負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第37話 運命のライザルク戦 中編

 先程までと違い大きな傷を負ったことで、ライザルクはスタンフォードを獲物ではなく明確な敵と見定めた。

 全身から怒りを滲ませ、ライザルクは上空の積乱雲に電撃を放つ。

 すると、積乱雲から無差別に落雷が降り注いだ。

 振り注いだ落雷は、森の木々に直撃してスタンフォードの周囲を焼き払った。

 火事による煙が立ち上り、スタンフォードは咄嗟に口を覆った。

 

「……小賢しい奴だね」

 

 ライザルクの無差別雷撃による火事は、原作でも体力を半分削った際に起きる現象だ。

 周囲が火事の状態では、主人公であるブレイブの体力がスリップダメージによって減っていくというギミックがあった。

 スタンフォードとて人間だ。

 煙を吸い込めば、めまいや酸欠を起こす。

 体内に魔力を持つ人間は普通の人間よりも肉体が頑丈ではあるものの、長期戦はこれで不可能となった。

 呼吸を制限されたことで、スタンフォードの動きが鈍り始める。

 それに対して、手負いの猛獣となったライザルクは攻撃に勢いを増していた。

 

「ブルァ!」

 

 ライザルクが薙ぎ払うように竜鱗を纏った剛腕を振るう。

 スタンフォードには、自分に襲い掛かる剛腕がまるでスローモーションのように見えた。

 

「かはっ……!」

 

 煙で徐々に体力を削られていたスタンフォードは、ライザルクの一撃を躱すことができずに吹き飛ばされてしまった。

 吹き飛ばされたスタンフォードは木々を薙ぎ倒し、岩壁に叩き付けられた。

 あまりの衝撃に意識が飛びかけているスタンフォードにもライザルクは容赦しない。

 

「ブルルァ!」

 

 雷を帯びた角がスタンフォードへと迫る。

 辛うじて意識を留めていても、肉体が思うように動かない。

 スタンフォードは、そのままライザルクの突進を躱すことができずに角で腹部を貫かれた。

 

「が、あぁ……ご、ほっ」

 

 腹部に穴を開けられ、口から血が零れ落ちる。

 それは絶望的ともいえる光景だった。

 原作ではあっさりとライザルクに敗北したスタンフォードは、ここまでの重症は負っていなかった。

 魔物を恐れ、戦いを避けてきたスタンフォードはライザルクへと勇敢に立ち向かい、原作通りに敗北を喫する。

 それはどんなにあがいたところで運命を覆すことはできないという非常な現実だった。

 

「そんな、スタン……いやぁぁぁぁぁ!」

 

 轟音が響き渡り、燃え盛る森の中から吹き飛ばされたスタンフォードを目撃したポンデローザは涙を流しながら悲鳴を上げた。

 

「ポン子……僕は、大丈夫、だ……!」

 

 しかし、スタンフォードの目はまだ死んではいなかった。

 

「負けてたまるかァァァ!」

 

 その目に宿っていたのは、絶対に勝つという強い意志だった。

 

「〝鉄砂刃(くろがねさじん)!!!〟」

 

 スタンフォードは左手に砂鉄を集めると、一振りの剣を作り出してライザルクの角の根元に叩きつける。

 金属がぶつかり合うような甲高い音が轟く。

 高速で振動する砂鉄は、鋼鉄のように固い角に徐々に食い込んでいく。

 自慢の角にヒビが入ったことで、危険を感じたライザルクはスタンフォードから角を引き抜こうとするが、稲妻のような形状をした角はそう簡単には抜けなかった。

 

「その角、叩き切ってやるよ! 〝武雷尖刃(ぶらいせんじん)!!!〟」

 

 鉄砂刃で付けたヒビに、今度はルナ・ファイを叩きつける。

 

「ブルァ!?」

 

 決死の思いで魔力を注ぎ込んだルナ・ファイは切れ味を増し、見事ライザルクの角を両断することに成功した。

 

「ざまぁ、みろ……!」

 

 おぼつかない足取りで立ち上がると、スタンフォードはライザルクに挑発的な笑みを向けた。

 辛うじて意識がある状態だというのに、スタンフォードはライザルクへと立ち向かい続ける。

 今の彼を突き動かしているのは、絶対にポンデローザを守るという強い意志だけだった。

 痛みなど忘れ、朦朧とする頭で剣を振るい続ける。

 

「負けないで…………負けるなスタァァァン!」

「当たり前だァ! 絶対、勝つ!」

 

 ポンデローザの言葉を聞いたスタンフォードは、力を振り絞りライザルクに攻撃を続ける。

 その姿はまさに、手負いの獅子そのもの。

 致命傷を負ったはずなのに、未だに自分を追い詰めるスタンフォードにライザルクは恐怖を感じた。

 

「まだまだ……ぐっ!?」

 

 剣を振り上げた瞬間、スタンフォードは身体が言うことを聞かなくなったかのように止まる。

 スタンフォードは血を流し過ぎたのだ。

 彼の身体は限界など疾うに超えていた。

 

「ブルァァァァァ!」

 

 今度こそ確実にスタンフォードを仕留めんと、ライザルクの攻撃が迫る。

 

「〝滅竜光刃(めつりゅうこうじん)!!!〟」

 

 スタンフォードを仕留めんとする一撃は、いつまで経っても襲ってこなかった。

 何故ならライザルクの腕は光の刃によって切り飛ばされていたからだ。

 

「スタンフォード、大丈夫か?」

 

 ボロボロのスタンフォードの前には光を纏ったブレイブが立っていた。

 その神々しい姿はまさに勇者と呼ぶに相応しいものだった。

 ステイシーはマーガレットと合流した後、ブレイブの元へと向かって状況を伝えた。

 もはや一刻の猶予もないと判断したブレイブは、自身を光魔法で強化して駆けつけたのだ。

 

「……あと少し遅かったら僕が一人で倒していたところさ」

「こんな状況で強がるなよ」

 

 血反吐を吐き、立っているのもやっとのスタンフォードへブレイブは苦笑すると、マーガレットから渡されていたポーションを手渡した。

 

「マーガレット先輩特性ポーションだ、飲め」

「ああ、ありがたくもらうよ」

 

 ここで意地を張っても仕方ないので、スタンフォードは素直にポーションを飲み干した。

 すると、腹に開いた風穴が辛うじて塞がっていく。

 重症であることには変わりないが、これで放っておけば死ぬ状態からは回復できた。

 スタンフォードの応急処置が終わったことを確認すると、ブレイブは強い意志を持って告げる。

 

「悪いけど、ここから先は滅竜剣が使える俺に任せてもらうぞ」

「仕方ないね。今回は譲ってあげようじゃないか」

 

 ブレイブの言葉に歯嚙みしながらも、スタンフォードはブレイブに背を向けて歩き出した。

 自分の手でライザルクを倒せなかったことは悔しいが、今はポンデローザの治療の方が優先すべきことだった。

 倒れ伏すポンデローザの元へ行くと、スタンフォードは悔し気に謝罪する。

 

「ポン子、ごめん。僕じゃ敵わなかった」

「そんなことない。スタンのスピードならいつでも逃げれたのに、こうしてブレイブ君が来るまで持ちこたえてくれたじゃない」

 

 そんなスタンフォードの手を優しく包み込むと、ポンデローザは健闘を称えた。

 

「だから胸を張りなさい!」

「ああ、そうだな」

 

 神々しい光を纏ってライザルクへと立ち向かうブレイブを見て、二人は笑顔を浮かべた。

 


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