負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん! 作:サニキ リオ
世界樹ユグドラシルの根元の遺跡。
激闘を終えた四人は疲れたように床に座り込んでいた。
「で、ポン子。その耳と尻尾はどうしたんだ?」
「しょうがないでしょ。ひっこめ方がわからないんだから」
現在、ポン子はスタンフォードが身分を隠すために使用していたローブを纏っていた。
服がなくなってしまったため、その恰好をしていること自体に違和感はない。
しかし、ベスティアの後遺症か狐の耳と九本の尻尾、そして顔に浮かび上がった赤い爪痕のような模様はそのまま残っていた。
「制御は出来てない感じか……」
「自発的に発動できないスタンに言われたくないわね」
「暴発する可能性があるよりマシだけど?」
「はぁ? 誰のおかげで助かったと思ってるのよ」
「ムジーナ様」
「うっ……それはそう、だけども!」
「二人共、喧嘩はその辺、に……」
二人の言い争いに割って入るマーガレットだったが、言葉を最後まで言い切ることはなく倒れてしまった。
「メグ!」
「ラクーナ先輩!」
突然倒れたマーガレットの元に急いでコメリナが駆け寄り、検診を行う。
「まずい。メグ先輩、魂乖離しかけてる」
「「なっ」」
魂の乖離。
それは、スタンフォードやポンデローザ、セタリアのように本来肉体に宿るはずのない別の魂が宿ったときに起きる現状。
スタンフォードとポンデローザは既に魂が本来のスタンフォードとポンデローザと融合して奇跡的なまでに合致したこともあり、乖離を起こす心配はない。
しかし、マーガレットの場合は別である。
「強力な治癒魔法使うなって言ったのに……!」
不利な状況を打開するためには仕方なかったとはいえ、マーガレットは治癒魔法の中でも最上級にあたる魔法〝死者蘇生〟を使用した。
死亡直後ならば肉体ごと復活することができ、魂が消えても復元できる人智を超えた魔法。そんなものを使えば、元々症状の出ていた魂の乖離がひどくなることは目に見えていた。
「私、治癒魔法使う。メグ先輩の魂、絶対繋ぎとめる」
コメリナは必死に治癒魔法をかけてマーガレットの魂を肉体に繋ぎ止めようとする。
腰に付けたエリクサーをがぶ飲みし、魔力が枯渇することも厭わずにただひたすらに魔法をかけ続ける。
その間もマーガレットの心臓の鼓動はどんどん弱くなっていく。
治療は上手くいっていないのか、それとも既に限界が来ているのか。
状況は絶望的だった。
スタンフォードとポンデローザはそれをただ見守ることしかできない。
「魂、魂……どこにあるの……!」
コメリナは崩壊して肉体から漏れ出そうとしている魂のありかを必死に探る。
コメリナの水魔法による探知、その精度をもってしてでも魂という不安定なものを探るのは容易ではない。
「私、何のために魔法を磨いたの……!」
スタンフォードから得た日本の科学技術。そこにこの世界の魔法理論を組み込んで独自に改良したコメリナにしか使えない魔法。
それをここで活かせなくてどうする。
自分の無力さに歯噛みしたコメリナは今まで出したことのないほどの大声で叫ぶ。
「我が名はコメリナ・ベルンハルト! 世界樹ユグドラシル、黙って私にベスティアよこせ!」
それは勤勉なコメリナらしからぬ、叶う当てもないやけくそに近い運頼みだった。
自分では無理だと匙を投げた結果の高望み。それが奇跡を起こす。
「嘘だろ……!?」
「えっ、マジで!?」
コメリナを中心に魔力が吹き荒れ、彼女の肉体に変化が起きる。
頭には丸い耳が、口元からは牙が、臀部からは丸い尾が生えてきた。
そして、右手の甲に熊の紋章が浮かび上がっていた。
目覚めたばかりの得るとは思いもしなかった力。
それをコメリナは分析もせず、力に身を任せて振るう。
「どうしてこんなにあっさりベスティアが……」
「思い出したけど、ベスティアの各能力って元ネタは七つの大罪らしいわ」
思い出したように呟くポンデローザの言葉にスタンフォードは今まで目覚めたベスティアを振り返る。
獅子のベスティアは運命を捻じ曲げる傲慢な力。
妖狐のベスティアは他者から力を奪う強欲な力。
言われてみれば、確かに七つの大罪に当てはまっている。ファンタジーによくある設定がベスティアシリーズのゲームに使われているというのも納得の話である。
「ブレイブの方でアクションゲームにするにあたってそれっぽい能力を付けるため、後付けで七つの大罪から思いついた設定を入れ込んだ。それに当てはめると〝大熊のベスティア〟は怠惰になる」
「怠惰? コメリナから一番遠い気がするけど」
「いいえ、怠惰っていうより〝無関心・無感動〟って解釈をすれば当てはまるわ。人との関りを拒絶する。引きこもりが怠惰って言われる意味を考えれば納得はできるでしょ」
「それは元ニートに刺さる言葉だね……」
昔のコメリナは他者との関りを避けていた。自己研鑽を怠らない勤勉なように見えて、それは凝り固まった価値観の中で朽ちていくことを望んだ怠惰だった。
「でも、コメリナの咆哮の効果はどんなのになるんだ?」
「あたしだってそこまで覚えてないわよ。でも、たぶん宿る力は――」
「〝
「――途中過程をすっ飛ばしたバカみたいな万能の力のはずよ」
コメリナの得た大熊のベスティア。その効果は魔法という万能の力をさらに万能にしたようなものだった。
あらゆるものを自分の想像通りの物質に変換することができる。
それはコメリナが努力で生み出した魔法の数々、その全てを過去にするかのような力だった。
「……これで魂は治った」
コメリナの手には光り輝く球体が握られていた。
「それって、もしかして……」
「メグ先輩の魂」
コメリナの手に握られていた球体は物質化したマーガレットの魂だった。
「でも、元の形に戻すとまた崩壊する。だから、光魔法必要」
「光魔法ってことは……ブレイブとセタリアの力が必要だね」
現在ドラゴニル領にいるブレイブとセタリア。マーガレットを元に戻すには二人との合流が必要不可欠だった。
「そうと決まればドラゴニル領に出発ね!」
「すぐ向かう。準備する」
コメリナとポンデローザは急いで旅の準備を始める。
そんな中、スタンフォードはあることに気がついた。
「ちょ、コメリナ! 服! 服を着てくれ!」
「殿下にならいくら見られても構わない」
「構うから!」
コメリナの服もベスティアに覚醒した勢いで吹き飛んでいたのだ。
改めてスタンフォードは、自分のベスティア覚醒の際にズボンが吹き飛ばなくて良かったと安堵した。
そして、眠りについたままのマーガレットを心配しつつも、自分の両脇にいるケモ耳全裸ローブの女性二人にドギマギしながらもドラゴニル領に向かうのであった。