負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第146話 牢にて毒を吐く

 ルドエ領にある牢獄。そこにはとある罪人が閉じ込められた。

 

「ハッ、牢の中ってのは退屈なもんさねぇ。何とかならないのかい、目隠れ嬢ちゃん」

 

 彼女は元スタンフォード専属メイドであったリオネス。

 その正体は竜人ヒュドラであり、数多の毒竜の頂点に立つ存在だった。

 孤児として拾われ育てられた彼女は長い年月を経て王族に仕える使用人となり、虎視眈々と王族を内側から崩壊させるように動いてきた。

 

 原作知識を持つポンデローザにそれを看破され、ステイシーとの戦いに敗れたことで牢の中。

 王都に輸送することも危険なため、現在はルドエ領でミドガルズの内情に関する取り調べに対しては黙秘を続けていた。

 

「牢の中が快適なわけないじゃないですか」

 

 世間話くらいはしてくれるため、現在ステイシーは囚人用の食事を運びながらリオネスと話をしていた。

 

「別に退屈なだけで快適さ。竜毒洞に比べりゃここは平和そのもの」

「竜毒洞?」

 

 リオネスの口から飛び出してきた不穏な単語に、ステイシーは思わず反応してしまう。

 

「兄弟姉妹で殺し合い、屍を喰らい体内の毒を濃くする毒竜特有の生態さ」

「そんな……」

「仕方ないことさね。アタイは人間とは違う化け物だからねぇ」

 

 淡々と語るリオネスの表情には一切の感情が浮かんでいなかった。ただ事実を話しているだけ。

 ステイシーは改めて竜人と人間では価値観が大きく異なるのだと痛感した。

 

「毒竜の素質を持って生まれたアタイは物心ついたときにゃ洞窟に放り込まれてた。そして、出会った同族は殺して喰らう。それができなきゃ死ぬだけさね」

 

 まるで他人事のように語るリオネスだったが、世間話としてそんな話をすることにステイシーは違和感を覚えていた。

 それでも、何も情報を落としてくれないよりは何か少しでもミドガルズに繋がる情報が出てくれれば御の字だ。

 そう考えたステイシーは慎重に言葉を紡ぐ。

 

「そういえば、使用人時代はスタンフォード君とどんな風に過ごしていたんですか?」

 

 ステイシーはリオネスのことをあまりよく知らない。だが、彼女が長年王家を欺き続け、王族へを崩壊させるために長い間準備していたことを知っている。

 それはつまり専属メイドとして仕えたスタンフォードと長い時間を過ごしたということでもある。

 

 もしかしたら、リオネスにとってスタンフォードとの思い出はとても大切なものかもしれない。

 

「ひどく退屈な時間だったさ。あのクソ王子は昔からキザでプライドが高いクソガキだったし、世話役も楽じゃなかったさね」

 

 そう考えて口に出した質問であったが、リオネスはつまらなさそうに答えた。

 

「そうですか……」

 

 ステイシーは残念そうに呟くと食事を置いて牢から去っていった。

 一人残されたリオネスは静かに置かれた食事に手を付け始める。

 

「退屈だが、飯は一級品さね」

 

 そう呟いて微笑むと、リオネスは食事を平らげた。

 ステイシーが去った後、リオネスは鉄格子に近づき外の様子を眺めた。

 ルドエ領には王都とは違い、千年樹が生えている。そのため、王都よりも遥かに強力な結界で守られている。

 

「さて、我が王はうまくやっているかねぇ……」

 

 世界樹ユグドラシルの復活。それはリオネスの主であるミドガルズオルムの悲願だった。

 闇魔法により、封印されたユグドラシルを汚染して竜への力の減衰を消し、本体を復活させる。それこそ竜王国ミドガルズの復活の狼煙となる。

 リオネスにとってミドガルズオルムにある感情は忠誠心などではなく、ただの本能的従属だった。竜という種族はそういう生き物なのだ。

 その在り方に疑問を持ったことなど一度もない。

 

 だからこそ、幼少期のスタンフォードと長い時間を過ごしてきても、リオネスの心は微塵も揺れることはなかった。

 リオネスが求めているのは自分の主であるミドガルズオルムの復活であり、それ以外はどうでもよかったのだ。

 

「それにしても、あのクソ王子も不憫なもんさねぇ」

 

 ステイシーが出て行った扉を見ながら、リオネスはふっと笑みを浮かべる。

 彼女の脳裏には先日、周囲に感づかれないように接触してきた人物の表情が浮かんでいた。

 

「アタイといい、奴といい、どうにも臣下にゃ恵まれないようだ」

 

 その言葉を最後に牢の中から声が消え、牢獄の中を静寂が包み込んだのだった。

 


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