負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第22話 プレゼント選び

 翌日、スタンフォードとポンデローザは学園街の噴水広場で待ち合わせをしていた。

 読書をしながら噴水の前に立っているスタンフォードの元へと変装したポンデローザが駆け寄る。

 

「ごめんね! 待った?」

「今ちょうどこの小説を読み終わったところだよ。ナイスタイミング」

 

 スタンフォードはさり気なくポンデローザを気遣う。

 本当はかなり気になる部分を読み進めていたのだが、ポンデローザが忙しい身であることはスタンフォードも重々承知している。

 生徒会の仕事に、成績を維持するための勉強。

 それに加えて変装をしてこっそり学園を抜け出てくるとなれば、時間がかかっても仕方ない。

 

「それにしても、忙しいのによく時間作れるな」

「そこは努力の賜ね。スケジュールさえ組んじゃえば、隙間時間なんて案外作れるものよ」

 

 元々ポンデローザはスケジュールを組むという行為が苦手だったが、死にたくないという思いから必死で原作のイベントをまとめ時系列を整理していたおかげでスケジュールを組んで動くことが身についたのだった。

 

「何か仕事出来る奴の言葉って感じだな」

「まあね! こう見えても前世では、長期の海外出張もこなしたことだってあるんだから! ……そのせいで推しの配信見る暇なくて若干病んだけど」

「どっぷりサブカルに浸かってるなぁ」

 

 良かった、いつものポン子だ。

 ポンデローザの根っからのオタク具合を再確認したスタンフォードはどこか安心したように苦笑した。

 

「それで、誕プレどこで買う?」

「えっ、ポンデローザに任せようと思ってたんだけど」

「あんたねぇ、アドバイスならともかく丸投げはないでしょ」

 

 ポンデローザは、誕生日プレゼントについてスタンフォードが丸投げする気満々だったことに深いため息をついた。

 

「ひゃ!?」

 

 そのとき、一陣の風が吹いた。

 建物と建物の間から発生した強い風はポンデローザのスカートを捲り上げる。

 

「「…………」」

 

 風が止み、二人の間に静寂が訪れる。

 気まずい空気の中、まず口を開いたのはスタンフォードだった。

 

「ま、待て、見てない。僕は何も見てないぞ!」

 

 嘘である。

 スタンフォードはポンデローザのスカートが風で捲れ上がった際に、バッチリとフリルの着いたピンク色の下着を目に焼き付けていた。

 

「い……」

 

 スタンフォードは咄嗟に殴られることを覚悟し、目を瞑り歯を食いしばる。

 しかし、いつまで経っても衝撃はやってこなかった。

 

「いやぁ、見苦しいもの見せちゃってごめんね!」

 

 目を開けると、ポンデローザは困ったように笑っていた。

 

「へ?」

「あたし、こう見えても中身はスタンと結構歳近いんだよ? そんな女のパンツ見ても嬉しかないでしょ」

「いや……まあ、そうだな」

 

 むしろそっちの方がいいんだが、という言葉を咄嗟に飲み込む。

 よく見てみれば、ポンデローザは耳まで真っ赤になっていたからだ。

 ポンデローザに恥をかかせるのも悪いと感じたスタンフォードは、あえていつものようにデリカシーのない発言をすることにした。

 

「ま、色がベージュじゃなかったのは高評価だな」

「一言余計、よっ!」

「かはっ……」

 

 拳を腹に受けながらも、スタンフォードはポンデローザがいつもの調子に戻ったことで胸を撫で下ろした。

 それから二人は学園街の女子生徒に人気の装飾品店を回っていた。

 

「このハートのネックレスとかいいんじゃないか?」

「うわっ、重……」

「何で引いてるんだよ」

「いや、距離感考えなよ。いきなりハートのネックレスはないでしょ」

 

 ポンデローザはスタンフォードの選んだプレゼントに逐一ダメ出しをしていた。

 スタンフォードは女性へのプレゼントはアクセサリーがいいと思い、良さげなものを見繕っていたのだが、それは悉くポンデローザに否定されてしまった。

 

「あんた女の子にプレゼントしたことないでしょ」

「はっ、僕だって――」

「お姉さんは除外で」

「うっ」

 

 用意していた回答を先に言われたスタンフォードは言葉に詰まる。

 

「ちなみにお姉さんには何あげたの?」

「ゲームソフト」

「でしょうね……」

 

 こめかみを押さえると、ポンデローザは深いため息をついた。

 

「ポン子は何もらったら喜ぶんだ?」

「食べ物系」

「お前もブレないな……」

 

 ポンデローザはスタンフォードの問いに即答する。

 相変わらず食い意地が張っているポンデローザに呆れるスタンフォードだったが、彼女の言っていることもあながち間違いではなかった。

 

「いや、普通に親しい後輩からのプレゼントなんだから、消え物の方が良いと思うわ」

「なら、最初からそういう店に回れば良かっただろ」

「あたしだってアクセとか見て回りたかったの」

 

 拗ねたように髪の毛を弄り出すポンデローザを見て、スタンフォードは察する。

 マーガレットの誕生日プレゼントを選ぶという目的こそあるものの、ポンデローザも気分転換をしたかったのだ。

 スタンフォード自身、ポンデローザと店を回るのが楽しかったこともあり、それ以上文句を言うことはなかった。

 

「じゃあ、アロマとかどうだ?」

「悪くないわね。マーガレットの好みの香りはわかる?」

「いや、知らないけど」

 

 スタンフォードは、マーガレットの学内での様子は聞き齧ったことはあるが、趣味などの話はあまり聞いたことがなかった。

 むしろ、自分の話を聞いてもらうことの方が多かったくらいである。

 親睦を深めたといっても、結局のところマーガレットについては不明なことの方が多かった。

 

「こういうときスマホがあればなぁ」

「確かに遠距離の連絡手段って手紙くらいだもんね」

 

 この世界には当然だがスマートフォンは存在しない。

 連絡手段として使えるものといえば、お互いの位置が離れていてもわかる魔石という道具くらいである。

 

「スマホに代わる魔道具でもあれば良かったんだけどな」

「cre8さんも設定で念話の魔道具くらい出してくれれば良かったのに」

 

 とにもかくにも、連絡手段がないことにはマーガレットの好みをこの場で聞くことは困難である。

 どうしたものかと首を捻っていたスタンフォードだったが、そこであることを思い出した。

 

「あ、普通に小説でいいじゃん」

「そういえば、あの子も読書家だったわね」

 

 マーガレットは演劇を見るのも好きだが、小説を読むことも好きだった。

 プレゼントに好きな小説を渡すことは悪くない手だと思いながらも、ポンデローザは念のために確認する。

 

「でも、マーガレットがどの小説持ってるかとかまで把握してるの? 持ってるのと被ったら最悪じゃない」

「大丈夫だ。ラクーナ先輩が読むのはミステリー系だ。あの人が欲しがってる作品がいくつかあるからそれを買えばいいんだよ」

「なるほど、それならありかもね」

 

 納得したように頷くと、ポンデローザはスタンフォードがどの小説を買うのか確認する。

 

「何を買うかは目星はついてるの?」

「そこは大丈夫だ。少なくとも、ポンデローザよりは全然詳しいから安心してくれ」

「釈迦に鉄砲ってやつね」

「説法な。罰当たりすぎるだろ」

 

 その後、書店で目当てのミステリー小説以外にもいくつか自分用のものを購入して二人は帰路に着いた。

 

「これで誕生日イベントは何とかなりそうね」

「ちなみに、原作での僕は何をプレゼントしたんだ?」

 

 スタンフォードは参考までに、原作のスタンフォードがマーガレットに何をプレゼントしたのかを尋ねた。

 

「ハートのネックレスよ」

「はぁ!? じゃあ、最初に選んだ奴で良かったじゃん!」

 

 自分の選択が原作通りだったことを告げられ、スタンフォードはポンデローザのダメ出しに対して抗議する。

 そんなスタンフォードに、ポンデローザは肩を竦めながら答えた。

 

「原作での誕生日イベントはストーリー本編の時系列を無視して発生するの。あたしなんてまだ仲良くなってないのに発生したせいで、違和感すごかったんだからね?」

「な、なるほど……」

「この世界は確かにゲームがベースになってるし、時には世界の強制力すら感じることもある。でもね、全部が全部ゲーム通りってわけじゃない。あたし達も、マーガレット達もみんな生きてる人間なんだから」

 

 この世界はゲームの世界観を元にした世界であっても、ゲームそのものではない。

 珍しく神妙な面持ちになったポンデローザは最後にそう告げると、いつものような無邪気な笑みを浮かべてスタンフォードを応援した。

 

「それじゃ、明後日の誕生日イベント頑張りなさい」

「ああ、今日は付き合ってくれてありがとな」

「いいのよ、あたしも楽しかったし! じゃ、あたしは先に戻ってるから」

 

 元気良く駆けていくポンデローザの後ろ姿を見送りながらも、スタンフォードはいつも世話になっている彼女に何か恩返しがしたいと思ったのだった。

 




変装したポンデローザ

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眼鏡なしver

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