負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん! 作:サニキ リオ
貴族の中でも最上位に位置する王族や一部の国家機密に関わる重要人物のみが入寮できる滅竜荘。その一室に、世界の今後を左右する人物達が一堂に会していた。
「作戦会議を始めます!」
「「イェーイ!」」
ポンデローザの掛け声に合わせてスタンフォードとマーガレットが拳を突き上げる。
しかし、他の参加者達の反応は芳しくない。
卓を囲むように座った面々の中で、唯一拍手をしているのはコメリナただ一人である。
コメリナは無表情のまま一定の間隔で手を叩いており、パチパチという音が室内に響いていた。
「いや、ちょっと待ってください主様。アタシこのテンションについていけないんですけど」
唖然とする他の面々を代表してアロエラが発言する。
彼女をはじめとする集められた面々は突然スタンフォードから呼び出され、滅竜祭後の休暇中に滅竜荘にやってきたのだ。
何もわからぬままに始まったテンション高めの会議にはついていけなかったのだ。
「悪いね。ちょっと久しぶりの会議なもんでテンション上がちゃって」
「何か楽しそうだから合わせたけど、間違ってたかな?」
「いいのよ、メグ。楽しんでいきましょ」
ポンデローザは心底楽しそうな表情を浮かべると、苦笑しているマーガレットにサムズアップしていた。
「あの、ポンデローザ様。その口調は一体?」
おずおずと手を上げて質問したのはセタリアだ。
セタリアは自分の知っているポンデローザとは似ても似つかない砕けた喋り方をする彼女に違和感を覚えていた。
そんな彼女の問いに対し、ポンデローザはニッコリと笑顔を浮かべて言った。
「こっちが素なの」
「えぇ……」
予想外の答えに思わず絶句したセタリアだったが、事情を知る一部の者を除き、他の者達の反応も似たようなものだった。
ポンデローザは貴族令嬢の鑑として知られる存在であり、自他共に礼儀作法などに厳しいことで有名だった。
そんな彼女がここまで砕けた態度を取ることなど想像できなかったのだ。
「ははっ! その口調、思い出すなぁ。よくリュコス家に来ちゃ、本家で飼ってる犬に追い回されてたよな」
「うわっ、懐かしいわね!」
ルーファスはポンデローザとの幼い頃の記憶を思い出しており、ニヤリとした笑みを見せていた。
「よくわかんないけど、ポンデローザ先輩は元々明るくて気さくな性格ってことか」
「どうにも受け止め切れませぬ……」
「あなたの素の性格が荒っぽいのと同じですよ、ガーデル」
ブレイブはどこか納得した様子で呟き、それを聞いたガーデルは眉を顰め、ステイシーは苦笑していた。
「あたしの性格はこういうもんだって納得してもらうとして、本題に入るわ」
ポンデローザは表情を引き締めると、集まった面々を見渡す。
集まったのは、スタンフォードが選んだ信頼できる人間のみ。
BESTIA HEARTの登場人物であるマーガレット、ルーファス。
BESTIA BRAVEの登場人物であるブレイブ、セタリア、アロエラ、コメリナ。
そして、転生してから出会った原作には登場しないステイシー、ガーデル。
「あたしはこの世界の行く末を知っていた。いくつかある未来の可能性の話だけどね」
そう前置きをすると、ポンデローザは自分が見た未来の話として原作での話を始める。
原作で起こっていた事件の数々、自分や他の登場人物達の運命。
「まあ、信じられないのも無理ないけどね」
それらを話し終えると、自嘲するようにポンデローザは苦笑した。
全員が言葉を失っている中、ルーファスが口を開く。
「ようやく納得できたよ。昔からお前さんは人のことを見透かしたような態度ばっか取ってたし、ミドガルズ関連の事件なんて未来が見えてなきゃ当てられねぇもんな」
「何よ。さんざん言っても信じなかった癖に今更信じるっての?」
「俺様が信じて剣を預けた主が命張ってんだ。信じるさ」
ルーファスの言葉に他の面々も同意を示すように頷く。
だが、その中で一人だけ不安げな表情を浮かべている者がいた。
それはセタリアだ。
ポンデローザはその表情を見て、言いたいことはわかっているという風に小さく微笑む。
それから、ゆっくりとした口調で言った。
「あたしは今まで、みんなのことをただ自分が生き残る未来に必要な駒だと思ってた」
その言葉に何名かが動揺する中、セタリアは黙ったままポンデローザの話を聞いていた。
「でも、スタンがそれは間違っているって教えてくれた」
「僕は運命なんて言葉に負けたくなかっただけだよ」
スタンフォードは自分の行動が正しいと思っているわけではないと首を横に振る。
彼はただポンデローザの心を救いたかっただけだ。もしかすれば、原作を捨てない方が良かったと思う日だって来る可能性はあるのだ。
それでも、彼は自分の意志を貫くために戦い続けた。
そうして掴み取ったのが〝運命は覆せる〟という確かな結果だった。
「ポンデローザ様、スタンフォード殿下。決められた運命は存在し、その上で覆せるのでしょうか」
「ええ、もちろんよ」
「つい先日やってのけたばっかりだからね」
セタリアの問い掛けに対し、二人は自信満々に答えてみせる。
そんな二人の姿にセタリアは一度目を伏せ、再び顔を上げると真っすぐにスタンフォードの目を見た。
彼女の瞳には強い覚悟と決意があった。
それを感じたスタンフォードもまた、真剣な眼差しでセタリアを見る。
二人が見つめ合い、沈黙が生まれる。
やがて、セタリアが声を微かに震わせながら問いかける。
「私にもできるでしょうか?」
その問いに対して、スタンフォードはセタリアの目を真っ直ぐに見据えて答えた。
「誰にだって運命を切り開く権利はある。あとはやるかやらないかってだけさ」
その答えを聞いた瞬間、セタリアの目に涙が浮かぶ。それはポンデローザと同様に運命に翻弄されているセタリアにとっては最も聞きたかった言葉だった。
「まったく、耳が痛い話よね……」
ポンデローザは肩を竦めると、気合を入れ直して拳を高く突き上げて告げた。
「よーし、それじゃあ復活したミドガルズオルムをぶっ飛ばすわよ!」
『おー! ……え?』
ポンデローザの宣言にその場に居た全員の目が点になる。
「過程を省略しすぎだ、バカ……」
元気になったのは良いが、その場のノリだけで説明部分がすっぽ抜けるポンデローザにスタンフォードは頭を抱えるのであった。