負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第160話 因縁の消えた二人

 

 ブレイブは、ポンデローザとスタンフォードが切り開いた道を駆け抜けながら一直線にセルペンテ家の本邸へと向かう。

 

 セタリアを救う。それはかつて聖剣ベスティア・ブレイブとして愛し合った巫女ラクリアの生まれ変わりだからではない。

 記憶もなく、右も左もわからない自分へと優しくしてくれた友人を救う。人間ブレイブ・ドラゴニルとして、セタリアのために剣を振るうことしか今のブレイブの頭にはなかった。

 

「いけ、ブレイブ!」

「セタリアの元へ!」

 

 数多の竜を倒して見せた二人がブレイブの背中を押す。

 ふがいない自分をここまで引き上げてくれたことに感謝しつつ、ブレイブはとうとう敵の本丸へと乗り込んだ。

 

「おや、ブレイブ。思ったよりも早かったね」

「ヨハン……!」

「ひどい顔だね。とてもかつてこの国を守っていた聖剣の姿とは思えないな」

 

 かつて親友だと思っていた男。ヨハン・ルガンドの姿を目にすると、ブレイブは静かに剣を構える。

 

「セタリアはどこだ」

「もう彼女のことはリアと呼ばないのか。そうか、君達も輪から外れたようだね」

 

 興味深そうに呟くと、

 

「どこかの誰かさんのせいで本命が逃げてしまったからね。今は地下牢じゃなくて、この奥の応接室で軟禁しているよ」

「じゃあ、お前を倒してでも――」

「いや、君と戦う気はない」

「は?」

 

 ヨハンは構えも取らずに飄々とした様子で続ける。

 

「ボク――ミドガルズオルムはね、ラクリアと聖剣ブレイブに執着していた。それは原初の憎悪をヘラ・セルペンテとして王国内部に潜り込んでから人間として過ごしたことで膨れ上がった妄執に過ぎない」

 

 困惑するブレイブをおいてヨハンは自分語りを続ける。

 

「君が人間に成ったように、ボクもなったのさ。ミドガルズオルムでもヘラでもない。ただのヨハンにね」

「じゃあ、お前の目的はなんなんだ」

「簡単なことさ。主人公という役割を得たスタンフォードを倒し、この国を牛耳ってやるのさ。ま、国を乗っ取るのはミドガルズオルム時代の名残みたいなものだね。まずは、過去の自分に決着をつける。その後は生まれ変わった自由な人生を送りたいっていうのが本音ってところかな」

「ふざけるな! そのためにどれだけの命を犠牲にするつもりだ」

「細かい男は嫌われるよ? 誰だって他の生物の命を犠牲の上に生きているんだ」

「そんなものは詭弁だ!」

「うん、わかってるよ。だから、文句があればかかってくるといい」

 

 ヨハンは手招きをすると、挑発するように告げた。剣を構えると、両者の間には張りつめた空気が流れる。

 

「……いや、悪いが今はセタリアの救出が最優先だ。安い挑発には乗らないぞ」

「ほお、本当に変わったみたいだね」

 

 剣を下すとヨハンは楽し気に告げる。

 

「それじゃ、さっさと囚われのお姫様を救い出してくるといい」

「ああ、そうさせてもらう」

 

 ブレイブは剣を鞘に収めると、応接室へ向けて走り出す。

 

「さて、暴走する配下達の処理は新国王へと任せるとしようか」

 

 ブレイブを見送ると、ヨハンは独り言ちる。

 世界樹に見いだされ、追放され、王国に執着した怪物は今、一人の人間として悪巧みを続けるのであった。

 

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