負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第43話 前期を終えて

 一年の前期の授業も全て終了し、試験結果が公表された。

 校外演習での事件は予測不能の事態だったため、例外なく全ての生徒に最高評価が付けられることとなった。

 それ以外の授業の結果は、例外なく厳格な試験によって決定された。

 

「な、何とかフル単取れた……」

「お疲れ様」

 

 頭から煙を吹き出さんばかりの勢いでテーブルに倒れ込むポンデローザをスタンフォードは労う。

 ただでさえ勉強嫌いだというのに、今回はライザルクの一件も重なったのだ。

 ポンデローザの心労は他の誰よりも重いものだった。

 

「何か余裕そうなのムカつくんだけど」

「別に普段からもっと勉強してれば試験前に焦ることもないだろ」

「かー、ぺっ」

「振りでもはしたないからやめろって」

 

 勉強ができる者特有の決まり文句を言ったスタンフォードに、ポンデローザは痰を吐く振りをして悪態をつく。

 

「うぅ……せっかく試験が終わって長期休暇だっていうのに、気が重いよぉ」

「生徒会は休暇中でも仕事あるもんな」

「せっかく二度目の学生生活なのに、夏休みがないに等しいなんておかしいと思わない!?」

「夏休みくらいで大袈裟な……」

「うるさい! スタンは毎日が夏休みだったからそんなこと言えんのよ!」

「それを言われると何も言い返せない……」

 

 長期休暇。それは学生にとって解放感に満ち溢れた夢の時間だ。

 特に前世で社会人の休みの少なさに絶望した経験のあるポンデローザにとっては、待ち遠しい休暇期間のはずだった。

 しかし、度重なる異形種や竜の出現で生徒会は仕事に追われることとなり、長期休暇の間も調査などで潰れることになってしまったのだ。

 去年はそれなりに休めていただけに、ポンデローザは不満を爆発させる。

 

「大体こういうのは国や学園の上層部がやるべき仕事でしょ!? どんだけ生徒会に権力持たせてんのよ!」

「文句は製作会社に言えって」

「ンン゛……cre8さんに不満はありません!」

「ファンの鑑だな」

 

 転生しても原作ゲームの製作会社へのリスペクトを忘れないポンデローザに、スタンフォードは呆れたようにため息をついた。

 悩んだ末、ポンデローザは休暇を取るためのアイディアを思いつく。

 

「そうだ! 異形種の出現をでっちあげて、調査って名目で旅行に行けばいいのよ!」

「とんでもないこと言い出したぞこの女」

 

 長期休暇を取ることに取り憑かれているポンデローザの暴挙にスタンフォードは戦慄する。

 

「大丈夫よ。長期休暇の間はイベント発生しないし!」

「そういう問題じゃないと思うけど……」

「ねぇ、スタンの友達の貴族で実家が広大な領地を持ってる子とかいない?」

「そうだな……」

 

 上目遣いでポンデローザから懇願されたスタンフォードは、仕方なく自分の交友関係を思い返す。

 一番有力なのはブレイブの実家であるドラゴニル領だが、今後原作の流れで訪れる可能性がある以上、干渉するのは良くない。

 ガーデルは自分への殺害未遂を許したこともあって逆らえないだろうが、領地の条件がポンデローザの希望にそぐわない。

 セタリア、ジャッチも同様の理由で頼れそうにはなかった。

 そこで、ふとスタンフォードはステイシーの実家のことを思い出した。

 

「ステイシーの実家ならありかもしれない」

「ステイシーちゃんって、前に生徒会室に来た紅茶の銘柄のモブキャラちゃん?」

「その言い方はあんまりだろ。いや、わかるけども」

 

 ステイシーは目元が隠れるほど前髪が長く、これと言った特徴のない女子生徒だ。

 原作では登場しないため、彼女は文字通りモブキャラではあった。

 

「ステイシーの実家は領地で牧場を経営しているんだ」

「牧場!?」

 

 牧場という言葉にポンデローザは涎を垂らしながら過剰反応する。

 もうスタンフォードは彼女が何を考えているか手に取るようにわかってしまった。

 

「あのな観光牧場じゃないんだから、牧場グルメ的なものを期待してもないと思うぞ」

「いや、ナポリタンやオムライスもあるこの世界ならきっと、ジェラートや肉汁たっぷりのハンバーグ、生キャラメルだって存在するはずよ!」

「ダメだこいつ、完全に脳を食欲に支配されてる……」

 

 どう見ても食べ物のことしか考えていないポンデローザを見て、スタンフォードは頭を抱えた。

 

「じゅるっ……何を言ってるの。あたしはいたって真面目よ」

「涎を拭いてから言え」

 

 スタンフォードの指摘もあり、涎をハンカチで拭うとポンデローザは姿勢を正してこれからのことについて語り始めた。

 

「まず、今回のライザルク戦であたし達は決定的な戦力不足を思い知ったわ」

「まあ、それはそうだな」

 

 スタンフォードは改めて今回の騒動を振り返る。

 ポンデローザ、スタンフォードの力不足はもちろんのこと、ブレイブのレベリングが決定的に足りなかった。

 ブレイブは雷を操る敵に対する戦い方をスタンフォードから学べず、武器は市販の剣を使用していた。

 ゲームでいえば、プレイヤースキルを磨くこともせず、装備を整えない状態でボス戦に挑んでしまった状態だった。

 

「ブレイブ君を鍛えるのはもちろんのこと。仲間を増やす必要があるわ」

「そうだな。一人じゃ倒せない敵も仲間がいれば倒せるからね」

 

 スタンフォードは、この校外演習で仲間の大切さを思い知った。

 特に、前世から今まで周囲とのコミュニケーションに難があったことを自覚したからこそ、今後は人間関係に関する部分を改善していこうと思っていたのだ。

 

「信頼できる人間を集めて異形種調査の名目で強化合宿を行う。原作にない出来事でも、原作にそもそもいなかったステイシーちゃんのとこでやるなら本筋への影響もないはずよ!」

「でも、僕やブレイブをどうやって連れて行くんだ?」

「後期からは一年生も推薦で生徒会に入ることになるわ。あたしとメグでスタンとブレイブ君を指名すれば問題はない。そうすれば生徒会見習いに仕事を教えるって名目ができるわ!」

「職権乱用もここまでくれば清々しいな」

 

 ただ長期休暇に遊びたいだけだというのに、ここまで悪知恵が働くポンデローザに呆れながらもどこか楽しさを感じていた。

 

「よーし! 当て馬同盟ファイト!」

「おー!」

 

 二人は拳を高く掲げると、いつものように作戦会議を締めくくるのであった。

 




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これにて一章の締めとなります。
次章もお楽しみに!

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