負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん! 作:サニキ リオ
意識を取り戻したブレイブは本調子とまではいかないが、自力で歩けるようにはなった。
とはいえ、到底戦える状態ではないため、一刻も早く千年樹の枝を使用して肉体の修復に取り掛かる必要がある。
ガーデルとステイシーが調整してくれているであろうラボに向かうと、そこにはステイシーが硬化魔法で地面を必死に殴りつけている姿があった。
「ステイシー! 一体、何があったんだ?」
ただ事ではないステイシーの様子に、真っ先にスタンフォードが駆け寄る。
スタンフォードに気がついた彼女はそのまま硬化魔法を使って地面を殴りつけようと手を振り上げ、ギリギリで動きを止めた。
「スタンフォード君……ガーデルが裏切りました」
「そうか……」
ガーデルは最後まで改心することはなかった。その事実にスタンフォードは悲し気な表情を浮かべる。
やはり自分は甘かったのか。そう思わずにはいられなかった。
「いつの間にか工房内部の仕組みまでいじられて工房にも入れなくなってしまいました。その上、彼は牢の中のリオネスさんを連れてどこかへ消えてしまいました」
「ガーデルの奴、リオネスを脱獄させてミドガルズに寝返るつもりなのか」
スタンフォードは唇を嚙み締め、悔しそうに顔をしかめる。ガーデルがリオネスを牢から出したのは容易に想像がつく。
リオネスという王族の内部まで潜り込んでいた間者を敵の元まで送り届けることで組織に取り入る。短絡的なガーデルらしい発想だ。
「私の血で開くはずの工房への扉は閉ざされてしまいました……どうすればいいんでしょう……」
ここまで全員が魔力を使い果たし疲労困憊の状態だ。
解析をするにしても休息が必要な状況にあるのは間違いない。
「ステイシー、先にみんなを連れて戻っていてくれないか。今まで何があったか詳しい話はポン子がする。頼めるかい?」
「わかったわ。ステイシー、そっちも大変かもしれないけど、いったん情報の共有をさせてちょうだい」
「わかりました」
こうしてステイシーはスタンフォード以外の全員を連れて本家の方へと向かった。
「さて、と」
その場から全員がいなくなったことで、スタンフォードは魔法を発動させる。使用したのは雷魔法を応用した探知の魔法である。
ガーデルが裏切ったと聞いてショックを隠し切れないスタンフォードだったが、同時に違和感も覚えていた。
ああ見えて直情的で短絡的なガーデルだが、彼が国を左右する一大事に裏切るメリットが見えないのだ。
戦況が有利な敵に寝返る。そう言ってしまえば簡単だが、敵に警戒されている戦力の臣下がそう易々と受け入れられるわけもない。その程度のことはガーデルにだってわかるはずだ。
スタンフォードへの個人的な恨みから裏切りによって復讐を成そうとしている。これもあまりしっくりはこない。
結局はミドガルズ側に戦力として受け入れられなければ意味がないのだ。いくらリオネスを脱獄させて連れ帰ったところで、長い年月をかけて狡猾に王国を陥れていったミドガルズオルムに認められるとは思えない。
「頼む……!」
一縷の望みをかけて臣下を信じる。スタンフォードは最後まで彼のことを諦められなかった。
「何だ、これ」
ガーデルが何かしらの痕跡を残しているかもしれない。そんな思いが通じたのか、近くの地面に埋まっていた金属の物体が探知に引っかかる。
「これは短剣か」
磁力を操作して地面から短剣を引き摺り出すと、その短剣には血が付着していた。
「まさか……」
スタンフォードはその意味を理解して工房の入口があった場所へと血の付いた短剣を置いた。
すると、工房の仕組みが作動して地面が消え失せ、スタンフォードは工房の中へと入ることができたのであった。