負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第143話 ドラゴニル領の救世主コメリナ

 ジャラーが消えたことを確認した後、スタンフォードはゆっくりとブレイブの元へ近づいていく。

 既に体力の限界を迎えていたブレイブは気を失う寸前だったが、それでも口を動かした。

 

「俺は、セタリアを、守れなかった……」

「自己再生すらできない状態なんだからしゃべるな。セタリアなら全員で取り戻しにいくから」

「ごめん、弱くて……ごめん」

 

 ブレイブは掠れた声で謝りながら涙を流す。

 記憶に刻み込まれた過去の過ちと同じことを繰り返してしまったこと。

 自分を信じてセタリアを任せてくれたスタンフォードの信頼を裏切ってしまったこと。

 何よりも自分が弱いせいでセタリアを奪われてしまったことがブレイブの心を苦しめた。

 

「大丈夫だ。絶対にみんなで助ける」

 

 スタンフォードはそんなブレイブの手を強く握る。

 

「今は休め」

 

 ブレイブが目を閉じたことを確認すると、スタンフォードはポンデローザと共にブレイブを背負ってコメリナの元へと戻る。

 

「〝魂魄還元(ソウル・リダクション)〟」

 

 すっかり野外病院のようになったドラゴニル領では、ベスティアが発動状態のままのコメリナが負傷者、いや死者の手当てを行っていた。

 

「こふっ……んっぐ……」

 

 コメリナは口や鼻、目というありとあらゆる箇所から出血しながらも魔法を発動し続けた。

 腰に付けたエリクサーは既に空になっている。この時点で肉体へどれだけ負荷がかかっているか語るまでもないことだった。

 

「コメリナちゃん! 無茶しすぎよ!」

 

 ポンデローザは慌てて魔法を発動し続けるコメリナに駆け寄る。

 

「ポン様、魔力分けて。ヨハンから搾り取っていっぱいあるはず」

「……わかったわ」

 

 何を言っても止めるつもりはない。コメリナの覚悟を見たポンデローザはベスティアの力を使い魔力を分け与える。

 魔力切れで昏倒していたブレイブにも治癒の魔法はかかっているはずなのに、千切れた両足が再生する気配はない。

 

「やっぱりブレイブの体は特殊みたいだな」

 

 スタンフォードはブレイブの応急手当をしながらも歯噛みする。

 ここにきて光魔法の使い手全員を封じられた。

 マーガレットは魂を隔離したまま意識がなく、ブレイブは両足を失い魔力欠乏状態。

 セタリアに関しては敵の手中にあるのだから、状況は最悪である。

 

「……ドラゴニル領の死者、負傷者。全員、手当終わった」

「うへぇ……あたし、もう魔力空っぽよ」

「ありがとう二人共。お疲れ様だったね」

 

 魔力を使い果たし、ベスティアが解除された二人にスタンフォードは労いの言葉をかける。

 

「僕もベスティアを使いこなせるようにならないと戦力にもなれないな……」

 

 ヨハンとの戦いでも、マーガレットの治療でも、ドラゴニル領でもスタンフォードはあまり貢献できなかった。

 これから戦況が激しくなるというのに、頼りの力が使いこなせませんというのは話にならないのだ。

 

「本当に、何とお礼を言えばいいのか……」

 

 座り込む三人の元にすっかり傷の治ったミモザがやってくる。

 

「気にしない。私、自分の役目果たしただけ」

 

 コメリナは泣きじゃくるミモザに優しく微笑みかける。

 

「役目ってあなたね……普通、治癒魔法じゃ大量の死者蘇生なんてできないわよ」

「現状、一番ベスティアを使いこなしてるのってコメリナだよね」

 

 コメリナのおかげでドラゴニル領で亡くなった全ての命が息を吹き返すことになった。

 ある意味、敵勢力にとって最も厄介な力を得たのはコメリナと言っても過言ではないだろう。

 

「……スタンフォード殿下、ポンデローザ様、コメリナ嬢。我らを救っていただき感謝致します」

「ドラゴニル辺境伯!」

 

 そこには体中血塗れになった偉丈夫が経っていた。

 彼こそ長年ブレイブという伝説の守る役目を受け継いだドラゴニル家の当主デルフェン・ドラゴニル。

 国王から確かな信頼を寄せられる王国の屋台骨のような男である。

 

「お父様!? ジャラー様に殺されたのではなかったのですか!」

「コメリナ嬢の魔法のおかげで現世に戻ってこれたのだ。まさに命の恩人だな」

 

 デルフェンはミドガルズオルムの分体だったジャラーに殺害されていた。

 しかし、コメリナの魔法のおかげで生き返ることができたのだった。

 

「スタンフォード殿下、至急共有したいことがございます」

「わかりました。僕達も今後どう動くか決めなければいけません。宜しくお願い致します」

 

 こうして、スタンフォード達は残ったメンバーで今後の方針を決めることになるのであった。

 


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