負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん! 作:サニキ リオ
ヨハンはミドガルズオルムの分体の一体に過ぎなかった。
その事実に驚きつつも、スタンフォードは剣を振るう手を止めなかった。
「どうしました殿下ァ! 獅子のベスティアを解放すればボクくらい簡単に倒せるでしょう!」
「それができれば苦労しないっての!」
ブレイブとの戦いで発動させたベスティアはいわば火事場の馬鹿力のようなもの。
鍛錬をする余裕もなく事態が動き出した今、スタンフォードが再びあの状態になれる保証はない。
「はっはっは! そんなんじゃまた王家の面汚しなんて言われてしまいますよ!」
そうこうしているうちに、ヨハンの攻撃はどんどん苛烈さを増していく。
防御するだけでも精一杯で攻撃に転じることができない。
「このままじゃジリ貧だ……なんとかしないと……!」
スタンフォードは焦っていた。
ポンデローザが召喚した氷像達は次々と破壊されていき、その度に大量の血液が飛び散っていく。
「くっ……」
「ポン様、血がもう……」
「出し惜しみなんてしてる余裕なんてないってのに……!」
後方支援のポンデローザ達も余裕はなさそうだ。
最前線にいる自分が倒れたら終わり。それを理解しているからこそ、スタンフォードは必死に食らいつく。
しかし、絶体絶命の状況の中。マーガレットは起死回生の一手を打とうとしていた。
「ムジーナ様の魂の残滓……見つけた!」
ヨハンから僅かに漏れ出た魔力の残り香を嗅ぎつけ、マーガレットはその発生源へと魔法を放つ。
「〝
それは光魔法の使い手としてのマーガレットの集大成。死後間もない者であれば、生き返らせることができる究極の治癒魔法。
それは鳩という器に押し込められてもなお、太古から生き続ける魂を再生させるには十分な精度のものだった。
『……死者使いが荒いわね』
「ごめんなさい。今の状況をひっくり返すにはこれしかないと思って」
光が収まると、そこには複雑そうな表情を浮かべたムジーナがいた。
『仕方ないわね。昔からお姉ちゃんのお願いには逆らえなかったし』
「ありがとう。ポンちゃんのこと、お願いします」
『ええ、任してちょうだい』
ムジーナは優しく微笑むと今も尚必死に戦い続けているスタンフォード達を眩し気に見て告げる。
『最後にお願い。お姉ちゃんに会ったら伝えて欲しいことがあるの』
ムジーナはそう言うと、胸元に隠していたペンダントを取り出して言った。
ペンダントには一輪の花が挟まれていた。
その花の意匠を見て、マーガレットは目を見開く。
ムジーナが幼い頃に姉であるラクリアからもらった花だった。
『大嫌いだけど、愛してる。そう伝えて』
「必ず伝えます!」
マーガレットの言葉を聞いて満足げに微笑んだムジーナはポンデローザの肉体に入り込む。
『ポンデローザ、あたしの力を受け取りなさい!』
「ご先祖様!?」
突然の出来事に驚くポンデローザだったが、すぐに理由を理解したのか流れ込んでくる強大な魔力に身を任せる。
「コメリナちゃん、離れて!」
「りょ!」
その瞬間、弾けるようにポンデローザから冷気が噴き出した。
「……ポンデ、ローザ?」
「おやおや、まさかこうくるとはねぇ」
その様子を目の当たりにしてもヨハンは余裕の態度を崩さない。それどころか、楽しげな笑みを浮かべている。
「ヨハン、あんただけは絶対に許さない!」
ポンデローザの服は膨大な魔力の奔流によって消し飛び、氷で作ったドレスを纏っている。
そして、その背中には尾が九本ある狐の紋章が浮かび上がっていた。