負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!   作:サニキ リオ

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第5話 砕け散ったプライドと腕の骨

 魔法学園の授業では、課外演習という形で魔物の生息域で行う戦闘訓練が存在するが、これは魔法学園高等部一年の前期の期末まで行われることはない。

 まず、初めに行われる魔法実習の授業は学園の演習場で行われる魔法訓練だった。

 中等部時代のスタンフォードならば、派手な雷魔法を放って注目を浴びようとしただろう。

 

「〝閃光刃(せんこうじん)!!!〟」

 

 ど派手な音と共に頑丈に作られた訓練用の的が跡形もなく消滅する。

 光魔法の威力を見せつけたことで、ブレイブの周囲では歓声があがる。

 

「チッ」

 

 その様子を見ていたスタンフォードは舌打ちをしながら、適当に雷撃を放って的を焦がした。

 高等部に上がってからというもの、派手さも魔法の威力もブレイブにお株を奪われていたスタンフォードは、すっかり授業へのやる気をなくしていた。

 どうせ何をやっても賞賛されるのはブレイブだ。

 

「レベリオン、もう一度だ」

 

 そんな風に腐っていたスタンフォードに声をかけてきたのは担当教師であるサーバン・リンヴルムだった。

 サーバンは軍人から退役後に教師になった経歴を持つ者であり、厳しい指導をすることで有名だった。

 

「……あの記録なら十分でしょう」

「これは自分の能力を正確に把握するための訓練だ。手を抜いて良い道理などない。王族だからといって点数は贔屓せんぞ」

 

 スタンフォードはこの教師のことが苦手だった。

 高い能力を持つ自分を賞賛せずに、王族の権威にも怯まずに真っ直ぐに指導をしてくる。

 前世での生徒指導の教師を彷彿とさせる筋骨隆々の姿も相まって、どうしても苦手意識を抱いてしまったのだ。

 

「わかりました……」

 

 渋々と行った様子で魔力を両手に集中すると、スタンフォードは握っていた鉄球を雷魔法を使用して打ち出した。

 電磁投射砲の要領で打ち出された鉄球は、頑丈に作られた訓練用の的を完全に破壊する。

 

「これでどうでしょう」

「相変わらず、凄まじい威力だな。もっと溜の時間を短縮できれば実戦でも使用できるだろう」

 

 それと、と前置きしてサーバンは続ける。

 

「お前はお前だ。魔力制御の精密さで言えばレベリオンに勝る者はいない。単純な成果ばかりを見るな」

 

 去り際、スタンフォードにそれだけ告げると、サーバンは他の生徒の方へと歩き出した。

 

「……励ましてくれたのか?」

 

 今まで苦手意識しかなかった教師からかけられた言葉に、スタンフォードはどこか救われた気持ちになった。

 目に見える成果に捕らわれ、自分の長所が見えなくなっていたのだ。

 しかし、ブレイブがいようと自分が周囲と比べて飛び抜けて優秀なことには変わりはない。

 そのことに気づけたスタンフォードは改めて一から頑張っていこうと奮起した。

 

 そんなときだった。

 

「きゃあぁぁぁ!?」

 

 演習場の一角で悲鳴があがる。

 即座に駆けつけると、そこにはどこから入り込んだのか、巨大な猪のような魔物がいた。

 

「ブルァァァァァ!」

 

「ボア、シディアン……」

 

『この後、あなたは学園の魔法演習で狂暴化した魔物〝ボアシディアン〟にボロ負けして、主人公に助けられる流れになっています』

 

 ふと、兄の誕生会でポンデローザから告げられた言葉が頭を過ぎる。

 ボアシディアン。

 猪型の魔物であり、本来は小柄でそこまで凶暴ではない魔物だ。

 しかし、現在演習場に入り込んだボアシディアンは体長四メートルを超える巨大な体躯をしていた。

 

「全員下がれ!」

 

 即座に教師であるサーバンが生徒達を庇うように前に出る。

 

「すぐに応援の教師を呼んできてくれ! こいつはシャレにならん!」

 

 本来であれば、学生レベルでも簡単に狩れる魔物であるボアシディアン相手に冷や汗をかくサーバン。

 

 彼は軍人として魔物と戦ってきた経験から、目の前の魔物が普通の状態ではないことを理解していた。

 蜘蛛の子を散らすように生徒達が逃げていく中、ボアシディアンは一気に突進をしかけてきた。

 猛スピードで突っ込んでくるボアシディアンの攻撃を躱すと、すれ違いざまに炎を纏った剣でその巨躯を斬りつけた。

 

「何だと!?」

 

 しかし、金属と金属がぶつかるような音がしてサーバンの一撃は弾かれた。

 攻撃を防がれ無防備なサーバンへとボアシディアンの鋭い牙が襲いかかる。

 

「先生!? クソ!」

 

 即座に雷魔法で体内の電気信号を操作して肉体のリミッターを外すと、スタンフォードはサーバンを助けに入った。

 

「ぐっ!?」

 

 スタンフォードが突き飛ばしたことで、かろうじてサーバンは急所への一撃を免れた。

 脇腹をかすめただけだというのに、意識が刈り取られそうになる一撃に、サーバンは表情を歪める。

 

「レベリオン……助かった。だが、まともに戦えば身の保証はできない。逃げろ」

「そうはいきませんよ」

 

 サーバンをボアシディアンから離れた場所へ連れて行くと、スタンフォードは再びボアシディアンの前まで移動した。

 

「何のために今まで鍛えてきたと思ってるんだ。お前を倒す!」

 

 ボアシディアンにやられるのは何の努力もせずに、王家の権威にあぐらをかいていた正史の自分。

 ならば、前世の知識を活かして鍛えてきた自分が負ける道理はない。

 

「いくぞ!」

 

 決意と共に剣を抜いてボアシディアンに突撃すると、雷を纏った高速の斬撃を放つ。

 剣に纏った雷を浴びたことで、一瞬ボアシディアンの動きが止まる。

 

「こいつ、硬い!?」

 

 だが、スタンフォードの刃はボアシディアンにまるで届いていなかった。

 体毛が硬いわけではない。

 スタンフォードの斬撃によって体毛は刈り取られ、そこから覗いていた皮膚が硬質化していたのだ。

 まるで竜の鱗のような模様の皮膚に、スタンフォードは驚きのあまり目を見開いた。

 

「ブルァ!」

「かはっ!?」

 

 驚いていた隙にボアシディアンは硬直から回復し、スタンフォードを吹き飛ばす。

 想像以上の痛みに、スタンフォードは頭が真っ白になりそうだった。

 

「クソ、何で足が……!」

 

 恐怖で体が震える。

 突進する準備をしているボアシディアンを前に、スタンフォードは動くことができなくなってしまった。

 思えば、これまでスタンフォードは一切魔物と戦闘したことがなかった。

 元々日本出身であり、戦いとは無縁の平和な日々を送ってきたスタンフォードにとって、死の恐怖を味わうことなどなかったのだ。

 たとえ一度死を経験していると言っても、それは突然訪れたものであり、自覚すらなかったため、死の恐怖をスタンフォードは知らなかった。

 

「ブルァァァ!」

「レベリオン!」

 

 血を流しながらも、スタンフォードを守るためサーバンが剣を構えてボアシディアンの間に入ろうとする。

 しかし、それは叶わずスタンフォードは真正面から突進をくらい、先程とは比べものにならないほどに吹き飛ばされた。

 スタンフォード達学生の着ている制服は魔法を帯びた特殊な素材で作られているため、衝撃は緩和される。

 スタンフォードの場合は、さらに王族専用の外套も身に着けているため、常人でいれば死んでいた一撃にも耐えられはする。

 しかし、どれだけ軽減しても、まともに受け身も取れない状態でくらった狂暴化した魔物の突進の衝撃はスタンフォードの意識を刈り取るのには十分だった。

 

「〝滅竜光刃(めつりゅうこうじん)!!!〟」

 

 薄れゆく意識の中、スタンフォードはブレイブの放つ眩い光の刃がボアシディアンを一刀両断するのを見た。

 

 こうして、スタンフォードの自尊心は腕の骨と共に砕け散るのであった。

 


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