負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん! 作:サニキ リオ
ミドガルズオルムの復活は王都を恐怖へと陥れた。
その巨体はどんな魔法も弾き、王国魔導士団の魔法も豆鉄砲同然だ。
圧倒的な力の前では人間は無力だと言わんばかりに、ミドガルズオルムはその巨大な口で街を蹂躙し始める。
人々が逃げ惑い、家財道具を捨てて命と財産を守ろうとする中で、街の中心ではこの未曾有の危機に呼び出された魔法学園の生徒達が王国魔導士団と共に戦っていた。
「防壁魔法を持つ者は集団で固まれ! 少しでも被害を食い止めるんだ!」
「無茶言うな! あんな怪物に勝てるわけないだろ!」
「どうしてミドガルズオルムが出てくるんだ! 世界樹は復活したんじゃなかったのかよ!」
この混乱状態でまともに指揮が取れるはずもない。
王国騎士団長と国王の不在もそれに拍車をかけていた。事前に王家への不信感を煽っていたセルペンテ家の策略通りにことは進んでいた。
国民の心はもはやバラバラだ。
「くそっ、こんなときにスタンフォードがいてくれたら……!」
必死に火炎魔法を放ちながらジャッチはこの場にいない友人へと思いを馳せる。
こうして他の魔導士同様無力さを噛みしめながらも戦うしかない自分と違って、彼ならば何かをやってくれる。そんな根拠のない希望が持てる。
だが、スタンフォードはこの場にいない。
「危ないボーギャック君!」
ジャッチと同じ属性魔法の名門、水魔法の名門出身のマチルダが叫ぶ。
その瞬間、複数に分かれた巨大な尾の一つがジャッチへと振り下ろされていた。
「〝水球体!!!〟」
しかし、その一撃がジャッチを襲うことはなかった。
「あなたは……!」
水の防御魔法。それも弾力を極限まで引き上げた高度な魔法。それを発動した当人は初めて会ったときと変わらない快活そうな笑みを浮かべていた。
「お久しぶりですね、ジャッチ様」
スタンフォードの妹であるフォルニアはシンプルな戦闘装束に身を包み、刀を構えてミドガルズオルムを見上げる。
「魔法が使えるようになったんですか!?」
「ええ、コメリナ様のおかげでこの通り」
魔法で戦えるのが楽しくてたまらないといった様子でフォルニアはミドガルズオルムへと飛び掛かる。
「レベリオン王国第一王女フォルニア・シンバ・レベリオン、推して参ります!」
巨大な蛇の首へと刀を一閃させるも、その鱗に傷を付けることすらできていない。
大蛇は煩わしそうに尾を彼女へと叩きつけるが、すでにそこに彼女の姿はなかった。
高く跳躍していたフォルニアは再び攻撃を加えるべく刀を構えなおす。
「〝高圧水斬!!!〟」
魔法を纏った刃は今度こそ僅かに鱗に傷をつけることに成功する。
しかし、ダメージが通ったとはお世辞にも言えない。
「まったく……何が炎魔法の名門出身だ、情けねぇ」
ジャッチが吐き捨てるように呟く。
つい数ヶ月前まで魔法を使えなかった少女が戦っているというのに、自分は何をしているのか。こんなことではスタンフォードの友人を名乗る資格もない。
心の底から炎を滾らせたジャッチは剣を構えて叫ぶ。
「マチルダ。俺に合わせろ。全力でフォルニア様を援護するぞ!」
「えっ、あ、うん!」
こうして一人の少女が起こした熱は周囲へと伝播していく。
スタンフォードからコメリナへ、コメリナからフォルニアへ。
与えた影響は僅かでも、未来を大きく変えていくのであった。