負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第3話 踏み台のはじまり

 進が目を覚ましたとき、目の前には知らない女性がいた。

 言葉を発することもできず、何が起こったらわからずにパニックになった。

 絢爛豪華な装飾の施された室内に、成人しているはずの自分を軽々持ち上げる大柄な女性。

 突然起きた出来事に声を上げれば、聞こえてきたのは赤ん坊の泣き喚く声だった。

 進が落ち着いて自分の状況を把握するまでには時間がかかったことは言うまでもないことだろう。

 彼はネットで齧った知識から、自分が異世界転生したのだと長い時間をかけて理解することができた。

 

 自分が異世界転生をしたのだと理解した進は、前世での塞ぎ込み具合が嘘のように活発に行動し始めた。

 進は大陸の巨大国家レベリオン王国の第二王子に生まれた。

 名をスタンフォード・クリエニーラ・レベリオン。

 進改めスタンフォードは、この世界に魔法があると知り、その中でも自分が王族特有の雷魔法が使えることに歓喜した。

 魔法には、火、水、風、土の四属性が基本属性として存在し、スタンフォードの雷属性はどの魔法にも分類できない特異なものだったのだ。

 魔法も前世の知識を利用して独自の運用方法を行い、周囲からは天才と持て囃された。

 電気信号を操作しての身体能力向上。

 電磁力で鉄を自由自在に操る。

 王族特有の魔法を見たこともない運用方法で使用するスタンフォードが評価されるのは当然のことだった。

 また、スタンフォードは前世の記憶があったため、周囲からは物覚えの良い賢い子だと評価された。

 そこからは彼の天下だった。

 前世での人生が嘘のように挫折もなく、スタンフォードは成功続きだった。

 彼が何かをするたびに周囲からは賞賛の声があがるのだ。

 時には成果を上げずとも、彼が平民の生活の苦労に同情しただけで「さすがスタンフォード殿下、なんと慈悲深い!」と言われることもあったくらいだ。

 

 そして、スタンフォードは成長し、王立魔法学園に通うことになった。

 彼の通う王立魔法学園は、王国中の魔力を持つ人間、すなわち多くの貴族が入学してくる。

 

「スタンフォード殿下、今日も素敵です!」

「お荷物お持ちいたします!」

「スタンフォード殿下……」

 

「「「スタンフォード殿下!」」」

 

 今日もスタンフォードの周りには、貴族令嬢である女子生徒が大勢集まっていた。

 男子生徒が一人もいないのは、完全にスタンフォードの趣味である。

 

「殿下、先日修練場で披露した魔法は一体どういう仕組みなのですか?」

「確かに、突然地面から黒い砂が巻き上がっていましたね」

「土属性でないのに一体どうやって……」

「ああ、あれは砂鉄さ」

 

 女子生徒からの質問に、スタンフォードは制服の上から羽織っていた外套を無駄にはためかせながら答えた。

 スタンフォードの身につけている獅子の刺繍が入った白い外套は、王族のみ着用することを許された代物だ。

 スタンフォードは自慢話をする際、事あるごとにこの外套を無駄にはためかせる癖があった。

 

「「「砂鉄?」」」

 

「地面には鉄を含んだ砂が紛れているんだ。僕は魔法で磁力を発生させてそれを操っただけだよ」

 

「「「磁力?」」」

 

 聞いたこともない単語に、女子生徒達は怪訝そうな表情を浮かべる。

 それを見てスタンフォードは心底楽しそうに笑った。

 

「ははっ、やっぱり君達が理解するのは難しいか。今度、じっくりと説明してあげるよ」

 

 予定調和のようにスタンフォードが放った一言。

 それに周囲が不快感を示していることにも気づかず、スタンフォードは軽やかな足取りで次の授業がある教室へと向かう。

 その途中、女子生徒の一人が悪くなった空気を払拭するようにスタンフォードへと話題を振った。

 

「そういえば、殿下は例の〝竜殺し〟の噂はご存じですか?」

「竜殺し?」

「ええ、私達と同学年の生徒で竜を討伐した方がいらっしゃるとか」

 

 この世界で竜は魔物の中でも上位に位置する。

 そんな魔物を倒した者がいると聞き、スタンフォードは興味深そうに呟いた。

 

「へえ、そいつはすごいな。一度会ってみたいものだね」

 

 ――どれだけ自分を引き立ててくれるのか、そんな傲慢な期待を胸に抱いて。

 

 王立魔法学園の高等部での一日を終えたスタンフォードは一早く風呂で汗を流すため、手荷物を持って寮へと向かった。

 王立魔法学園の高等部は、生徒の自主性と協調性を育てるために全寮制となっている。

 もちろん、生徒の数も王国一の学園であるため、寮の数もかなりのものだ。

 基本的に生徒達は同じ貴族階級の者で固められるように寮に入れられる。

 これは身分を笠にきた貴族とのトラブルを避けるための処置である。

 王族であるスタンフォードが入るのは、一番ランクの高い寮だ。

 寮の入り口の門には〝滅竜荘〟という文字が刻まれている。

 この名前は、かつての敵国であるミドガルズ王国の竜王を倒した建国の英雄である初代レベリオン王の異名〝滅竜の獅子〟にちなんで付けられたものだ。

 スタンフォードが寮の扉を開けると、そこには大きな荷物をいくつも抱えた男子生徒が立っていた。その田舎から上京してきた学生のような後ろ姿に吹き出しつつ、スタンフォードは声をかけた。

 

「そこの君。そんな大荷物を抱えて立っていると邪魔になるよ」

「あっ、悪い!」

 

 大荷物を抱えて途方に暮れていた男子生徒は、スタンフォードに気がつくと慌てたように謝罪した。

 

「えっと、お前も滅竜荘に?」

「僕が滅竜荘以外に入寮するわけないだろ」

「そうなのか?」

 

 まるで目の前の人物が誰かわかっていない男子生徒の様子に、スタンフォードは笑いを噛み殺しながらも、男子生徒の荷物について指摘した。

 

「その荷物の量、予め寮に送っておかなかったのかい?」

「いや、それ初耳なんだけど」

「入学時に案内があったと思うけど、学園側の手違いで連絡がいってなかったのかもね」

「そんなぁ……」

 

 無駄な苦労をしていたことを理解した男子生徒はガックリと肩を落とした。

 スタンフォードの言葉に落胆しつつ、重そうな荷物を何とか持ち上げた。

 物理的に一人で抱えきれないであろう荷物の量を見て、スタンフォードは呆れたように荷物を持った。

 

「手伝うよ」

「えっ、悪いって」

「もたもたしていると面倒な貴族が入寮手続きに来るだろ。生憎、面倒ごとは嫌いなんでね」

「そっか、ありがとな」

 

 スタンフォードの言葉に、男子生徒は眩い笑顔を浮かべた。

 それから、大量の荷物を抱えた二人が一緒に一年生の部屋がある三階へと続く階段を上がっていると、男子生徒が雑談交じりにスタンフォードへと尋ねる。

 

「そういや、さっき言ってた面倒な貴族って?」

「貴族の生徒自体そもそも面倒なものさ」

「うーん……じゃあ特に面倒な奴を教えてくれよ!」

「この国の第二王子とかだね」

「えっ、王子もこの寮にいるのか!?」

 

 この寮どころか目の前にいるんだけどな。

 内心そう思いながらも、スタンフォードはニヤリと悪戯っぽく笑った。

 

「確かに王族はこの国のトップだもんなー。失礼のないように気をつけなきゃな」

「多少の無礼くらいは笑って流す度量はあるだろうさ」

「だといいけどな。ちなみにどんな奴なんだ?」

「王族の制服は特別でね。獅子の刺繍が入った白い外套を制服の上から身に着けているよ」

「へえ、白い外套に獅子の刺繍……え」

 

 興味深そうに話を聞いていた男子生徒は、告げられた外見的に固まった。

 告げられた特徴が目の前の人物と合致したからである。

 

「そうだ。自己紹介がまだだったね」

 

 もったいぶるように前置きをすると、スタンフォードはいつものように無駄に外套をはためかせて告げた。

 

「僕はスタンフォード・クリエニーラ・レベリオン。この国の第二王子さ。王族相手にその口調は問題になりかねないから、気をつけた方がいいよ。それじゃあ、これから三年間よろしく、ブレイブ・ドラゴニル」

 

 たっぷりと大物ぶったスタンフォードは、荷物を置くと笑いながらその場を後にした。

 

「いや、ここで荷物降ろされてもな……」

 

 そんな満足げに立ち去るスタンフォードを、ブレイブは茫然と立ち尽くしながら見送ったのであった。

 高等部での本格的な授業が始まってからも、スタンフォードは事あるごとにブレイブに接触した。

 ブレイブが自分の人生を彩る名脇役だと信じて疑わなかったからだ。

 しかし、彼に接していく内にスタンフォードはあることに気がついた。

 

 自分がブレイブに勝っているところが身分しかないのだと。

 

 ブレイブは現存している人間の中で、二人しか存在しない光属性の魔力をその身に宿していた。

 光魔法はスタンフォードの使用している雷魔法よりも希少であり、その効果も多岐にわたる。

 肉体強化、治癒、高い攻撃力。

 全てがスタンフォードが前世の知識を利用して編み出した魔法と似たような効果を持ち、その全てを上回っていた。

 さらに、ブレイブは人当たりも良く、あっという間に周囲の人気者となった。

 これにはブレイブが学生の身分にして竜という上位の魔物を討伐した話題性も大きいだろう。

 いまだ魔物を討伐したことがないスタンフォードと、竜を討伐したことのあるブレイブ。

 その差は歴然だった。

 気がつけば、スタンフォードの周囲にいた女子生徒達もブレイブの周囲にいた。

 もはやスタンフォードの周囲に残ったのは、王族の権威に媚びへつらう者だけだった。

 

「やっぱ、ブレイブはすごいな!」

「そんなことないって、俺なんてまだまだだよ」

「またまた謙遜しちゃってー」

 

 脇役だと思っていた者にポジションを奪われ、スタンフォードは歯噛みする。

 

「クソ……!」

 

 そんな彼の脳内にある単語が過ぎる。

 踏み台転生者。

 この世界の主人公はブレイブであり、転生者である自分は彼の踏み台となる存在なのではないか。

 半ば確信めいた考えを振り払うと、スタンフォードは一人寮へと戻るのであった。


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