負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第28話 とにかく会って話がしたかっただけ

 王立魔法学園の食堂はいつも生徒達で溢れている。

 お昼時には混雑する食堂をスタンフォードは堂々たる姿で歩いていた。

 モーセの海割の如く生徒達はスタンフォードを避けていく。

 そうして歩いている内に、他の生徒とは違って自分を避けない生徒と出くわした。

 

「あら、スタンフォード殿下。寂しくお一人で昼食ですか?」

「はっ、ポンデローザ様こそ分家のご令嬢以外にご友人はいらっしゃらないでしょうかねぇ。まったく、どうして行く先々にあなたがいるんだか」

 

 一瞬で頭を切り替えて煽り合う。

 言葉とは裏腹に目的の人物であるポンデローザと出会えたことで、スタンフォードは安堵のため息をついた。

 

「わたくし達はこれから昼食をとるのですが、用がなければどこかへ行ってくださらないかしら(どうしたの? 何かあった?)」

「おやおや、用がなければ未来の義姉に話しかけてはいけないのですか。まあ、用があると言えば用はありますけどね(ごめん、ちょっと話したいことがある)」

 

 巧みにアイコンタクトを織り交ぜつつ、意思疎通を図る。

 二人は隠れてやり取りすることに慣れていたため、この手のコミュニケーションはお手の物だった。

 

「はぁ、仕方ありませんわね。フェリシアさん、リリアーヌさん。申し訳ありませんが、本日は殿下と昼食をとることに致します。何やら厄介な事情がおありのようですから」

 

「「かしこまりました!」」

 

 ポンデローザの後ろに控えていたフェリシアとリリアーヌは、スタンフォードに向けて優雅に礼をすると速やかにその場から立ち去った。

 

「では、あちらのテラスで昼食をいただきましょうか」

「ええ、あそこならば国家機密に関わるであろう会話も聞こえないでしょうからね」

 

 二人はそれぞれ昼食を注文すると、テラス席へと向うのであった。

 

「で、話って何?」

 

 昼食を頬張りながら、ポンデローザが単刀直入に尋ねる。

 この学食のテラス席は上級貴族のみが使用できる場所で、周囲には防音魔法が張られており、内密な話をする際に使用される。

 予めスタンフォードが周囲に聞こえるような声で〝国家機密に関わる〟と言ったため、近くには誰一人として生徒が近づいていなかった。

 

「校外演習の組み分けのことだ」

「ふぁあ、ふぉのふぉとね」

「飲み込んでからしゃべれよ」

 

 ポンデローザは注文したシチューを頬張りながらも納得したように頷いた。

 

「スタンとヨハンが別の組になっちゃったからね。監督生の割り振りのときにヨハンの班はあたしが監督生になるって志願したの」

「問題は僕とヨハン、どっちにライザルクが来るかだな……」

 

 原作ではスタンフォードとヨハンは同じ組に割り振られており、その組の付近にライザルクが出現する。

 こうして二人が別れた以上、どちらかの元にライザルクが出現する可能性が高かったのだ。

 原作では名前のないキャラクターである残り二人のもとに現れる可能性も考えられたが、スタンフォードとポンデローザは今までの経験からそれはないと踏んでいた。

 

「原作での重要キャラクターは大きなイベントで必ず決められた運命を辿る、か」

「実際、今まであたしとスタンっていうイレギュラーがあっても原作での流れ自体は大きく変わらなかった。スタンは周りから避けられるようになったし、あたしが攻略対象に干渉しようとしてもダメだった。人間関係だってゲームと変わってない。ここまでくればこの世界には原作通りの流れから逸れないように抑止力的な何かが働いているって考えた方がいいと思うの」

「何かタイムリープものっぽくなってきたな。そうだ、僕なりにいろいろと考えてきたことがあるんだ」

 

 スタンフォードはポケットからメモを取り出して、ポンデローザに見せながら説明を始めた。

 

「原作では複数のルートがあった。それぞれのルートに行くには条件があって、それを満たすことで一本線だった共通ルートからそれぞれのルートへと向かう」

 

 スタンフォードはペンで紙に描いた線をなぞり、複数に枝分かれした線の内一本を選ぶ。

 

「ポン子の話じゃ僕達が生き残れるのは〝スタンフォードルート〟だけだ」

 

 ペンで枝分かれした線の一つに印をつけてスタンフォードは続ける。

 

「このルートにいるかどうか、それは原作でのイベントがおおよそ本筋通りになることで見分けがつく。でも、今回の組み分けで原作通りの組み分けにはならなかった」

 

 スタンフォードは印をつけた線の上に大きく〝?〟と描いた。

 

「おそらくだけど、現時点ではルートは確定していない。ふとしたことがきっかけでハートのそれぞれの攻略ルート、もしくはブレイブの方のルートに流れる可能性があるんだと思う」

「タイムリープアニメとかでよくある世界線の移動ってやつ?」

「ああ、だから僕達は原作のイベントで条件を満たして〝スタンフォードルート〟に居続ける必要があるんだ」

 

 そう締め括ると、スタンフォードはメモをポケットにしまった。

 

「やっぱり、スタンって頭いいのね。前世では理系だった?」

「一応な。あとその言い方は文系が頭悪いって言ってるみたいだからやめとけ」

「でも、あたしは文系卒でバカだったよ?」

「それはバカだったポン子が文系の大学に進学しただけだろ……」

 

 呆れたように肩を竦めると、スタンフォードは組み分けについて他にも気になっていたことをポンデローザに尋ねる。

 

「そういえば、演習に兄上は来ないのか?」

「ハルバードは忙しいのよ。生徒会メンバーがごっそり抜ける以上、しょうがないことだけどね」

「あの人も迂闊に動ける立場じゃないからな」

 

 ハルバードは王立魔法学園の生徒会長を務めている。

 執務もある以上、学園を留守にするわけにはいかなかったのだ。

 それに加えて、今回はスタンフォードが校外演習に参加する。

 万が一、予想だにしない事故や事件が発生して王位継承権を持つ王族が同時に亡くなることを防ぐ意図もあり、ハルバードは今回監督生としては参加できなかったのだ。

 

「あと、他にも――」

「おっ、ここガラガラじゃん!」

 

 他にも気になることを尋ねようとしたとき、能天気な声が学食のテラスに響き渡った。

 

「あれ? スタンフォードに……誰?」

「ドラゴニル、お前何でここにいる」

 

 テラスにやってきたのは、ブレイブだった。

 

「ブレイブ・ドラゴニルさん。ここは上級貴族以外使用禁止の場所でしてよ。あと申し遅れました。わたくし、ヴォルペ公爵家の長女ポンデローザ・ムジーナ・ヴォルペと申します」

「ムジーナ……」

 

 何が引っかかったのか、ブレイブはポンデローザのミドルネームを呟くと神妙な表情を浮かべた後、一般生徒立ち入り禁止の場所に入ってしまったことを謝罪した。

 

「すみません、まさかそんな場所があったなんて知らなくて」

「あなたは高等部からの入学ですし、まだ不慣れなところもあるでしょうから今回は不問と致しますわ。次回以降、気をつけてくださいな」

「はい、ありがとうございます! ポンデローザ先輩!」

 

 元気良く返事をすると、ブレイブはテラスから去って行った。

 

「あっ、やべ。言動についての注意忘れた」

「あいつはそんな細かいとこまで気にしないだろうから大丈夫だろ」

 

 完全にブレイブの気配が消えたことを確認すると、スタンフォードとポンデローザは脱力したようにイスに腰掛ける。

 紅茶を飲んで落ち着くと、ポンデローザはブレイブの印象について感慨深そうに呟いた。

 

「前にも見たけど、今のがブレイブ君ねぇ。常識に疎くてうっかりで問題を起こすって感じが、まさに主人公だなぁ」

 

 感慨深そうにポンデローザは一人で頷く。

 彼女にとって、間近でブレイブと接する機会は少なかった。

 原作主人公の一人の性格が想像通りだったことに、ポンデローザは安堵していた。

 

「不安要素があるとすればセタリアね。現状、あの子が何考えてるのかわからないのが不安要素なのよね。マーガレットが存在する以上、スタンフォードルートのセタリアだとは思うんだけど、ブレイブ君に興味津々なのが何か変なのよね」

「僕が知る限りじゃ、リアはブレイブに興味は持っているみたいだし、このままくっついてくれるのが一番都合がいいんだけど」

 

 スタンフォードは希望的観測を述べた。

 このままブレイブとセタリアが結ばれれば婚約破棄もしやすくなる。

 マーガレットと結ばれなければ生き残れない以上、二人が恋仲になることはスタンフォードにとって非常に都合が良かったのだ。

 

「ちなみに、これも原作にあったイベントなのか?」

「うん、本来ならこのテラスに入って、スタンと鉢合わせして嫌味を言われるイベントだけどね。おふざけ選択肢用のイベントって感じよ」

「あー、〝か、体が勝手に……〟みたいな奴か」

「そのネタ懐かしいわね! スタンって本当に年下?」

「好きなソシャゲとコラボしてたから知ってるだけだよ」

「あー、そういう入り方もあるのか。あたしは好きなVが実況配信やってて内容知ったのよね。タイトル自体は知ってたんだけど、ゲームハードがなかったからさ」

「まあ、かなり昔のゲームだからな」

 

 選択肢が存在するゲームでは、ライターの遊び心で少しふざけた選択肢というものが存在する。

 例えば、ヒロインの入浴中に風呂を覗くか覗かないか、という選択肢だったり、本来硬派な主人公でもこういうイベントの際は普段と違っておかしな行動を取ったりするのだ。

 

「それで、何の話してたんだっけ?」

「何か言いかけてなかった?」

「そうだ。僕と同じ組になった奴らについてだ」

 

 話が脱線しかけたため、スタンフォードは話を戻した。

 ついつい前世のネタで盛り上がってしまうのは二人の悪い癖である。

 

「確か、この前生徒会室にきたステイシー、あとジャッチにガーデルだったわね」

 

 ポンデローザも監督生として郊外演習の資料は確認していたため、スタンフォードの組についても把握していた。

 しかし、スタンフォードと同じ組の者については、特に原作で登場したキャラクターというわけではなかった。

 

「全員、原作では名前も出てないわ。少なくとも、原作に関わる重要人物じゃないと思っていいわ」

「ステイシーはともかく、ジャッチは炎魔法の名門ボーギャック家の嫡男、ガーデルも風魔法の名門ウィンス家の嫡男だ。モブキャラって言うのには引っ提げた看板が豪華すぎる気もするけど」

「名門って言っても、守護者の家系じゃないし、ベスティアが覚醒する可能性もないもの。原作の本筋には影響はないでしょ」

 

 基本的にこの世界で魔法の名門と呼ばれる家の者は、魔力の質も量も一級品である。

 しかし、原作では守護者の家系でないとベスティアに覚醒できないため、ゲーム内ではモブ扱いであることが多かった。

 

「ちなみに二人とは面識あるの?」

「中等部の頃は、結構魔法の運用についてアドバイスとかしてたからな。友達ってわけじゃないけど、険悪ってわけでもないよ」

「なら、この機会に友達になっちゃいなよ。火属生と風属性のエキスパートなんだから味方なら心強いでしょ」

 

 ポンデローザは友人の少ないスタンフォードを心配していた。

 魔物を討伐するというチームワークが不可欠な演習で同じ組になれば、心も開きやすい。

 そう考えて〝今後、味方いると心強いから〟という大義名分を与え、友人を作ってはどうかと提案した。

 

「前向きに検討して善処してみるよ」

「行動起こす気ゼロだ、こいつ……」

 

 顔を顰めて予防線を張るスタンフォードに、ポンデローザはこめかみを押さえてため息をついた。

 

「まあいいわ。最後にライザルク戦のおさらいでもしよっか」

「僕の元にライザルクが出現したら、時間を稼いでる間にポン子がブレイブを連れてくる。ポン子のところに出現したら、時間を稼いでる間に僕がブレイブを連れてくるって感じでいいよな?」

「うん、それで問題ないと思う」

「それ以外のときはどうするんだ」

「二人で迅速にブレイブ君を連れて行くって感じで」

「アバウトすぎないか?」

 

 あまりにも抽象的で大雑把な作戦に、スタンフォードは不安そうな表情を浮かべる。

 そんなスタンフォードを安心させるように、ポンデローザはいつものように明るい笑顔を浮かべた。

 

「大丈夫! 泥船に乗ったつもりでいなさい!」

「だから大船な……」

 

 いつも通り呑気なポンデローザに呆れつつも、スタンフォードはどこか安心感を覚えるのであった。

 


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