負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第24話 竜という魔物

 マーガレットにプレゼントを渡し終えたスタンフォードは意気揚々と寮に戻った。

 恋愛イベントとして成功とは言い難いが、スタンフォードは満足感に包まれていた。

 マーガレットがポンデローザと友達になると言った。

 それはマーガレットに嫌われていると悩んでいたポンデローザにとっても朗報になるからだ。

 心なしかスタンフォードは軽やかな足取りで階段を上った。

 階段を上がりきると、寮の共有スペースでポンデローザがティーカップを片手に参考書とノートを広げて勉強に勤しんでいた。

 スタンフォード達の住んでいる滅竜荘では、各階に円形の広い共有スペースがあり、その円周上に各々の部屋がある。広々とした空間のため、ポンデローザはときどきこの共有スペースで勉強することがあった。

 

「あっ、スタン。おかえり」

「……ポン子、勉強なら自室でやれよ」

 

 部屋ならともかくここは共用部だ。

 寮にはハルバードやルーファス、ブレイブ、セタリア、マーガレットもいる。

 あんまり素の姿でくつろぐには適しているとはいえない場所である。

 

「だって、こっちの方がいろいろ快適なんだもん」

 

 共有スペースは大理石の床にふかふかの高級ソファー、他にも各種豪華な設備が整っている。人によっては、自室よりもくつろいで勉強ができる環境とも言えるだろう。

 

「その気持ちはわからないでもないけど、ここは共有スペースだぞ?」

「別にいいじゃない。相変わらず細かいわねー」

「共有スペースは私物化しないほうがいいだろ。ただでさえ優秀な人間が多いんだ。他の奴にバカにされても知らないぞ」

 

 ポンデローザは勉強が嫌いだ。

 それでも立場上、普段から貴族令嬢のお手本になるように行動しないといけないため、苦手ながらも成績の向上に努めている。

 しかし、現在の彼女はどう見ても勉強が捗っているようには見えなかった。

 参考書とノートの上にはスコーンの食べカスが散らばっており、ペンに関しては床に落ちたままである。

 こんな姿、他の生徒には到底見せられるものではない。

 

「へぇ、あたしのこと心配してくれるんだ」

「いや、もう二年生なのに、まだ魔法の基本的特徴の項目を覚えてなかったんだ、と思ったら嘆かわしくなってきてさ」

「バカにしてるのあんたじゃない! というか、二年生の内容なのにスタンにわかるわけないじゃん!」

 

 ポンデローザは頬を膨らませて、上から目線で自分をバカにしてくるスタンフォードを睨む。

 それに対してスタンフォードは呆れたように肩を竦めて彼女のノートに記載された間違いを指摘した。

 

「普通このぐらいわかるだろ……魔力運用式の項目とか、間違いだらけだぞ。正直、何でこの途中式からこの解が出てくるのかまるで理解ができない。あっ、ここも間違ってる。増強魔法はそもそも火属性だから、土属性の公式使っても解は出ないはずなんだけど」

 

 次々にポンデローザの間違いを指摘していくスタンフォード。

 スラスラと正しい答えを導いていくその姿に、ポンデローザの表情がどんどん青褪めていった。

 

「何で二年生の内容なのに理解できるの!?」

「僕はテストの点数のために勉強しているわけじゃないからな。授業の内容も本質的な部分を理解すれば暗記することなんて限られてる。基本がしっかりと頭に入っていれば応用だって簡単だ」

 

 スタンフォードの雷魔法は王族にのみ継承される特殊な魔法だ。

 その扱いの難しさは他の魔法とは比べ物にならないため、魔法理論の基礎の部分はしっかりと勉強していたのだ。

 

「や、やめろ……その言葉はあたしに効く……」

 

 前世の学生時代にも言われた言葉を思い出したポンデローザは、頭を抱えてテーブルに突っ伏した。

 

「よくこの体たらくで成績上位維持できるな」

「試験範囲の問題は参考書からそのまま出ることも多いの。最悪、試験前日に解答ごと丸暗記すれば何とかなるものよ」

「典型的な勉強できない奴のそれじゃん……まあ、普段から真面目に勉強しようという姿勢がある分マシと思うべきか」

 

 スタンフォードは得意気に胸を張るポンデローザの姿に深いため息をついた。

 

「ポン子って魔法演習だとかなり優秀って噂なんだけど、基礎理論を大して理解してないのによく高度な部類に入る氷魔法を使いこなせるな」

 

 魔法には四大属性というものがあり、これは火、水、風、土の四属性からなる。

 その中でも、ポンデローザの使用する氷魔法は水属性の派生魔法に当たり、普通の魔法よりも高度な魔法なのだ。

 

「あたしは感覚的に使ってるからねー。イメージさえしっかりしていれば、案外何とかなるもんよ」

「そういえば、ドラゴニルも同じこと言ってたな。はぁ、これだから天才タイプは……」

 

 ポンデローザは理論ではなく、感覚的に氷魔法の使い方を理解していた。

 幼い頃より厳しい鍛錬を積んだきた甲斐あって、彼女が感覚的に魔法を使用できるようになったのだ。

 

「あっ、そうだ。そんなに勉強できるなら、こっちの方教えてくれない?」

 

 ポンデローザは近くにあった参考書の中から自分の苦手科目の参考書を取り出す。

 彼女が取り出した参考書は〝古代竜史〟というタイトルの参考書で、これは〝竜の生態と文化〟という授業で使っている参考書だ。

 この学園では学科の専門科目に限らずさまざまな授業を受けることができるが、その中でも竜の生態と文化は竜殺しの物語が人気のレベリオン王国ならではの授業である。

 これは選択科目であり、別に取らなくてはいけない授業ではないのだが、竜に関する知識を身に着ける機会は少ない。

 原作でも敵は基本的に竜のため、学んでいて損はないとポンデローザはこの授業を選択したのだ。

 

「どこがわかんないんだ」

「聞いといてなんだけど、わかるの?」

「竜は男のロマンだよ。小さい頃から気になっていろいろ調べてたら知識が身に着いたんだ。それに王族なら閲覧制限のある書物も見れるしね」

 

 竜と騎士と英雄は男のロマンである。スタンフォードもその例に漏れず、憧れ故に知識を身に着けたのだ。

 

「で、何がわからないんだ?」

「この〝竜の分類〟ってどんな基準で分けられてるのかよくわからなくってね。見た目とか、行動とか、詳しく書いてないのよ。この参考書」

 

 そう言ってポンデローザはため息をついた。参考書を見てみると、竜の分類という項目には種別ごとの代表的な竜の名前こそ載っているものの、どういった基準で分けられているのかまでは記載されていなかった。

 

「うわぁ、こんなんで金取るのかよ。やっぱり学校指定の参考書って微妙だな」

「でしょー!? でも、買わないと先生がうるさいし、買うしかなかったのよね」

「何か大学時代のデジャブだな」

「ファンタジーの世界で単位が危うい大学生みたいな思いはしたくなかったわ……」

 

 剣と魔法の世界だというのに、やっていることは現実の学生と同じ。

 そのことに嫌気が差していた二人はゲンナリした表情を浮かべた。

 

「文句を言っててもしょうがない。基本的なところから説明するよ」

 

 気を取り直して、スタンフォードは竜の生態に関する基礎の説明を始めた。

 

「まず、ここにも書いてあるように竜の種類は大きく三つに分けられる。一つは一般的な魔物のように高い知能を持たない小竜。特徴としては体が小さくて、性格がおだやか奴が多いってところかな」

「実質トカゲって認識でいい?」

「あながち間違いじゃないよ。遺伝子的に竜の血を引いてるだけと言われてるからね」

 

 小竜は竜種の中でもそこまで強い魔物ではないとされている。

 ほとんどが前世で言うところの爬虫類と似た生物なのだ。小竜で狂暴な種類といっても、せいぜいコモドドラドンに似た竜くらいだ。

 

「二つ目は人間ほど高い知能は持たない代わりに、強靭な肉体を持つ幻竜。特徴としては巨躯に高い攻撃力、火を吐くための火炎袋とか特殊な体内器官ってところかな」

 

 幻竜は小竜と違い、その全てが危険な魔物として分類されている。

 そもそも目撃例が限りなく少なく、幻の存在と言われているくらいなのだ。

 最近二人が対策を進めている原作イベントでの敵〝ライザルク〟やブレイブがドラゴニル領で倒した個体もこの幻竜に分類される。

 

「三つ目は高い知能を持ち、普段は人間のような姿を取っている竜人。特徴としては人間と同じような文化を持って生きていたってところかな。こいつらに関しては説明はいらないだろ?」

「そうね。この竜人って、大昔に滅竜の守護者が中心になって滅ぼしたっていう〝竜王国ミドガルズ〟の勢力ってことでしょ」

「ああ、ポン子が言ってた原作の後半に出てくるような敵は、大体竜人に分類されるよ」

 

 竜人は人型の竜種であり、人間と同等の知能を持つ魔物である。

 原作における敵勢力のミドガルズもほとんどがこの竜人で構成されていた。

 一通り、スタンフォードから竜の生態や文化について説明を受けたポンデローザは、頭から煙が出る勢いで疲れ果てた。

 スタンフォードは内容を噛み砕いて説明しつつも、参考書では足りない部分をしっかりと補っていたが、一気に濃い内容を聞かされたポンデローザは頭を全力で回転させていた分限界がきたのだ。

 

「はぁ、竜って厄介な生き物なのね。こんな生き物のレポートを最後に書かなきゃいけないなんて……単位取れるかな」

「勉強って思うから身が入らないんじゃないか?」

 

 授業の単位が取れるか不安がっているポンデローザを見て、試験前にいつも自分を頼ってきたクライスメイト達の姿が思い起こされる。

 

「だから、これは勉強じゃなくてベスティアシリーズの設定集を見ていると思えばいいんだよ」

「……天才か?」

 

 彼らは決まって勉強嫌いで、スポーツやゲームに熱を上げていた。

 そんなクラスメイト達を勉強させた工夫とは、好きなものと勉強を結びつけることだった。

 

「しかも、原作では見れなかったような裏設定すら、この世界には資料が溢れてる。それを授業の一環として学べるんだぞ」

「う、裏設定……その発想はなかったわ!」

 

 ポンデローザは目を爛々と輝かせ始める。

 これで少なくとも公爵家の令嬢が単位を落とすなどという前代未聞の出来事は起きないだろう。

 ほっと胸を撫で下ろすと、スタンフォードはふと、原作でのラスボスのことが頭に過ぎった。

 

「そういえば、ベスティアシリーズのラスボスって蛇竜ミドガルズオルムなんだろ」

「そうよ。原初の竜とも言われてるわね」

「そいつも竜人なんだろ。だったら、人間社会に紛れ込んだりしているんじゃないか?」

「原作では力を封印されていて、ラストで復活するって流れなのよ。ま、これに関しては今はまだスタンが気に掛けるような問題じゃないわ。まずはライザルク戦に集中するべきよ」

 

 スタンフォードの疑問に対して、ポンデローザは端的に回答する。

 心なしか早口になっているポンデローザに、スタンフォードは怪訝な表情を浮かべた。

 

「わかった。まずは一番の難所を乗り越えるのが先決だもんな」

 

 しかし、ポンデローザが話す必要がないと判断したのならば、追及するべきではない。

 そう考えたスタンフォードは、先の展開について考えるのをやめて目の前のことに集中することにしたのだった。

 


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