負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第125話 方針決定

 

 スタンフォードは咳払いすると、姿勢を正す。

 

「改めて、今後の方針を詳しく説明しようと思う」

 

 ポンデローザが以前の明るさを取り戻したのは良い。

 その分、知略面では役に立たないことも想定済み。むしろ、それで良かった。

 だからこそ、ここからは自分が主導で進めなければならないと考えていたのだ。

 

「まず、ポンデローザの知っていた未来からは今後大きく逸れることになることを大前提に聞いてほしい」

 

 そう前置きすると、全員が静かになるのを確認してからスタンフォードは語り始めた。

 

「僕やポンデローザの行動の影響で様々な変化が起きた。それは本来もっと後に起こる出来事だったんだ」

 

 セタリアの中に眠るラクリアの力の完全覚醒。

 ブレイブが自分の正体を知る瞬間。

 スタンフォードのベスティア覚醒。

 細かな変化を挙げればキリがないが、一つだけ明確なことがある。

 

「どの出来事も前倒しで起きている。つまり、敵の動きも活発化するのが早いってことだ」

 

 原作で起こるはずだったことが前倒しで起こっている。それが意味することは敵の勢力の拡大。

 スタンフォードの説明を聞き、全員が険しい表情を浮かべていた。

 

「ミドガルズは世間で邪神竜を信仰する怪しげな宗教団体と認識されているけど、今も水面下で活動は続いている。リオネスの件を考えれば、人に化けられる竜人がどこに潜んでいるかわかったもんじゃない」

「全員、軽く氷漬けにすれば竜人かどうかわかるんじゃない!?」

「ポン子はちょっと黙ってよっか」

「何でよ!」

 

 無茶苦茶なことを口走るポンデローザを制止すると、スタンフォードは続ける。

 

「敵はいつ行動を起こしてもおかしくない状況にある。だから、僕らは常に先手を打たなくちゃいけない」

「それで後手に回ったらどうするつもりなんだ」

 

 ルーファスの言葉にスタンフォードは小さく首を横に振った。

 

「手遅れにならないように動くしかないんだ。それこそ、世界の危機レベルにまで事態が悪化したら、もう誰にも止められなくなる」

「でも、そうなる前に動き出すんですよね? なら、今からでも準備を始めればいいじゃないですか、主様」

「だから、そのための会議なんだって」

「ああ、なるほど」

 

 前のめりなアロエラを苦笑しながら窘めると、スタンフォードは手元の資料を手に取る。

 資料にはいくつかの項目が書かれており、それぞれ役割分担がされていた。

 

「竜人の洗い出しは兄上にそれとなく頼むとして、まず僕らがやることは戦力の強化だ」

 

 そこで言葉を区切ると、スタンフォードは袖を捲って肩に刻まれた紋章を見せた。

 

「守護者の家系の者はそれぞれベスティアに覚醒することを目標にしよう」

「うえっ、ハードル高くないすか!?」

「ベスティア、頑張る」

 

 驚いて目を見開いているアロエラに対して、コメリナは両手で握り拳を作ってやる気満々だった。

 

「本来、ベスティアはそれぞれの未来で一人しか覚醒できないものだ。でも、血を引く者全員が覚醒できたらとんでもない戦力強化になる」

「へぇ、おもしれーじゃねぇか」

 

 ルーファスは獰猛な笑みを浮かべて剣の柄に手を置いていた。まだ強くなれる可能性があると知れただけで、彼の心は踊っていたのだ。

 

「あれ、もしかしてあたしも?」

「当たり前だ。妖狐のベスティアは戦力的に必要だろ」

「正史だと正規の覚醒はしてなかったけど、頑張るしかないわね……!」

 

 ポンデローザもまた原作から乖離した今ならば、ベスティアに覚醒できるのではないか。

 ならば、覚醒していて損はない。スタンフォードはそう思ったのだ。

 

「ステイシーはルドエ領を今後の拠点にするために、リーシャの工房を使えるようにしてくれないか?」

「構いませんが、魔導士の工房の整備となると私だけでは難しいと思います」

 

 数々の強敵を倒したことで勘違いされがちだが、ステイシーは本来魔導士としての才に恵まれなかった。

 工房の整備ともなると、彼女一人の手に余る。

 

「ならば、私奴が同行いたしましょう」

 

 研究者気質でステイシーと仲が良いコメリナに頼もうと思った矢先、ガーデルが堂々と名乗り出てきた。

 ガーデルは風魔法の名門ウィンス家の出身。ステイシーの補佐としては申し分ない。

 

「そうだね。ガーデルなら任せられる。頼んだよ」

「ありがたき幸せ」

「……よろしくお願いします」

 

 大仰に頭を垂れるガーデルを見て、ステイシーは複雑そうに顔を引き攣らせていた。

 

「ルーファスとアロエラは幻竜が出現するであろう場所を回ってほしい」

「戦力が足りなければフェリシアとリリアーヌを連れて行っていいわよ。あたしからうまく言っておくから」

「わかりました」

 

 ポンデローザの提案にアロエラは素直に頷いていた。

 

「ま、俺は暴れられりゃ何でもいいさ」

 

 それに対してルーファスはニヤリ笑うと、楽しげに鼻を鳴らした。

 

「それからブレイブ、セタリアはドラゴニル領に向かってくれ」

 

 次にスタンフォードはブレイブたちに指示を出す。

 

「ブレイブの強化、そしてミドガルズに狙われるであろうセタリアはブレイブの傍を離れない方が最良だ」

「私が狙われるのはやはりラクリア様が関係しているのでしょうか?」

「そうだ。ミドガルズを率いるミドガルズオルムの目的は君とブレイブだからね。できるだけ行動は常に共にしてくれ。僕達も後からドラゴニル領には向かう予定だから、それまでは領内の調査と鍛錬をお願いするよ」

「おっし、任せろ!」

「ええ、もしミドガルズの手の者が来ても返り討ちにしてみせます」

 

 やる気満々な二人にスタンフォードも微笑む。

 最後にスタンフォードは自分達の動きを説明する。

 

「僕とポンデローザ、コメリナ、ラクーナ先輩はヒカリエへ向かう」

「ヒカリエって私が育った街だよね。久しぶりに帰郷出来るのは嬉しいけど、どうして?」

 

 マーガレットの言葉にスタンフォードは神妙な面持ちで話を続ける。

 これから話すことは重要事項である。

 故にスタンフォードは一拍置いた後、口を開いた。

 

「正史ではラクーナ先輩はセタリアと同時に存在できない。正確にはラクリア様の魂を宿したセタリアと同時に存在できないと言った方が正しい」

「えっ」

 

 その言葉にマーガレットは虚を突かれ言葉を失った。

 そんなマーガレットへスタンフォードは告げる。

 

「だから、あなたの出自をしっかりと調べることは最重要項目なんです」

 

 本来、BESTIA HEARTにおいて主人公であるマーガレットの正体はラクリアの転生した姿だった。

 しかし、セタリアの魂がラクリアのものだった今、マーガレットが何者なのかは謎に包まれている。

 

 この世界においてマーガレットはどんな役割を持ち、どのような理由で存在しているのか。

 それをしっかりと調べなければいけないとスタンフォードは考えていた。

 

「うん、わかったよ。私も自分が何者なのか知りたい」

「もしものときは僕やポンデローザ、それにコメリナだっています」

「だから安心してね!」

「メグ先輩、任せて」

 

 そこでルーファスが声を上げた。

 

「つーか、ずっと疑問だったんだが……」

 

 全員が不思議そうな視線を向ける中、彼は続けてこう言った。

 

「後期の授業どうすんだ」

 

『あ……』

 

 全員が口を揃えて固まってしまう。

 確かにルーファスの言う通りであった。

 スタンフォードたちはまだ学生の身であるため、授業を受けなければならない。

 

「よし、兄上に頼もう」

 

 後日、大量に提出された休学届が却下されたのは言うまでもないことだった。

 


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