いて溶かす。

 そして、甲高い音が鳴り響き、ルーファス必殺の一撃は弾かれた。

 

「俺様の餓狼噛砕を、防いだだと……」

 

 予想だにしない光景に、ルーファスは唖然としたまま立ち尽くす。

 その隙をスタンフォードは見逃さなかった。

 何故ならスタンフォードの攻撃はこれからだったからだ

 

「もうあんたは僕の作ったレールの上にいる……」

 

 スタンフォードは溶かした剣を操り、レール状にしてルーファスの両脇まで伸ばした。

 

「まさか電熱で群剣を溶かしたのか! くそっ、操れねぇ!」

「当然ですよ。僕の魔力で上書きしましたから」

「まだ決勝もあるんだろ!? そんな魔力注ぎ込んだら……!」

 

 ルーファスは金属が操れないだけではなく、身動きも取れない状態になっており、スタンフォードが限界以上に魔力を注ぎ込んでいることに気がつき驚愕する。

 

「ご心配なくどんなにボロボロになっても戻れば全回できるので」

 

 スタンフォードはコメリナを信じていたからこそ、ルーファス戦で全力を出すことができた。

 そして、レールに触れるとさらに魔力を流し込んでいく。

 

「最初から僕が狙っていたのは場外だ……〝雷神砲(トールガン)!!!〟」

 

 スタンフォードの十八番であるレールガンの原理を利用した魔法。

 いつもと違う点を上げるとすれば、それは弾丸だ。

 

「ぐっ、あぁぁぁぁぁ!?」

 

 弾丸として打ち出されたルーファスは為す術もなく場外の壁に叩き付けられる。

 たとえこの一撃で倒せなかろうと関係ない。

 

『す、すごい……何と死闘の果てに勝利を掴んだのはスタンフォード・クリエニーラ・レベリオンだぁぁぁ!』

 

 何せルーファスが叩き付けられた場所は――場外なのだから。

 


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