負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん! 作:サニキ リオ
「セルペンテ家の始祖がミドガルズオルム?」
「そんなバカな……」
『信じられないのは無理ないわ。あたしだってあいつの正体を知ったときは信じられなかった』
「しょっちゅう敵を差し向けてくるミドガルズオルムをやっと倒して建国したと思ったら身内が裏切ってきたって状況ですもんね……」
レベリオン王国建国前のミドガルズオルムとの壮絶な戦いは歴史通りである。
しかし、その後のことは歴史の影に葬られた出来事であった。
『ヘラはお調子者だけど、やるときはやる男だった。誰とでも仲良くなる明るい性格にあたしを含めて守護者のみんなはすぐに絆された……』
零体のままムジーナは悔しそうに拳を握り締める。
『ヘラは言葉巧みにお姉ちゃんをそそのかして世界樹に関わる、ある事実を伝えた』
ムジーナは怒りを押し殺したような声で淡々と語る。
『世界樹は――魔物ユグドラシルは人間達がある程度繫栄したらまとめて捕食し、その養分で新たな世界樹を生み出す。その周期が近づいている事実を伝えたの』
「なっ」
神聖な存在である世界樹ユグドラシルが魔物であり、人間達を捕食しようとしている。
その事実にスタンフォード達は言葉を失った。
「はっ、そういえばブレイブ君って……」
『そう、聖剣ベスティア・ブレイブは世界樹の守り手として新たに選ばれた人間、お姉ちゃんを守るために生み出された。彼は人間の姿を模倣して世界樹の枝から生み出された存在なの』
原作で明かされていた事実を思い出したポンデローザに頷くと、ムジーナは続ける。
『だから世界樹を殺せばブレイブも死ぬ。そこでお姉ちゃんは封印という手段を取った』
「でも、何でレベリオン王国はミドガルズ王国と戦争に?」
『簡単な話よ。世界樹が封印されれば竜の弱体化はなくなる。案の定あたし達は苦戦を強いられたわ』
当時を思い出したのか、ムジーナは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。
「じゃあ、初代国王の死因って……」
『守護者として傍に控えていたヘラが毒の刃で不意打ちしてきたの。その後もずっと毒が回りながら戦っていたから命を落としたのよ』
「でも、セルペンテ家はどうしていまだに守護者の家系として残っていたんですか? さすがにそんな裏切り者の家系を残しておくなんて愚策だと思うんですけど」
『ヘラには子供がいてね。あたし達も可愛がってたから、親の罪で追放なんてできなかったのよ』
ムジーナは国を運営するにはあまりにも仲間意識が強すぎた。
そして、その甘さは後々の代になってレベリオン王国を蝕むことになる。
『恨んではいるけど、今になってもあたしは心のどこかでヘラのことを仲間だと思っているのかもね』
「嬉しいことを言ってくれるじゃないですか」
その瞬間、どす黒い魔力を纏った剣が霊体であるはずのムジーナの胸を貫いた。
「ボクはまったくそうは思いませんけどね」
『かはっ……ヘラ、あんた……!』
姿がぼやけていく中、虚空から現れムジーナがヘラと呼んだ男の姿には見覚えがあった。
「お前、ヨハン……!」
「やあ、スタンフォード殿下。学園から姿を消したって聞いて心配していたんですよ」
ヨハンは胡散臭い笑顔を浮かべながらムジーナを刺した剣を引き抜く。
ムジーナの身体は力なく崩れ落ち、その姿は徐々に薄れていく。
『この……裏切り者!』
ムジーナは涙を流しながらヨハンを睨むと、完全に消えてしまった。
すると、ムジーナが消えた場所を見つめ、ヘラはため息をつく。
「いやだなぁ……最初から敵ですよ、ムジーナ」
吐き捨てるように呟くヘラの横顔を見たポンデローザは怒りに顔を歪め、弾かれたように魔法を発動させるのであった。