負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第46話 つまんねー者達

「待てよ、ポンデローザ」

 

 生徒会室を出ると、ルーファスがポンデローザを呼び止めた。

 

「珍しいですわね。ルーファス様がわたくしを呼び止めるなんて」

「〝貴族令嬢の鑑〟なんて呼ばれたあんたが、調査って名目で後輩達の修行合宿なんてぶっ飛んだ提案をしたんだ。そりゃ呼び止めもする」

 

 ルーファスはポンデローザの提案の意図に気がついていた。

 将来有望な後輩、それも近い未来必要になるであろう即戦力を鍛えるための合宿。

 まるで未来に起こることを見越して、いや予知しているかのような戦力の整え方。

 ルーファスには、いつも格式や体裁を気にするポンデローザがそんな提案をしてきたことに疑問を持ったのだ。

 

 そして、久しぶりに面白いことが起きそうだと判断してポンデローザの案に乗っかったのだった。

 

「ルーファス様には気づかれてしまいましたか」

「ハルバードの奴だって気づいてるだろうよ。それでも止めなかったのは今後のことを考えれば有効な策ではあるからだ。不愛想に見えるがあいつも何だかんだであんたのことは信用してるってことだ」

 

 本当に意図に気づいたうえで問題ないと判断されるだけの材料は揃えてある。

 ポンデローザの提案は、格式や体裁を気にする彼女だからこそ用意できた案でもあった。

 ルーファスは珍しく真剣な表情を浮かべて告げた。

 

「まるで未来を知っているような用意周到ぶりだ……久しぶりにガキの頃に誰かさんから聞かされた与太話を思い出したよ」

 

 その〝誰かさん〟は冗談交じりにルーファスへ挑発的な笑みを向ける。

 

「あら、今更信じる気になられたのですか?」

「まさか、到底信じられる話じゃない」

「でしょうね」

 

 ルーファスは、この数ヶ月で貴族令嬢のお手本という存在から逸脱しつつあるポンデローザを見て、昔のことを思い出していた。

 

「なあ、ポンデローザ。どうしてお前は()()()()()

「わたくし以外の全てがそうあることを望んだから。それだけですわ」

「なるほど、つまんねー答えだ」

 

 ポンデローザの答えにルーファスは吐き捨てるように呟く。

 建国時から代々レベリオン王国の騎士団長を務めている剣豪一家リュコス家の嫡男。

 今でこそ不真面目な印象が強いルーファスだったが、幼い頃は家名を背負い真面目で責任感のある男だった。

 剣の才能も、魔法の才能も歴代最高と称えられた彼は段々と毎日に退屈し始めた。

 そんなルーファスは、最近になって幼い頃のポンデローザが〝おもしれー女〟だったと感じ始めていたのだ。

 だが、ポンデローザもまた原作に抗うことをやめ、原作通りで生き残れる道を探して誰もが認める貴族令嬢となった。

 そんな今のポンデローザはルーファスにとって〝つまんねー女〟だったのだ。

 

「昔、言ってたな、〝敷かれたレールを歩くだけじゃ自分の人生じゃない〟ってな」

「ええ、そのようなことも言いましたね」

 

 幼い頃のルーファスは家のため、国のため、と家の言いつけ通りに過ごしていた。

 リュコス家の家訓である〝剣に心は不要、ただ主の敵を斬る剣であれ〟をルーファスは正直に守っていた。

 

 そんなルーファスに接触してきたのが、当時奇行の目立つポンデローザだったのだ。

 ポンデローザはルーファスの抱える悩みを原作知識から理解していた。

 だからこそ、彼女は幼い頃にその悩みを解決してしまえばルーファスが心強い味方になると思って行動を起こした。

 ルーファスは、王国を守る剣として育てられたが、段々とその在り方に疑問を抱くようになった。

 貴族として生まれた以上、家の命は絶対。

 それも王国の未来に関わる立場なら尚更のことだ。

 それがルーファスを苦しめることになった。

 家訓に従い心のない剣とならなければいけないというのに、いつまで経っても自分は家に縛られることを不満に思ってしまう。

 周囲の人間はそんな未熟な自分に気がつかずに、歴代最高の騎士になると褒めそやす。

 そんなときにポンデローザが突然やってきて告げた。

 

『敷かれたレールを歩くだけじゃ自分の人生じゃないわ! もっと自分に正直になっていいじゃない!』

 

 自分の悩みを見透かし、自由に生きようと告げた彼女の提案を当時生真面目だったルーファスは受け入れることができなかった。

 それが出来たら苦労しない。

 背負った立場に責任感を持っていたルーファスは、ポンデローザを拒絶したのだ。

 

「あの頃の俺様はバカだった。あんたの手を取っていればこんなつまんねー毎日を送ることもなかったんじゃないかって今でも思う」

「あら、今からでも遅くないのでは?」

「もう遅ぇよ。肝心のあんたがつまんねー女になっちまったからな」

 

 結果的にルーファスは、原作通り周囲の人間から興味を失い、自由に振る舞いつつも仕事はきちんと行う人間となった。

 文句を言う人間は実力で黙らせればいい、どうせ誰も自分を超えることはできやしないのだから。

 

「俺様もあんたも自分の人生を歩めない人間ってことだ。卒業後は大人しく家訓通り〝主を守る剣〟になるさ」

「その分、学生時代は自由に振る舞うと?」

「ああ、文句を言ってくる奴は叩き潰せばいい。どうせ俺の振る舞いに文句をつけるのは実力のないつまんねー奴だけだ」

 

 肩を竦めると、ルーファスは力なく笑った。

 ルーファスは自分の人生を歩むことを諦めていた。

 だから卒業までは今を精一杯面白く生きる。

 それこそが、ルーファスが普段好き勝手に振る舞う理由だった。

 

「一つ聞かせろ。お前は運命に抗うことは諦めたのか?」

「どう、でしょうね」

 

 ルーファスの問いに対して、ポンデローザは困ったように苦笑して答えた。

 

「抗ったところで無駄。だからこそ流れに身を任せ、不本意な方へと流れないように舵を取る。それがわたくしの答えですわ」

 

 死という運命に抗おうとしても原作通りの流れに押し戻される。

 それならば、原作通り生き残れる道へ進めばいい。

 ポンデローザの答えは最善の解答だった。

 だが、ルーファスが求めていた答えではなかった。

 

「そうかい。お互いつまんねー人間になっちまったな」

「ええ、本当に」

 

 抗うことをやめた者同士で肩を竦めると、二人はそれ以上言葉を交わすことはなく別れるのであった。

 


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