負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第166話 主人公

 どうしてリオネスがあんなことをしたのかスタンフォードにはわからなかった。

 ただ最後の彼女の笑顔を見て思い出したことがある。

 

『リオネスは花が嫌いなのか?』

『ええ、私が触れると花はすぐにダメになってしまいますので』

『そうか。ならこうしよう』

『これは?』

『花冠だ。頭に乗っけるだけなら大丈夫だろう?』

 

 転生してから幾何が過ぎたころの思い出。

 それが蘇り、スタンフォードの体から力が抜けかける。

 

「殿下、ボーッとしない! リオネスとガーデルの想い、無駄になる!」

 

 そんな彼に喝を入れたのはコメリナだった。

 

「待ってくれ、ガーデル、だって……?」

「そう! ガーデル、世界樹と一体化してる!」

 

 何故、封印が解けたか。それは誰かが世界樹を乗っ取り、無力化したからだ。

 どうしてそんなことをしたのか。答えは簡単だ。

 この状況を予測してリオネスと共にミドガルズオルムを弱体化させるためだ。

 

『チッ、蛆虫どもが! 余計な真似を……!』

 

 余裕をなくして毒に蝕まれるヨハンは本性を露にして叫ぶ。

 掌の上で転がしていたと思っていたガーデルにしてやられたのが、よっぽど堪えたのだ。

 

『オレはミドガルズオルムでも世界樹ユグドラシルでもない! ヨハン・ルガンドだ!』

 

 ミドガルズオルムの全身から爆発音が響き渡り、その巨体を真っ二つに引き裂いたのだ。

 そして、無数の竜の頭を持つ枝葉を伸ばす大樹の化け物が生まれた。

 

『ギュラァァァ!』

 

 世界樹とミドガルズオルムが混ざりあって誕生した邪悪な魔物。漂う魔力は邪悪の一言に尽きる。

 スタンフォードは舌打ちすると、剣を構えた。

 

「ボスラッシュもいい加減にしろ!」

 

 ミドガルズオルムと融合した世界樹から枝が伸び、竜の頭が数十ほど姿を現す。

 しかし、その竜の頭がスタンフォードへ届くことはなかった。

 

「〝滅竜閃刃・乱舞!!!〟」

「ブレイブ!」

 

 竜の頭の一つがブレイブの放った剣閃に切り裂かれ、そのまま消滅する。

 だが、残った竜の首は再生を繰り返し、再び世界樹から生えてくる。

 その数は数百を超え、もはや数えるのも億劫なほどだ。

 その数に圧倒されていると、ポンデリローザが叫ぶ。

 

「こういう細々したのの相手はあたしの得意分野よ!」

 

 ポンデローザは即座に再生した竜の頭を氷漬けにする。

 

「雑魚散らしは俺様達の得意分野だからな」

「でも、数が多すぎますって!?」

 

 ポンデローザに続くようにルーファスとアロエラも魔法で応戦するが、竜の頭は無限に再生する。

 

「皆さん、一箇所に固まってまとまったところを殲滅しましょう! くっ、思ったよりも一個体が強い……!」

 

 セタリアも風魔法で応戦するが、ベスティアに覚醒していない以上、火力不足は否めない。

 

「ブレイブ」

 

 そんな乱戦の中、ラクリアがブレイブへと語りかける。

 

「あなたの力を解き放つ最後のカギがあるんだ」

「俺の、力?」

「竜のベスティア。聖剣が持つ竜を葬る最強の力だよ」

「わかった。頼むよ、リア」

 

 ラクリアの言葉にブレイブは躊躇うことなく力を引き出す覚悟をした。

 

「いいのか、ブレイブ。世界樹を倒すってことは……」

「後悔はない。お前達に出会えた。ブレイブ・ドラゴニルの人生はそれで十分だ」

「……わかった」

 

 世界樹が封印された理由は、いずれ領域内の生物を吸収するという世界樹の特性もあるが、大元の理由は違う。

 ラクリアが愛するブレイブを死なせたくない。それ故に世界樹を倒すことができなかったのだ。

 

「ブレイブの覚悟は受け取った。私も初代世界樹の巫女としてケジメはつけるよ」

 

 ラクリアはそう告げるとマーガレットの肉体から抜け出し、光となってブレイブの肉体を包み込んだ。

 

『あとは任せたよ。この時代を生きるみんな』

 

 その言葉を最後にラクリアの魂はブレイブの力の一部となり消滅した。

 

「ああ……任された!」

 

 その瞬間、ブレイブを中心に激しい魔力の奔流が起きる。

 勢いで上着が吹き飛び竜鱗の浮かび上がった背中には、竜のベスティアの紋章が刻まれていた。

 

「それじゃ、いっちょ世界を救うとしますかね」

「ああ、一緒に行こう!」

 

 共に剣を構えてスタンフォードとブレイブは世界樹の中心部へと狙いを定める。

 

「みんな、道を開いてくれ! 僕とブレイブで突撃する!」

 

『応ッ!』

 

 全員が声を揃えて返事をすると、スタンフォードとブレイブは剣に魔力を込める。

 

『いくらあがいたところで、全てを手に入れたオレの前では無力だ!』

「せっかく見つけた自分(ヨハン)を見失ってる奴が笑わせるな!」

 

 二人の剣から放たれる膨大な魔力は、一直線に世界樹の幹を切り裂く。

 

「〝迅雷怒涛!!!〟」

「〝光輝神速!!!〟」

 

 そのまま二人は加速して一直線に突き進む。

 

「道を切り開く、群剣射出……〝餓狼噛砕(バイゼンヴォルフ)!!!〟」

 

 ルーファスが無数の剣で竜の頭を潰しながら立ちふさがる巨大な根を切り捨てる。

 

『鬱陶しい雑魚共が!』

 

 世界樹は枝を剣山のように変形させルーファス達へと矛先を向ける。

 

「自己紹介どうも! 主様、ブレイブ! そのまま突っ走って! 〝破城大噴火(ヴォルカニック・インパクト)!!!〟」

 

 だが、それは通用しない。

 アロエラが大爆発を起こして剣山の枝を吹き飛ばしたからだ。

 

「道を冷やすわ! セタリア、援護を!」

「承知いたしました!」

 

「「〝氷結風嵐(アイシクル・テンペスト)!!!〟」」

 

 燃え盛る世界樹の根や枝をポンデローザが氷漬けにし、そこにセタリアが突風を起こす。それによって加速していた二人の速度が更に上がる。

 

『貴様らさえ葬ればオレの天下なんだ! いい加減消えろぉぉぉ!』

 

「お義姉ちゃん、私を二人の元に飛ばして!」

「可愛い義妹の頼みだもん、任せて! 〝光輪遷移(テレポーテーション)!!!〟」

 

 マーガレットは残る全ての魔力を振り絞り、ラクリアが使っていた瞬間移動を無理矢理に発動させる。周辺ごとの転移は無理だが、小柄なコメリナを転移させるくらいなら何とか可能だったのだ。

 

「私の大切な人の邪魔はさせない……! 〝鮮血支配(ブラッド・ドミネーション)!!!〟」

 

 コメリナは尖らせた犬歯で自身の手に嚙みつくと血を周辺に撒き散らす。

 すると、血が付着した場所は世界樹の言うことを聞かなくなり、コメリナの意のままに動くようになった。

 

「これでショートカット」

 

 コメリナは支配下に置いた枝葉を操って、最短ルートの道を作り上げてみせた。

 

「本当に君はどこまで最高だよ、コメリナ!」

「お礼は嫁入りでいい」

「わかった!」

 

 反射的に返事をしたスタンフォードだったが、ふと何か重大なことを口走っていたことに気が付く。

 

「あれ、今嫁入りって言ったような……」

「考えるのは後だスタンフォード! このままぶちかますぞ!」

 

 ブレイブに言われるまでもなく、スタンフォードは魔力をさらに注ぎ込む。

 魔剣に込められた魔力は臨界点を超え、激しい光を放つ。

 

『踏み台と過去の遺物がァ……!』

 

「どうしたヨハン、特大ブーメラン投げるのがうまくなったじゃないか」

「お前のそんな台詞初めて聞いたよ」

 

 スタンフォードとブレイブは軽口を叩くと剣を振るう。

 

「〝硬雷――〟」

「〝滅竜――〟」

 

 放たれるのは二人にとって最大火力を誇る魔法。

 

「〝魔剣/聖剣!!!〟」

 

 巨大な雷と光の剣は一つになり、立ち塞がる障害を全て切り伏せる。

 しかし、その勢いが途中で止まってしまった。

 

『くくくっ、バカが! その魔剣の素材が何でできているのか忘れたのか?』

 

 世界樹の言葉と共に世界樹の枝と根は再生を始め、魔剣へと巻き付く。

 

「ルナ・ファイが……!」

「俺のソル・カノルもだ!」

 

 そして、二人の魔剣は粉々に砕け散ってしまった。

 

『オレの血を分けた竜の素材からできた剣だ。大技を使わせれば隙もできて破壊も容易い』

 

「くそが、ここまできて……」

 

 既に二人は魔力、体力共に限界を迎えており、ここまでの魔法を放出したあとに新たな魔法を使うことは難しかった――だが、一人ならば。

 

「俺を使え、スタンフォード!」

 

 最後の力を振り絞ったブレイブはその身を剣へと変化させていく。

 どんなに否定したところで自分は人間ではなく、聖剣という人外。

 それでも、自分の友として共に立ち向かってくれた者がいた。

 

 だから――今はただスタンフォードが敵を倒すための剣になればいい。

 

『バカな! 貴様、人間として生きたいのではないのか!』

 

「僕の親友は人間だ。ちょっと剣になったり、光魔法を使えるだけの変わった人間だよ!」

 

 スタンフォードは聖剣となったブレイブから流れ込む魔力を、再び自身の魔力と混ぜ合わせて送り返す。

 聖剣ベスティア・ブレイブは天をも突き破らんとする勢いで光と雷の刃を伸ばす。

 

「大いなる光よ、邪悪を切り伏せろ……」

 

 もはや誰が彼を踏み台などと笑うだろうか。

 

「極光解放!」

 

 聖剣を振るい邪悪を滅するその姿は、

 

 

 

「〝雷神王の聖剣(ゼウスカリバー)!!!〟」

 

 

 

 紛れもない主人公の姿そのものだった。

 

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