負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第13話 生徒会室での一幕

 ポンデローザは生徒会に所属している。

 生徒会のメンバーは家柄や普段の生活態度などで選ばれるが、大抵は前任者の推薦で選ばれる。

 その中でも、建国時から国を支えたと言われている〝守護者〟の家系の者は無条件で指名することが暗黙の了解となっている。

 

 王族であるレベリオン家をはじめとし、公爵家であるヴォルペ家、セルペンテ家、代々王国騎士団長を勤めている剣豪一家であるリュコス家、など、現在生徒会に所属している人間の主要メンバーは守護者の家系の者で構成されていた。

 該当者が存在しない場合は、成績や生活態度、人望などで選出されるが、ポンデローザの学年には守護者の家系の者が集中していた。

 理由は単純で、BESTIA HEARTの攻略対象は皆守護者の末裔だからである。

 そんな歴代でも稀なほどに、国の未来を背負う者が大集合してしまった生徒会でポンデローザは黙々と働いていた。

 

「ハルバード様、こちらの書類の確認をお願い致します」

「わかった」

 

 ポンデローザの渡した資料を受け取ると、ハルバードは書類に目を通し始める。

 婚約者であるレベリオン王国第一王子のハルバードとはあくまでもビジネスライクな関係を築いていた。

 ポンデローザにとって、この世界は生きるか死ぬかの世界だ。

 恋愛に現を抜かしている暇はなかったのだ。

 

 ポンデローザとハルバードは黙々と作業を進める。

 基本的に二人は世間話をしない。

 あくまでも国の将来のために結んだだけの婚約。

 そんな冷え切ってもなく熱くなってもいない関係の二人だったが、今日は珍しくハルバードが話題を振った。

 

「ポンデローザ、最近スタンフォードと不仲と聞いたが?」

「不仲、ですか。わたくしは別にそんなつもりはないのですが……」

 

 ポンデローザは、本当に心当たりがないという表情を浮かべてすっとぼける。

 それを見たハルバードは呆れたようにため息をつく。この反応は普段無表情なハルバードにしては珍しい反応だった。

 

「君が王族として恥ずべき行動を繰り返しているスタンフォードを嫌うのもわかる。だが、君の威圧感に周囲も引いているところがある。注意するときはもっと穏やかにしてくれ」

「大変申し訳ございません。以後、注意致しますわ」

 

 口先の謝罪をすると、ハルバードは感慨深そうに呟く。

 

「……本当に変わったな、君は」

「と、言いますと?」

「幼い頃の君は貴族の令嬢とは思えないほどやんちゃだった。庭を駆け回る令嬢など君くらいだっただろう」

 

 ハルバードは遠い目をして幼い頃のポンデローザの姿を思い出す。

 

「あと君には随分偉そうに説教をされたものだな」

「忘れてくださいませ。あの頃は人の心を慮るということにおいて未熟でしたので……」

 

 ポンデローザは誤魔化すように苦笑する。

 心に刺さった棘がささくれ立つ。

 世間体を気にして猫を被っているだけで、無神経な部分は変わっていない。

 そんな自覚がポンデローザにもあったからだ。

 

「今日は珍しく饒舌なのですね」

「スタンフォードと不仲という話を耳に挟んで昔を思い出しただけだ。君が周囲に厳しい態度をとってくれているおかげで、他の令嬢達の示しにもなっている。一人を除いてな……」

 

 ハルバードがそう言うのと同時に、ドタドタとけたたましい足音が廊下から聞こえてくる。

 足音が一瞬止んだ後、勢いよく生徒会室の扉が開かれた。

 

「すみません、遅れました!」

 

 入ってきたのはマーガレットだった。

 その貴族令嬢とは思えない所作に、ポンデローザはこめかみに手を当てながらため息をついた。

 

「ラクーナさん。何度も言っているでしょう? 廊下は走らない、扉は静かに開閉する。生まれはともかく今のあなたは貴族の令嬢ですのよ」

 

 わかるよー、遅刻するとき焦るよね! と、心の中で頷きながらも、ポンデローザはマーガレットを注意する。

 ハルバードもいる手前、ポンデローザは毅然とした態度でマーガレットを注意しなければいけなかったのだ。

 

「す、すみません。でも、遅刻しそうで……」

「遅刻するのならば、きちんと理由を述べればいいのですわ。それに何ですかその頭は。寝癖くらい直しなさいな、だらしない」

 

 前世の学生時代に、生徒指導の教師からさんざん注意されてきたことを思い出しながらポンデローザはマーガレットに説教をする。

 

 内心、聞き流してくれていいんだよ? と思いながらも、一通り注意を済ませると、ポンデローザは自分の仕事に戻った。

 

 公爵家の令嬢にふさわしい振る舞いをしなければならない。

 その制約は、本来縛られることを嫌うポンデローザにとって心労の溜まるものだった。

 

「ん、鍛錬場での事故?」

 

 ポンデローザは、目の前の書類に目を通して冷や汗を流した。

 内容は、生徒の一人が高火力の攻撃魔法を鍛錬場で乱射したことにより、一年生の女子生徒が怪我をしたというものだった。

 被害者がいるのに、被害届は出ていない。

 こいうったケースは大抵の場合が、上の階級の貴族に脅されたり、事故のあった事実を握りつぶされたということがほとんどだ。

 生徒会はそういったことも調査し、生徒達が公平に過ごせるように学園内の治安を維持している。

 

「……あのバカ」

 

 備考には、攻撃魔法はどの四属性にも該当しないと記載されていた。

 恨みがましく小さく呟くと、ポンデローザは書類をこっそり他の書類の一番下に移した。

 


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