負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第159話 裏切者の共犯者

 風魔法の名門ウィンス家が嫡男、ガーデル・ウィンス。

 彼にとって自分の存在価値は優秀な魔導士として名を馳せ、ウィンス家の歴史にその名を刻むことだった。

 

 しかし、スタンフォードという天才が同学年だったことが彼にとっては最悪の出来事だと言ってもいいだろう。

 未来の才能ある魔導士の卵達は蹂躙され、その才を評価される機会を失うどころか、本来得るはずのない悪評までついて回った。光り輝くはずの人間がもっと強い光によって陰にされた。その事実を仕方ないと割り切ることはガーデルのプライドが許さなかった。

 

「まったく、バカげた話だ……」

 

 世界樹の根本、そこに簡易的な拠点を作り世界樹の動向を見守っていたガーデルは独り言ちる。

 

「何、黄昏てんだい」

「リオネス、起きていたのか」

 

 拠点から出てきたリオネスは珍しく穏やかな表情を浮かべたガーデルに呆れたように肩を竦めていた。

 

「つくづくあんたも難儀な男さね。その捻くれた精神は死んでも治らないじゃないのかい?」

「ふん、元より直す気もねぇ」

 

 不機嫌そうに鼻を鳴らすと、ガーデルは問いかける。

 

「そんなことより、いいのか? これから俺のすることはミドガルズオルムを敵に回すような行動だ。面白そうだからって理由で主人を裏切るなんてバカげていると思うが」

「バカで結構さね。アタイだって最期くらいははっちゃけたいのさ」

「違いねぇ。俺も同じ気持ちだ」

 

 これから行うことはこの国の歴史に真っ向から喧嘩を売るようなもの。

 だというのに、不思議と気持ちは高揚している。やはり自分はどうしようもない人間だなとガーデルは自嘲する。

 

「裏切者同士気が合うのかねぇ」

「アタイらみたいな臣下を持った主人は苦労する定めさね」

 

 リオネスとガーデルは互いの顔を見て笑う。

 

「ハッ、俺を使いこなせないのならそれは主人が悪い」

「清々しいくらいの責任転嫁さね」

 

 同じ人物を脳裏に思い浮かべながら、二人は彼がその程度の器で終わるわけがないと確信していた。

 

「初代世界樹の巫女は無事に逃げられていれば計画通りに進むとはいえ、あんたも酷い男さね。無意味とわかっていて嬢ちゃんを毒の拷問にかけるなんて」

「必要なことだったからやった。無意味じゃねぇよ」

 

 罪悪感などまるで感じていない表情でガーデルは吐き捨てるように告げる。

 

「主役はスタンフォード、ラスボスはヨハン。そう考えればのちの展開は容易に想像できる」

「あのクソ王子やポンコツ令嬢が異世界の魂をその身に宿していたなんてねぇ」

 

 ガーデルは過去の転生者リーシャの記録やミドガルズオルムの発言からスタンフォード達の事情についてはある程度把握していた。

 

「でも、情報はそれだけじゃねぇ。肝心なのはここからだ」

 

 そこで言葉を区切ると、ガーデルは自分の仮設を語りだす。

 

「異世界――日本では物語の世界の人物に転生するという物語が主流らしい。そして、実例として初代国王ニール、ルドエ領のリーシャ。どちらも転生した日本人のサクセスストーリーのような人生を送っている」

「それがどうしたってんだい?」

「簡単な話だ。この世界も物語の一部って考えることもできる」

「なっ」

 

 リオネスはガーデルの仮説を聞いて、言葉を失った。それは、これまで自分が信じてきた現実が根底から覆されるようなものだった。

 

「もちろん、俺らにゃ考える自由も意志ある。だが、それは証明できるものじゃない」

「じゃあ、アタイらの運命も既に決まっているってのか」

「そうとは断定できない。俺の予想じゃ大きく運命が変わっているであろう奴がスタンフォードの傍にいる」

「おコメちゃんかい」

「ああ、二人の転生者スタンフォードとヒロインポンデローザの物語と仮定したとき、奴の躍進はあまりにも急激すぎた。せいぜい都合のいい全肯定女かと思えば、今やスタンフォードの勢力の中核足りえる人材へと変わった」

 

 仮説を述べ終えると、ガーデルは決意を宿した瞳で世界樹を睨みつける。

 

「だから、俺はこの世界も俺らの命運もまだ確定してない。そういうつもりでやっていこうと思う」

「希望的観測だねぇ。でも、そっちの気が楽さね」

 

 結局は未来は決まっていない。だから今、自分にできることをするしかない。そんな当たり前の結論に行き当たったリオネスは陰のある笑みを浮かべた。

 

「これで心残りなく最期に走っていけるさね」

「ハッ、別にここには俺とお前しかいねぇんだ。本音を包み隠す必要もねぇ」

「あんたが本音を言えばアタイも少しは素直になれるんだけどねぇ」

 

 どこか含みのある言葉に、ガーデルは僅かに微笑むと言った。

 

「やめておこう。俺らはあくまでもただの〝共犯者〟だ。それ以上でも、それ以下でもねぇんだからな」

 

 そのままガーデルは世界樹を見上げると、事前に用意しておいた魔法を起動させた。

 

 これで準備は整った。あとは伝説に挑むだけだ。

 

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