負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第140話 妖狐のベスティア

 ムジーナの力を借りてベスティアに覚醒したポンデローザ。

 その力は不利な状況をひっくり返すには十分な力を持っていた。

 

「妖狐の、ベスティア……久しぶりに見ましたよ」

 

 圧倒的な冷気により生成された氷の槍を防御しきれずに吹き飛ばされ、ヨハンは遺跡の壁にたたきつけられた。

 

「スタン、バトンタッチよ」

「ごめん、任せた」

 

 その隙を逃さずにスタンフォードを後方に下げ、ポンデローザはヨハンの前に躍り出た。

 その瞳は怒りに燃えており、全身からは凄まじい殺気が溢れ出ている。

 そのあまりの迫力に、一瞬だけヨハンの頬が引きつるも、すぐさま余裕を取り戻して剣を構える。

 

「これはちょっと本気を出さなければいけませんね」

 

 先ほどまでとは明らかに違う。

 より洗練された動きで、ポンデローザの攻撃を迎え撃つ。

 

「チッ、〝咆哮(ロア)〟ですか……」

 

 だが、ヨハンはすぐに違和感を覚えた。

 異様なまでの疲労感と魔力の枯渇。それはポンデローザのベスティアによるものだった。

 

「体力、魔力、対象からあらゆる力を奪い自分の糧とする強欲な力……」

「ハッ、舐めプしてるからそうなるのよ!」

 

 攻撃は苛烈さを増していく。

 ヨハンは全力で回避に専念するも、次第に追い詰められていく。

 

「〝氷結百鬼夜行(アイシクル・ワルプルギス)!!!〟」

 

 ポンデローザの詠唱と同時に、ヨハンが立っていた地面が凍り付く。

 そこから無制限に湧いてくる魔物の氷像達は一斉にヨハンへと襲い掛かる。

 先ほどの氷像達とは違い、一体一体が無視できない強さである以上、ヨハンも苦戦を強いられる。

 

「突然目覚めた力なのに随分と使いこなすじゃないですか」

「妖狐のベスティアがどういうものかってことは知ってたのよ! あとはノリとフィーリング!」

「……恐ろしい人だ」

 

 ヨハンは苦笑いしながらも、迫りくる攻撃を捌くために攻勢に出る。

 

「では、予備の魔力を使わせていただきますか」

「予備の魔力?」

「お忘れですか。何のためにボクが孤児院の無垢な子供達を殺したと思っているんですか?」

「っ!」

 

 そう言って取り出されたのは、黒い玉のようなもの。それを口に放り込むと、ヨハンの身体が黒い光に包まれる。

 直後、膨れ上がった魔力が一気に放出された。

 

「失敗作のリサイクルの効果としては十分ですね」

「……失敗作?」

 

 ヨハンの言葉に反応を示したのは、ポンデローザではなくマーガレットだった。

 マーガレットの視線を受けて、ヨハンは微笑む。

 まるで自らの研究の成果を誇るようにヨハンは狂気的な笑みを浮かべた。

 

「世界樹の巫女の魂が宿る器。それがあなたとセタリアです。しかし、あなた達を作り出すまで多くの実験体がいて、光魔法も宿さず、まったく関係ない魂が宿った肉体達。それがあの孤児院にいた人間の正体ですよ」

 

 ヨハンはそう言うと、手に持っている剣をマーガレットに向けた。

 向けられたマーガレットは、その言葉の意味を理解して顔を真っ青にした。

 

「あなたの肉体もセタリアの魂も目覚めた今失敗作は不要。だから、魂を食ってやったのさ」

 

 ヨハンの言葉を聞いて、マーガレットは膝から崩れ落ちた。

 自分が今まで犠牲にしてきた者達への罪悪感と、ヨハンに対する激しい憎悪が渦巻いている。

 その様子を見たヨハンは心底愉快だと言わんばかりに口角を上げる。

 

「ヨハァァァン!」

「それでは時間稼ぎも出来たのでボクはこれで」

 

 ポンデローザの氷像達が襲い掛かるも一歩遅かった。

 ヨハンを中心に嵐のような突風が吹き荒れたと思うと、ヨハンの姿は既に消えており、遺跡の壁にはぽっかりとした穴だけが残されていた。

 

「くそっ、逃げられた……!」

 

 ヨハンを取り逃がしたことを悟ったポンデローザは悔し気に呟いた。

 そして、完全にヨハンの気配が消えたこともあり、ベスティアは解除された。

 

「あっ」

「何、どうしたのよ」

 

 ベスティアが解除された瞬間、スタンフォードが固まったのを見てポンデローザは不思議そうに首を傾げる。

 

「ポンちゃん! 服、服が!」

「ポン様、すっぽんぽん」

 

 ポンデローザの服はベスティア発動時の魔力の奔流により弾け飛んだ。

 服の代わりに纏っていた氷の魔力によるドレスもベスティア解除と共に消えた。

 つまり、今のポンデローザは一糸纏わぬ姿を晒していた。

 

「いぃぃやぁぁぁぁぁ!」

「ぼへぇ!?」

 

 こうしてスタンフォードが無実の平手打ちを受けることになったが、何とかほぼラスボスと化したヨハンを撃退することには成功するのであった。

 


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