負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第158話 加護のない地、セルペンテ領

 見えていた景色が一瞬にして変わる。

 ラクリアの光魔法によって、ルドエ領からセルペンテ領へと瞬間移動が行われたのだ。

 

「ここがセルペンテ領……」

 

 セルペンテ領はドラゴニル領と同様に国境の重要な土地に存在し、その場所は世界樹の根から外れた場所にある。

 加護を受けられず最も外敵の侵攻が激しい防衛地点。それこそがセルペンテ領だった。

 

「久しぶりに来たけど、相変わらず魔力の薄い土地ね」

「この土地には世界樹の加護が働かないからね」

「本来なら貧しい土地だが、竜達の隠れ家にはもってこいってことだな」

 

 世界に溢れる魔力は世界樹から生成されており、世界樹が封印されてからはルドエ領の千年樹が魔力を世界に供給し続けていた。

 しかし、古代より成長を続けてきた世界樹と千年生きただけの千年樹では生成できる魔力に差があった。

 それ故、魔導士の魔法は技術面でこそ進化しているが、大規模な魔法は古代の魔法として衰退しつつあった。

 

「あー、ここヘラが滅ぼした国の場所か」

 

 大勢の瞬間移動を行ったというのに、まるで息切れを起こさずケロっとした調子で告げる。

 

「マジで侵略国家だったんだ、レベリオン王国……」

 

 知らされてはいても、自分達の平和な日常が他者の命と尊厳を踏みにじってきたものだと改めて実感させられる。

 前世でもそういった事情はあったはずなのに、実感できなかったのはスタンフォードが何かを背負って立つ経験がなかったことも大きいだろう。

 

 だが、今は違う。

 

 国王となり、仲間だけではなくこの国に住まう全ての人間の命と未来を守ることになった。

 運命を捻じ曲げる傲慢の象徴たる〝獅子のベスティア〟を宿した者として、これ以上過去の怨念に好き勝手させるわけにはいかないのだ。

 両頬を叩いて気合を入れなおすと、スタンフォードはポンデローザ達がいる方向へと振り返り、高らかに叫ぶ。

 

「ここからが正念場だ。絶対生きて帰るぞ!」

 

『応ッ!』

 

 運命をかけた戦いの幕が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 最初に接敵したのはポンデローザだった。

 

「竜種がうじゃうじゃいるわね。だったら――〝氷結百鬼夜行(アイシクル・ワルプルギス)!!!〟」

 

 ポンデローザは竜種の軍勢相手に、いきなり大技を放つ。

 生成された魔物の氷像達は獅子の獣人や氷の茨姫を筆頭に容赦なく竜種の軍勢へと襲い掛かる。

 ベスティアを発動させるまでもない相手には物量で押しつぶす。最も〝自由な魔導士〟であるポンデローザならではの強みだ。

 何百もの竜の大群がまるで嘘のように押し返されていく。

 その光景に思わず息を吞んだマーガレットが口を開く。

 

「いや、これオーバーキルでしょ……」

 

 ラクリアから一旦肉体の主導権を返してもらったマーガレットは、親友が人間という枠を逸脱し始めていることに絶句していた。

 呆けた表情でポンデローザが無双する様子を眺めていたマーガレットだったが、そんな彼女にスタンフォードが心配そうに駆け寄る。

 

「姉さんはヒーラーなんだから下がってて」

「いやいや、心配しすぎだから」

 

 少し過保護気味のスタンフォードを心配させまいと、マーガレットは気丈に振る舞ってみせる。

 

 不安がないわけではない。

 ようやく出会えた前世の大切な家族と友人。

 転生して共に過ごした時間は一年にも満たない。

 平和に過ごせた時間は僅かで、今立っている場所はこの国の運命を左右する最終決戦の場だ。

 

「チッ、幻竜の群れが来たか」

 

 そのとき、スタンフォードの敵感知に引っかかった

 ライザルクのような強靭な肉体を持つ幻竜。それが複数体で空を飛んでやってきたのだ。

 本来ならば一対一でも苦戦する相手だ。ポンデローザ一人には荷が重い。

 そう判断したスタンフォードは瞬時にベスティアを発動させる。

 

「出し惜しみはなしだ……〝硬雷魔剣(カラドボルグ)!!!〟」

 

 地面に突き刺した魔剣から硬質化した雷が溢れ出る。

 硬き雷の刃は幻竜達の急所を的確に貫き、一瞬にして十体以上の幻竜が無力化される。

 

「よし、一瞬ならベスティアを解放しても消耗は最低限に抑えられる……!」

「殿下、魔力補充」

 

 そして、コメリナさえいれば、ベスティアの力をほぼ無尽蔵に扱える。反則も良いところである。

 

「ありがとう、コメリナ。あと僕はもう〝殿下〟じゃないんだけどね」

「殿下は殿下」

「ああ、そう……」

 

 コメリナらしい答えに苦笑すると、スタンフォードは再び次なる敵に向かってベスティアを発動させる。

 駆け抜ける雷は次々と幻竜の群れを無力化していく。その光景を見て、ポンデローザは気色ばんだ。

 スタンフォードの成長ぶりに称賛を送るでもなく、自分の安否を心配するでもなく、ただただ魔導士としての血が滾った。

 スタンフォードが頑張るなら自分も負けてられない。そんな気持ちが湧いてきたのだ。

 

「……本当に頼もしくなったんだね」

「何言ってる、お義姉ちゃん。殿下、ずっと頼もしい」

「そうだね、コメリナちゃん――って、お義姉ちゃん?」

 

 コメリナの口から出た予想外の言葉に、マーガレット戸惑いの表情を浮かべる。

 

「正室は難しい、でも側室は空いてる」

「あはは……こりゃ平和になったら大変だ」

 

 コメリナの真っ直ぐな想いにマーガレットは苦笑するしかなかった。

 


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