負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第32話 組み分け〝QUEEN〟

 校外演習はどの組も大きなトラブルが起こることなく順調に進んでいた。

 それはマーガレットが監督生を務めるセタリアの組も例外ではなかった。

 セタリアの組では、順調にお互いの実力を把握しながらも堅実に魔物を倒していた。

 今回、同じ組になったムロハル、カーヤ、マチルダの三名は同じクラスの者であり、最低限どのくらいの実力を持っているかは把握していたのだ。

 高い実力を持つセタリアと監督生として治癒においては右に出るものはいないマーガレットの存在。

 その影響か、この組は過剰に緊張はせず、気を抜いてもいないという理想の状態にあった。

 

「マーガレット先輩、どうか致しましたか?」

「えっ、何が?」

 

 全員がほど良い緊張感を持っている中、当の監督生であるマーガレットだけが落ち着かない様子で辺りを警戒していた。

 

「いえ、どうにも周囲をかなり警戒されているようでしたので……」

 

 自分達は何か先輩を心配させることをしてしまったのだろうか。

 セタリアは心配そうにマーガレットの顔を覗き込んで尋ねた。

 

「そ、それはほら、アレだよ! 監督生としてしっかりしなきゃって思ってね!」

 

 マーガレットは噓をつくことが下手だった。

 目を泳がせ冷や汗をかいているマーガレットをセタリアは怪訝な表情で見つめる。

 

「演習前にスタンフォード殿下と何かお話されていたようですが、それに関わることですか?」

「えぇっ、ううん!? 全然違うけど!?」

 

 セタリアの指摘に、マーガレットは声を裏返らせる。

 それはもう答えを言っているのと同義だった。

 

「前から思っていましたが、マーガレット先輩はどうして殿下にそこまで肩入れなさるのでしょう。彼は努力家ではありますが、周囲の機微に疎いところがあります。悪気なく周囲の人間を傷つけてきたことも一度や二度ではありません」

 セタリアの発言に、同じクラスであるムロハル、カーヤ、マチルダの三名は驚いたように目を見開く。

 基本的にセタリアは、婚約者としてスタンフォードを立てるように立ち回る。

 そんな彼女が、オブラートに包んでいるとはいえ、スタンフォードの評価を貶めるような発言をすることは初めてだったからだ。

 

「うん、そうだね。お兄さんのハルバード様から大体のことは聞いてるよ」

「では、何故……」

 

 理解できない。

 セタリアは自然と怪訝な表情を浮かべていた。

 彼女にとって、他人を自分の装飾品程度にしか思っていないようなスタンフォードがマーガレットを気に入ったということも驚きだったが、それ以上にマーガレットもスタンフォードを気に入っていることに疑問を抱かずにはいられなかったのだ。

 彼女の問いに対して、マーガレットは苦笑しながら呟くように言った。

 

「何でだろうね」

「と、言いますと?」

「何か放っておけないんだよね。本当に感覚的なものなんだけどさ」

 

 うまく説明できないもどかしさを感じながらも、マーガレットは言葉を紡いだ。

 

「セタリアさんにもない? よくわからないけど、この人は守らなきゃいけない、傍にいたいって感覚」

「それは……わかる気がします」

 

 マーガレットが語った感覚に、セタリアは心当たりがあった。

 自身がブレイブに抱いている感情。

 それはまさにマーガレットの言った言語化できない感覚的なものだった。

 初めて学園でブレイブに出会ったとき、全身が湧き立つような感覚を覚えたことは今でも彼女の心に深く刻まれている。

 セルペンテ家の地位を上げるための政略結婚の道具。

 それが自分の役割だと信じて疑っていなかったセタリアにとって、特定の異性に対して特別な感情を覚えることはなかった。もちろん、王家との繋がりを強固にするためだけに婚約者となったスタンフォードも例外ではない。

 

 しかし、ブレイブは違った。

 レベリオン王国では珍しい黒髪黒目の少年。

 初めて会ったはずなのに、昔から知っているような気がした。

 彼になら自分の全てを託しても良い。そんな風に思えたのだ。

 ドラゴニル辺境伯の息子と聞いて、まったく似てないと指摘すれば本当の息子ではないと打ち明けられたのはつい最近のことだ。

 だからこそ、ブレイブが何者なのか。自分が抱いている感情は何なのか。興味が尽きなかった。

 

「一体何なのでしょうね。この感覚は」

「本当にねー」

 

 二人は顔を見合わせて苦笑する。

 

「案外、私達って似た者同士なのかもね」

「世界樹の巫女の末裔様と似ているなんて恐れ多いですよ」

「勘弁してよ。私自身はそんな大層な人間じゃないんだから」

 

 セタリアの冗談めかした言葉に、本気で嫌そうな表情を浮かべた後、マーガレットは告げる。

 

「貴族って柄じゃないんだよ。国を巻き込んだ大事になっちゃったから開き直るしかなかったけどね。治癒魔導士(ヒーラー)だけに!」

 

 空気が凍る。

 今のは、()()き直ると()()()()()()()()をかけたマーガレット渾身のダジャレだった。

 もちろん、欠片も面白くないため、黙って話を聞いていたムロハル、カーヤ、マチルダの三名ですら、何か言った方がいいのではと目配せをしていたほどである。

 

「ま、まあ、マーガレット先輩は言葉遊びがお上手なんですね!」

「あははっ、面白いです!」

「……さりげない会話に遊びを含ませる。なかなかできることじゃないですよ」

「笑いにはうるさいこの私も完全敗北を求めざるを得ないようですね……」

 

 その場にいた四人全員が一斉に滑ったマーガレットのフォローに回る。

 

「いっそ殺して……!」

 

 マーガレットの目に一筋の涙が光る。

 ちょっとしたダジャレで場を和ませようとしただけなのに、どうしてこんなことに。

 マーガレットは、金輪際ダジャレを言わないことを心に固く誓った。

 後輩の前で滑った上にフォローされてしまったマーガレットは、しばらく拗ねたままだった。

 どうしたものかとセタリアが考え倦ねていると、突然索敵に魔物の反応があった。

 

「っ! 皆さん、気をつけてください。大型の魔物が一匹こちらに向かっております」

 

 セタリアは風魔法の使い手だ。

 空気の流れを読むことでスタンフォードほどではないが、かなりの広範囲の索敵が可能だった。

 大型の魔物が来るということもあり、マーガレットもすぐに気持ちを切り替える。

 監督性という立場上、緊急事態以外では手出しをすることはないが、スタンフォードからライザルクのことを聞いていたこともあり、最悪自分が介入することも視野に入れていたのだ。

 全員が臨戦態勢に入ると、木々の間から一匹の狼が飛び出してきた。

 

「グルルッ!」

「あれはメリノウルフ……?」

 

 飛び出してきた羊のような顔をした狼の魔物を見て、マーガレットは困惑したように呟く。

 メリノウルフは、羊のような毛皮を持つ狼型の魔物だ。

 羊の群れに紛れ込み、油断したところを襲うという変わった生態を持ち、その毛皮は貴族のドレスなどにも使用されており、高値で取引されている。

 通常、メリノウルフの体長は普通の羊と変わらないサイズだ。

 

 しかし、目の前の個体の体長は、優に通常種の三倍を超えていた。

 さらに、特徴的な毛皮は剥ぎ取られたように一部を残してなくなっていた。

 そこから竜鱗のような地肌が覗いてるのを見て、セタリアは息を呑む。

 

「これはボアシディアンのときと同じ異形種……!」

 

 あり得ないほどの巨躯に、羊の群れに紛れるメリノウルフが単独でいること。

 どう考えても異常事態だ。

 

「〝全体強化(オールエンチャント)!!!〟」

 

 マーガレットは即座に全員へと強化魔法をかける。

 眩い光がその場にいた全員を包み、身体能力を爆発的に向上させる。

 

「マーガレット先輩、感謝します!」

 

 セタリアは腰に帯剣していた細剣を抜くと、メリノウルフへと一直線に突撃する。

 

「スタンフォード君、どうか無事でいて……!」

 

 その背中を見ながら、マーガレットはスタンフォードの無事を祈った。

 


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