負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第23話 誕生日イベントでの分岐点

 マーガレットの誕生日当日。

 スタンフォードは寮の裏手にマーガレットを呼び出していた。

 

「ラクーナ先輩、誕生日おめでとうございます」

「えっ、私の誕生日覚えててくれたの!?」

 

 スタンフォードからプレゼントを手渡されたマーガレットは驚いたように目を見開く。

 

「開けてもいいかな?」

「どうぞ」

 

 マーガレットが包みを開けると、先日スタンフォードが購入したミステリー小説が出てくる。

 ふと、スタンフォードは乱暴に破かれた包装紙を見て、思ったよりも雑な人なんだなと苦笑した。

 

「わぁ! これ私が読みたかったやつだ! 本当にもらっちゃっていいの?」

「ええ、そのために買ったんですから」

「わざわざありがとね! やっぱりスタンフォード君って優しいよね」

 

 マーガレットは本当に嬉しそうに小説を抱きかかえる。

 それを見て、スタンフォードは複雑そうな表情を浮かべた。

 

「そんなことありません。これは普段お世話になっていることへのお礼のようなものです」

「それが出来るから優しいんだよ。スタンフォード君が昔は酷い振る舞いをしてたってことは聞いたけど、それは昔の話。今の君は変わろうと努力してる。だから、ハルバード様の言葉なんて気にしちゃダメだよ」

 

 いつものようにマーガレットは優しい言葉をかけてくる。

 確かに自分はこのままではいけないと思っている。

 本当に自分は変われているのか。

 先日の生徒会室での一件で、スタンフォードは自分の行動に自信が持てなくなっていた。

 

「これは内密にしていただきたい話なのですが」

「ん?」

 

 それでもスタンフォードは、思い切って自分の意思で行動することにした。

 どうしても放っておけなかったことがあったからだ。

 

「実はラクーナ先輩の誕生日プレゼントを買う際に、ポンデローザ様に相談に乗っていただいたんです」

「え……?」

 

 スタンフォードの言葉にマーガレットは驚いたように固まった。

 無理もない。

 彼女にとってポンデローザは嫌がらせをしてくる苦手な人物だ。

 そんな人間が自分の誕生日を祝うためにスタンフォードの相談に乗ったなど、信じられない出来事だろう。

 

「ポンデローザ様は本心からあなたと仲良くなりたいとずっと思っています。でも、兄上の婚約者で公爵家の令嬢という立場上、それは難しいんです」

「でも、鳩の件は?」

「それは本当に躾がなっていないのと、鳩がポンデローザを嫌っているせいです。あの鳩、自分より賢くない人間の言うことを聞かないそうなんです」

 

 そこで言葉を区切ると、スタンフォードは懇願するように言った。

 

「あなたの思っている以上に、ポン子はバカで真っ直ぐな人間ですよ。それを表に出せないだけなんです。どうかそれだけはわかってあげてください」

「そっか……」

 

 深々と頭を下げるスタンフォードを見て、マーガレットはどこか納得したような表情を浮かべた。

 

「裏ではポンコって呼んでるんだね」

「あっ、いや、それは」

「大丈夫、言いふらしたりしないよ。内緒だもんね」

 

 慌てて弁解しようとするスタンフォードを手で制すると、マーガレットは深いため息をついた。

 

「到底信じられない話だけど、スタンフォード君が嘘をついているとも思えない。次会ったときは二人だけで話してみるよ」

「なんなら僕もその場にいきますよ」

「あっ、そっちの方が話しやすいかも」

 

 ひとまず、ポンデローザの本心については納得したマーガレットだったが、気がかりなことがあった。

 

「スタンフォード君はポンデローザ様とは仲が良いの? 今の感じからするに、結構仲良いみたいだけど」

 

 マーガレットから見て、スタンフォードとポンデローザはかなり険悪な関係だった。

 それがかなりの仲良しとなると、とてつもない違和感があったのだ。

 

「裏でも結構喧嘩はしてますけど、コミュニケーションの一環みたいなものです」

「喧嘩するほど仲が良いってやつ?」

「そんな感じです」

 

 軽口を叩けるということはそれだけ気の置けない仲ということでもある。

 スタンフォードにとってポンデローザはまさに気の置けない友人という存在だった。

 

「何か貴族って面倒臭いんだね」

「今更気がついたんですか?」

「より面倒臭いって思ったんだよ」

 

 スタンフォードが冗談めかして言うと、マーガレットは苦笑した。

 

「スタンフォード君も人前と私といるときじゃ雰囲気変わるよね」

「ええ、これでも一応この国の第二王子ですから」

 

 周囲から疎まれているせいで忘れがちだが、スタンフォードは王族である。

 そのため、人前にいるときは意識的に気を張っていた。

 

「ううん、そうじゃなくて」

 

 スタンフォードの言葉に首を振ると、マーガレットは素直に自分の感じたスタンフォードの印象を話し出した。

 

「私といるときは自然体っていうかさ、普通の男の子みたいな感じがするんだよね」

「最初に会ったときに素が出ちゃいましたからね。今更取り繕う必要もないと思って」

「でも、私は今のスタンフォード君の方がいいと思うよ。素の状態で接していればもっと周りと仲良くなれると思うんだ」

 

 マーガレットは、以前からスタンフォードが何故周囲から疎まれているのかが不思議だった。

 彼女から見たスタンフォードは、気遣いのできる良い後輩だったからだ。そんな彼が過去の振る舞いが酷いという理由だけでここまで疎まれているのは、偏見から来る近寄り難さが影響していると考えていたのだ。

 

「やっぱり王族、貴族だからそうはいかないの?」

「同学年のヨハンはかなりフランクに人に接していますが、僕は彼ほど器用じゃないから難しいと思います」

 

 スタンフォードは、貴族として最低限の礼を保ちつつ、誰にでも気さくに接するヨハンの姿を思い浮かべる。

 ヨハンが砕けた態度で接しても嫌われないのは、偏に彼のコミュニケーション能力あってのものだ。

 コミュニケーション能力が皆無な自分が、ヨハンと同じ立ち振る舞いをする姿はどうしても思い浮かばなかった。

 

「ポンデローザ様に対しても裏だと私といるときみたいな感じなの?」

「いや、むしろもっと砕けてると思います」

 

 普段、ポンデローザと会話しているときはお互い同じ境遇の転生者ということも相まって、かなり砕けた態度で会話をしている。

 到底貴族同士の会話とは思えないだろうが、そんな距離感がスタンフォードには心地良かった。

 

「へぇ、見てみたいなぁ」

「ポン子の奴、僕といるときは口調全然違いますからね。あいつが周囲から貴族令嬢の鑑なんて言われているのが疑わしくなるくらいですよ」

「そ、そんなに?」

「ええ、あいつ前にペットの鳩が言うこと聞かずに逃げ回ってるの追いかけてたせいで、全身土埃がついて自慢の縦ロールに葉っぱが付いてる姿になったこともあるんですよ? それから――」

 

 スタンフォードは今まで見たポンデローザの行動を語った。

 心底楽しそうにポンデローザについて語るスタンフォードの言葉を遮ることなく、マーガレットは神妙な面持ちでただ相槌を打ちながら話を聞いていた。

 それからスタンフォードの一方的な話が終わったとき、マーガレットは静かに口を開いた。

 

「スタンフォード君、楽しそうだね」

「え?」

「ポンデローザ様の話をしてるときのスタンフォード君、すごくイキイキしてるよ」

「そう、でしょうか?」

 

 自覚がなかったため、スタンフォードは困ったように首を傾げた。

 

「うん、私決めた」

 

 そんなスタンフォードを見て、マーガレットは瞳に決意を宿した。

 

「私、ポンデローザ様と友達になるよ!」

 

 そう宣言したマーガレットの心からは、ポンデローザに対するマイナスな感情は一切なくなっていたのだった。

 


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