負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第16話 イベント×修羅場

 原作におけるマーガレットとのデートイベントは偶発的に発生するものだった。

 それをポンデローザは、マーガレットの周辺を調べて意図的に発生させることにしたのだ。

 マーガレットは演劇に興味があり、今日は彼女の好きな演劇の公開日。

 その日に劇場に行けば、偶然の出会いを必然に出来るのだ。

 ポンデローザの予想通り、マーガレットは一人で劇場前にいた。

 

「ラクーナ先輩、奇遇ですね」

「あっ、スタンフォード君。学園街にいるなんて珍しいね!」

 

 スタンフォードが声をかけると、マーガレットは嬉しそうに顔を綻ばせた。

 

「僕の好きな小説を元にした演劇が今日公開だと聞いたので見に来たんです」

「へえ、スタンフォード君もこの作品好きなんだ!」

「ええ、小説も演劇も大好物です」

「やっぱりスタンフォード君とは趣味が合うね」

 

 この世界にはインターネットやゲーム機などは存在しない。

 運動以外の娯楽といえば、チェスなどのボードゲームや小説くらいしかない。

 前世でもオタクだったスタンフォードは専ら読書にハマっていた。

 対人ゲームが得意でないこともあり、チェスは好まなかったのだ。

 

「せっかくですし、一緒に見ませんか?」

「うん、いいよ。あっ、でもスタンフォード君って婚約者いるんだよね。休日に異性と演劇鑑賞なんて大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ。そんなこと気にしてたら息が詰まりますから――」

「……スタンフォード殿下?」

「えっ」

 

 聞き覚えのある声に、スタンフォードは錆びついた扉のようにゆっくりと振り返った。

 そこには信じられない者を見たような表情を浮かべるセタリアと口を開けて固まっているブレイブが立っていた。

 

 要するに、全然大丈夫ではなかった。

 

「り、リア?」

 

 マーガレットを除いた三人の間に微妙な空気が流れる。

 

「えーと……?」

 

 最初は何が起きているかわからずに怪訝な表情を浮かべていたマーガレットだったが、瞬時に空気を察して自己紹介を始めた。

 

「初めまして、私は王立魔法学園二年マーガレット・ラクーナです。こう見えて、生徒会に所属してます」

「この方が……世界樹の巫女の末裔」

「生徒会の、先輩?」

 

 マーガレットが数少ない光魔法の使い手という話は有名だ。

 セタリアはマーガレットが噂の〝世界樹の巫女〟の末裔だということに驚き、ブレイブはいつも一人でいるスタンフォードが先輩と一緒に出掛けていることに驚いていた。

 

「スタンフォード殿下からはお兄さんのことでいろいろと相談を受けることがあって、今日もその用件でご一緒させてもらったんだ。ほら、私は生徒会役員だし」

 

 この場で偶然会ったと言っても咄嗟の言い訳にしか見えない。

 そのことを危惧したマーガレットは、最もらしい理由をでっち上げたのだった。

 

「なるほど、そうでしか。私はセタリア・ヘラ・セルペンテと申します。スタンフォード殿下の婚約者です」

「ぶ、ブレイブ・ドラゴニルです。リアとは同じクラスで、その、今日はいろいろと学園街を案内してもらう予定でして!」

 

 淑女らしく優雅に自己紹介をするセタリアとは対照的に、ブレイブは動揺しながらも自己紹介をした。

 

「二人共よろしくね! せっかくだから、一緒に演劇でも見よっか」

 

「「「えっ!?」」」

 

「積る話もあるだろうけど、もうすぐ公演の時間だからさ」

 

 こうして半ば強引にマーガレットは三人を劇場内に連れ込んだ。

 もちろん、演劇の内容は碌に頭に入ってこなかった。

 劇場を出た四人は、そのまま近くのカフェへと向かっていた。

 

「へぇ、ブレイブ君はあのドラゴニル辺境伯の息子さんなんだ」

「ええ、うちの領内で竜が暴れる騒動があって、そのときに突然光魔法が発現してこの学園に通うことになったんす。正直、訳わかんないっすよ」

「あー、わかるなぁ。私も街で診療所の手伝いをしてたら光魔法が発現したんだよね」

 

 カフェへ向かう道中、同じ光魔法の使い手ということもあり、マーガレットとブレイブはすっかり意気投合していた。

 

「そういえば、マーガレット先輩の光魔法って治癒系だけっすか?」

「あとは身体強化くらいかな。あんまり攻撃魔法は覚えられなかったんだ」

「俺はむしろ攻撃魔法ばっかっすね。一応、簡単な治癒魔法くらいなら使えますけど」

 

 同じ光魔法の使い手でも、マーガレットとブレイブは使える魔法が異なっていた。

 マーガレットは、治癒魔法や身体強化などの支援魔法。

 ブレイブは、滅竜剣や広範囲の攻撃魔法。

 これもそれぞれの抱く光魔法へのイメージの差異からくるものだった。

 

「あちらは随分と盛り上がっているようですね」

「ま、同じ光魔法の使い手だからな。二人にしかわからないこともあるんだろう」

 

 マーガレットとブレイブが話していることにより、必然的にスタンフォードはセタリアと会話をすることになった。

 婚約者の手前澄ました顔をしているが、その心中は穏やかではない。

 お互いに浮気現場を目撃したようなものなのだ。

 いくら家同士の決めた婚約といえど、貴族としての体裁を考えれば異性と休日に出掛けるのはあまり褒められた行為ではない。

 

「ラクーナ先輩とは随分と仲がよろしいんですね」

「兄上のことで親身になって話を聞いてくれるからな」

 

 お互い婚約者がいるのに別の異性と休日に出掛けていることに、二人は全くと行っていいほど触れなかった。

 その話題に触れてはならないと、お互いに察していたからだ。

 

「本当にそれだけですか?」

「……どういう意味だ」

 

 普段はすぐに身を引くセタリアが珍しく引き下がらなかったことに驚きながらも、スタンフォードは言葉を濁すように言葉を返した。

 

「殿下のあんなに楽しそうな顔、初めて見ましたので」

「中等部にいた頃は毎日楽しく過ごしていたぞ。初めてということはないだろ」

「いえ、中等部の頃の殿下は失礼ですが、ご自身の力に酔っているだけという印象でした。しかし、今日ラクーナ先輩と話している姿はとても穏やかな表情を浮かべていました」

 

 セタリアはそこで言葉を区切ると、スタンフォードの顔を正面から見据えて笑みを浮かべた。

 

「そういうリアこそ、ブレイブとは随分と仲が良いみたいだな」

「ええ、彼は興味深い人ですから」

「何せ竜殺しで光魔法の使い手だからな。リアが興味を持つのも無理はない」

 

 ブレイブは入学前の竜殺しの噂と異形種事件の一件で一躍有名人となった。

 そのため、多くの生徒達がブレイブに興味を持っていた。

 しかし、何気なく呟いたスタンフォードの言葉をセタリアは否定した。

 

「いえ、そうではありません」

 

 セタリアはどう説明したものかと悩んだ様子で語りだした。

 

「私にもよくわからないのです。ブレイブを見た瞬間、今までに感じたことのない高揚感を覚えました。まるで長い間無くしていたと思っていた宝物を見つけたような……そんな感覚でした」

「なるほどな……」

 

 それは原作通りの流れだ。

 ポンデローザから聞かされていた通りの流れに、スタンフォードは納得したように頷く。

 

「王国のため、セルペンテ家のために行動する。自分の意志は後回し。そうやって生きてきたつもりだったのですが、彼には今まで他の方から感じなかった何かを感じたのです」

 

 セタリアは公爵家であるセルペンテ家の令嬢として恥ずかしくないように厳しい教育を受けてきた。

 セルペンテ家は野心家であり、守護者の家系でありながらも地位があまり高くないこともあり、代々王族と婚姻をして徐々に権力を手にして公爵家まで上り詰めたのだ。

 そんなセルペンテ家を背負って立つセタリアは誰にでも平等に優しい。

 そして、それは特別な存在を作らないという意味でもあった。

 スタンフォードは婚約者であるため彼を立てるように行動してきたが、特別な感情は抱いていない。

 だからこそ、ブレイブを見て感じた何かが気になったセタリアは、他の生徒よりもブレイブに接触していたのだ。

 

「殿下、申し訳ございません。あなたという婚約者がいながら、最近の私の行動は目にあまります」

「気にするな。僕も似たようなものだ」

 

 スタンフォードはセタリアの謝罪を手で制した。

 そもそも複雑ではあるものの、原作通りにブレイブとセタリアがくっつく展開はスタンフォードとしてもありがたいところなのだ。

 

「それにあだ名呼びもブレイブが勝手に呼んでるだけだし、ブレイブに限らずいろんな生徒の相談に乗るため休日を使っている君がブレイブと出かけていたところで責めるつもりはない」

「えっ……あ、いえ、寛大なお言葉、感謝いたします」

 

 普段のスタンフォードらしからぬ寛大な言葉に怪訝な表情を浮かべた後、セタリアは深々と頭を下げた。

 

「それにしても、特別な何かねぇ……」

 

 ただの礼儀がなってない馴れ馴れしいだけの奴じゃないか。いや、正体は知ってるけども。

 そんな言葉をスタンフォードは心の中に留めた。

 


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