負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん! 作:サニキ リオ
結論からいえば、ブレイブ・ドラゴニルという人間は消滅した。
彼は世界樹の枝から生み出された〝聖剣〟という特殊な生命体だ。元より、この事態を恐れてラクリアは当時世界樹を封印するという暴挙に出たのだ。
「コメリナ、ブレイブは戻せそうかい?」
ルドエ領のリーシャの工房内でスタンフォードは厳しい表情を浮かべながらコメリナへと問いかける。
そんなスタンフォードへと、クマの耳をぴょこぴょこ動かしながらコメリナは冷静に告げる。
「無理、ベスティア使っても戻らない」
「そうか」
わかりきっていた答えにスタンフォードは嘆息する。
「もう、戻らないのか」
二人の前には輝きを失った一振りの聖剣があった。
聖剣ベスティア・ブレイブ。ブレイブが覚悟と共にスタンフォードへと託した彼の肉体そのもの。
世界樹の消滅と共に消えるかと思われていたが、以前にブレイブの足を千年樹の素材で補っていたことが幸いし、存在だけはこの世に残すことができたのだ。
「魂、聖剣と一体化してる。どうすることもできない」
世界樹もミドガルズオルムも消え去ったことで、聖剣の役割もまた失われた。
二度とブレイブが復活することはない。それが現実だった。
「殿下、ごめん」
「コメリナはよくやってくれた。謝る必要はないさ」
ベスティアを解除して表情を曇らせるコメリナに、スタンフォードは優しく語り掛ける。
「むしろ、君がブレイブの足を千年樹で直してくれたからこそ、あいつの生きた証として聖剣が残った。だから、ありがとう」
「殿下……!」
目を潤ませるコメリナをスタンフォードは優しく抱きしめる。
しばらくすると、スタンフォードはコメリナを放し、空気を変えるように告げる。
「さて、そろそろ王都に戻ろう。やることは山積みだ」
「セタリアのこと?」
「ああ、彼女の立場も危ういからな」
セルペンテ家は国家の重鎮でありながらクーデターを起こし、国中を大混乱に陥れた。
長い間王家を裏切り続けていた上に、ミドガルズオルムの血を引いている。
役満もいいところである。
たとえセタリアがミドガルズオルムを倒すことに協力していたとはいえど、彼女がセルペンテ家の名を背負う以上、処刑は免れない。
セルペンテ家はそれだけのことをしたのだ。一族郎党皆殺しでも生温いくらいである。
しかし、セタリアに罪がないからと言って、彼女が今後この王国でまともに暮らしていけるわけもない。
国民感情とは国王であっても命令だけでどうにかできるものではないのだ。
「コメリナ、いろいろと用意してほしい情報があるんだ」
「任せる。夫婦の共同作業」
「……言質取られてたんだった」
正直なところ、スタンフォードとしてもコメリナが妻となることに不満はない。
しかし、今は単純に国王となりやらなければならないことが山積みのため、そういう気分になれなかったのだ。